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ホラー掌編(五千字未満)

ニコニコ、ポーーーーン

作者: 紋 魅ル苦

 やはり、ステイホームをするべきでした……。


 私は、新年には必ずS寺へお参りに行きます。

 ステイホームと声高に叫ばれていて、今年は行くべきかどうか悩みましたが、別に議員のように会食をするわけではないし、マスクをして出かけますので、問題ないですよね。


 さて、今年はプチ寒波。しっかり防寒対策をして行きます。

 マフラーを巻いてニットの帽子。

 もちろん、最後はマスクです。マスクが一番の防御ですから。


 A駅につきました。

 驚きました。

 もう人、人、人。マスクをつけた人がいっぱい。混雑具合は昨年とまったく変わりません。


 このS寺は、門から本堂までけっこうな距離があります。

 目の前に広がる密に溜め息をつきながら、最後尾の列に並びました。

 

 四方八方にぎゅうぎゅう詰めの中、前にいる若いカップルの様子を見つつ、ゆっくりと仲見世通りを進んでいきます。

 半分にさしかかった所で、あれっと思いました。

 だいたい二十メートルぐらいでしょうか。そこからこちらを向く、男性の顔が見えます。

 皆、本堂に向かっている中、この男性だけ逆の方を向いています。人混みからぴょこっと頭を突き出しているようで、とても目立ちました。

 それに……そこからまったく動きません。

 こんな混雑している状況で、立ち止まっていたらとても迷惑です。


 あらま、迷惑な人ねと思いました。


 一歩ずつ一歩ずつ、並んでいる列が動き出し、その男性へと近づいていきます。どうやら、とてもニコニコと笑顔でいて、年齢はだいたい五十台ぐらいの人だということがわかりました。

 

 さて不思議なのは、その笑顔の男性は、なぜか私の方を向いているようです。てっきり知り合いかと思いました。ただ、まったくその顔に見覚えがありません。

 とりあえず、右手で手を振ってみます。

 が、ニコニコと私の方を向いたまま。


 だんだんと不気味さも感じてきました。

 その笑顔が気持ち悪いのです。誰にその笑みを浮かべているのでしょうか。

 私でしょうか……。

 ただ、手を振っても一向に反応が変わらない……。


 本堂へ向かう列がゆっくりと動いていき、笑顔の男性までとうとう残り二メートルとなりました。


 今も、ニコニコとこちらを見てきます。

 一言、言ってやろうと思いました。


「何か用ですか?」ってね。


 残り一メートル。

 やっと、この身長の高い若者がどいてくれたら、笑顔の男性に会えます。

 その若者が左にズレて、視線を前に向けたときでした。


 えッ……

 恐怖からとっさに視線を逸らしました。


 その男、首から下がありません。

 頭だけが浮いていたのです。

 

 見てはいけない……見てはいけない……と思いつつも、チラッと顔を上げてしまいました。

 そのとき、ボールが跳ね上がるように、ポーーーーンとその男の頭が空中に飛び上がりました。無意識にその様子を目で追うと、ストンッと、私のすぐ後方にいた白髪交じりのおじいさんの左肩へと落ちました。

 その頭は笑顔のまま、おじいさんのことをじっと見つめています。


 おじいさんは気がついていないのでしょうか。

 お洒落をしたおばあさんと、仲よさそうに手をつなぎながら歩いています。 

 その老夫婦は、違和感をまったく感じていないようです。


 おじいさんに一声かけるべきだったと思います。しかし、恐怖からできず、とにかくあの男から離れたいと思い、混雑する人混みの間を無理矢理割って入り、本堂へと逃げるように走りました。


 あのニコニコと笑う、笑顔の男は何だったのでしょうか。


 気になることが一つあります。

 私が逃げるように走り出したとき、「残り四日……」という低い男の声が、後ろから確かに聞こえました。


 多分、あの男は、死に神だったのだと思います。


 今、あのおじいさんはどうなったのでしょうか。


 ステイホームしとけば……、狙われずに済んだのに……。

 ステイホームしとけば……、私はあの男を見ずに済んだのに……。

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