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二幕

「して執事さんや。お相手の方はどんな方かしら」

 執事がどこからか取り出した薄いファイルのペ-ジを捲る、

「お相手の方は…東の国の勇者様という方ですね。十六歳ということで」

「勇者君かぁ、十六…わっか。これはオネショタのかほりがするわぁ、グ腐腐…じゅるり」

「魔王様、よだれが」

「おっと、いけない私としたことが」

「あなたさまだからこその間違いでは?」

「なによう、私だからこそよだれを垂らすって?失礼ね!」

「人はそうやすやすとよだれを垂らすものではないと思いますが…」

「あなたの寝顔を全世界に晒してやろうかしら…」

「はぁ…。不毛なやりとりはやんめにして、そろそろお離しくださいませんか」

 執事は辟易といった様子で溜め息を破棄、私を見下ろす。

「何をなさってるのですか」

「何って、見てわからない?」

「私の足にしがみついていらっしゃいますね」

「わかってるじゃない」

「ではどうして私の足にしがみついていらっしゃるのですか」

「そんなの決まってるじゃない。土下座してダメなら足にしがみつくでしょう?」

「どうしてそこで何を言ってるのみたいな顔してるのか私には不思議でなりません、そしてすがり付かれたからといってお見合いできるとお思いですか?」

「甘いわね、私はまだ変身をふたつ残しているわ」

「手段を変身と言われましても、これ以上どのような醜態を晒すおつもりですか」

「泣くわよ。泣いてすがりつくわよ」

「…おやめください、本気でお願いします。土下座だげでも為政者、いえ、人としてどうかと思うのに、それ以上の醜態を晒すのは」

 そう言った執事の顔がちょっと泣きそうになってる--気がする。

 私だからこそわかる、というか私にしかわからない微妙な表情の変化。

 どんだけ嫌なのよ。

「よかったわ、最後の手段を使わずに済みそうで」

「ええ、本当に。土下座された段階で職を自走かと思いましたが」

「またまたあ、そんなこと言って私のこと大好きなくせに」

「足にしがみつかれた時にはこんなのが国のトップでいいのかと不安にもなりました」

 スル-。そのうえにもっと辛辣ぅ!

「なによう、人に頼むのなら相応の態度ってものが必要でしょう?」

「それはわかりますが、ご自身の立場というものを…」

「私は型破りな女なのよう。偉いからって頭を下げなくていい理由にはならないし、なんなら偉い人が頭を下げるってことは相応の価値があるわけでしょう?なにより、だからこう、なんていう型を全て取っ払っていきたいのよね」

「体操な言い分ですが、見合いやりたさに泣いて部下の足にしがみつこうとしてた方の言い分ですからね…。これで見合いに失敗しようものなら全て水の泡」

「あ-あ-あ-聞こえな-い!」

 やる前から不吉なこと言わないでよ!

「…はあ。さて、お見合いのお相手ですが…」

 執事は苦々しい表情で溜め息を漏らす。美形なだけにその姿が絵になるのがちょっと癪にさわる。というかいきなり話を始めないでほしい。でもここで文句を言うとまた話が脱線するので、我慢。


「改めましてお相手は東の国のとある農村出身の勇者様。歳は十六。背丈は低いながらも文武共に村一番の方だそうです」

 執事はどこからか取り出した書類をつらつらと読み上げる。ほうほう。


「十六?わっか!犯罪じゃないの!オネショタ?非合法オネショタなの!?」


 ジロリと執事の切れ長な目で睨み付けられる。なによう、ちょっと私の中のお姉さんがついぞ我慢できず溢れ出しちゃっただけじゃない、なにもにらまなくても。


「ごめんなさい、続けて」

「十六…といいましたが、これではまるで十二、三の少年ですね」

 そういった執事の手にはまたしてもどこから取り出したのか、先程の書類よりもさらに小さな紙を一枚。

 どうやら写真らしい。すかさず覗き込む。

「え、十六!?これで!?ちっちゃ!?まじでショタなんですけど!?」


 写真にはのどかな農村や平凡な一軒家を背にした一家の写真。

 両隣には黒髪が特徴的なえらく美形な男女に挟まれたこれまた美形な小柄な少年。全員が若く見えるが、少年はとりわけ若く…というか、むしろ幼い。


「東の国の人種は若く見えるのが特徴らしいですが、彼に関しては発育不良だそうですよ」

「それでも村一番の身体能力なんでしょう?はあ、凄いわねぇ。これは本当にオネショタ待ったなしね!」

「はあ、そうですね」

「どうしたのよ、えらく適当な返事じゃないの」

「はあ、まあなんでもいいのでとっとと支度なさってください。勇者様がお待ちですよ」

「え、何よ、本当にえらく適当というか、なんかなげやりじゃない?」

 いつもの毒舌や辛辣なツッコミもないだなんて、職務怠慢じゃないの。お給金あげないわよ?

「ほらほら、早くなさってください。もうすぐ勇者様がおみえになりますよ」

 執事はそういって身を翻し、すたすたと歩み去る。


「えぇ-、ツッコミも一切なし…どころか勇者君がもう来るって?なに?来るのは確定してたってこと?じゃあ私土下座し損じゃない?えぇ-…」


 釈然としない、腑に落ちない、納得いかない。今の様子を表す言葉はいくらでも浮かぶものの、つっこむ相手がいなくなった私は致し方なし、身支度を整え始めた。

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