プロローグ
「お前に第二王女様との縁談が来た」
突如として言われた一言。
私はその言葉を飲み込めずにいた。
「父上。それは、私が第二王女の伴侶となるということですか?」
「そうだ」
ますます訳が分からない。私は首を傾げた。
私の家はスティール公爵家で、国に3つ存在する公爵家、いわゆる「御三家」のうちの一つだ。
学術に長けたメリッド家、芸術に長けたグレイル家、そして武術に長けたスティール家。
メリッド家の人間には「体を動かすことしか能がない」とうちの家柄を馬鹿にされたり、逆にグレイル家は「お堅い連中だ」といってメリッド家を目の敵にしていたりと、御三家の中は然程いいものでもない。
代々王族に嫁ぐのはその3家の人間から選ばれているのも、この三家の仲の悪い原因の一つだ。選ばれるのも競争のうちだからである。
当然、私も王族の一員となる教育は受けてきている。だが、そこは今問題ではない。
「うちには兄上もいらっしゃるでしょう。それなのに、何故私なのです?」
「それがな、第二王女様がお前を見染められたのだ」
私はマジマジと父上の顔を見た。
父上の顔には苦悩がありありと浮かんでいる。
王族の人から見染められるのは名誉なことであるし、なにより嬉しい。本来であれば祝うべきことだが、今この場は微妙な空気が漂っている。
まるで、この形は想定していなかったというように。
私は、改めて事実確認をすべく、一言告げた。
「……私、女なのですが」