第10話 残酷な誕生日4
キドウ達が家の中で口論を続けている中、アルバルトとリサーナは大人達の話し合いが終わるのを待つ時間潰しに隠れんぼで遊んでいた。
「ふっ、リサーナの奴は知らないだろう。俺は隠れんぼのももちゃんと言われていた事を…!まあ、範囲はこの敷地内で狭いけど此処なら問題はない」
今は鬼であるリサが必死になって探しているだろう。俺は背の高い木の上に乗って下から見上げても身体がすっぽりと隠れられる場所に身を隠している。
「さて、今のうちに本の続きでも読みますかね…」
ポツリとそんな独り言を呟く。誰にも聞かれないが何となく口にした。見つけるまでにかなり時間がかかるだろうからそれまで暇なのだ。このくらいは許して欲しい。
「………」
「…その本、私はあんまり好きでは無いな」
「うわっ!びっくりした…よく此処が分かったな。てか早くね?」
読み始めて数分といった所だろう。リサに意図も容易く簡単に見つけられた。本の中を覗き込んで耳元でボソッと言うから木から落ちそうになったじゃないか。自業自得だろうけども。
「この私だぞ?ページを捲る音と僅かな呼吸で大体の場所は絞り込めたさ。後は高い所から見下ろして探そうかと思って登ってみれば君が居たって訳だ。まあ、私と遊んでいるのに読書とは良いご身分だな」
「…こっわ。普通そんな音で気付かないだろう…ごめんて、取り敢えず下降りようか」
「フッ、アルの居場所なんて私に掛かればすぐに見つけられるのさ」
不敵に笑うリサーナを置いて木の幹をしっかり掴みながら慎重に下へ降りる。反対に彼女はその場からぴょいっと軽く飛んで一気に下へ落ちる。
俺がやったらきっと足の骨は折れるだろうが彼女の身体能力は凄い。まだ9歳にも関わらず、あの巨大な熊の魔物と渡り合うレベルの強さを持っている。頑丈で戦いのセンスもある彼女にとってはこの程度は何の脅威にも当てはまらないだろう。まさにチートである。
「そういや、何でこの本好きじゃねえの?」
「そうだね。確かに読み物としては面白いとは思うんだが…何というかその、本に出てくる鬼人族って人を食ったとか不死身の肉体とか嘘ばかり書いてあるのがちょっとな」
まあ確かに。創作物にしては面白い所も多々あるが鬼人族が魔族と同じ扱いになっているのは思う所がある。
「まあ、人を食うだの不死身だのって考えてみれば可笑しいよな。飯なんて普通に魔物の肉と野菜とかだし、不死身に関してもただ治りが早いだけだしな…それはそうと続きやるか」
もう大量に世の中へ出回っている物だ。鬼人族のイメージを払拭しようと少しだけ考えたが多分難しいだろう。なら、俺が気にしても仕方がない。
「うーむ、そろそろツナさんとか話し合いが終わりそうな感じがするんだ」
「いつもの勘って奴か?リサの勘って結構当たるから凄いよな」
「ふふ、ありがとう。自慢じゃないが成功率は8割程だ!」
「凄すぎぃ」
そう言って無い胸を大きく張るリサーナを横目にアルバルトは手を頭の後ろに組んでポツリと呟く。
「あー、それにしても怒られたくないななぁ。ただでさえ、うちの母さん怖いのに怒ったらもう鬼だよ、鬼!」
「あはは…、それって。あっ…アル。後ろ…」
リサーナがアルバルトの後ろへと指を指すがもう遅い。彼は元気よくこう言った。
「いや、この場合は鬼婆だな!」
「…ほぅ、鬼婆ねぇ。覚悟は出来てんのか、このバカがっ!!」
「ノオォォオ…!?」
いつの間にか背後に現れたツナに拳骨を貰い、頭を抱えて悶えるアルバルトにリサーナは苦笑しながらその頭を撫でている。
「げっ、母さん!」
いつの間にか後ろにいた母さんの拳骨は痛い。だが、いつもの特訓よりも力は抜いたのだろう。痛みもすぐに引いた。
「全く、怖いもん知らずはアンタの良くない所だね。それとリサーナ、ホント無事で良かったよ。鬼人族の子供の頃なんざ、魔力も安定しないんだ。今回は運が良かったから良いけど次からは気をつけな」
お叱りを受けて謝るリサの頭を母さんは乱暴に撫で回して俺に視線を向けて来た。リサはボサついた髪を手櫛で軽く整えている。
「アンタもこういう場合は誰でもいいから大人に頼りな。1人でタイラントグリズリーと戦ったって聞いた時は柄にもなく焦っちまったよ。立ち向かう勇気は良い。けどな、逃げる勇気も同じぐらい大切な事だ」
怒るというより諭すに近いその声色は俺の胸の中にスッと入っていく。…逃げる勇気なんて考えた事も無かった。
「はーい」
「分かったならいい。私からはもう何も言うことはない。…それとリサーナ達をよく守った。流石は私の息子だよ」
ポンポンと頭を軽く叩いて撫でてくる。褒められた嬉しさからかとても心地が良かった。
◆
帰ろうとツナがアルバルトを連れてミナトと合流する。その後ろにはキドウとランヌ、それからリサーナが佇んでいる。
キドウとランヌからありがとうと礼を言われて照れるアルバルトにリサーナは意を決して近づいていく。
「アルバルト!お誕生日おめでとう!これ、前に好きだって言ってたから受け取って欲しい」
「これはセンカの実か。まさかあの森に入って行ったのって…俺の為か?」
「…そう!」
俺の為かと聞いたらボフンッと顔から湯気が出るほど真っ赤にさせたリサの奴は母親であるランヌさんの足に隠れた。だが恥ずかしそうに顔をひょっこりと出してコクリと頷く。
そんな彼女の珍しい姿に親達は微笑ましい物を見たといわんばかりに愉快そうに笑った。
ついでに俺もそのギャップになんだか可笑しくて笑ってしまった。そしてリサに笑うなと怒られた。解せぬ。
「ありがとうな、リサーナちゃん。息子の為にいつも頑張ってくれて。仲良くしてくれて本当にありがとう」
「はい!私がこれからもずっとアルの面倒をみます!」
ミナトの言葉に元気よく返事を返すリサーナ。胸を張って堂々と宣言した。
「あらあら〜」
「渡さんぞぉ!リサーナを貰うならこのワシを倒してからでないと認めん!」
「何してんだよ兄貴…」
「アーハッハッハッ!!そうかい、そうかい!キドウ、落ち着けって。うちのをよろしく頼むな、リサーナちゃん」
嬉しそうな表情のランヌとは対照に愛しの娘が嫁に行く姿を想像して喚くキドウ。それを呆れた様子で苦笑するツナと大笑いするミナト。大人達の反応に思わず、子供達2人はお互い顔を真っ赤にさせてうなだれた。
ひとしきり笑い合った後、本当にお開きだという事でキドウ一家とは別れる。
帰路に着くアルバルトにミナトは軽い調子で話し掛けた。
「よう、憎いな色男!あのキドウの娘を落とすとか流石は俺の子だ」
「止めろって。そんな事してないし、肩から手を離せよ、重い」
ミナトからのだる絡みに対応するアルバルトは心底めんど臭そうな表情をしている。
「やっぱり血は争えないな…俺も結婚する前はツナからのアピールが凄くてな。それはもう凄かったんよ。…そういえば、何処行っても側に常にいる感じだったな」
「はぁ…いい歳した男が乙女の事情に首なんて突っ込むんじゃないよ」
「お…とめ?へ、ツナはそんな気にする様な歳でもないだろう?」
「私じゃない。リサーナの事だ、この馬鹿」
「…ッ!?ノォオオオ…」
ミナトの言葉に拳骨をくれるツナは話を変える為にアルバルトに話し掛ける。悶えるミナトとアルバルトの苦しみ方は流石は親子、似ていた。
「今日はご馳走を沢山用意したからね。沢山食ってもっと強くなるんだよ」
「しゃっ!なら早く帰ろう。俺、腹減ってたんだ!」
途端に元気になるアルバルトを見てツナは苦笑する。そして彼女は自分の手をパンッと叩いて鳴らし、ある提案をした。
「なら今から家まで競争だ。1番遅かったヤツは明日、朝ごはん担当!」
一気にそう捲し立てたツナは我先にと走り出した。
「ずりぃ、大人のする事かよ…父さん。じゃ、お先に!」
「待ってくれ、息子よ!痛みに悶える父を置いていくのか!?…くそおおおお!!お前ら待てぇえ!」
自分の家へと急ぐアルバルト達。その顔は笑みを浮かべており、どこか楽しそうであった。一家団欒で楽しい夜を過ごす。明日も笑顔で平和な一日があると信じていた。
ーーそう、その時が来るまでは。
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