表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼人の旅路 これは君を探す物語  作者: 直江真
第三章 ヒガリヤ 剣舞祭編
101/148

第101話 魔族襲来

 そこにいたのは仮面を被った変質者だった。


「はっ?道化師…?」


 思った言葉がそのまま口から出てしまった。

 それより一体何処から現れたのか全く気づかなかったし、言葉を発さずにただ黙って突っ立っている。


 その様子に俺は薄気味悪さを感じていた。

 それは俺だけじゃない。隣にいるレティシアと近くに寄ってきたユージーンもそれを感じ取っていた。


「いつからいたんだ…」


「……分かりません。ですが、此処は入賞者である私達しか入れない筈です。様子もおかしいですし、警戒だけはしておきましょう」


 ざわつぎが大きくなって来た。あれは誰だ。摘み出せという会話が聞こえて来る。声を拡張する魔導具を片手にホレスが、謎の道化師に近づいていった。


「ちょっとちょっと、そこの貴方!勝手に入られたら困りますよ。ここは大会を勝ち上がって来た選手が来る所であって部外者は立ち入ってはいけません!全く誰ですか…道化師何て呼んだのは……」


「……オホッ」


「駄目だホレス!ソイツに近づくなっ!」


「えっ?」


 道化師に近寄るホレスをマーラットが呼び止める。

 その言葉に足を止めたホレスがマーラットの方へ振り返った瞬間、初めて道化師が動き出した。


「オーホッホッホ!すみませんねぇ、これはほんのお気持ちです」


「ガボッ、ブクブクブクブクッ!?」


 ホレスの頭に手を向けたと思ったら頭を覆う様に水の球体が現れる。突然、水の中に閉じ込められたホレスは息をしようと手で顔を必死にもがくが水の塊はなかなか剥がれない。


「私に任せなっ!」


 レティシアと戦いを繰り広げた鞭使いのアイネが鞭を飛ばす。ホレスの身体に巻き付けるとそのまま引っ張ってこちら側へ引き戻した。


「ガハッ…うえっ、おえええ!…けほっ、助かりました。アイネ選手ありがとうございます」


「アンタは隠れてな。こいつは私らの敵だ」


 アイネが鞭でホレスを救出したのを見て胸を撫で下ろした。

 それも一瞬の事、俺達は目の前の道化師が攻撃を仕掛けて来た事で敵と判断し、一挙手一投足に気を配る。


「嫌ですねぇ、ほんの挨拶程度のことじゃあーりませんかァ!冗談も通じない…これだから人族はワタクシ、嫌いなんですよねェ」


 道化師がやれやれと首を横に振る。その態度にそいつの近くにいたゼニスがキレて襲い掛かった。


「テメェ…その口を閉じてろや」


 殴り掛かるゼニスの攻撃を見ても道化師は避けようとはしない。


 ゼニスのパンチが奴に当たった時だった。道化師の顔が歪む。いや正確には道化師の顔にゼニスの拳が当たり、そのまま顔を突き抜けたのだ。


 周りから悲鳴が上がった。


「オーホッホッホ!暴力なんて野蛮です事ですねぇ。まあ、ワタクシには物理攻撃など効きませんが…?」


「なっ…ガッ!」


 まさか突き抜けるとは思っていなかったゼニスは驚きのあまり、身を固まらせて動けなかった。


 そこを不敵な笑い声を上げた道化師は持っていた杖でゼニスの喉を突く。


「オッホン!…ええ、申し遅れました。この度、魔王様からのご命令で此方に足を運ばせていただきましたハビョウと申します。以後、お見知り置きを…」


「がはっ、ケホッ、ゴホッ、命令だと…?」


「ええ、聖女マリア・デーリアを殺せとのお申し付けでしてね」


「マリアを殺すだと…!?」


 ハビョウと名乗った道化師が魔王の名前を出した。

 喉を抑えてむせるゼニスが聞き返す。その目的が知り合いのマリアとなればアルバルトが驚くのも無理はない。


 聖女殺害という宣戦布告と実力者であるゼニスを軽くいなした腕前、明らかに人では無いその身体にこの大会を観に来ていた人達から不安の声がちらほらと聞こえて来る。


「さて、ワタクシの紹介も済んだ事ですので貴方達には更なる()()を教えましょう。さあ、イッツ・ショー・タァイム!」


 道化師ハビョウが持っている杖を舞台にトントンと叩くとそれを中心に水が螺旋状に広がる。

 その中から大きな影が姿を見せる。


「何だ、ようやくオレ様の出番か…?待ちくたびれてついコイツで遊んでたぜ」


 その影は大きかった。およそ人族とは思えないゴツゴツとした頭に4本の丸太の様な太い腕。全身が筋肉の鎧で覆われており、身長も2メートルはゆうに超えているだろう。


 そんな化け物が手に持っていた巨大な物体を此方に投げ捨てる。


 ーーーそれを見た瞬間、俺達は絶句した。


 大会が始まる前、俺達が遭遇したあのティタノスネークが力なく横たわっていた。まだ身体をくねらせている事からかろうじて生きてはいる様子だ。


 片目が潰れ、鱗で覆われていた長い身体には拳がめり込んだ様な跡が付いている。


 Aランク相当のティタノスネークを此処まで追い詰める。更にはその原因を作ったであろう本人に傷一つ無いとなれば只者ではない。


「オレ様は土蜘蛛。ゲヘヘッ、強そうな奴がいっぱい居て楽しめそうだなぁ!」


 無邪気に笑っている土蜘蛛と名乗る魔物はとても楽しそうだ。


「ーーーよし、お前に決めた」


 そう呟いた次の瞬間、俺の目の前に影が現れる。その図体からは予測出来ないほどの速さだ。


「オレ様を退屈させんなよぉ!!」


「……なっ!ぐっ、がぁああっ!!」


「アルバルトさん!」


 顔面と腹に向かって2つの拳が同時に襲い掛かって来た。咄嗟に腕で頭を守ったが、ガードの上からでも伝わる破壊力と腹に突き刺さる拳に意識が持っていかれる。


 壁にめり込む形でようやく止まってくれた。ひび割れる観客席、その周辺にいた人達は怯えた目で立ち上がって我先と会場の出入り口に向かっていく。


 場は混沌と化していた。


 アルバルトが吹き飛ばされてレティシアは動揺したが、彼は大丈夫と信じて目の前の敵に武器を構える。


「よくも…!」


「何だ、期待外れかよ。もう少しやれそうな感じはしたんだが…オレ様の勘違いか。……んで、次はお前が遊んでくれるのか?」


 直感で強者だと判断した土蜘蛛はアルバルトをぶん殴って感触を確かめたが、一撃で終わってしまった所を見る限り、大した事はないと認識した。

 そこで土蜘蛛を鋭い眼で睨みつけているレティシアに標的を移す事に決めた様だった。


「これ以上、俺の国での狼藉……許しちゃ置けん!」


 怒鳴り声と共にレティシアに当たらない様に調節された剣の大群が土蜘蛛へと押し寄せる。


 飛んで来た大量の剣を4本もある腕で破壊してながら土蜘蛛はハビョウと名乗った魔族の近くまで下がった。


「おっもレェ技だな!オレ様の外皮を傷付けるとは…次はお前に決めたぞ」


「案外硬てぇ…ふんっ、おい畜生ども。このマーラット・アルバス・ヒガリヤに喧嘩を売ってタダで済むと思うなよ」


 舌舐めずりをする土蜘蛛と空気中から剣を顕現させたマーラットは睨み合う。


「オーホッホッホ!ワタクシも負けてはいられませんね。ほら、いつまで寝ているのです?貴方も起きるのですよ」


 ハビョウが杖で瀕死の状態のティタノスネークを叩くとティタノスネークは傷だらけの巨大な身体をのっそりと起き上がらせた。


 その光景を見て足踏みしている他の選手達にマーラットは指示を飛ばす。


「お前ら…力を貸せ!男どもはあの魔族を、女は魔物を頼む!…俺はコイツを抑えるので精一杯になりそうだ」


 1人でアルバルトをぶっ飛ばした土蜘蛛の力は半端じゃないだろう。マーラットの剣でも薄皮を切る事しか出来ないとなれば苦戦は必至。


 マーラットの額から嫌な汗が流れ、地面へ落下する。


 ピチョンと小さな水音が合図となり、戦いの火蓋が切って落とされた。


 ◆


「…っう、なんて馬鹿力だ。まともに喰らったらやばいな、これ」


 瓦礫の中から這い出て辺りを見渡した。既に会場にいた観客達は避難している様だ。

 だが、人が多過ぎる為か避難があまり進んでいない。


 良識のある冒険者や大会に出ていた選手達が避難経路を守る様に立って指示を飛ばしている。

 とりあえず、魔力を治療に回して治療の間に敵である奴らを観察した。


 俺をぶっ飛ばした4本腕の魔族はこの国の王であるヒガリヤ王が相手をしている。空中から剣を何本も生み出しては射出したり、両手の剣を巧みに操って舞う様に戦っていた。


 土蜘蛛と名乗る魔族は嬉しそうに迫る脅威に自ら向かってがむしゃらに暴れ回っている。


 ユージーンやゼニスとカーマンはあの得体の知れない相手に対して苦戦している様だ。

 当たり前だが、物理が効かないとなれば攻撃手段も限られる。特に魔法が使えないカーマンには厳しい相手になるだろう。


(レティシアは……いた)


 レティシア達、女性グループはティタノスネークに向かって即座に連携しながら戦っている。


 レティシアが素早く動いて撹乱、アイネが鞭で拘束、ローゼ・ラブグリーンが花びらの様な紋様を空中に顕現させて魔力を集めて光線を放つ。


 瀕死の状態とはいえ、流石はAランクの魔物と位置づけされているだけはある。何度も喰らっている様子だがまだ倒れる気配はない。


 といっても時間の問題だろう。即席とはいえ、確実にダメージは与えている。


 なら俺が行く方は2つの内、どっちかだ。


「どっちに行けばいい…?アイツはとんでもない強さだし、マーラット王が1人で戦い続けるのは危険だ。道化師の方はユージーンとゼニスが抑えている」


 俺は数秒悩んで決めた。


「…借りはきっちり返させて貰うぞ」


 向かう先は土蜘蛛と言っていた魔族の方へ。

 走り出して向かう途中、トーマスとミリアが視界の端で映る。


 彼らは道化師の方へ向かっていく様だ。遠距離攻撃が得意の2人なら大丈夫だと判断して走るスピードを上げた。


「死ぬなよ、みんなっ!」


 ◆


「オーホッホッホ!効かない、効かないですヨォ!」


「チッ、当たってんのにマジで効いてねえ…」


「退いてなさい!"愛の突撃(ラブリー・タックル)"」


 ゼニスの猛攻を受けていたハビョウはまるで効いていないのか、軽い足取りで滑らかに動いてやりづらい。

 機を伺い、死角となる背後からカーマンの必殺技がハビョウに迫る。


「おっと、貴方の愛は入りませんよォ!」


「一体、どんな身体してんのよ…!!」


 近付く屈強な男の攻撃をハビョウは身体を水の様に変化させてカーマンの攻撃をすり抜けさせる。だが、更に追撃を仕掛ける人物がいる。


「貰った!」


「………ッ!!?」


 カーマンの背中の影に隠れていたユージーンが飛び出して雷を纏った槍の突きがハビョウの身体を貫いた。


「ぐぅううう、なかなかやりますねぇ」


 槍自体の攻撃はダメージが無い様だが、その纏った雷がハビョウの身体を痺れさせる。

 初めて通ったダメージにユージーンを含めた男達は確信した。


(物理は効かないが魔力を通した攻撃なら効くかも知れない)


「へへっ、そうとなれば!"咆哮弾(ほうこうだん)"」


「"雷槍三連撃(らいそうさんれんげき)"!」


 今度は大きく避け始めたハビョウを見てゼニスは凶悪な笑みを浮かべる。


「…調子に乗るんじゃありませんよ!」


「カッコいい男は私が守るわ☆」


 その表情に苛立ったハビョウは腕を鞭の様に長くしならせて振り払う。

 それをカーマンが彼らの前に立ち、全身で受け止めた。


 流石は歴戦の猛者達だ。攻撃役はユージーンとゼニスに任せて防御はカーマンが担当する。


 いい流れで彼らは確実にハビョウを追い詰めていくが此処で予想外の事が起きる。


「……とうとう見つけた。父ちゃんと母ちゃんの仇…!」


 片手に剣を握る少年は憎しみの感情を隠し切れず、憎悪に塗られた顔で剣を振るう。


「オホホホッ!アナタァ、どっかで見た顔ですネェ?」


「忘れたとは言わせない!…あの日、俺の家族をお前がめちゃくちゃにした事を一日足りとも忘れた事はない!」


「トーマス君、落ち着くんだ!」


「チッ、あの野郎…こっちが手を出せない様にわざと攻撃を受けてやがる」


 ハビョウがチラチラとユージーン達を警戒しながら降って湧いてきた好機とばかりにトーマスから離れない。


 攻撃したくても攻撃をすればハビョウはあの少年を何の躊躇もなく盾にするだろう。苦虫を噛み潰した様な顔で隙を伺うが手が出せない。


「あぁっ!思い出しましたよ。アナタァ…あの時見逃した子供ですね?あの時の顔といったら…プププ、傑作でしたよォ!ええと確か…こんな感じでしたよね?ーースキル"模倣(メタモルフォーゼ)"」


 ハビョウがその場でくるりとターンをするとセミロングの優しそうな女性が立っていた。


 それを見たトーマスの顔は怒りに歪んだ。


「絶対に許さねぇ!!!」


ハビョウ

最弱と言われるスライムが魔族になった姿。水の身体で物理攻撃は聞きにくく、身体に取り込んだ水を自由自在に引き伸ばしたりする事が出来る。


土蜘蛛

A級の魔物に分類されるアーススパイダーが魔族となって力を得た姿。それは同じA級であるティタノスネークを圧倒出来る程の強さを持つ。



最後まで読んでくださりありがとうございます。


少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。


モチベーションにもなりますので、感想等もよかったら聞かせて下さい!誤字脱字も教えて頂けたら幸いです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ