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ヴェラの告白

 追っ手は何人もやって来る。文字通り追いかけて来る者もいれば、対抗側から現れる者もいた。アルフは鉄球でそれら難無く片付けた。

「私もお手伝いできるわよ」

 民家から拝借してきた年代物の両手持ちの剣はヴェラの腰に提げられている。外套を纏っているため他人からおそらくは見えない。

「良いんだ、君の出る幕じゃない」

 アルフはそう言うと野宿場所を探すことを提案した。



 2



 冬の夜は当然寒い。焚火で暖を取りながら身をくっつけて温め合っていた。鎧は脱いでいる。まだまだ本格的な寒さでは無い。それだけが救いだ。しかし、アルフの重たい足取りでは、国境まで辿り着くまでどれだけ掛かるか分からなかった。

 ヴェラがアルフの肩に寄りかかった。

「私はもしかすれば、あなたに相応しい女では無いかもしれない」

 彼女が突然そう言ったのでアルフは驚いた。

「そんなことは」

 と言い掛けると、ヴェラがアルフの口に人差し指を当てた。

「聴いてくれる?」

 ヴェラはいつだって真面目だ。アルフはヴェラのことを好いている。それも事実だ。だからこそ、彼女の話を聴き、受け入れなければならない。アルフは頷いた。

「ありがとう」

 ヴェラは目を瞑った。

「私は親に売られた奴隷だった」

 アルフは再び驚いたが黙っていた。

「奴隷として国に奉仕した。売られた大富豪に色々なことを強要された。自由なんて無かった。そんな時、戦争が起きて、その家から運良く逃げ出した。そう運が良かった。水も食料も持たず、見知らぬ街道を何日も歩き続けた。だけど、やがてそれも尽きて、私は道の端でうずくまり、命が果てるのを待つ身となった」

「そんな時、私を拾ってくれたのが慈愛の神に仕える神官の一団だった。私はそこで慈愛の神の尼僧となることを決意した。初めは人々のために祈ることに抵抗を感じた。誰も私を助けてくれなかったから。でも、ある日、上の人から剣を渡されたの。私には迷いがある。その迷いを断ち切って答えを見付けなさいって」

「最初は無様な形だったけど私は剣を振るった。自分を鍛えるだけで給与が発生するのだもの、こんな良いことは無い。他の人達に手解きされながら剣を振った。私を縛り付けるクビキを断つために」

 ヴェラはそう言うと、アルフを見た。

「君を縛り付けるものは、自分を助けてくれる人なんていなかったということだろう」

 アルフの言葉にヴェラは頷いた。

「君はクビキを断とうと我武者羅に足掻いている最中だ。だが、誰も助けてくれなかったわけでは無いと思う。君は言葉に言い表せないほど酷い仕打ちを受けて来たが慈愛の神が君を見捨てなかった。そして俺は君を愛している。これでは不足なのか?」

「分からない」

 ヴェラはまるで自分に言い聞かせているみたいだ。自分を縛るものはこんな簡単なことで解ける程では無いと。

「その後はあの国王の妃に抜擢させられて、それでも、子供が産めないから、まるで飾りのような王妃だった。剣を振ることはできなかったけど、慈愛の神に祈りを捧げ続けた。そうしたら、ある日から、莫大な功績を上げる一人の傭兵と出会った。頭を垂れ。褒賞を受け取る姿を何度も見たけど、あなたが最初に出会った時に、私に一目惚れしたのを感じた。あの老王の側から離れたい。形だけの王妃なんて辞めたい。私はあなたがいつか私を迎えに来てくれる日を待っていた」

 アルフはヴェラを抱き締めた。

「そうだ、俺は君を迎えに来た。今はあの老王の魔の手から逃げ出すことだけを考えよう」

「ええ、アルフ」

 ヴェラは頷き、アルフの首に唇を当てた。

「この先、きっと良い人達と出会える。それで君のクビキが断たれることを願っている」

「ありがとう、アルフ」

 月光が二人を見下ろしている。アルフとヴェラは引かれるように共に月を見上げ、無言の祈りを捧げたのであった。

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