冒険の書、旅に出ます(短編版)
冒険の書が消えるとか昔聞いたなーと思って考えた作品です。プロット的な感じで書いてみました。
波の飛沫が太陽でキラキラと光り、夏の暑さも和らいでいた。
カモメが四方八方に飛び回り、海へ時折向かって羽ばたいては魚を咥えていた。
みゃーみゃー、という鳴き声はどこか猫を彷彿とさせる。
海特有の塩っ辛さと磯の香りは、身体をギシギシとさせそうだ。
「おーい!!出るぞぉー!!」
船の船員の声が聞こえ、しまったなと思った。船に乗る客は私で最後のようだ。
「い、今!!いきまっす!!」
右手を大振りに振って船員に伝える。
「おう!早く来なよ!」
船員も手を振り返してくれ、急いで船と陸を繋ぐ板を駆け上がる。
普段は船なんて乗らないから、つい長居してしまったようだ。
今までだったら水の上、しかも塩水の上なんて生きた心地がしなかっただろう。
それもこれも、あいつのせいだ。……まぁ、自由に動き回れるのはある意味面白いけどさ……。
船に乗ると乱れた息を整えて、先程の船員にチケットを見せる。
「19号室だよ。いい船旅を」
シャラリと鍵を手渡されて部屋へと向かう。荷物をまず置いてこなければ。
小型の衣装ケースにはそんな大したものは入っていないものの、今までは持ってもらっていた身である。何かを持つというのは、手は疲れるし、重いしで皆良くやっていると思う。
デカイハンマーなんか持っているのを見る事もあるが、本当に人間か!?と疑ってしまう。
19号室と書かれたプレートには海藻の様な犬の様な何かが門番の様にくっつき、扉に掛かっていた。
……芸術は人によって捉え方が違うと言うし……有名な生き物という線も……。取り敢えず部屋へと入る。
軽い重さの扉を開けると、海風の影響か、安物の船なのか、ギチュゥイイッと何かの生き物かの様な音が聞こえてきた。
扉が渋い……。
部屋の小窓は円形にかたどられており、海もカモメも絵の様だ。
夜の航海はさぞかし綺麗だろう。夜が今から楽しみだ。
シングルサイズのベッドには以外にも清潔なリネンが掛けられており、夜もぐっすり眠れそうだ。
今までは寝ている事が多かったから、睡眠は今でも特に大事にしている。
ベッド脇には簡素な台があり、下扉には金庫も入ってた。
……この台ごと盗まれたら意味ない気もするけれど、無いよりはいいの……かな?
貴重品も特に無いし、ベッドの下へ衣装ケースをしまう。
ベッドへ腰掛けるとギシリと音を立てて沈む。寝心地も良さそうだ。
このまま夢の旅へ出るのもいいけど、初の一人での船旅。景色と匂いを思う存分味わうのもいいかもしれない。
甲板へと出ると、天気は祝福してくれてるみたいに綺麗だ。今までの旅でもそうそう魔物なんて出なかったしな、とも思う。
船の先端には魔物よけの術式が組まれた女神像が飾られている。一般的な船にも搭載できるようになったのも、ここ500年くらい前から。
平和な世の中って自分にも他人にもゆとりが出来て、文化が深まるから好きだ。
んー……潮風が気持ちいいなんて……不思議な感覚。
「出向するぞぉー!!」
「「「「「おぉー!!!」」」」」
船員たちの掛け声に合わせてロープが引かれ、帆がバサァッ!!と音を立てて広がりだすと、ゆっくりと船が前進していく。
陸から離れて時間が経つと、乗客は部屋へ戻ったり甲板へ出ていた。
人混み嫌いだし、一旦部屋へ戻ろうかな……。
甲板から部屋へと戻る際に窓からキラリと光るものが見えた。
……魚かな?巨大魚とかだったりして……ね?
海だから、当然いるだろうけれども船に体当たりしてこなきゃいいなぁー……なんて思っていたからだろうか。
どあぁぁあん!!!と音がしたかと思ったら、船が大きく揺れた。
「あっぶなぁっ……!!」
咄嗟に壁に手を付きしゃがまざるえない。
きゃー!!とかうぉっ!!といたるところから声が聞こえてくる。
何事かと乗客が船員に聞いても、わからない、と言う。
それならば甲板へ出てみようという客には、危ないので部屋にいてくださいと船員が声を掛けて回っていた。
再びどかぁぁあん!!という音が響き、乗客、乗員大パニック。
これ、沈んでしまうのでは……?流石に沈んでしまったら、多分自分泳げないし……詰むかもしれない……。
船が沈没したら、一緒に沈んでしまうかもしれないし、取り敢えず甲板に出てみよっかな……。船から放り出された方がまだマシな気がする……。
甲板へ出てみると、ニョロニョロとしたデカイイカが船にへばりついていた。
「くそっ!巨大イカかよ!!これじゃぁ、魔物避けなんて効くわけがない!!ただの魚介なんだからな!!」
……ただデカイだけの魚介の方が手のだしようもないってのも、自然って偉大だなと思いました。
「今回は冒険者も乗ってなさそうだ。こりゃー、俺達の手で退治するしかなさそうだ」
「船長!!銛持ってきました!!」
「よし!野郎ども!!発射!!」
髭を蓄えた船長らしき人がデカイイカに向かって指差し、デカイ銛を発射させた。
ばすん……にゅ。
……刺さったけど、そんな効果無さそう。
「クソぉ!!冒険者がいてくれたら、細切れにして料理の材料にしてもらえるのに!!こんな事ならケチらずに用心棒を雇っておけば良かったぜ!!」
「え?船長……雇ってないんですか?嘘でしょ?時間稼ぎで銛打ったのかと……」
「……今度孫が学校行くんだよ。この航海が終わったら、入学式でデカイ花束贈ってやるって。金が、心もとなかったから、な?」
「それ、色々とフラグ立ててませんでしたか?花束は卒業式でいいんじゃ……」
「ばっかやろぉ!!入学式は卒業式と同義みたいなもんだ!!俺からの卒業……てな?」
「いやいや、上手いこと別にゆってませんから。髭生やしてるだけのただのオッサンが何ゆってんですか!?」
「いやいや、それは違うぞ!魚介と魔物以外の動きは読めるぞ!!天気とか、風とか!!」
「それは確かに大事ですけれども!!今はこのイカ、なんとか出来る人材なりスキルなりが必要なんですよ!!」
「えー、えー。お客様の中にオオイカを退治できる方はいらっしゃいませんかぁ!?出来る方は奮ってご参加くださいぃ〜!!!」
「……なんかのバーゲンセールみたいになってますよ。船長が店長になってます!!もう、おしまいだぁー!!!」
再びの大パニック。
仕方ないか。ここで沈むなんて、損しかない。しかも初旅なのに……。
「あ、あのぉ〜……。もしかしたら出来るかもしれませ……ん?」
ソロぉっと手を上げる。
めちゃめちゃ見られてる……。私、普段置物なのになー。
「……こんな可憐なお嬢さんにお願いしたくはないんだか……。できるならやってもらえるか?ちなみにどういったスキルをお持ちで?」
「ええっとぉ〜……雷魔法です」
嘘ではない。ホントでもないけど。
「それはいい!!……できれば、船は焦がさない様にお願いできませんか?」
船長が手を合わせてくる。
焦がさない様に雷魔法……なら、あれ、かな……
常に背に背負っている分厚い本を取り出し、表示に手をかざす。
……No.6、3560年、9月10日、リバルは雷魔法を双剣に纏い、魔物を一掃した。
この魔導書は記述式というよりは、勝手に記憶をしてしまう記憶媒体の様な物であり、幾多のパーティーの手を介して記録されており、一通りの事は再現できる。
このお陰でサバイバルもなんのその。特に料理上手のパーティーの記録は重宝させてもらっている。
今回は双剣使いでありながら、雷魔法の使い手、リバルの記憶を再現してみた。
思い浮かべたと同時に本が雷魔法を纏った双剣がバチバチと音を立てて現れ、両手に吸い寄せられる。
「行きます」
双剣士、リバルは小柄な体型で素早い動きに特価した人物だった。雷魔法を習得していたが、魔術師より物理で敵を倒したいと魔法剣士を当初は目指していた人物である。
しかし、小柄な身体であった為、双剣士の方が向いているのではとパーティーメンバーから助言をもらい、一旦パーティーを離れて弟子入りし、技を習得後パーティーの危機に颯爽と現れ窮地を救った人物でもある。
あの時は物語を見ているみたいで興奮したものだ。
双剣士、リバル真骨頂は、素早さと躍動感溢れる動きにある。立体的に動く事ができる為、今回の大物、巨大イカにはうってつけである。
船にへばりついている巨大イカへ向かって行くと、邪魔をするなとばかりに足を伸ばしてくる。
雷を纏った双剣で足を切っていく。切った先からイカの香ばしい匂いが漂う。食欲をそそる香りだ。
幾度か繰り返すとスミを吐き出してきた。リバルは動体視力が優れており、スミも難なく避けることができた。
粗方足を切断しおわり、船にへばりついている三本の足だけとなった。後はこの三本の足を切り終われば頭部が海へと落ちていくだろう。そう思って切り落とそうとした。
「ま、待ってくれ!!譲ちゃん!!なんだか余裕そうだったが、それだったら、頭を引っ張りあげることはできねぇか?イカのミミは、珍味なんだ!!」
珍味なんだ……なんだ……だ……とエコーが響く。
不思議だ。珍味とは、美味しそうな響きが胸に響く。珍味……珍しい味……食べてみたいかも。そうなると頭を引き上げる必要がある。最初に使っていた銛みたいな道具って誰か使ってたかな……。引っ掛けて、引っ張りあげる……。
……No.15、7502年、3月25日、アリアは街で買い物をしているとスリにあい、咄嗟にバインドを使ってスリを捕まえた。
バインドとは、物や人物を引き寄せる事ができる魔法である。魔力量によって引き寄せる大きさは異なる。私の魔力量は測定した事は無いが、多分多い方なのではないだろうか。
アリアは元盗賊で、そういった手合に慣れていた。なにせ元同業者のような立場である。スリのやり方も手慣れている。元浮浪児であり生きるためにスリを行い、生きるために盗賊になった人物である。
盗賊の頭領の愛人でもあった彼女であったが、ギルドから依頼を受けたパーティーが盗賊のアジトに攻めいった時不利とみるや、パーティーに寝返ったという自分第一主義者でもある。
でもパーティーメンバーとして過ごしていく内に絆が生まれ、メンバーの一人と恋に落ちて家庭を持ったのは恋愛物語みたいだったな……。
右手をオオイカへ向けてバインドと念じると自分にしか見えない半透明の手が伸びてゆく。オオイカの頭部を掴むように意識して船の甲板の上へ持ち上げ、伸びた半透明の腕をオオイカ全体をグルグルと巻き付けるように意識すると、オオイカは何かに縛られている格好になった。
「いま、拘束魔法を発動しているので、トドメ、お願いしますね」
にこっと船員たちに声を掛けた。
「おお!!任せとけ!!」
その日はイカ料理三昧だった。特に珍味のミミと、卵を私にくれた。……美味かったと表記しておく。
「それにしても、譲ちゃん、あーんな大層な魔法やら剣術やら凄いな!!」
船長がガハガハと私の肩を叩く。……めちゃめちゃ痛い。
「一人旅なので、色んな技が必要じゃないですか。お金もないですし」
「あー、そうかもなー。でもお嬢ちゃんは見た目とのギャップが激しいから、違和感すごいぜ?」
私の今の見た目はショートヘアーのグレーの髪色、青い瞳、外見年齢は13歳、服は華の刺繍がしてあるワンピースだ。
確かに、冒険者ー!!って感じではないかもしれない。
「どうせなら、男装した方がマシじゃないか?それじゃぁ、狙ってくださいって言ってるようなもんだぜ」
……なるほど。女性とは狙われやすい生き物だったかも。一部ではショタコンなる趣味の人もいて一概には言えないような気もするけれども。
「今回のお礼に良かったら昔の船員の服があるから、何着か見繕ってやろーか?」
!!願ったり叶ったりだ!!
「ありがとうございます!よろしくお願いします」
ぺこっとお辞儀をすると船長は「りょーかい!」と行って去っていった。
翌日の朝食時に一緒に持ってきてくれた。12着くらい入っていて、これだけでも大荷物になってしまった。大きめのトランクも準備してくれて、大変助かった。
早速貰った服で数日過ごし、オオイカ以外の物騒な事件は起こらなかった。陸へと着くと船長から再度お礼を言われて船を後にした。
「……言われたとおりにしやしたが……良かったんですか?付いていかなくて。知り合いなんでしょ?……オーナー」
「一通り能力は見させてもらった。安全安楽とはいかないまでも、そこまで過保護になる事はあるまい」
「……そうですか。今後こういった演技はやりませんよ……。あっしは下手なんですから」
そんな会話を船長とオオイカ事件の際にツッコミを入れていた下っ端船員がしていた。
読んでいただけてありがとうございました!




