第104話 無情なる力
アルバルトの前世の名前。
百田鬼武→百瀬倫太郎に変更いたしました。
引き続き宜しくお願いします
ーー走る。
大きく口を開けて大量の酸素を取り込む。
つま先に力を込めて身体を前へと押し出してアルバルトは自分が出せる最高速で駆け抜ける。
◆
土蜘蛛と名乗った魔族と1人で交戦をしていたマーラットは戦いの中で自身の魔力と体力を大幅に削られていた。
肩で息をするマーラットと違い、土蜘蛛はまだまだ元気が有り余っている様子だ。
「ハッハー!ある程度楽しめたが…いい加減その棒切れにも飽きて来たな」
「そう言ってくれるなよ。これでも頑張ってる方なんだぜッ!"剣製"!」
マーラットを中心に8本の剣が浮かび上がる。剣を構成しているのは鉱石では無い。
マーラット本人の魔力が緻密に編み込まれた物だ。
だが、切れ味は鉄を滑らかに切る程の精度を誇る。瞬時に計算し、魔力で剣を顕現させる腕前は敵も舌を巻く。それは土蜘蛛も同じだった。
「行け、"全弾射出"」
浮かんでいる剣を全て発射したマーラットは次弾を装填する。
「まあ、頑張りは認めてやる。そろそろ違う戦い方ってのをしてやんよ」
飛んで来る剣を4本の腕を器用に操り、破壊、破壊、破壊する。
土蜘蛛の外皮はかなり厚く、鉄をも容易に切り裂くマーラットの剣でも大してダメージを与えられない。
「これならどうだ"剣舞 剣吹雪"ッ!」
螺旋状に渦を巻いて飛来する。
まるで剣が意思を持ったみたいに土蜘蛛へ襲い掛かっている。常人なら串刺しになるのは間違いないが、相手はあの魔族だ。
一筋縄ではいかない。
「甘ェッ!"粘糸"」
土蜘蛛が大量に口から吐き出したのは粘着性のあるの白い糸。その糸が幕状に広がるとマーラットの剣を全て受け止めてしまった。
まさか攻撃の全てを一度に止められると思わなかったマーラットは驚きを隠せない。
「ほらよ、お前の剣だ、全部返すぜ!」
「なにっ!足がっ…!?」
今度は手から先程の糸を出すと瞬時に剣を受け止めていた糸を丸く束ねるとその場でぐるぐると回転させる。
ブンブンと遠心力を使って巨大な繭をマーラットに放り投げた土蜘蛛はマーラットの足元へ粘着力のある糸を飛ばして動けなくした。
とりもちみたいに強い粘着でマーラットのその場から離れるといった行動を奪う。
そして動けなくなった彼に迫るのは剣が飛び出ている繭。マーラットは空中に自分と同じ身長程の巨大な剣を作り出すと思いっきり振り落とした。
「クソッ、厄介な糸だ。張り付いて取れやしねぇ」
「オレ様が魔物だった頃によく使っていた糸よ。どうだ、気に入ってくれたかァ…?」
繭を真っ二つに切り裂いて何とか持ち堪えたマーラットは足に付いてしまった糸を取ろうと足を持ち上げるがネバネバと張り付いて取れない。
その隙を狙っていた土蜘蛛がマーラットに駆け寄ると4本の腕で乱暴に振い、マーラットをサンドバッグにする。
「ヒヤッハァー!ガハハッ!オラオラどうしたよ。こんなもんかぁ?この国の王様ってのはよぉ!…もっと粘れよ、遊んでくれよ。もっとオレ様を楽しませろォ!!」
「ぐぉぉぉお!!…この、化け物が…!」
「ハァァ…この肉を、潰すゥ…この瞬間がァ、たんまらねェ!」
マーラットの防御の上から殴り続ける土蜘蛛は骨を砕かれた音や筋肉が潰れる音を聞く度に凶悪な笑みを深めていく。
「アガァァァ……」
容赦ない殴打にマーラットが防御に回していた腕がひしゃげ、だらんと垂れ下がった。
「……もう終わりか。人族にしてはよく耐えたと褒めてやるよ」
土蜘蛛が肘を引いて上半身をくねらせる。それから繰り出されるであろう拳の威力は今までマーラットが受けたどの攻撃よりも破壊力があるだろう。
「……アバヨ」
最後はつまらなそうな顔で土蜘蛛はトドメの一撃を放つ。
足場が固定されて逃げられない。それに腕もさっきの攻撃でイカれてしまったマーラットは死を覚悟した。
(まだ民達が避難出来ていない。最初に王であるこの俺が…此処で終わるなんてあり得てたまるか!)
迫り来る無情な暴力がマーラットに近付いていく。心に闘志を宿したマーラットは差し違えても此処で倒すとばかりに剣を生み出して握り込む。
獲物と捕食者、今にもやられそうなマーラットとトドメを刺そうとする土蜘蛛の間に一筋の黒が割り込んだ。
「……間に合った」
走って来た甲斐があった。何とか剣を土蜘蛛とマーラットの間に身体を滑り込ませる事に成功した。
本当に間に合って良かった。あのままこの一撃を受けていたらと思うとゾッとする。
防御に回した大剣から鈍い音と共に物凄い衝撃が手に伝わってくるのがその証だ。
(さあ此処からは俺達が反撃に打って出る!)
「さっきの借りを返させて貰うぞ!」
「アッチィ……?!」
走って来たアルバルトがマーラットと土蜘蛛の間に割って入り、大剣で拳を上手く受け流して威力を外へ逃す。
大剣に炎を纏わせ、土蜘蛛を斬り払って体制を立て直した。
「お前はあの時の…!生きてやがったか」
「ああ、回復力には自信があるんだよ」
火という生物にとっての恐れは土蜘蛛も例外ではない。
熱さに驚いて思わず後ろへ飛び、距離を稼いだ土蜘蛛の腕には大きな火傷と共に縦状に傷が刻まれていた。
「ヒガリヤ王、まずは足を…」
「勇者か……すまん、恩に切る」
大剣に付与させた炎がマーラットの足に付着した土蜘蛛の糸を炙る。粘着質ではあったが火で炙られるとパラパラと糸はほつれていき、マーラットの拘束を解いた。
足が自由になったマーラットはアルバルトと共に土蜘蛛へ警戒しながら構えを取る。
「ヒガリヤ王…貴方はその腕をマリアに診て貰った方がいい。彼女は後ろで怪我をした人の手当てにあたってる」
「へっ、マーラットでいいぜ。勇者様からの有難い提案だが、ここはヒガリヤ。この国を治める王であるマーラット・アルバス・ヒガリヤがこの程度で根を上げていられるかよ。こんな腕の一本や二本で民を救えるなら幾らでもくれてやる覚悟はある」
そうマーラットは言うが腕に力が入らないのか、両方ともだらんとぶら下がっている状態だ。見ていてなんと痛々しい事だろう。
それでも弱音は吐かず、堂々と胸を張って宣言する姿は国を背負う者としてカッコいいと思う。
(俺も将来はこの男の様にカッコ良くありたい)
「……俺は勇者なんて呼ばれるのは嫌いだ。俺もアルバルトで良い。マーラット、こっから先は共闘だ!」
「良いねぇ、ノリの良い奴は大好きだ。援護は任せろ。だから好きに暴れ回れ、アルバルト!」
「了解ッ!」
意見を交わしてお互いのポジションを決める。前衛として土蜘蛛とぶつかるのはアルバルト、怪我で動く事がキツそうなマーラットは後衛という形で動き出した。
「行くぞ、土蜘蛛ッーー!!!」
「面白い。面白くなって来たゼ、なぁ!!」
4本の腕から糸を出して拘束しようとする土蜘蛛に対してアルバルトは炎の剣を一閃、火が糸を燃やし、何の障害もなく断ち切った。
「うぉおおおおお!"灼熱剣"」
「"剣製"……今だっ!」
下から上へ、右から左へと身体を回転させて流れる様に土蜘蛛の身体を斬りつけていく。土蜘蛛は2本の腕で顔を守り、残りの腕で反撃しようとするがアルバルトの後方から飛んで来るマーラットの剣が腕に突き刺さって邪魔をする。
「イテェ…イテェが楽しいぜ。やっぱりお前、強かったんだな!こんなドキドキしたのは久しぶりだァ」
「くっ、飛んで躱したか…」
横の薙ぎ払いを見極められた。
土蜘蛛は飛んで躱すと俺の顔目掛けて足を振り抜く。
躱しきれずにもろに顔面に喰らう。相変わらず、凄まじい破壊力に身体が悲鳴を上げるがまだ耐えられる。魔力を身体に行き渡らせて鬼人の力で傷を回復させる。
「傷が治っただと…?ハハ…ガハハハッ!!オイオイ、お前ェ最高ゥ。オレ様、お前が欲しい!」
「魔族に欲しがられても嬉しくもないわ!」
殴られ、蹴られ、斬りつけ、薙ぎ払う。一進一退の攻防が続いていく。
スタミナが続く限り、剣を振り回して奴にダメージを与えるが、俺も何発か強烈なのを喰らってしまう。
「うおおおおおおお!!!」
「ガッハハハハ!もっとだ、もっと殴り合おう!オレ様に肉を感じさせろゥゥゥゥ!!」
「クソッ、此処までか……すまん、アルバルト……」
マーラットも援護に徹していたが、魔力が限界を迎えた事でバタリと地面に伏せてしまった。援護があってこそ均衡していたのだが、それが無いとなれば次第に押され始める。
そしてアルバルトの方にも限界が訪れてしまう。
「……ッ!?」
「貰ったァ…!」
魔族襲来までに数々の強者達との戦いで減った魔力と体力は全開とは程遠い。それ故にアルバルトの動きにも支障が出始めていた。
「オラオラオラ!どうした、動きが鈍くなってんぞ!もっとオレ様を楽しませろよ」
「……ッ、グゥ…!」
一瞬の隙を突かれたアルバルトは腹に土蜘蛛の放った重い一撃が入り、身体を曲げて悶絶する。
頭が下がった所に土蜘蛛が更に追い打ちを掛ける。アルバルトの後頭部に4本の手で作った大きな拳骨を叩き込んだのだ。
頭から地面に激突したアルバルトの意識が刈り取られていく。
「まだまだこんなもんじゃねぇよなァ……っておい、気絶かよ。なら起こしてやんねぇとなァ?オレ様は優しいんダァ…」
アルバルトの髪を掴んで頭を持ち上げ、顔を覗き込んだ土蜘蛛は一旦、手を離したと思えばつま先でその顔を蹴り抜く。
空中に浮かぶアルバルトの意識はまだ戻らない。
最後の追い打ちとばかりに腕を限界まで振り絞った土蜘蛛のパンチ全てを喰らってアルバルトは一直線に空を飛んでいく。
やがて大きな時計塔にぶち当たると瓦礫と一緒に彼の身体はその中へ消えていった。
「まあまあ、楽しめたな。後で回収するとして…流石のオレ様も疲れ……っ、誰だァ?」
「……受け止めましたか」
マーラットとアルバルトを戦闘不能まで追い込んだ土蜘蛛は殺気を感じた場所に腕を移動させる。
そこには短剣を土蜘蛛の腕に突き刺したレティシアの姿があった。
アイネとローゼ・ラブグリーンと共にティタノスネークを討伐した彼女は辺りを見渡した。
襲い掛かってきた魔族の方を見ると道化師は倒されていたものの、あの見るからにそれよりも強そうな4本の腕を持つ魔族はまだ健在だった。
倒れている国王と土蜘蛛によって時計塔に激突したアルバルトを見て彼女の怒りは頂点に達し、全速力で土蜘蛛に先制攻撃を仕掛けたのだ。
「今度は女、弱そうな見た目で結構やるな。いいぜ、相手してやんよ」
そこへ待ったをかける者がいる。
「待って貰おうか。僕達も忘れて貰ったら困る。……我が友、アルバルトの仇、取らせてもらうよ」
まだアルバルトの事を人族だと認識しているユージーンは最早助からないと見て分かる程のダメージを人体に負った彼を見て涙が溢れた。
更に見せしめとばかりにあんな惨い事して殺した土蜘蛛が許せないと怒りが爆発、仇を取る為に自慢の槍を携えて構えを取る。
その隣に立ったミリアも唇を噛んで怒りに震えている。
「アンタ、よくも私の友人を…!絶対に許さない!」
ミリアの許さないという言葉は他に集まって来たアイネやローゼ、ゼニス、カーマンも賛同した。
そして誰しもが鋭い視線で見つめる中、土蜘蛛は腹の底から笑っていた。
「ガッハハ!今日は良い日だ。手応えのありそうな奴がこうも集まってくれるなんてな。ーーーじゃあ、ヤろうか」
「元からそのつもりです。ーーシッ!」
ガキンッとレティシアが操る短剣が土蜘蛛の外皮と衝突する。まるで岩を剣で当てている感触を感じたレティシアはその硬さに驚いたが、持ち前のスピードを活かして接近戦を仕掛けた。
「"疾風"」
「ほぅ、良い速さだ。だが軽い!!」
「くっ……!」
レティシアの速さについて行く土蜘蛛に彼女は冷や汗を流す。レティシアの蹴りを腕でガードし、そのまま裏拳で彼女を叩いて蹴り飛ばした。
土蜘蛛は次の獲物としてミリアに狙いを定める。
「まずは動きを止めてやるわ!アースバインドッ!」
「行きなっ!"蛇鞭"」
ミリアの放つ魔法が土蜘蛛の身体に纏わりつく。
更にアイネの繰り出す鞭が土蜘蛛の厄介な腕を2本縛り上げる。そこへカーマンとローゼが接近して拳と剣を振るった。
「ガハハッ!……悪くない」
土蜘蛛が魔法の拘束から強引に力で無理矢理抜け出すと腕を縛っている鞭を掴んで引っ張り上げる。鞭から手を離さなかったアイネごと振り回し、ローゼとカーマンにぶつけて纏めて3人を吹き飛ばした。
「ガッハハハ!圧倒的な暴力を前に全ては無に帰す。お前らが何人来ようともオレ様には勝てねェ!!」
「くっせぇ、口を開けんじゃねぇよ!"熊手"」
「"雷槍三連撃"!」
「喰らいなさい、ウォーターバレット!」
三方向から来る攻撃を土蜘蛛は受け止める。痛みよりもただ楽しい感情で笑いが止まらない。
「ァァ……効いたゼ、此処まで追い込まれるのは初めてだ」
全て受け切った土蜘蛛の体は至る所に傷が出来ていたが、痛みは感じない。それよりもどんどん溢れてくるこの胸の高鳴りに心が踊って、手が付けられない程に感情が暴れ回る。
「チッ、嘘だろ。これだけダメージを与えても倒れねぇ……」
「…他のみんなは気絶しているだけか」
絶え間なく4本の腕から繰り出された連打の応酬はゼニス達から残りの体力を奪う。鋭く速くなっていく拳は地面を割りながら彼らを追い詰める。
「きゃああああ…!」
「ミリアッ!」
「これで、5人目だァ」
先に魔法使いを潰そうとした土蜘蛛が接近する。慌ててミリアが土魔法で壁を作るがその壁ごと土蜘蛛の拳は貫いてミリアを襲った。
ユージーンが槍を振り払って彼女の側にいる土蜘蛛を退ける。
「彼女からーー離れろぉ!」
「テメェの相手はこのゼニス様だぁ!!」
間髪入れずに獣の腕で土蜘蛛を攫って行くゼニスにユージーンは心の中で感謝をする。
「大丈夫かって、血が…」
「ごほっ、ごほっ。やばいわね、骨が何処か内臓に刺さったのかも…私の事は良いから。アイツを絶対、倒しな…さいよ…」
「ミリア!しっかりしてくれ…!」
口から吐血したミリアはユージーンの腕の中で意識を失った。このままでは生死に関わるとユージーンは汗を流す。
彼は今、選択を迫られている。
気を失ったミリアを此処に置いて今も満身創痍で戦っているゼニスに加勢するか。
それとも一度、彼女を連れてこの戦場を離れ、聖女様がいる後方へ下がるべきか。
前者を選べば、弱ってきている土蜘蛛をもしかしたら倒せるかも知れないが、代わりにミリアの命が危ない。
後者を選ぶと、ミリアの命は助かるかも知れないが、この場でただ1人残されるゼニスがどうなってしまうのか分からない。
「僕は…どうすれば……!」
どうして良いか悩み嘆いている時、彼の頭上に影が差す。
「早く運んでおやりよ、お前さん。此処から先はあたいが引き受ける」
「貴方は……」
ユージーンが顔を上げるとそこには身体の至る所に穴が空いて血だらけの姿のトキ・ダルタニアンがいた。
「カカカッ!あたいはトキ・ダルタニアン。ただの野生児さ」
自分以上の怪我をしているトキを見てユージーンは目を丸くするが、当の本人は何でもなさそうに笑う。
七英雄、斧の英雄と呼ばれた最強の女が駆け付けた。
トキ・ダルタニアン
タイラとの戦闘で身体中に穴が空いており、実は動くのが辛い。魔王の力を身に封印しているが、それが呪いとなって老いず、死なず。
幼い頃はミドルウッド・グリーンフィールドに育てられた経験を持つ。
◆
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