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墜ちないイカロス  作者: 関宮亜門
第2章 トライアル
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2 反連邦政府勢力

 それ以上考えても仕方ない。もう寝る時間だった。イコライとソラは、寝る前にちょっとカイトの旧世界史好きを冷やかしてやろうと、居間に立ち寄った。


 すると、カイトはリモコンを持ったまま固まっていた。見ると、テレビに映し出されていたのはドキュメンタリー番組ではなく、ニュース番組だった。女性キャスターの、浮き足だった様子が画面越しでも伝わってくる。臨時ニュースだ。


「何があったんだ、カイト」


「ああ、イコライ。SHILF(シルフ)のやつらだよ。連中のおかげで帝政ローマの成立が一週遅れだ。俺、あそこかなり好きなんだけどな……」


「何があったって聞いたのはそういう意味じゃなかったんだけどな……」イコライはカイトの旧世界史好きに呆れつつ、重ねて聞いた。「北極で戦闘か?」


「そうだよ。やつら、何をとち狂ったのか、フェアリィ社の空母艦隊を攻撃したんだとよ」

「マジかよ。被害は?」

「艦隊は無傷だ。少なくとも発表ではな。ええっと、戦闘機は……ああ、いま喋るぞ」


『お伝えしていますとおり、フェアリィ社広報部の発表によりますと、大公海中部時間の本日午後六時ごろ、北極海周辺を航行していたフェアリィ社所属大型空母「フリーダム」を中心とする六隻の艦隊が、SHILF軍による大規模な航空攻撃を受けました』


『発表によりますと、SHILF軍は最新の対艦弾道ミサイルを大量に使用した他、戦闘機による攻撃を行ったということです。攻撃に参加したSHILF軍機は少なくとも六〇機に上るということで、これが事実であれば、ここ十数年で最大規模の戦闘だったとみられます』


『フェアリィ社は空母フリーダムを狙ったSHILF軍のミサイル攻撃を迎撃ミサイルにより阻止し、戦闘機部隊により反撃を行いました。これによりSHILF軍機十一機を撃墜したとのことですが、フェアリィ社の損害については「極めて軽微」と発表するにとどまっています』


 画面が切り替わる。フェアリィ社の広報担当による記者会見だ。


『我が社は、過去に連邦政府・SHILF間で採択された平和宣言に明確に違反する今回の不当な攻撃に対して、強力かつ正当な反撃を行い、多数のSHILF軍機を無力化・撃退しました。我々の艦隊は無傷、艦隊は無傷です。戦闘機隊には損害が生じていますが、極めて軽微なものにとどまります。フェアリィ社はこの戦闘に勝利したことを宣言します』


『ただし、これは戦闘の終結を意味するものではありません。連邦政府から要請があれば、我が社は作戦行動を継続し、SHILFが平和に反する無謀な行動をこれ以上重ねようとすることを抑止するべく、追加の行動を起こす用意があります』


「最後の方、いやに回りくどかったな。イコライ。お前にはどういう風に聞こえた?」

「ムカついたからもう一発殴るまで許さねえ、っていう風に聞こえたね」


「やっぱりそうか……フェアリィ社が報復に出るとなると、北極に戦力を集中するな。南の海が手薄になる。治安が悪化するかもな」


「ああ。南極で空賊の活動が活発になれば、うちの会社にも空賊対策の依頼が来るかもしれない」


「あの、イコライさん」

「なんだ、ソラ」


「六〇機とか十一機とか言ってましたけど……それって、多いんですか? 大規模な戦闘って、何百っていう戦闘機が戦うものだと思ってたんですけど」


「ああ……ソラのイメージは、俺のひい爺さんがやってた戦争に近いね。あの頃と比べて戦闘機の性能も値段も上がってるから、いまは一度に四〇機ずつ、敵味方合わせて八〇機が戦えば、かなり多いほうだよ。片方だけで六〇機っていうのは、相当に大規模な戦闘だ」


 続いてテレビ画面が切り替わり、SHILF研究の専門家だという、中年の男性教授がコメントした。


『SHILFは成立以来五十年の間、一貫して世界最大の反連邦政府勢力であり続けています。一時期は国力を大きく衰退させましたが、約二十年前にルイズ・アレクサンダー議長がトップに就任して以降、寛容な移民政策によって人口は大きく増加し、優れた経済運営もあって、急速な経済成長を遂げました』


『それと同時に、SHILFは世界経済の成長から取り残された人々を中心に連邦の領域内でも支持を拡大しつつあり、近年のSHILFは、世界連邦に再び挑戦しうる勢力へと復活したと見る専門家もいました……しかし、今回の戦闘の結果を見る限り、いまだSHILF軍の能力は、連邦の六大軍事企業に及ばない、という見方ができるのではないでしょうか』


 ソラに説明をしながら、ふとキャスターのその解説を聞いたイコライは、まるで、目の前を横切ろうとした何かを、ぱっと手を伸ばして捕まえたような気持ちになった。


「……なあ、カイト」

「ん?」


「SHILFって……なんで連邦と戦ってるんだっけ?」


 画面上では、白い雲海の上を飛んで、軍艦に向かってくる豆粒のようなミサイルが、機関砲が放った曳光弾に迎撃されて爆発する映像が流れる。大空に、白い花が咲く。


 それを指差して、イコライは聞いた。

「あいつらは……何を変えようとしてるんだっけ?」


 だが、カイトはさして興味もなさそうに言った。


「さあな。本人たちに聞いてみたらどうだ?」

「……」


 そんな機会あるもんか、と思ってイコライは内心で苛立ったが、カイトの言うことももっともだと思い、何も言い返しはしなかった。

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