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第二章 暗黒戦駆グレートスター

 D/スイートが消滅すると、俺はめもりの指示に従って海に向かった。

 護岸工事のために作られた防波堤があり、その先端のところで俺は切り離された。


 めもりは俺を切り離して海に出ると、そのままグレートスターを海に沈めて戻ってきた。

俺はその間、雪菜を膝の上に寝かせると、防波堤から足を投げ出して座り、海底に沈むグレートスターを見ていた。

 めもりの説明によればそれは純粋な機械ではなく、生体組織でもあるのだから、機械のように必要なときに乗ってそれ以外のときは放っておくわけにはいかない。


 それが栄養になったのか、素材になったのかは分からないが、グレートスターを発生させるうえで、めもりは自動車を数台飲み込んだのだが、それももとに戻すことはできないらしく、あのまま海に沈めるしかないそうだ。


 俺にとっては、この防波堤の先に馬鹿でかいグレートスターが眠っていて、それが釣り人やあてもなく防波堤を歩く家出少女の目に止まるかと思うと我慢できなかった。


「お疲れさまです、寛人さん」

 少女は戻ってくると、戦闘の最中と変わらない無表情で言った。

「一体、どうなってんだよ!! なんで突然、怪物がでてきて、十年も前のロボットがそれを食い止めなくちゃいけないんだよ!!」

 俺は叫んだ。

「街を壊したのは私ではなく、スイートです」

 少女は冷たく言い放った。


「そんなことに怒ってるんじゃない。なんでグレートスターなんだ? ロボットならいくらでもいるだろ。今アニメ化してるやつでもいいし、国民的な映画になったロボもある。それなのになんでグレートスターなんだ」

「それは私にはどうすることもできませんから」

 俺は頭を振った。

「大体、壊れたらどうするんだよ。あのスイートとかいうのに勝ったからいいが、負けたらどうする? 腕がもげて、足が取れ、どうにも修復不能になったらどうするんだ」

 俺は捲くし立てた。


「寛人さんが協力してくれれば、その可能性を下げることができます」

 協力だと? 

 この子は何もわかってない。


 グレートスターは現実で怪物と戦ったり、死にそうになった誰かが思わずその名を呼ぶようなロボじゃない。アニメ化もされず、資料集すらない、マイナーなロボだ。

 当時の一部の子どもだけが夢中になって、成長とともに忘れてしまえばそれで良い。


「俺は協力なんかしたくない。できればもう一生姿を見せないでほしいね」

「それが望ましいのは私にもわかります。しかし、現にあれだけの怪物が現れて、町はこんな様子です」

「ああそうだ。だから、今度スイートが現れたら、君はあの怪物をアラスカかどっかに引きずっていって、そのまま永久凍土の中で二人とも眠ればいい」

「それは私にとって最優先するべき事柄ではありませんが、お望みだということは記憶しておきます」


 少女はそう言うと背を向けて歩き出した。

 何を言っても言い返してこない。怒りすらしない。少女にとっては俺の言い分は途方もなく間違っているのだろう。だったら、怒ればいい。どうして言い返さないんだ。

 言い返すことなく去っていく彼女が忌々しかった。                                                                   



 俺はしばらく雪菜を膝に乗せて海を眺めていた。

 めもりによると、雪菜の健康状態に問題はなく、そのうち目を覚ますそうだ。

 このあたりの水質はかなり悪かったが、それでも穏やかになった波の隙間から、海底に沈んだグレートスターが見えた。

 あれだけの兵器が、海水にすっぽりと浸かり、イワシやボラがその周囲をどこ吹く風で泳いでいる。目からは光が失われ、今ではあれが地上で動き回っていたことが嘘みたいだった。

 膝に熱を感じて、俺は雪菜の顔に目を落とした。


 先ほどまでは気が付かなかったが、雪菜の額にはうっすらと汗が浮いていた。

 俺は雪菜の汗を拭いてやろうと思って、雪菜のジーンズのポケットに手を突っ込んだ。彼女はいつもそこにハンカチを入れていた。


 カチャンッ


 ハンカチを取り出したとき、何かが防波堤のコンクリートに落ちて乾いた音を立てた。

「あれ?」

 俺はそれを拾おうとして声をあげる。

 それは見たこともない鍵だった。雪菜が持っている鍵は、ネコのキーホルダーがついており、そこに自転車の鍵と自宅の鍵を通してある。


 しかし、今落とした鍵は裸の状態だった。

「どこの鍵だろう?」

 俺は鍵を摘まみ上げて夕陽にかざしてみた。

 大小のギザギザが並んだ昔ながらの鍵だ。

「どこで手に入れたんだ?」


 雪菜はスイートに魅入られて、外に出歩くことがあったと言っていた。その間にどこか家に出入りしていたのだろうか。それとも最初の直観があたっていて、いつの間にか年上の彼氏ができて、そいつの鍵を渡されたのだろうか。


「だめだ、だめだ。俺は汗を拭いてやろうと思っただけなんだ」

 他人がどんな鍵を持っているかなんて、かなりプライベートな問題だ。勝手にポケットを漁った後ろめたさもあって、俺は詮索を諦めて汗を拭うのに集中しようとした。

 だいたい汗を拭き終わると、俺は鍵をハンカチと一緒に雪菜のポケットにねじ込んだ。

 その感触に気が付いたのか、雪菜の眉がぴくりと動いた。


「ん……あれ……どうしたの、寛人……」

 雪菜が目を覚ました。

「大丈夫か?」

 雪菜はすぐに起き上がろうとしたが、バランスを失って、倒れそうになった。俺はそれを慌てて抱き留めた。

「うん」


「怪我は? どこかおかしいところはないか?」

 雪菜は不思議そうに周囲を見渡しながら、肩や首を手で触れた。

「大丈夫みたい」


「ごめん!!」

 俺はそこで頭を下げた。


 俺は雪菜の容姿について無遠慮なことを言ってしまったことを謝りたかった。本当に伝えたかったのは、俺を慰めようとしてめもりちゃんにならなくても良いと言うことだった。それが顔の系統が違うから無理があると下手な理屈をつけたために、彼女を傷つけてしまったのだ。

 俺は誤解を解こうと口を開いたのだが、彼女はそれをさせてくれなかった。


「別に良いよ。そんなこと」

 彼女は俺の口を手のひらで塞いだ。

「え?」


「悪口なんていくら言われたっていいよ。確かにあのときは傷ついたし、そのせいでこんなことになっちゃったけど、“背中の女“が出てこなければ、そのうちあたしは寛人を許したよ。それに次の日だって朝迎えに行くつもりだった。だってそうじゃん? 財布を預ける仲なんだし、お金盗られたこともあたしと寛人の場合、許すしかないじゃん?」


「許さなくていいよ」

「それよりもハッキリして良かった。寛人は本当にあたしを見捨てない」


 雪菜はいつも決定事項のように言う。

 俺はまた耳の後ろを抑えそうになる。

 見捨てないなんて簡単に言うが、実際は状況次第ではどうにもできないことだってある。

 それに俺がどうするかなんて俺が決めることだ。

 そして、いつもそう断言するくせに、怯えるように俺を見るのはなんなんだ。


「違うだろ。雪菜は俺の前から消えたりなんかしない」

 俺は雪菜を睨んだ。

「そうだね……ごめん……」

「いや、喧嘩したいわけじゃないんだ。とにかく戻って来てよかった」

 俺はそう言って雪菜を抱きしめた。


第二章 暗黒戦駆グレートスター 【終】

次章 ディバイド&コンカー

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