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5「コラボ」


「昌也……美味しい」

「サクちゃん、おっきい口あけてエロいわぁ」

 今俺は、彼の作ったハンバーグを食べてる。本当に美味しいし本格的。

 いつも配信の時に映る壁を背に、お馴染みのソファに座っている。俺は彼のなかの特別なんだと考えて、自分の顔が熱を帯びるのを自覚する。

 彼がキッチンに立っている間、俺は機材の接続を行っていた。たまにキッチンを盗み見ながら、てきぱきと料理をこなす彼の姿に、トキメいていたのは秘密。

 ちゃんとサラダとスープまで添えられて、なんとも家庭的な献立だ。開口一番にその感想を述べたら「サクはもっと栄養あるもん食べなさい」と怒られた。食器もしっかりデザインされたやつ使ってるし、彩り? みたいなのも気にしていそう。

「だって本当に美味しいから。なんでこんな上手いの?」

「オレの夢、お嫁さんやったからー」

 思わず吹き出す俺を見て彼も大笑いしたが、なんとなく……心からの笑顔ではないような気がした。なんだか嫌な予感。

「……本当に夢だった?」

 俺がそう聞いたらその笑顔が固まった。やっぱり図星だ。彼は少し寂しそうにしながら、それでも小さく頷いた。

「オレ、会社の先輩に毎日飯作ってたんやわ。もちろんその先輩は、男のオレなんか恋愛対象ちゃうから、どんどん気持ち悪がられて……最終的には休職させられて、隔離ってなってもた」

「……まだその先輩のこと、好き?」

 探るような俺の言葉に、彼は慌てて手を振った。フォーク持ったまんま。

「いやいや、最後の方なんか人間に向ける目ぇされてなかったし……サクがいたから吹っ切れたんやろな」

「そっか。それ聞けたら、俺は幸せ」

 彼の言葉に生かされているのは俺だと思う。その言葉は飲み込んで、ただただその嬉しさに酔いしれる。

「オレは、サクに救われたんやろな」

 彼の顔に浮かぶその笑顔は、俺のためだけに向いている。本当に愛しい恋人。








 パソコンオッケー。本体も二台共起動オッケー。配線は……足元にぐちゃぐちゃだけど、まぁオッケー。

「オレん家、火事なるわ」

 隣で笑えないことを言いながら、彼が最終チェックを行っている。もうすぐ生放送枠だ。初めてのリアルでのコラボライブだからか、既に何人かが待機中と表示されている。

「今回はオレの画面だけアップして、サクのは帰ってから編集でええんか?」

「うん。編集は自分のパソコンでしたいし」

「了解了解。カメラこれだけやし、二人で頑張って映るか」

 彼がそう言って俺の隣に座ってくる。このソファ自体、そんなに大きいものじゃないから、けっこう窮屈。

「ちょっと、狭いかな」

 こんなに肩が当たってたら、ゲームのプレイに支障が出るし、それに……なんだか恥ずかしい。カップルチャンネルみたい……見たことないから、合ってるかわかんないけど。

「それもそうやな。サク、少し浅めに座れる? って言ってるうちに開始時刻や」

 時刻を確認すれば、確かにもう開始時間だ。俺は言われた通りに、ソファに浅く座り直す。彼が立ち上がり、パソコンを操作し、放送を開始する。カメラの立ち上げ画面が出た。

 彼が俺の後ろから、抱き締めるような姿勢で座った。ソファに二人。でも先ほどの横並びとは全然違う。まるごと彼の体温に包まれて、ヘッドセット越しの耳に、彼の吐息が吹きかかる。

 カメラの立ち上げ画面が切り替わり、自分達二人の――俺の醜態が映し出される。彼のカメラの設定がかなり近いため、二人の首から上しか映っていない。斜め前方からの角度だ。手前に彼の顔が写し出されているため、この姿勢になっていることは多分画面からはわからない。でも俺の少し赤い顔は、しっかり画面に映し出されている。

「はーい! それでは今日は、リアルでコラボしていきまーす」

――あ、これヤバい。

 そう思った時には遅かった。耳の外から、中から彼の声が溢れる。彼専用の場所が、彼で満たされる。

『待ってましたー』『おつですー』『横にいるのにヘッドセットで草』『マイク買え』

 さっそく流れるコメントに、彼の瞳に意地悪な光が宿る。多分、コメント見た。

「お気に入りのヘッドセット、わざわざ持って来たん?」

「う……う、ん……コラボだから……持ってこなきゃ……」

 彼の声が耳の中から外から重なって、思わず小さな声が漏れる。

 彼の声だけを聴きたくて買った高級ヘッドセットのノイズキャンセリング機能は絶大で、自分の声なんて気にならない程、彼だけに没頭させられる。

「なぁ、ほんまに?」

 機械越しに耳を舐めあげられた。

「ほんまのこと言って? オレの声だけ聞いてたいんやろ?」

 更に続けられた言葉に、自分の顔が赤面するのがわかる。心臓がバクバクいっているのもそうだが、目の前のモニターに映った自分の表情が恥ずかしくて見れない。

『サクちゃん照れてるwww』『エイトさすがドSwwww』『ホモォ』『俺達は何を見せられているんだ』

 画面に流れるコメントがいつもより多くて、観覧数の表示を確認する。

――人多い……恥ずかしい。

「やっぱエロっちいのは観覧増えるなぁ」

 彼があっけらかんとした声を出す。それに反応し、すぐにコメントの空気も変わる。

『女とやれwwww』『エイトがリア充なのは確実』『本気かと思ってびびったわwwww』『相変わらずイケメンは顔近い』

 画面の反応にクスクスと笑う彼が、カメラの死角へ手を動かす。

――それ、ダメ……

『サクちゃん顔エロくない?』

――バレちゃう……

「じゃ、これからコラボライブ始めまーす」


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