第1話 プロローグ
鬼人の旅路を見て頂きありがとうございます。彼らの旅の行く末をどうか見守っていただけますようお願い致します。
少年は幼き日に家族をなくした。愛と憎悪が交差する時、真実が明かされる。
日が落ちあたりは暗く、虫の小さな鳴き声がよく家の中で響いていた。
(やめろ、やめてくれ!)
自分の身体が思う様に動かない。ズルズルと無様に這いつくばって前へ進む。
俺の右手は肘まで真っ赤に血で染まっていた。
(母さん…何で、こんな…どうしてこんな…答えてよ父さん!答えろよッ!!)
血溜まりに沈む母に縋り付いている俺と此方を冷たく見下ろしている父がそこにはいた。
「………」
何を言っているのか分からない。
此方に迫ってくる手はいつも俺の頭を撫で回していた優しい手には思えなかった。まるで悪魔が取り憑いた様な恐ろしい手が俺に迫る。
(やめろーーー!!)
◆
「うぁあああああああ!!」
ガバッと身体を勢いよく起こす。手で顔を触ってこれは夢なんだと気づいた。
「…また、あの日の夢を見たのか」
背中に汗がぐっしょりになるまでうなされていた様だ。息を整えて今度はゆっくりと立ち上がる。窓を開ければいい天気だったが気分は最悪だった。
頭をスッキリさせる為、洗面台に移動して顔を洗う。
ひんやりする水の感触に眠気が吹き飛んだ。
「はぁ、酷い顔だなこれは…」
顔を上げて備え付けてある鏡を覗けば、やつれている黒髪の少年がそこにいた。
「今日で15歳。今日が誕生日だからこんな夢を見たのか」
あの悪夢は俺がまだ10歳になったばかりのガキだった頃だ。俺の誕生会を終えて寝ようとした時にそれは起きた。
あの惨劇は脳裏に焼き付いている。
何故、母が血溜まりに沈んで父が黙ってそこへ立っていたのか、未だに分からない。あの日から決まってこの時期には悪夢を見る様になってしまった。まるで忘れるなとでも言うみたいに。
「あー、やめやめ。考えてたら朝から気分が悪くなっちまう。それに早くしないとアイツが来るしな…こんな顔見せられないわ」
タオルで水気を拭き、パンパンと手で顔を叩いて意識を切り替える。
料理をする為、適当な食材を貯蔵庫から引っ張り出す。火が付く魔導具に魔力を流し込んで火を付け、フライパンを温める。
先にデカいベーコンを2枚焼いて焦げ目が少し付いたら卵を割る。火力を調整して焼けば、ベーコン付き目玉焼きの完成だ。パンの入っているカゴと先程作った目玉焼きの乗った皿を食卓テーブルに並べる。後は牛の魔物から取れたミルクと果物を並べて終わりだ。
俺が朝早くから朝食を作り、待っている相手は幼少期から親しくしている幼馴染だ。
もうすぐ来るであろう幼馴染を待つ。毎回、朝食べに来るから現状一人暮らしの俺には大変だ。全く、たまにはアイツが用意してくれればいいのに…とたまに思う。
肘をつき、ボーッとしながら椅子に座る。
俺の名前はアルバルト。今日で15歳になるがそんな俺には前世の記憶という物がある。前世では20歳の時に交差点で信号無視の車に跳ねられ、気づいたらこの世界で生まれ変わっていた。
それからは親の本を読んで知識を付けたりや幼馴染と特訓という名目で色々な遊びをしたり、魔法の練習なんかもしていた。魔法は前世には無かったので初めて使えた時は感動したものだ。
ちなみにこの世界では15歳から成人扱いされるのでおめでたい年齢とされている。これで俺もお酒が飲める年になったのでちょっと楽しみである。
そんな事を考えているとドアをコンコンと叩く音が聞こえる。どうやらアイツが来た様だ。玄関へ行き、扉を開けると元気の良い声が耳に届く。
「おはよう、アルバルト!今日も素晴らしい一日だ!」
「おはよう、リサーナ。今日も可愛いよ…それじゃ」
「かわっ…っておい!」
ガチャッと今開けた扉を閉める。すると今度はドンドンとドアを強く叩く音が聞こえた。朝から激しい事、激しい事。
タダ飯を食べに来るこいつにちょっとした仕返しをしたのだが、ドアから軋む音がしてくるので慌てて開けた。
「まったく君という奴は…!アルのいじわる…」
「ごめんごめん、もうしないから。痛いから!ツノで刺そうとしないで!」
ちょっと膨れっ面な幼馴染を家に入れる。この村で唯一の親友であり、拗ねられては困るので謝り倒して食卓へと案内した。
俺が人生二回目で生まれたこの村は人と少し違う。額にツノが生えている鬼が住む村だ。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークの登録と広告の下にある【☆☆☆☆☆】で評価してもらえると嬉しいです。