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谷中愛ものがたり  作者: 悠鬼由宇
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第五章

七月末。


梅雨前線はすっかり北上し、またも酷暑が日本を灼熱地獄に陥れている。

この恵比須の地も例外でなく、連日紀野は培養コンテナの温度調整に四苦八苦している。

この金芝と呼ばれている霊芝は他のものより温度管理に精細さを要し、それに加え徹底的な湿度管理も至難の業である。

東京大学が天下に誇る若ききのこ博士は、この様に悪戦苦闘しつつも信太をはじめとする集落の仲間達の的確なサポートや、時折訪れてくる女神様の励ましのお言葉のお陰で、それ程荊の道を歩んでいるという感じではなかった、いや寧ろ世界初の新種の培養にアドレナリンが絶えず湧き出ている気持ちなのである。

「アイツ。頑張っているな。」

信太が京の作った五目おにぎりをほうばりながら呟く。

「だねー。ちょっと引くほどにね。」

すこーしだけ、紀野を認め始めている京が同意する。

「ハナとは上手くやっているのか?」

「ぜーんぜん。最近は口もきいてねーんじゃね? ま、どっちもどっちだけどな。」

「そうか。」

「そーいやさ、今度ももっちと羊ちゃん、いつ来るんだよ?」

「さあな。」

「ハアー、やっぱアタシもスマホ買おうかなぁ。」

京はスマホも携帯も持っていない。何なら自宅には電話も電子レンジも冷房もテレビもなく、申し訳程度の扇風機がカラカラ回っているだけである。

「神様は元気なのか?」

「あー、ユート? 今頃インド洋じゃねーかな。元気してっかなぁー。会いたいなぁー。」

神様、すなわちユートとは京と同居している二十二歳の青年だ。京の亡くなった祖父の遺した借金返済のために、春から三崎港を出て遠洋漁業に従事している。

「いつ戻ってくるんだ?」

「十月。早く秋になんねーかなぁー その頃にはこの子も大きくなってんだろーなー」

そう言って京が腹を摩ったので、信太は腰を抜かし、

「お、お、おま、そう、なのか?」

ニヤリと笑いながら、

「ウッピョーン。何マジでビビってんだよ、ウケるー、ダッさー、きゃはははー」

大笑いしながら京が畑から逃げ出していく。

馬鹿野郎、マジでビビったわ。そう呟く信太が空を見上げると、真っ白な入道雲が天高く湧き上がっている。


「どですか、皆さん。ちょっと辛いかもですか?」

水田家の夕食は、ハナが地の野菜をふんだんに使った麻婆茄子と麻婆豆腐だ。何なら豆腐も香が朝作ったものである。

「か、辛い… れも、おいひい!」

涙ながらに香が叫ぶと、

「これは少しやりすぎかんがいなめません。からすぎて明にはたべられません。明日けつのあながいたくなっても知りませんよ。」

明が文句を言いながら、漬物と煮物でご飯をかき込む。

「ヒィ… 汗が… 脳天から汗が出てるよぉ…」

汗まみれながら、箸が止まらない京である。

そんな中、無言でレンゲを掬い続ける男がいる。汗もかかず、ただひたすらに掬い続けては口に放り込んでいく。

時折ボソッと、まあまあだな、とか悪くない、と呟くもその声はハナには届かない。

そんな紀野を見て、明が

「キノコさん。よく平気でたべられますねえ。ひょっとしてつうかくのいじょうしゃなのですか?」

「いや。昔から辛いのには慣れているからさ。食習慣は育った環境によって異なるのだよ。」

「ほお。キノコさんのそだった地方もこのようなこうしんりょうをふんだんに使う地いきなのですか?」

「いや。父が辛い物が大好きだったんだ。」

明とはよく喋る紀野を睨めつけている女がいる。この数日存在自体を無視され、そのくせ自分の作った食事を無言でアホみたいに食べ散らかして。

溜まっていたストレスがはち切れそうになる。落ち着け、私。冷静下来、我。

大きく深呼吸を繰り返し、気を整える。

ようやく心に平穏がとり戻る。だが。

「まあ、でも。ただ辛いってだけじゃあ美味しくないよな。これも少し風味が足りないよな…」

プチーン。

何かが切れる音がした。

ダメだ、抑えろ私。按住他们!

だが。紀野の存在自体に対するハナのストレスは、最早何人も封じ込めることの出来ないレベルに到達していたのだった…

スタスタと音もなく紀野の元へ行くと、ハナは目に見えない速度で紀野の頬を叩く。

ベシャっ

聞き慣れない音が水田家の茶の間に響き渡る。

皆が呆然としている中、紀野の巨漢は宙を舞い、畳に叩きつけられた。

「够了,够了。 你是个死人!(いい加減にしろ、お前なんか死んじまえ!)」

そう怒鳴るとハナは水田家を飛び出していった。


「今のはキノコさんがわるいですね。つくってくれた人の気もちをまったく理かいしていません。中国のいなかからとおく日本に一人っきりでやってきて、こんなどいなかであつさとたたかいながらのうさぎょうをして。」

頬を抑えながら、紀野は明の説教に首を垂れる。

「ことばもよくわからずに不あんをいっぱいかかえて。それでも国のお父さんお母さんにしおくりするためにがんばって。なのにキノコさんはかのじょのこういとやさしさにあまえ、早おきもせず手つだいもせず。あげくのはてに心をこめてつくってくれたりょうりにもんくを言って。」

一々、心に突き刺さる。紀野は今日までの日々を反省し始める。

「今かのじょはどんなきもちなのでしょうね、生きていくのがつらいとかんじているのでは? このまま死んでしまいたいと思っているのでは? だいすきな海にとびこんでしまいたいと思っているのでは?」

ちょ、待て… ま、まさか、そこまで…

「どうでしょうね。もしキノコさんがとおいい国の地でこんなイジワルをされたら、どんな気もちになりますか?」

ゴクリ。紀野は己の幼さと意地の悪さに戦慄し始める。

「見に行った方がよくないですか? 明日の朝、水死体がえびすぎょこうにうかばないといいのですがね…」

紀野は突如立ち上がり、何事か呻きながら水田家を飛び出した。


海の音は落ち着く。

潮騒と言うらしい、別に騒がしくはないのだが。

生まれ育った四川の山奥は懐かしいが、この恵比須も悪くない。寧ろこの海が近い分こちらの方が好きかも知れない。

辛いことがあってもこうして夜の潮騒を聞いているだけで癒される。どれ程キノコ野郎がムカついても、この音に晒されるだけで苛立ちが流されていく。

今も、ハナの心はすっかり落ちつきを取り戻した。もう少し豆鼓醬を足せばよかったかも知れない。花山椒をあとひとつまみ加えておけば…

それにしても。

頬を張った瞬間のキノコの顔は見ものだった。それまで偉そうに上から目線だったのが怯えた表情になって。とても年上の表情ではない、まるで小学生だ。あんなデカい図体でやることなすこと、全て小学生だ。

紀野を思い浮かべプッと吹き出すとハナは岩場から腰を上げて暗路集落に戻り始めた。抜群の夜間視力なので躓くこともなく岩場を滑るように歩いて行く。

右足に紐状の何かが絡まった、流石に紐までは視認できなかったか。

しゃがみ込んで紐を退けようとしたその瞬間。

ビリビリッ

右足に電気ショックが走る。

私としたことが。何が絡まったのか? 有刺鉄線か? 

突如、眩暈がハナを襲う。

まさか… もう反北京派の魔の手が…

慌てて周囲を確認するが、特に敵の気配は無い。とすると、これは対人地雷的なトラップなのか?

身を起こしていられなくなり、ハナは磯場にうずくまった。

毒には耐性を持つハナだが、このトラップの毒は想定外の強さかも知れない。吐き気と戦いつつ、このままでは簡単に処分されてしまう、早くこの場を離れねば、そう思うハナだが体は全く自由を失い、やがて呼吸も浅くなっていく。

一体どんな対人毒罠を…

気が遠くなっていくハナの耳に穏やかな潮騒が響いているー


紀野は夜の海が嫌いである。

何故なら真っ暗闇に吸い込まれそうな感じがするからだ。山と違い海はその深さが窺い知れず、飲み込まれたらどこまでも深く引っ張られそうだ。

水田家で借りた懐中電灯を照らしながら磯場まで来ると、紀野は一つ身震いをする。

まさか、本当に海に飛び込んだりしてねえよな… まだアイツ十五メートルくらいしか泳げねえし… こんな暗い海に入ったら、陸がわからなくなって真っ暗な水底に…

鳥肌が抑えられない。それでも意を決して紀野は磯場を進んで行く。数メートル先を照らす明るい光が磯に巣食う船虫などを蹴散らしていく。その様子にも戦慄しつつハナの姿を探す。

磯場に入り十分も過ぎたであろうか。不意に懐中電灯の光が白い塊を照らし出す。

くの字に倒れている。

ハナだ。

紀野は息が止まりそうになる。手にした電灯が大きく震えている。

「ハナ、おいハナ!」

しゃがみ込んで顔を照らすと苦しそうに目を閉じた真っ白な顔が浮かび上がる。

あああああ…

パニックに陥り、呻き声が叫び声に変わる。

そっと頬に手を添えるも、顔は氷のように冷たかった。

いやああああ!

ハナ、ハナ、ハナ、ハナぁーーー

顔を揺り動かすも、硬く閉じた目は開くことがなかった。

そ、そんな… なんで、どうして…

俺があんなことを言ったから? この数日シカトしてたから? 

違うんだよ、違うんだ!

目を開けてくれハナ、俺の話を聞いてくれハナ!

あああああああああ…

紀野の叫びは海風に乗って集落に届く。


「カツオノエボシだよ。」

闇に紛れて顔の見えない京の声がやけに落ち着いて響く。

「打ち上げられているのを、ハナが気付かずに足に絡めちゃったんだ。おいキノコ、両手でハナを抱き上げろ。」

数灯の懐中電灯に照らされたハナを紀野がそっと抱き上げる。

右足首に絡まっている触手を落ちていた枝で取り除き、

「そのままアタシの家に運び込め。シンタ、先に行って治療の準備。」

「分かった。」

信太が音もなく去っていく。

思ったよりも軽い。紀野はハナを抱えながらそう感じる。

「救急車を呼ばないと…」

水田香の声が、

「でもこの子、保険証ないでしょ?」

あっ

「大丈夫よ。私たちでなんとかするから。」

その落ち着き払った声に若干ホッとする。

それにしても、軽い。全身に全く力が入っていない様子だ、まさか?

「大丈夫。呼吸も脈もあるから。早く磯部の家に!」

香の声に深く頷き、紀野は足を早める。


「これは… アナフィラキシーだ。」

信太が呟くと、

「だね。前にも刺されたのかな?」

京が問うと、

「分からん。アドレナリンの筋肉注射が必要だ。ちょっと取ってくる。」

そう言うと信太は自宅に消えて行く。

紀野はハナの手を握りしめながら、

「アナフィラキシー反応と言うことは、以前にカツオノエボシに刺されたって言うことだよな、初めて刺されてこの反応はない、そう言うことだよな?」

京は頷き、

「でも前に刺されたなんて聞いてないんだよね。」

「確かに。だとすると、過去にヒプノトキシンに曝露されたことがあったのか?」

「どうでしょうか。ヒプノトキシンがアレルギーはんのうをうながしたかどうか分かりませんよ。でもたしかなことは。ハナちゃんの体にどくが入ったのははじめてではない、つまり…」

「以前から、毒に慣れている?」

「とかんがえるのが正しいかと。」

紀野と明は互いに目を顰めながら首を振る。

程なく信太が救急セットを携え戻ってくると、慣れた手つきでハナに注射針を差し込む。

「あとは気道の確保。もし呼吸が停止したら、即座に人工呼吸だ。出来るなキノコ?」

ゴクリと唾を飲み込みながら、深く頷く。フィールドワークの達人は救命処置はお手のものである。

「心停止したらすぐに教えろ。A E Dはウチにあるから。」

頷きながら、この人は絶対に普通の農家ではない、そう確信する紀野であった。


     *     *     *     *     *     *


お父さん お母さん

華花はお腹いっぱいだから、ご飯はいらないよ

お父さん、朝からちっとも食べてないじゃない

華花の分はいいから、食べてよ

本当だよ、お腹空いてないの

だからお父さん、私の分を食べてください

すると優しい目をしたお母さんが、

媽媽ママと一緒に食べようか

そう言ってお粥を口に含み、半分飲み込んでから私に口移してくれる

ああ、甘くて美味しい

お母さんの味、お母さんの愛

甘くて、とっても美味しいよ


「そろそろ意識が戻ってもよさそうだが。」

「もう三日経つよね、大丈夫かね?」

「呼吸、心拍に異常は無い。そのうち戻ると思う。」

紀野は握っているハナの手を更に強く握り、

「戻りますよね、大丈夫ですよね?」

信太が紀野の頭をグチャグチャにしつつ、

「信じろ。」

分かりました、そう言って頷く。


あれ 私の手を握っているの、誰だろう

お父さん? お母さん?

とっても温かい。とっても優しい。

いいかい、華花

なあに お父さん

その温かさを離してはいけないよ。

うん。分かった、お父さん。

その優しさを忘れてはダメよ。

うん、分かったよ、お母さん。


「おいキノコ。少しは寝ろ。アタシらが見ててやるから…」

「ダメだ! 俺のせいで… 俺なんかのせいでコイツは…」

京は半分呆れつつ、

「そっか。わーった。しっかり握っててやんなよ。」

返事をせずにギュッと力を込める。すると。

「ん? あれ? ハナ? ハナ!」

京がハナの顔を覗き込む。ハナのきつく閉じられた目がうっすらと…

紀野は疲れ切った目を大きく開き、

「おい、ハナ! 起きろ! いつまで寝てんだよ、起きろよ! ハナっ」

闭嘴吧うるせえな

「ハナっ ハナっ おい、ハナっ」

ゆっくりと目が開かれ、紀野の目を真っ直ぐに見つめた後、握られた左手に視線を移す。

「キモい んだよ まったく もう。」

紀野の歓喜の叫びが集落に木霊した。


     *     *     *     *     *     *


八月も中旬。恵比須集落にお盆の季節が到来する。


「それにしても紀野さん、すっかり変わっちゃったよね?」

「だろ。なんか生まれ変わったって感じ。ウケるー」

京の爆笑が恵比須漁港に響き渡る。百葉は干物にするアジの選別を手伝いながら、

「側から見たら仲の良い兄妹、って感じだよ。一体何があったの?」

「まあー、色々かな。」

「ふぅん。」

二人の後方に、人だかりが出来ている。皆漁港の漁師達だ。

(おい誰だあの子? やけに尊いぞ?)

(京のダチだろ。尊いな。)

(この世の女子とは思えねえ、尊過ぎる…)

京が不意に振り向き、

「どーよ。かわゆいだろう? しかもコイツ、処女だぜ!」

ちょっ 一瞬にして真っ赤になる百葉の前に、若手の漁師が四名正座し、

「「「「俺の嫁になってください!」」」」

と頭を下げる。それを見下しながら京が、

「でもコイツ、東大生だぜ、あの天下の東京大学っ」

若き四人の漁師は皆メガロドンを見る目となり、やがて

「そ、そんな…」

「あ、あの、灯台…」

「ちげーよ、東大だ…」

「無理だ。」

「だな。」

「さ、片付けして帰えるか。」

「網干しとくか。」

と蜘蛛の子を散らすが如く百葉の前から消え去って行く。そんな彼らの背に、

「おーい、お盆にヒナ帰ってくるぞぉー」

「「「「なんですと!」」」」

四人が秒速で京を囲み、

「い、いつ帰ってくるのだ?」

「迎えに、俺が迎えに行っても?」

「なんなら、俺が東京に迎えに…」

「告るぞ、今度こそ俺は告るっ!」

京はこの上なく意地悪な顔で、

「イッヒッヒ。シンタが、婚約指輪渡すらしーぞ、いひひひ。」

四人はそれぞれ人の声とは思えぬ呻き声を発しながら後退りし、やがて肩を落とし足を引き摺りながら漁協に消えていった。


「ヒナさんって、香さんの娘さんだよね?」

「そーそー。ももっちの二つ下かな。めっちゃ可愛いぞぉ。」

「そっか、それで信太さんいつもと全然違うんだ。あははっ」

京は繁々と百葉を眺めながら、

「ヒナといい、ももっちといい。なんで三十過ぎのオッサンがいいのかあたしゃ分からん…」

真剣な顔で首を捻る京に、

「うふふ。二十歳過ぎれば分かるかもだよ。それにしても、婚約かぁ、いいなあ。」

ポツリと呟くと、

「なんだよ、ももっちと千葉っちは婚約してないの? てか、付き合ってるの? てか、もうヤったんでしょ?」

「や、や、ヤってません! 付き合っていません!」

えええええ? 

「だって… 一緒に四年住んでて… えええええ? スッゲーお似合いだし、側から見てて好きあってるようにしか見えないし… あ。実はももっち性転換したとか?」

「してないよ、クロダイじゃないんだよ!」

京が大爆笑しながら転げ回っている横で。

ああ、そうなんだ。信太さん、婚約するんだ…

いーーーーーーなぁーーーーーーー

いつか龍也さん、私に……

「あっはっは、ももっちマジでウケるー、って、おーい、そっちあぶねー ぅわあーー」

京の絶叫が何故か上から聞こえる、あれ、あたし堤防から落ちてt――――――


そんなお盆前日。

信太の運転する黒のレクサスが砂利道を上がってくる。

助手席にはムッとした顔のアイドルみたいな女子が乗っている。

車が小畑家に停車すると、集落中からワラワラと皆が集まってくる。

「ヒナーーー お帰りーーー」

真っ先に京が駆け寄ると、

「京ちゃぁーーん 会いたかったよぉーーー」

真っ黒な美少女と真っ白なアイドルの抱擁に百葉は目を丸くする。なんて可愛い子、しかもお洒落でスタイル抜群で…

集落の人々にもみくちゃにされた後。

「そんで。この子が竹岡百葉、ももっち。どーよ、中々の上玉だろ?」

完璧なメーク。流行の最先端を突っ走っている感が半端ない。かなり気後れしつつ百葉が挨拶すると、

「ちょっとぉ、何このすごい原石は… ねえももっち、ちゃんとメークしたことある?」

うわ、この都会的な馴れ馴れしさ… 一歩引きながら百葉が首を振ると、いきなり手を引っ張られ、水田家に拉致されてしまう。


小一時間後。

夕食の宴の準備が着々と進んでいる最中。

「っしゃあー、完璧。ヒナ天才かも。」

満足気に呟きながら、ヒナに手を引かれながら百葉が皆の前に現れる。

時が、止まった。

その場にいる長老達が目を見開き口を開け、動かなくなる。

B B Qの準備をしていた信太はトングを足の甲の上に落とし血が噴き出したことに気づかなかった。

その横で採ってきたキノコの選別をしていた紀野は無意識の内にキノコを生のまま口に入れていた。

羊と明は走り回るのをやめ、あんぐりと口を開けその場で直立不動となる。

そして。

長老達と酒を啜っていた龍也は。

龍也は。

全身の血液が沸騰した気がした。脳みそが爆発した感を否めなかった。

なんだこの美し過ぎる美女は?

これまでの人生で最も美しいと思った女性、あの王神美を遥かに凌駕する美しさ!

化粧によりくっきりと浮かび上がったアイライン。色白な肌にピッタリの桃色のリップ。一眼見たら忘れられない美し過ぎる鼻梁。

まさに、神が地上にもたらした美の結晶。

皆が意識を取り戻す為に、焼いていた魚数匹が炭化せざるを得なかったものだ。


予期せぬ超絶美女の登場に、宴は大変な盛り上がりを見せたものだった。

長老達は目を細め、いつになく酒が進む。あまりの神々しさに紀野は真面に百葉を眺める事が出来なかった、そんな彼をハナがからかい、

「美し過ぎるは、眼に毒だよ。お前の頭から毒キノコが生えてるぞ。」

思わず頭を探ってしまう紀野だ。

そして龍也と言えば…

茫然自失、の一言に尽きる。羊がどれほど揶揄おうが返事も出来ず、初めて本物の芸能人を眺めるような憧憬に満ちた眼差しで一心に百葉を眺め続けるのだった。

その横で、

「シンタ、見てみなよ千葉っち。完全に逝っちゃってるよ。」

「ああ。こんなタツは見たことねえ。」

「きゃは。ヒナってばチョーナイスじゃね?」

「ああ。チヨーナイス、だ。」

龍也同様、唖然としている信太に軽く舌打ちしたヒナは、

「ねー千葉っち。ももっちと四年も同棲してるって、マジ?」

慶應義塾大学理工科二年。祐天寺在。アイドル並みの美貌とスタイルを誇り、秋の学園祭のミス最有力候補と噂されている。

「娘と、羊と一緒に。」

「ふぅん。で、いつ結婚すんの?」

口にしていた日本酒を吹き出しながら、

「ま、まだ、そ、そんな…」

ヒナはジロリと龍也を睨み、

「油断してると、あっという間に誰かに取られちゃうよ。見てごらんよ、そこらの女優タレントなんかよりずっといい女じゃん。」

龍也はゴクリと唾を飲み込みながら深く頷く。

「まあ、頑張りなよ。生暖かく応援してるからさぁ。きゃは。」

カクカク頷きながら、クイっと盃を飲み干す龍也であった。


翌日。

近くのお寺から住職が集落を訪れ、各戸を回り先祖を迎い入れる。滞りなく迎え入れの儀式は進み、水田家で軽い食事会が開かれる。

そんな中。

一人信太だけは緊張の面持ちを隠せずにブルブルと震えている。そう、今日この日。ヒナに正式にプロポーズすることを決めているのだ。

それを知っているのは京一人だけであり、朝から信太の様子に笑いが止まらない。

「で? いつ告るのさ?」

信太の体はビクリと動くも、言葉は中々出てこない。

「ヒナ、明日の朝早くに千葉っち達と帰っちゃうんだよぉ。今日中に決めないとぉー」

ヒッと信太が小さく悲鳴を上げる。

「なんならさぁ、ウチ貸してあげるから、ヒナ呼び出して、告んなよ。ね?」

疑心暗鬼な面持ちで京を睨む。

「大丈夫! 覗き見とかしねーから。二人きりにしたげるから。ね?」

皆の前で堂々とプロポーズできるメンタルを持ち合わせていない信太は、已む無く京の申し入れに頷くしか無かった。


「話って、何?」

知ってか知らずか。ヒナの態度はつっけんどんである。

既に全身滝汗の信太は、ポケットの指輪入れを握り締める。

今しかない、これが最初で最後のチャンスだ。絶対に逃してはならない瞬間だ。それでも信太の中のリトルチキンシンタが囁く…

(こんな若くて可愛い子がお前の指輪を受け取る訳ねえだろーが。こんなクソど田舎の農家に誰が好き好んで入るってんだよ。バーカバーカ。とっととそんな指輪、海にでも捨てちまえ!)

で、でも、俺は…

(大丈夫だって。スマホのマッチングアプリでよお、お前に合った中年ババア探せばいいんだって。それがお前の身の丈に合ってるって。な、悪いこと言わねえから、捨てちまえそんな安指輪!)

「ねえ、何なのよ。用事ないなら、出て行くから。」

そう言って立ち去りかけるヒナ。

「行くね。」

ヒナはクルリと踵を返し、玄関に向かってしまう。

待ってくれ、俺は…

「じゃあ、ね。」

玄関の引き戸に手を掛けるヒナ。

信太は心臓を引き摺り出された様な心地となる。待ってくれ、の一声も喉から出てこない。

引き戸は無情にも引かれ、ヒナは一度もこちらを振り向かずに出て行ってしまった。

馬鹿野郎!

信太は深く目を瞑る。涙が少し溢れ出す。

言えねえよ。渡せねえよ。俺なんかが、アイツに…

これで良かったんだ。アイツはもっと都会的なアイツに合った男と結ばれればいい…

俺なんて……


玄関の引き戸が乱暴に開かれる。

ハッとして見上げると、鬼の形相でヒナが仁王立ちしていた…

そしてツカツカと信太に近寄り、

「ん。」

と言って左手を差し出したのだ!


そのカラフルなネイルに彩られた左手を見つめ、ヒナとの思い出が走馬灯の様に信太の胸裏に甦ってくる。

生まれたばかりのヒナ。ビックリするほど可愛かったな。

よちよち歩きのヒナ。この頃から俺の背中に乗るのが大好きだった。

裏山を走り回るヒナ。コケて泣き出すたびに頭を撫でてやったもんだ。

退官して田舎に戻ると、中学生になっていたヒナ。帰ってきたことを泣いて喜んでくれたな。

高校生になったヒナ。一体どれくらい徹夜で勉強見てやったことだろう。

現役で大学に受かったヒナ。真っ先に俺の胸に飛び込んできたな。抱きしめた時危うく背骨を折っちまうところだったわ。

そして。

東京に引っ越す前日。

「シンタのことが好き。お願い、お嫁さんにしてください。」

涙目で震えながら呟くヒナ。そしてそれに答えることが出来なかった俺。

俺の手は血で汚れちまったから。そして、この村の掟があるから…

掟とは。

同じ集落の男女が婚姻するべからず。

数百年の歴史があるこの集落は、血が濃過ぎるのだ。遺伝子的な欠陥を持った子孫を残さない為に……

去年の年末。海神が、京の所のユートが水田家は四代前までしかこの集落に存在していないことを突き止め、血の濃過ぎる話は問題では無くなった。

俺の、薄汚れたこの手。何人も殺めてしまった、血塗られたこの腕でこの子を抱いていいのだろうか?

「詳しくは聞かないけど。でも、シンタは誰かのため、何かの為に手を汚したんだよね。そしてこれからはその腕でヒナを守ってくれるんだよね?」

今なら言える。その通りだ、と。これからはお前を守る為に、俺は生きていく、と。

差し出された左手をそっと握る。


ポケットから指輪入れを取り出し、その指輪をそっと薬指に通す。

「で。何か言うことがあるんじゃないの?」

今なら、言える!

「これからは、お前を守る為に、俺は生きて行く。」

ヒナをカッと睨みつけ、

「俺の、嫁になってくれ!」

信太の目を、それから指輪を一瞥し、ヒナは信太に背を向ける。

「バンクリ、最低でもティファニーが良かったんですけど。何これ、ブランド物じゃ ない じゃん ダッサ 恥ずか しくて 嵌められ ねえ し うう ううう ううーん うぇーーーん」

クルリと信太に向き直り、勢いよくしがみ付く。喜びの涙が信太の肩に吸い込まれていく。

あの日以来。そう、あの地獄の作戦決行日以来。信太の心が穏やかな光に包まれて行く。

生き残ってよかった。死ななくてよかった。

生きて帰ってこられて、本当によかった!

信太の瞳から幾つもの大粒の涙がこぼれ落ちていた。


ヒナは号泣しつつ、居間の写真立てに向かってピースサインを出した。

その写真立ての裏に隠されていたスマホを通じ、これまでのシーンの全てが鳥山家の六二型テレビに映し出されていた。

集まって固唾を飲んで見守っていた人々は、龍也と紀野を除く全員がもらい泣きにくれている。

龍也は思った。流石俺の元上司だ、と。俺もシンタさんを見習わなきゃ。君をいつまでもずっと守って生きたい。そう言いたい。来月の司法試験合格発表時には、必ず……

紀野は感じた。これが本物の、リアルの恋愛なんだ、と。今までは全く異性に興味を示さなかったが、正直信太とヒナの二人を見て、大いに感銘を受けていた。そして。俺も、こんな俺もいつかは彼らのように…

ふと隣で涙に暮れるハナを見下ろす。ハナがそれに気付き紀野を見上げる。瞳と瞳が交差する。ハナがそっと微笑むと何故か自分の心拍数と体温が急激に上昇するのを感じる。


     *     *     *     *     *     *


翌日。

あんな三流韓流ドラマ以下の告白シーンに未だ感動冷めやらぬ二人の乙女。


林華花。

彼女にとって男は対象若しくは非対象でしかなかった。

最近になってこの恵比須の地で水田家や鳥山家で観る様になった韓流ドラマの恋愛は、彼女にとってはあくまでフィクションであり、現実に存在するものとは毛ほども思っていなかった。

特殊部隊においても彼女の容姿が所謂オンナの武器とは認定されず、その方面の訓練は全く受けなかったし実戦でも使う発想は無かった。

先月、夜の磯場で思わぬ毒に倒れた時。意識が回復するとあの忌まわしいキノコ野郎が自分の手を握り締めていたのに愕然とした。

夢の中で感じていた手の温もりがよりによって奴の温もりだったとは…

だがその日以来。奴は生まれ変わったが如く生活している。七時前には起き出し、畑仕事を手伝い始めた。京ちゃんの漁業系の仕事も手伝い出した。食事に文句を垂れることは皆無となり、たまに頷きながら旨い旨いを連呼し出した。

上から目線でモノを言われなくなり、一日数回笑顔を向けられ焦るようになった。海での泳ぎの練習時に触られるのが苦では無くなった。

そして、昨日。

本物の恋愛を間近で見た。素直に感動した。そして自己投影してみた。

すると不思議な感覚に囚われるー奴のことを考えると胸が痛むのだ。それも打撃を受けたような痛みでなく、胸の奥でチリチリと火花が散っているような痛み。

この小さな痛みが、昨日のヒナの様な大火に燃え上がるのだろうか? もしそうなった時、自分はどうすれば良いのだろうか?

自問自答が続く中。

ふと、気づいたことがあった。それは、保護対象である紀野光治、上の命令により守らねばならない存在。それが、今日は…

命令に関係なく、守りたい存在…

「おいハナ、昼過ぎから夕立が来るぞ、畑は大丈夫か?」

顔が熱くなる。何なのだ、これは?

ハナは慌てて畑に駆け出すしかなかったものだ。


そしてもう一人、

竹岡百葉。

余りの感動で昨夜は一睡も出来なかった。

後ろを振り向くと幸せそうなヒナが羊と三浦半島の地質について語り合っている。その左手に光る指輪が神々しくて目を細めてしまう。

『これからは、お前を守る為に俺は生きて行く』

何という雄々しい言葉なのか!

一生に一度でも男性からこんな言葉をかけてもらう女性がこの世にどれだけいるだろう。

運転席の龍也をそっと眺める。

その浅黒い精悍な顔には、実はよくみると多数の切り傷がある。この人はどれだけの修羅場を潜ったのだろう。どれだけ死地に立たされたのだろう、この平和ボケした日本に於いて。

龍也は決して口に出さないし羊も知ってか知らいでか、過去の特殊部隊在籍時の話は全く想像も出来ない。だが、きっと我々一般人には想像もつかない紛争に身を投じたのだろう、そんな予感はする。

そんな彼を、私は守りたい。これ以上辛い思いを彼がしない様、私が彼を守って行きたい。その為には来月の司法試験合格発表で一発合格し、再来年には立派な弁護士とならねばならない。法と私の愛で、彼を守って行きたい。

後部座席の議論は益々白熱している、見た目は今風のギャルだが、この羊ちゃんと対等に議論出来るとは相当優秀な頭脳の持ち主に違いない。

いや。現役大学生と対等に議論出来る小四の羊ちゃんが普通でないのだ。この子も私が守りたい。見守りたい。この子が持っている能力を存分に発揮できる環境を整えてあげたい。この子の異能力を周りが恐れない環境に導いてあげたい。

結論。

私は、千葉龍也の妻となり、千葉羊の母親になりたい。

千葉百葉、になりたい。

千葉、百葉って……

どんだけの葉っぱに包まれ…

一人吹き出してしまうそんな竹岡百葉であった。


「あっざーす、千葉っち。羊ちゃん、今度チバニアン一緒に行こーねー。それとー、ももっちー、」

「えなあに?」

「まあ、頑張れ。以上。じゃーねぇー」

ドアをバタンと閉めヒナはアパートの階段を駆け登って行った。

「しかし、恐るべし恵比須。あれほどの逸材が育っていたとは… ふぅーむ地質学、か。悪くないかも知れないね。将来の選択肢の一つとして大事に育てて行くとするかな。」

「地質学かあ。かなり盛り上がってたね。楽しかった?」

「存分に。それにしても。ねえ父さん、ももっち。」

「なあに」「何だ」

「私立だか国立の中学行くと、明やヒナっちみたいな子が大勢いるのかいな?」

龍也と百葉は呻き声を立てる。二人とも公立育ちなので正確なことは公言出来ない。

「一度さ、塾のお試しに行ってみて、そこの講師に聞いてみては? それか、こないだの横山先輩、あの人は中学から私立だから、聞いてみたらどうかな?」

「え… あの松戸麗を気に入ったというツワモノに? ふぅむ、どうしたもんかね…」

一瞬、車が揺れた気がする。龍也をみると目が険しくなっている?

「ぜ、善は急げ、と言うじゃない。私ちょっと塾について調べてみるよ。それで一緒に行って聞いてみようよ!」

「そうですな。そろそろ将来のことを真剣に考えねばならぬ時期ですかねぇ。」

その言葉を最後まで聞かず、百葉はスマホの検索に集中していった。


するとちょっと検索しただけなのに、あるわあるわ…

日暮里駅周辺だけでも大手から個人塾まで、驚く程多くの塾が存在しているではないか。

帰宅後早速いくつかの塾に電話を掛けてみる。

百葉でも知っている大手の塾は、

「申し訳ありません。どのコースも既にいっぱいなのです。」

何と… まだ小四なのに?

「こちらでは、小一から既に満席状態ですね。」

マジかよ… どんだけ中受(中学受験)流行ってんだよ……

すかさず谷中台小学校ママ友ライングループに投げかけてみるとー

『遅すぎだよモモちゃん。大手はどこもいっぱいだよ。』

『個人塾なら空きあるかもだよ。オススメは〇〇と△△かなあ』

『□□も悪くないよ、ウチの上のお姉ちゃんが行ってたの。ただお値段がちょっと張るけれど』

『大手もさ、渋谷の本校だったら可能性アリかもよ。聞いてみる価値アリかと』

『いっそのこと家庭教師オンリーは? モモちゃんのお友達で誰かいないかな?』

何だか益々訳わからんくなってきたので、横山先輩に投げかけてみる。

『女子校の上位校、私立なら王陰、女子学園、豊島ヶ丘かな。国立なら、音の木坂、御茶ノ水、あと去年から共学になった、筑紫大駒場。』

筑紫大駒場。通称『築駒』。東大理三(医学部)合格率ナンバーワンの超進学校。男子校だったのが去年共学になったのがそう言えば話題になっていた。

築駒か、一体どんな授業をし、どんな生徒が集まるのだろうか。

「ふぅん、築駒ね。俺もちょっと調べておくよ。百葉ちゃん、ありがとな。」

「お願いします。私も色々当たってみますので。」

「塾代はさ、貯金切り崩せば何とかなるんじゃないかな。」

「そう、ですね… 大手だと年間百万円以上かかる様です。」

龍也は飲んでいたビールにむせかえり、

「そんな、に? まあ、いざとなったら国の教育資金ローンでも借りるかな。」

「私も! 早く弁護士になって、それで!」

龍也は再度吹き出し、

「あの事務所。そんなに儲かる仕事、していないのでは?」

「…そうなんですよ。聞いてください、こないだなんか、傷害の弁護を引き受けてくれと依頼されたら、相手は反社会勢力で。しかもー」


ふぅん。国立の中学校か。それなら親にそれ程負担かけないで済むかも。

仕方ないな、今度ウララーに聞いてみっか。多分内申点が必要になるのかもなぁ、ま、それはウララーに何とかさせよう。奴の弱みは死ぬほど握ってるし、貸しも死ぬほどあるし。

ああ、そー言えば希空が受験するって言ってたわ、明日にでも遊びに行って聞いてみっかな。

いやいやいや、そんな事より。

昨日のアレ、笑ったわぁー

あのヒグマがプルプル震えちゃって、泣きながら告って。どんだけヒナっちにベタ惚れなんだよ。

でも、まあ。うん。

奴は甲斐性があったわな。漢気があったのは認めざるを得ない。

ハアーーーーーーーーーーーーーーー

我が父に、奴の一欠片でもその勇気が有ればなぁ…

ほんの一押しでいいのに。

いい加減、リアル母親が欲しいんですけど。そんで、リアル弟と妹が欲しいんですけど。妹なら明みたいなのがいーなぁ。可愛くて賢くてちょっと残虐で。一緒に色んな悪戯出来て、楽しいだろうなぁ。

弟なら…… とびっきり可愛い子がいいかも。そんでいつも後ろ歩かせて、通りすがりの女子をキャーキャー言わせて。

早くしてくれないとさぁ、私母親の年齢になっちまうってーの。

今年中には決着つけてもらわないと。

幼馴染のオバはんも別に嫁いだし、ウララーもももっちの先輩にゾッコンだし。

今がちゃんすでしょ。今でしょ!

親の知らぬ間に、重大な決心をした娘なのであった。


     *     *     *     *     *     *


夏もやっとこさ終わりが近づく。

本当に今年の夏は暑かった、信じられぬ程に。

汗だくの紀野は恵比須を離れる日がこんなにすぐにやってきていることに驚愕している。

菌糸の培養は実に順調である。どうやら在来種よりも成長がやや早く、八月中にコンテナから取り出してビニールハウスに伏せ込みが出来そうな成長を見せている。

それを信太に伝えると、早速ビニールハウスの作成を始めてくれる。それをハナと手伝っていると。

「キノコ、来週には東京に戻るのかな?」

「そうだな。来週末には伏せ込みを終えて。その週明けには東京に…」

突如、紀野の心にある感情が湧き上がる。

帰りたくない。ここに居たい。

いやいや。早く院に戻り、教授の手伝いをしつつこの金芝の成分解析をし…

ここに居たい。

紀野は己に問う。それは如何に?

己に答えて曰く

ここに、ハナが居るから。

己の答えに呆然とし、思わず持っていたハンマーを落としてしまう。するとそのハンマーが変な方向に跳ね返り、紀野の脛に当たってしまう。

ぎゃあーー

脛を抑え転げまくる紀野に呆れつつも、ハナが肩を貸しながら治療の為に小畑の家に戻って行く。


ズボンの裾を上げて診てみると、血が滲んでおり意外に重傷であった。ハナが血を拭い氷を入れたビニール袋で患部を冷やし始める。

「ごめんな。ありがとう。」

紀野がボソッと呟くと、

「別に。」

と一言。そして互いに言葉を失う。

十五分も経ったであろうか。ハナはビニール袋を患部から外し、

「もう溶けてしまった。別のを持ってくる。」

と言ってキッチンに向かう。

紀野は大きく息を吐き出す。近かった、近すぎだった!

ハナの土臭い匂いが鼻腔に残ったままである。前までは嫌悪していた匂いだが、今では何よりも癒しの香りだ。

キッチンでハナは大きく息を吐き出す。近かった、近すぎだよぉ!

紀野の汗臭い匂いが脳に残ったままである。以前は殺意を感じる匂いだったが、いつからかかけがえのない大切な香りだ。

新しい氷袋を抱え、リビングに戻りながら壁にかけられたカレンダーを見る。

あと、八日。

同じ屋根の下で暮らせるのが、あと八日。

それ以降は、月イチ程度で栽培の具合を見に来るという。

栽培は来年の年明けには終了し、それ以降のことは何の指示も来ていない。ひょっとすると、それから別の任務に着くかもしれない、いやきっとそうなるだろう。

すると、あと何日間一緒にいられるのだろう。

この日以来、ハナの表情は曇りがちになっていく。


それに示し合わせるが如く。

紀野の表情、言動が徐々に沈んでいく。帰京まであと四日になった日など、京が心配になってマムシドリンクを渡しに来るほどである。

込み上げる吐き気を堪えながらマムシドリンクを飲み干し、大きな溜め息を吐くのを見て、

「なあ大丈夫か? 体の具合悪いんじゃねえか?」

紀野は首を振り、

「大丈夫だ。ちょっと、疲れた、かな。」

「そっか。キノコはずっと頑張ったからなぁ。私の手伝いも良くやってくれたし。ユートにその話したらさ、キノコ殺す、キノコ刈りダァって。マジウケるー」

インド洋でマグロ漁に勤しんでいる京のフィアンセが洋上で怒り狂う様を想像し、ちょっと吹き出す。ユートは水田香や鳥山琴音の写メを見る限り、韓流スターのようなイケメンだ。

京と並んだ写真は涙が出るほどお似合いである。さぞや寂しいことだろう、幾度となく紀野は京に同情したものだ。

だが今は、京が羨ましくて仕方ない。

あと数ヶ月でユートは帰ってくるのだ。京の元に帰ってくるのだ。

翻って俺は…

あと数日でこの地から離れ、それからは数回程度しか来なくなり、やがて…

ハナもいつまでもここに居ることはないだろう。金芝の栽培の目処が立ち、別の畑で大々的に栽培され始めたら、御徒町飯店に戻るのだろう。

ん?

御徒町飯店。

そうか、彼女はこの仕事を終えたら、あの店に戻るのか?

それならば、来年の春以降も、俺があの店に行けばハナに逢える!

恐るべき独善的思考が紀野の憂鬱な表情を明るくする。そうだ、東京に戻ったらあの店に真っ先に行こう、そしてあの派手なババアに聞いてみよう。

何ならあの店でアルバイトをするのも悪くない、そうすれば春以降はずっとハナと一緒に仕事が出来る!

マムシドリンクの恐るべき効果に戦慄するものは… 誰もいなかった。


ビニールハウスは無事に完成した。コンテナの菌糸は十分にハウス栽培に耐え得る状態に育っており、八月最後の週末に集落の人総動員で無事に伏せ込みを終えることができた。

約ひと月半の紀野の滞在が明日で終わろうとしている。

その夜はお盆前夜のような盛り上がりを見せた、紀野は信太と京に浴びる程日本酒を飲まされる。宴がお開きになる頃には、すっかり人事不省となり、二人に担がれて小畑家に運ばれた。

夜中。

アルコールの覚醒作用により紀野は目が覚める。隣には信太が大いびきをかいている。激しい尿意を覚え厠に立つ。三分ほど放尿が続き、最後の一雫を不覚にも手にかけてしまう。

よろけながら寝所に戻る途中、小さな人影が紀野にスッと近づく。

「おい、大丈夫か? 気持ち悪くないのか?」

紀野の余りの酒臭さに鼻をつまみながらハナが心配そうに尋ねる。

「ああ。大丈夫、だと思う。」

と言いつつよろけてしまう紀野に呆れつつ。

「二日酔いによく効く薬をやろう。こっちに来い。」

ハナが自分の寝所に入って行くのを追って、紀野はそう言えば初めてハナの四畳半の部屋に入った。部屋は中華料理の香辛料の匂いに満たされており、不思議と紀野の心は落ち着く。

だが、今までハナが横たわっていたであろう布団を見ると、心の落ち着きは彼方へ去っていった。

「座れよ、そこに。」

豆電球に照らされたハナの背中がやけに艶かしく、紀野はゴクリと唾を飲み込みつつ布団の脇に腰掛ける。やがてハナが小物入れから小さな紙の包みを取り出し、

「これだ、飲め。」

と言いつつペットボトルの水を放り投げてきた。

包みを開くと乾燥した粉末があり、それを口に入れ渡された水で一気に流し込む。

「これは野草かな?」

「そう。葛の花を乾燥させた。葛花だ。」

葛か。確か根っ子は乾燥させると葛根湯の原料の筈だ。それならきっとよく効くだr――

あれ。このペットボトル、口が開いていたぞ、それ即ち…

「お前の飲みかけじゃねえかよ…」

人生初の間接チューに大混乱状態となる。

「別にいいじゃん。」

「よく、ねえよ。あのな、日本ではこういうのは、恋人同士しかしないんだよ。」

「ふぅーん。」

布団の上にちょこんと座ってじっと紀野を見つめ続けるハナ。背中に熱い汗が流れ落ちるのを感じた紀野はハナから目を逸らし、ふとカーテンが掛かっていない窓を見ると、月明かりが入ってきているのを見つける。

ハナもそれに気付き、そっと立ち上がり豆電球を消すと、部屋の中は月明かりで満たされる。

その幻想的な光を求め、紀野が窓辺に寄ると、ハナもその横でそっと満月を見上げている。

目が眩む程の月から隣のハナに目を移す。月明かりに照らされ神々しく輝いているハナの顔。それは紀野が見たこれまでで最も美しい女性の顔である。

ふと大学の大先輩の言葉を思い出し、さりげなく口にしてみる。

「月が綺麗だ。」

言ってから急に心臓の活動が活性化し始め全身に発汗作用が生じ出す。

夏目漱石を知るはずもないハナは月を見ながら、

「ああ、綺麗だ。」

と呟いた。

紀野はフッと笑いながら、

「まさか、な?」

「いや。本当だ。」

それから二人は月が裏山に消えていくまで無言で眺め続けた。


     *     *     *     *     *     *


九月。

新学期の始まりである。

夏の間に歳上の女性に身も心も蹂躙されげっそりしながらも満たされた表情の横山が、久しぶりに会った紀野を一目見て愕然とする。

顔も腕も真っ黒だ。体付きが夏前とはまるで違う、これが同一人物とは思えぬ変貌に呆気に取られていると、

「やあ横山。相談があるのだが。」

「お、おお、久しぶり。で?」

「俺、散髪したいのだが。どんな髪型が良いと思う?」

持っていた鞄を自由落下させた後、

「ソフトモヒカン…」

と思わず口ずさんでしまった。

「ソフトモヒカン、か。分かった、ありがとう。」

「おいちょっと待て、一体どうしたんだよ、田舎の親戚の所で何があったんだ?」

「…話を、聞いてくれるのか?」

「も、勿論だ。こ、今夜、飲みに行くか?」

「ふぅむ。今夜は特に用事が無いな。よし、旨い中華でも食べに行くか?」

「お、おお。」

「では、五時に安田講堂前で。」

「お、おお…」

一体奴に何が… 立ち尽くす横山なのである。


上野のカットハウスで横山は刮目相待した。

あの紀野が、超絶サッパリした短髪になったのだ。

下膨れだった顔は一夏で研ぎ澄まされた頬が目立つ爽やかな浅黒い小顔に変化し、それに短髪が驚くほど似合ってしまっている。

これで今風の眼鏡を合わせたら、通りすがりの女子の六割は振り向くかも知れない。更に今風のファッションに身を固めれば、八割は振り向くのは間違いないであろう。

紀野に連れられ入った中華料理店は本格中華が楽しめそうな雰囲気であった。

「アンタ、誰よ? まさか、キノコ氏じゃああるまいな?」

蛍光紫のワンピースを着た店主らしき小太りの中年女性が黒トリュフを見る様な目で驚愕している。

「やあ女将。久しぶりだね。生二つ頼むよ。」

「ああ、生二つだね、ちょい待ち…」

女将の後ろ姿を眺めつつ、

「で。何があったんだい?」

「実はな。俺に、惚れた女が出来たかも知れぬ。いや、出来たに違いなし。」

なーんーだーとぉーーーー

横山の怒声が、いや叫び声が御徒町中に響き渡る。


「な、成る程。そしてその子がバイトしていたのがこの店、なのか。ふぅーむ… それにしても、あの『キノコくん』さんが、まさかホモサピエンスを… 信じられぬ。」

「ああ。我も未だ信じられぬ。」

横山はクスリと笑いながら、

「これで俺たち、二人とも彼女持ちって訳か。ヒュー、リア充じゃん!」

「俺たち、とは貴様、あの教諭と?」

「ああ。麗さんとこの夏ずっと一緒にいたわ。もう、ほぼ同棲状態? って、お前もそうか?」

「いえいえ。我らは一つ屋根の下に住んだだけで、それに別に付き合いをしている訳では…」

「え? でも、一回くらいはヤったろ?」

紀野は真っ赤な顔で、

「まさか。」

「いやいや… でもキスくらいは?」

「まさかまさかの異人坂、だ。」

どうしたキノコくん… その東大生もしくは根津住民しか理解し得ぬ地元ネタなぞ…

「そういう貴様は、あの妖艶な歳上女性と毎晩のように快楽に耽っていたのかな?」

「そーなんだよ、夜だけでなく朝も昼も… って、こっちはどーでもいいって。そっか、じゃあ告っただけでまだ付き合ってねえのか。」

「その理解で良いかと。」

「ふぅむ。で、その親戚の田舎にはこれからも通うのか?」

「月イチ程にな。」

「そうか。それならな、行く度にちゃんと土産を持って行くんだぜ。」

紀野は徐にスマホを取り出し、

「ほう。土産物、と。因みにどういった品が良いのか?」

「そうだな、コスメとかアクセとか、あっちに無いものがいいぞ。」

「濾す目? 悪世?」

「んーーー、今度百葉ちゃんにでも相談してみろよ。」

「竹岡女史に、か。成る程、では早速…」


運命の司法試験の合格発表まであと数日。去年受けた司法試験予備試験の発表の時よりも緊張の度合いが全く違う。

去年の予備試験はダメ元で受けたので、勿論十全な準備はしていたが、合格したらラッキーくらいな感じであった。

でも今年の本試験は違う。今年必ず合格したい、そして一年間の司法修習過程を経たのちしっかりと働きたい。これ以上龍也さんの迷惑になりたくない、寧ろ私が二人を支えて行きたい。

百葉は気が気でない状態でキッチンテーブルの上で大学の授業の課題をこなしている。

その横で、羊は個人塾で受け取ったプリントを秒速でこなしている。

「不惜塾はどう? 楽しい?」

「まあその名の通り、あっつーいご指導を賜っていますとも。」

「そっか。出し惜しみせず、がモットーだっけ?」

「そんな感じ。」

二週間ほど前。ママ友の紹介で日暮里駅近くにある『不惜塾』という個人塾を訪ね、色々と話を聞いてきた。その教育方針に百葉は感銘を受け、そして羊も満更では無さそうなので、龍也に入塾の相談をすると、翌日の昼休みに、

「いいと思う。口座から入塾費用を引き出してくれないかな。」

以来、月、水、金の週三日、羊は塾に通い出した。

『勉強はこちらでみっちりと教えますので、お姉さんは息抜き、気晴らしの方をよろしくお願いします。』

朴念仁っぽい中年の塾頭が姉と勘違いしながら示唆するのを思い出し、

「そうだ、何か冷たいものでも飲まない? お腹は空いてない?」

「大丈夫。」

凄まじい集中力だ。私も頑張らなきゃ、そう思い机に向かおうとした時、スマホが鳴動する。


「ハナガ喜ビサウナ贈リ物ヤ如何ニ?」

余りの衝撃にスマホを卓上に滑り落としてしまう。

あの紀野さんが、ハナちゃんに贈り物? 嘘でしょ、マジで?

何故か嬉しくなり、即返しようとするも… 普通の十代の女子が喜びそうな品をイマイチ把握していない百葉は急ぎヒナにメッセージを入れる。

五分後、かつてない程の長文が送られてくる。熟読し更に読み返し、幾つか検索を重ね、慎重に紀野に返信を認める。

三十秒後に返信が来る。それを読んでいると、

「ももっち。勉強中のスマホ禁止ね。電源切ってリビングに置いといで。」

「え、ええーー?」

なんで小学生にこんなうるさい母親みたいなことを言われ…

思わず吹き出しながら、スマホの電源を切りリビングのテーブルに置く百葉なのである。


『今晩は、お元気そうで何よりです。ハナさんは農作業が多いので手荒れが気になるんじゃないかな。なので、お手頃なハンドクリームを幾つか紹介しますので参考にしてくださいね。』

「おい横山。女子は本当にこんなグリセリンや尿素化合物を喜ぶのか?」

感謝の返信を認めつつ横山に問いかける。

横山は失笑しつつ、

「ああ。俺たちには理解できない生き物なんだよ。」

「そう、なのか。どれどれ、ふむふむ。このベタつかずすべすべ手肌に保つ、のが良いのだろうか。街のドラッグストアで入手可能なり、か。よし、明日にでもドラッグストアに行ってみるか。」

「なあ、その子の写真とかないのか?」

そう言えば、ハナは異様に写真を拒んでいた気がする。中国の田舎から来たから、写真を撮られると魂まで取られると育てられたのかも知れないな。

「アホか。そんな訳ねえだろ、ウケるわー」

そうだ、この店の女将なら。

「いいや。持ってないよ。写真撮るね、命が縮むね。だから中国じゃ誰も撮らないね。」

「否! コロナ前の日本には、自撮り棒を掲げた中国人が闊歩していたではないか!」

「あれバレたかいな。仕方ないね、店のみんなで撮った写真、見せるよ、その代わりお酒もっと頼むことよ!」

随分商売上手な女将さんだ、と横山は微笑みつつ、女将のスマホの写真を見せてもらう。

ふむ。

地味だけど、顔は小さいし目鼻立ちもそこそこじゃん。髪型変えてメガネ外せば、結構可愛い感じになるのでは?

目の前でデレている紀野に案外お似合いなのかも知れない。

不思議と横山の幸せホルモンが上昇し、女将に出された中国酒を思わずラッパ飲みしてしまう。


ピロピロピロ

横山のスマホが鳴動する。画面にはあの人からのメッセージが。

『ご主人様。今平山の若い衆と浅草で飲み始めました。何時に合流出来そうですか?』

ニヤリと笑った横山がふと思い立つ。

そうだ、面識あるし。

「この後、彼女とその仲間達と浅草で飲むんだけど、一緒に来ないか?」

「あのアマゾネスとか? 遠慮しておこう。」

「ハナさんとの今後のことを相談してくれるぞ、きっと。」

「女将! お会計を。」

横山は笑いながらボトルの残りを一気に飲み干した。


「いぃか、キノコ。ヤれ。押し倒せ。ぶち刺せ。女子はそれを待ってんだ!」

「ほ、本当ですか? ハナはそれを待っているのでしょうか?」

「ああ間違えなし! キノコのきのこを涎垂らしながら待ってんだよ。分かったらとっとと突っ込んでこい! 何なら今すぐ!」

紀野はこの妖艶な美女の言葉に疑念を抱き、指定暴力団台東一家平山組の若い衆に視線を流すと、金髪の男と顔に傷のある男が一斉に

「いやいやいや。」

「それはないっすよ。」

とハッキリ否定したものだから麗は二人の頬に拳を打ち込み、

「そーゆーもんなんだ、女子ってぇのわ。てめーら知った口きいてっと、蹴り殺すぞ。」

「「すんません」」

紀野はその場で凍り付き、この人に蹴られたら死を覚悟せねばなるまい、と恐怖しつつも是非次回のフィールドワークには用心棒として加わってもらいたい、と切に願っていた。

見るからに反社会勢力の二人は頬を摩りつつ横山の横に移動し、

「お前… よくこんなオンナを…」

「漢だな、お前。気に入ったぜ。」

口元から垂れる血を拭きながら横山に感心していると、

「人前では男前ですけど、二人きりだと中々可愛いんですよ。」

意表をつかれた二人は唖然とする。

「それに。メッチャ献身的なんですよ、ああ見えて。」

まさか、そんな筈が… ん? それって… まさか夜のお話デスカ?

「俺のお願いは全部叶えてくれるんです。因みに、今。」

ゴクリと唾を飲み込む二人。

「彼女、履いてませんよ。上も下も。」

二人の目玉が飛び出た。なんだと… 死ぬ気で目を凝らすと、あああああ… 確かに、あるべきでないポッチが微かに浮かんでいるではないか!

この優男、まさか…

「これ、なんだと思います?」

優男がそっと取り出したスイッチ状の物体に二人は凍り付く。優男が冷たい笑みを浮かべ、そのスイッチを押すと……

…………!!!

#$%&+<>?!

この夜以降、浅草界隈で横山巽の名は『師匠』として末長く崇められることになる。


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