第103話 道化を討つッ!
「ーーー"残波"ッ!!」
トーマスの最も得意とする技が魔族であるハビョウに迫る。
「……魔力を乗せた斬撃。当たらなければどうって事はあーりませんねェ!」
再び身体を水の様に変化させたハビョウは斬撃の軌道に沿って身体を切り離して避け、その後は何も無かった様に元通りに身体がくっつける。
「ハァハァ……何で、俺は何でこんなにも弱いんだ!」
「ワタクシにも分かりますよ、そのお気持ちは…辛いでしょう、悲しいでしょう、苦しいでしょう。ワタクシもこの身体を手に入れるまでは何も出来ないただの魔物でした…」
胸に手を当てて深刻に語るハビョウにトーマスの動きは止まる。
「……最弱と不名誉な称号すらありました。ワタクシ達も多くの同胞を人族によって無抵抗のまま蹂躙されるのをただ見ているだけ…ただそれだけの存在でした」
ハビョウの言葉に思うところもあり、頭の中が怒りでいっぱいのトーマスも少しだけ同情をした。
そして自分を蔑んでいくハビョウは続ける。
「で・す・がァ…!同じ気持ちを知っているアナタを見るとワタクシ……ワタクシぃ……笑いが止まらないんですよォ!!!!」
少しでも同情していた自分がバカだったとトーマスは憤る。ハビョウは高らかに笑い出す。
「貴方みたいに何も出来ない人の絶望するその顔を見るだけで、ワタクシは選ばれた存在であるとそう認識出来るのですよ!オホ、オーホッホッホ!!」
「……ホント聞くに耐えないわね。後は…ロックウォール!」
「ほぉ、また新手ですか…!」
トーマスは剣を力任せに薙ぎ払おうとハビョウに接近した。
そのトーマスの突進を止めたのは魔法で構築された土の壁だ。ハビョウの周りをドーム状に覆って閉じ込める。
「これで少しは時間が稼げるわね…」
激突して止まったトーマスは背後から聞こえて来た声に反応して振り返る。
そこには鬼がいた。
ツカツカと大地を抉る様な足音と共にトーマスに近づいたミリアは少年の前に着くとその頬に平手打ちをする。
バチンッと辺りにいい音が響いた。
叩かれた場所に手を置いて思わず涙目になるトーマスの襟を掴み、顔を引き寄せる。
「アンタ…バッカじゃないの!?少しは周りを見て見なさいよ!馬鹿みたいに突進、突進、突進っ!そんなんだからユージも誰も手が出せないのよ!」
「……あ」
トーマスはミリアの言葉で初めて周りを見た。此処には自分よりも先に戦っていた仲間がいる。
ユージーンにカーマン、それからゼニス。剣舞祭を勝ち抜いた猛者の彼らが動いていない。
……戦わなくなった?いや違う。もしかして戦えなかったんじゃないか。俺が居たせいで手が出せなかったんじゃないか?
そう思ったら手が震えて来た。
「俺、父ちゃんと母ちゃんの仇を討ちたくて…!それで、それで……」
メキメキとドームの壁にヒビが入る。そろそろ限界が近い。
それを見てもなお、ミリアは落ち着きがないトーマスを叱りつけた。
「……親の仇って事は分かったわ。あの魔族が許せないでしょうね。それで?アンタ1人でやっつけようってわけ?…言わせて貰うけどアンタだけじゃ無理よ」
「無理って…!」
「絶対に無理。ガキンチョ1人の力じゃ精々さっきみたいに遊ばれて終わりが妥当な所よ」
無理と言われたトーマスはミリアの襟元を掴んで力いっぱい握り締める。
普段からそれとなくおしゃれに気を遣っているミリアだが彼の行動を止めない。
今はそれを言うべきではないから。
この僅かな時間で少しでも生存率を上げる為に彼女は声を張る。
「格上との戦いってのはどうやって相手を倒すかよりも、どうやって生き残るかを考えるの。その違い、アンタに分かる?」
「………っ」
ミリアに質問されたトーマスは何も言い返せなかった。
考える時間がない事は分かっている。よく考えればきっと答えは出て来ると思うが、即答出来ないのは分からないという証拠だった。
「分からないでしょ。大切な人を守りたい、だから戦う。これを逆にしちゃダメ。戦って大切な人を守りたいだなんてそれを言えるのは強い人だけ。アンタはまだ弱いのよ」
ミリアは言葉を続ける。時間がないとしてもこれだけは知って欲しいと強い目で訴える。
「1人じゃ無理なら仲間を頼りなさい。みっともなくても必死で戦うアンタを馬鹿にする仲間は此処に1人もいない!」
ドサドサと土で構築されたドーム状の壁が中から破壊される。土煙の中、見えきたのは身体を大きな水の塊へと変化させたハビョウの姿だった。
「……成る程な、通りで物理が効かねぇ訳だ。よりにもよってスライムの魔族かよ」
正体を見破ったゼニスはまさか最弱の魔物に此処まで手こずるなんてと息を吐いた。
そのスライムから何本もの触手らしき物がミリア達に迫る。
「ーーーそうだね。ミリアの言う通りだよ、トーマス君」
槍に雷を纏わせたユージーンは彼らの前に陣取ると槍を回転させて正面から来る触手を蹴散らしていく。
「オラァッ!……そうよん、チレーズの甥っ子君!私達はみんなで力を合わせて奴を倒すの☆」
「おい、トーマス!今のお前は唯の根性なしだ。また普通のガキに戻ってやがる。テメェは今度、この俺が直々に鍛え直してやるから覚悟しろ!」
左右から来る触手はカーマンとゼニスが身体を張って受け止める。
ミリアも魔法を飛ばして触手を食い止める。
「ほらね、ガキンチョにも頼れる心強い仲間がいるでしょ。なら、後は分かるわね」
「……ごめん、みんな!俺に力を貸して下さいっ!!」
ミリアやゼニス達の背中が大きく見えた。いつまでもしょぼくれてはいられないと自分を奮起するトーマスは立ち上がる。
そして頼る事を選んだ少年の言葉は彼らのやる気を漲らせた。
「……っ、よく言った、ガキィ!"咆哮弾"」
「こっちは任せて!我が敵に裁きの礫を!ロックレインッ!!!」
ミリアはカーマンが抑えている触手に向かって杖を振る。杖の先から空気中に生成された岩が触手に降り注いだ。
「オノレェ…!ワタクシの邪魔をする愚かどもメェッ!」
仮面が無くなり、醜い渦の様な顔が浮かび上がって叫び出す。
「私が外から来る触手を何とかするわ!」
「後はミリアに任せて僕達は前に進むぞ。奴の核である魔石を破壊すれば僕達の勝ちだ!」
「そうとなりゃ、先に行くぜっ!」
ゼニスが先陣を切って走る。ゼニスの後ろをユージーン達が追う。
「キィェェェエエ!!!」
「私の魔法を舐めないでよねっ!アースバインド!そしてロックレインッ!」
ハビョウの触手が先頭を走るゼニスに向かって伸びていくが、そうはさせまいとミリアが土魔法で触手を吹き飛ばす。
「……オカマ野郎ッ!」
「分かってるわぁ☆」
カーマンが全速力でゼニスの脇を走り抜け、先頭へ躍り出ると正面から来た攻撃を受け止める。ゼニスはカーマンの背中を足場にすると大きく跳躍した。
「ハハハッ!"熊手"からの"爪研ぎ"だ!」
右腕を獣の腕に変化させたゼニスは凶悪な爪で巨大なスライムの身体を大きく切り裂いた。
物理が効かないにしても再生には時間がかかる。その隙をユージーンが雷を纏ってハビョウの身体に突き入れる。
「はぁああああ!"電雷"」
「ギィイイ!ギャァァァァア!!!」
「今だ!トーマス君ッ!」
水の身体であるハビョウに流し込んだ電流は瞬く間に全身へ回った。
身を切り裂かれ、弱点である雷を流し込まれたハビョウは動けない。
「これで終わりだァァア!!!」
トーマスの魔力を伴った斬撃がハビョウの核となる魔石に当たり、破壊する。パラパラと崩れていく魔石にトーマスは喜びの声を上げた。
「……やったの?」
「ああ!トーマス君がやって…いや、おかしい。ハビョウの身体が消えていない!」
「オーホッホッホ、オーホッホッホ!」
砕いた筈の魔石が水に変わり、不気味な笑い声と共に巨大なスライムが復活する。
そして近くにいたトーマスを捕まえて身体の中へ取り込んだ。
「オホホホ、油断しました。まさかダミーが破壊されるなんて思いもしませんでしたよ」
「ガボ、ゴボゴボボッ!?」
水の身体であるハビョウに取り込まれたトーマスが手足を動かしてもがくが、抜け出せない。
「野蛮で愚かな人族とはいえ、このハビョウを此処まで追い詰めたのは評価致しましょう。ですが、この少年を人質にしてしまえば貴方達は何も出来ない。それこそが人族の致命的な弱点ですネェ!」
「ハビョウ…!俺達に勝てないと踏んでガキを人質に取るとかテメェこそ、愚かじゃねぇのか!あぁっ!?」
「そういう手は乗りませんよ。これも勝つ為の戦略ですから。それにこうしている間にもこの少年の息が持ちますかねぇ?」
「チッ、クソ野郎が…」
ゼニスの煽りもハビョウにとってはどうでもいい事だ。
ーー何をしても勝てばいい。ただそれだけであった。
ハビョウの独壇場となり、様々な方向から来る攻撃を避けるしか出来ない。
そうしている間に数秒が経ってしまう。
息を止めているトーマスは動かず、無駄な酸素を使わない様に耐え忍ぶ。
「オーホッホッホ!貴方達は強い!だけど、ワタクシの方が一歩上手、残念でしたァ!」
「トー坊っ…!」
避難する人の群れを掻き分けてやっと出てこれたトーマスの伯父が辿り着いた。後ろには予選でアルバルトの後ろを取ったベベールの姿もある。
そこへカーマンが合流した。
「カーマン……トー坊がどうして敵の中に飲み込まれている!」
「説明している暇なんてないでしょうがっ!まずは落ち着きなさい、チレーズ」
チレーズがカーマンの肩を掴んで揺らす。そこへ長い髪を靡かせたべベールが止めに入る。
「いや、チレーズの言う通りよ…私がついていながら面目ない」
「もう、良いから!私達のやることは一つ、チレーズの甥っ子を助ける!夜のオカマ三人衆と言われた私達の力を奴に思い知らせてやりましょう!」
落ち込むカーマンとチレーズにべベールが喝を入れた。
「カーマン!私とチレーズを投げなさい。今の貴方ならそのくらいのパワーは出るでしょう」
ハビョウの攻撃を力に変換したカーマンがべベールに言われた通りに2人を担ぐ。
「私のスキルで私とチレーズの気配を薄くするから奴には近付ける。後はチレーズ、上手くやりなさいよ」
「……恩に着る」
今も暴れ回るハビョウへ筋肉を膨張させたカーマンは全力で2人をぶん投げた。
大して高くまでは飛ばなかったが、べベールがチレーズの背中を思いっきり蹴り飛ばして距離を稼ぐ。
「トー坊ーッ!手を伸ばせーー!!"物体吸引"!!!」
腕に血管が浮き出るぐらい負荷が掛かる。
だが、それがどうした…それで助けられるなら腕の一本、くれてやる。
「……がぼっ、かはっかはっ、叔父さん…ありがとう」
それだけ抵抗が強いが、苦しそうな甥っ子の顔を見たチレーズは火事場の馬鹿力で敵の中からトーマスを引っ張り出した。その代償にチレーズの右腕が力無くだらんと下がる。
別に辛くはない。腕に抱える小さな命を救えたのだから。
「…無理するな。お前はまだ子供なんだ」
「おのレェ…!何処までワタクシの邪魔をすれば気が済むんだ!」
空中で身動きが取れないトーマス達をまた取り込もうとハビョウが襲い掛かる。
「フンッ、雑魚が粋がってんじゃねえよ。最大出力!"咆哮弾"ッ!」
「この人族風情ガァァァアッ!!!!」
トーマス達のピンチに駆けつけたのはゼニスだった。
避ける事に徹するゼニスは隙を見て攻撃を叩き込んでやろうと貯め込んでいた魔力を塊にしてハビョウへとぶつける。
「おおっと逃げないでよね。ロックウォール!!」
ハビョウの身体全体を囲う様に土の壁が覆う。先程と違うのはドーム状ではなく、上には何も無い。
「……お膳立てはしたわ!決めて、ユージっ!!」
「ーーーあぁ、任せてくれ!」
タッタッタッと壁を登る男がいた。太陽に照らされる金色の髪を靡かせてスイスイと登っていく。頂点まで辿り着いた男は雷を纏った槍を携えて飛んだ。
「さあ、今度こそ此処で終わらせる。全ての雷を、今ここに!」
「や、ヤメロ、ヤメロ、ヤメロォォォォォォオ!!!」
「"雷槍一閃"ッ!」
一本の雷が落ちる。大地は焼け、ミリアが土魔法で作った壁も何もかも、そこにあったものは音を立てずに消滅した。
カーマン、べベール、チレーズ
夜のオカマ三人衆としてヒガリヤで名を馳せていた過去を持つ。
今回トーマスを助けたのはお店で食い逃げした人を捕まえる為に編み出した3人の合体技である。
◆
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