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最終章 われ思うゆえに彼女あり


めもりが何をしたのかは分からないが、スイートの見た目に変化はなかった。

「そのNARISとやらが、またスイートにウィルスを埋め込むことはないのか?」

「それは分かりませんが、NARISを解散させるといった根本的な解決は難しいでしょうね。しばらく大人しくしてくれることを願うしかありません」

「そうか……」


 俺もそれには同感だった。そんな危ない組織を相手に戦う気はないし、俺のするべきことだとは思えない。今回の事件だって、俺はしたくて首を突っ込んだわけじゃない。それが友人の静かな死を脅かしていたからだ。


「で、どうするんだ?」


 俺は雪菜の方を見た。

「彼女を受け入れるしかないよ」

「そうだよな……」


 他に良いアイデアがあるわけでもなく、話はそういうことに落ち着いた。

「そういえば、めもりが俺にだけよそよそしくするのも、ゆかりのお父さんが仕組んだプログラムなのか?」


 俺はふと思いついたことを聞いてみた。

 配信中のめもりはとてもほんわかした女の子だ。配信中はみんなから好かれるようにキャラを作っているものだと思っていたが、学校でもめもりはそんな感じで、俺と居るときだけ急に素っ気なくなり、俺はいつも機械と話している気分になるのだ。


 俺と話すときには、何かそんな話し方をしなければいけない理由があったのだろうか。

 ゆかりのお父さんは何か考えがあってそうしたはずだ。

「どういうこと?」


「めもりはこの子の暴走によって俺たちが危険にさらされないように作ったんだろ? 恐らく、そのときにはこの子が巨大化して街を襲うといった脅威は考えてなくて、とにかく俺と雪菜を危ない出来事に巻き込まないよう、めもりに守らせた」


「それは分かってるけど、それと私たちによそよそしくするのがどう関係してるわけ?」


「だから、ゆかりのお父さんにとっては俺たちが本当に仲良くしてほしい相手はこの子だったんだよ。俺たちがめもりに心を許して、この子ではなくめもりが、ゆかりになってしまうのを恐れたんだ。そうだろ? 君がよそよそしくするのは、俺たちがスイート以上に君と仲良くならないよう、あえて距離を作らせたんだ」


「そうですね。配信者としてのAI原めもりはこんな話し方をしませんし、学校でもこんな話し方はしません。父が書いたプログラムには明確にあなたたち二人の名前があり、あなたたちと会話するに際して、特別に親密度を感じさせない言葉遣いするようようにプログラムされています。それはつまり、あまり二人と仲良くするなということでしょうか」


「何それ!! あたしはたとえめもりちゃんと仲良くしても、あの子と仲良くしても、ゆかりちゃんの代わりとして仲良くするわけじゃないし!!」


 雪菜が噛みつくように言った。


「ああ、途方もなく見込み違いだったけど、それがゆかりのお父さんの親心だったんだよ」

「めもりちゃんは怒らないわけ? 自分のお父さんが、スイートが仲良くしてもらえるよう、性格をいじったんだよ?」


「私が生まれてきたことに関しては父に感謝しています。怒りはあまりありませんが、かわいそうなひとだなとは思っています」


 めもりの考えは俺とよく似ていた。俺もゆかりの生まれ変わりを作ったことに関して、すでに怒りを抱かなくなっていた。ただ「狂ってしまえば幸せだ」をやり遂げてみせた人として、羨ましいと思う反面、かわいそうだとも思った。

 たとえ狂っていたとしても、それは確かな愛だったんだろう。

 それは彼女の名前を考えればよく分かる。「スイート」は甘いという意味ではなく、愛しい人。愛娘が戻ってくるのを願って、そう名前をつけたのだ。


「じゃあさ、既に管理者権限はゆかりのお父さんから、寛人に移ったわけでしょ? 管理者権限で、その強制されている話し方をやめるように変えればいいんじゃない?」

 雪菜がはしゃいだ声を出した。


「なるほど。そんなこともできるのか?」

 めもりは考え事をするように瞳を上向かせた。

 数秒の沈黙が終わり、やがてめもりが口を開いた。

「二人と会話する際に読み込まれていたプログラムを読み込まないように書き換えました」

「書き換えたって全然変わってないケド……」

 雪菜が怪訝そうな顔をする。


「寛人にはね。雪菜には普通に喋れるようになったから、これからよろしくね」

 めもりはほのぼのと笑って前髪を揺らした。


「かわいいいい!! 絶対、そっちの方がいいよ。一気に仲良くなれた感じじゃん!!」

「うん、私もそんな感じがするね」

「なんか本当に好きになってきた! めもりちゃん、明日いっしょにパフェ食べに行かない?」

「いいよ、放課後寄り道するの。憧れてたんだあ」


 二人はすでに意気投合し、指を絡め合って明日の計画を立てはじめる。


「おい、ちょっと待てよ。なんで、俺にはため口きいてくれないんだ?」

「別に、敬語で話す義務はなくなったのですが、私の心がそれを拒んでいるだけです」


 めもりは急に無表情になって言う。その表情はどこかわざとらしくて、一瞬俺の顔色をうかがうような怯えた瞳が向けられたような気がした。


「寛人はいいよ。めもりちゃん、二人で仲良くしよ?」

「うん、だからちゃんはいらない。わたしも雪菜って呼び捨てにするから、雪菜もめもりって呼んでくれたらいいよ?」

「そうする!」


「なあ、俺にもため口きいてくれよ」

「いやです……」

「そうだよ? 嫌がってるのを無理にさせることないじゃん」

 なぜか雪菜は俺の交渉を邪魔するのだった。



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