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用心棒との戦い

 ヴェラは降りていた。アルフが頭上で鉄球を振り回す音だけが聴こえる。

 村の男達は、それだけで圧倒され、向かって来る勇気を挫かれた。

 指名手配は行き届いていた。ならば、一つ疑問がある。あの神官の男は気付かなかったのだろうか。いや、と、アルフは思う。あの神官は知っていたはずだ。秘術は身体の怪我や変調を治すものに限られる。たった一人でアルフに挑む無謀さを悟ったのだろうか。だとすれば、王都から応援が来るはずだ。騎兵の脚ならもうすぐに着いてもおかしくはないだろう。

 アルフは、槍や剣を慣れぬかたちで持ち、防具らしい防具を一切纏わない村人をどうすべきか逡巡していた。

「靴が欲しい。それさえ買えば村を出る」

 アルフが言うと、村の男達は顔を見合わせるが、すぐに睨みを利かせる。

「君達が勇敢なのは分かった。それだけで称賛されるだろう。さぁ、靴を買わせてくれ」

 だが、アルフにも見えていた。壁に貼られた羊皮紙に、アルフに付けられた法外な値段が。

「金などに惑わされるな。命は一つしかない。俺も命が惜しい。手加減はできぬぞ」

 村の男達は再度顔を見合わせる。

「ここは先生の出る幕だろう」

「そうだ、先生を呼んで来い!」

 村の男が口々に言った時だった。一つの足音が聴こえた。

 酒瓶を呷り、大きくゲップをした。それはアルフに勝るとも劣らない偉丈夫で、刃の厚い手斧をもう片腕に握っていた。

「俺が七でお前達が三それで良いんだな?」

 男は言った。

「先生! 五分同士の山分けだったはずじゃないですか!」

 村の男らが声を上げると、男は大笑いした。

「よく覚えていたな。それじゃあ、破壊の傭兵、一勝負と行こうか」

 男は歩み出て来て斧を一度縦に回転させた。その風を切る鋭い音を聴いただけで、アルフには並々ならぬ敵だと分かった。

 灰色の髪に無精髭、目は楽しんでいるようだが、殺気を感じた。

 刹那、男は飛び出した。

 アルフは鉄球を真正面に飛ばした。男は避けるかと思いきや、斧を頭上から振り下ろし、鉄球と打ち合った。戦場以来、久々に豪放な鉄の音色が木霊した。アルフは鎖を素早く戻し、横薙ぎに振るう。

 村の男達が慌てて距離を取り、男はそれも斧で弾き返した。

 アルフの鉄球を返せる膂力に武器、やはりこれは只者ではない。

 男は笑い飛ばすと、一気に距離を縮めて来た。

 アルフは鎖を戻す。

 眼前で両手で握った鎖と斧の刃が激突し、擦れ合い、火花を散らした。

 男の荒々しい顔が良く見える。大小の古傷があり風雨に耐え続けた岩のような顔をしている。

「お前と同業者のフカーだ。よろしくな、破壊の傭兵!」

 男が再度、斧を振り上げた時、アルフは鉄球の真下の鎖を掴んで打った。鉄球と斧、力と力がぶつかり合う。相手の視界を塞いだ。アルフは素早く相手の脛に蹴りを入れる。だが、男はびくともしない。

「どうした、破壊の傭兵。門しか相手に出来ないのか?」

 その言葉をアルフは聴き流した。良く陰で言われることだ。

 ならば。アルフは久々に本気を見せることにした。

「おおおおおっ!」

 咆哮を上げて、相手を鉄球で相手を押し返し、再び足払いを掛ける。相手は飛んで避けたが、アルフがそこで、鉄球を振り回したため、慌てて距離を取った。

 鎖を操り鉄球を男目掛けて振り下ろす。

「こういう手合いを相手にするは初めてだ。楽しませてくれよ」

 男はアルフ目掛けて再度、己の間合いにせんと猛然と駆けて来た。アルフはそこで渾身の膂力で鉄球を戻した。そして大きく横から振った。鎖が男に絡みつこうとし、相手の足を止める。アルフはそのまま、雷神の裁きの如く鉄球を振り下ろし続けた。

 落雷が落ちたと言わんばかりに鉄球が次々大地を穿ち音を上げる。男はもう笑ってはいなかった。アルフは次々男へ鉄球を落とすが、男はそれを避け続けた。

 そしてアルフはここぞとばかりに、鎖で足払いした。男は器用に避ける。しかし、相手は半端な距離に誘導されていた。アルフは鎖をそのまま宙に浮かせ、横に払った。

 例えるなら鉄球を蛇の頭とし、蛇の身体、鎖が男の身体をグルグルと縛り上げた。

 村人達が息を呑んだ。

「このまま縛り上げて貴様の全身の骨をバラバラにするか?」

 すると男は愉快そうに笑った。

「負けは認めん。出来るというならバラバラにするが良いさ。俺は意地でも抜け出すだけだ。おおおおおおっ!」

 男は拘束された両腕に力を入れ始めた。アルフは驚いた。盛り上がった腕の筋肉が鎖を軋ませている。久々に焦り、慌てて鎖を思いきり縦に振るった。

 縛りがキツくなる。だが、男は力を入れるのを止めない。鎖が音を上げ続けている。

 こうなれば!

 アルフは全身を使い鎖を薙いだ。

 男は錐揉み状に回転し遠くへ飛んで行ってしまった。

「先生!」

 村人達が明後日の方角へ飛んで行く影に向かって叫んだ。

「靴を売ってくれ」

 アルフが言うと、村人達はそっと離れ始めた。

「く、靴だ!」

 一人が言い、旅道具の商いをしていると思われる男が恐々した様子で現れ、ブーツを何足か持って来た。

「彼女の足の大きさに合う物をくれ」

 アルフは金貨を五枚、相手に向かって放り投げた。

「今すぐに!」

 靴は見つかった。ヴェラの綺麗な姿には不似合いな皮のブーツだ。

「あなたにしては危なかったわね」

 村を後にすると、ヴェラが言った。

「ああ。只者では無かった」

 フカー。そう名乗った。奴は当然無事だろう。今度会う時は戦場だろうか。

 ひとまず後は国境を目指すだけだ。昼を半ば以上過ぎた陽光を背に野宿の場所を目の端で探しながらアルフとヴェラは歩み始めたのであった。

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