恋愛篇
このお話の登場人物は全員成人済みです
「いっけなーい遅刻遅刻―」
ドスンドスンと足音を立てて中野さんが走っていました。
「今日から新任なのにこれじゃ初日から教頭先生に怒られちゃうよー」
中野さんが簡単にサラッと説明してくれました。その時です。
曲がり角でドーンと何かにぶつかりました。
「いったーい。もう一体何なのよー」
中野さんが見てみるとそこには何もありませんでした。
「あら、あなたどうしたの、大丈夫?」
五十嵐さんが道端で倒れてるおばあさんを見つけました。
「ああ、あんだって?」
おばあさんはどうやら少し耳が遠いようです。
「あなた、自分が誰だかわかるかしら」
「今日も良い天気ですねえ」
「おばあさん。あなたは主人公よ」
「そうですじゃ。ワタシは主人公ですじゃ」
何故かこういうとこだけちゃんと聴こえてるのがフィクションらしいです。
「今救急車を呼ぶわね」
そう言って五十嵐さんは何処かへと電話をかけました。
すると、
「ピーポーピーポー」
園原さんがやって来ました。
主人公を園原さんに乗せ病院を目指していると突然パーンと何かが破裂しました。
「どうしたの園原さん」
「胸が破裂しましたわ」
「それは大変ね」
どうやら園原さんの豊胸した胸がパンクしたようです。これでは道を走れません。
「どうしたんですじゃ?」
主人公が心配そうに園原さんの中から出ようとしました。その時
「あっ」
「大丈夫かのう」
脚を踏み外し転びそうになった主人公をたまたま通りかかった郷田くんが受け止めました。
「あの」
主人公は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせました。
「熱でもあるんですかな」
郷田くんは鈍感でした。
パーン。気づいた時には主人公は郷田くんの頬を平手打ちしてました。
「・・・・・・・」
郷田くんは何が起きたのかわからず呆然としてました。
ここで一気に場面転換。
「それでは検査を始めましょうか」
櫻井くんは若手のお医者さんで院内の人気者でした。あと眼鏡。
主人公は
「恥ずかしい」
と拒みましたが、櫻井くんに言いくるめられました。
検査を終えた主人公が廊下に出てきました。
「どうしたんじゃ」
偶然通りかかった郷田くんが声をかけます。
主人公は何も言わずに走り去りました。
それからも事あるごとに主人公と郷田くんは接触し、二人の仲が進展してきた頃。
「ですじゃ」
山本くんがやって来ました。
山本くんは口数は少ないけれど、その態度は優しさに満ち溢れていました。
主人公が困っていると
「ですじゃ」
一言そう言って、さりげなく主人公の為に動きました。
こうして恋の四角関係が幕を上げたのです。
それからなんやかんやあって
「こんなとこに呼び出して何の用じゃろうかのう」
手紙で呼び出された主人公は裏庭に来ていました。
「またせたのう」
郷田くんがやってきました。
「おやおや、郷田くんではありませんか」
「話があるのじゃ」
「話とは一体何ですかのう」
「実はワシ、ずっと前から主人公の事が好きだったんじゃ」
郷田くんは勇気を振り絞って遂に自分の気持ちを伝えました。
「何か言いましたかのう」
主人公は耳が遠くてよく聞き取れませんでした。
こうして一度目の告白は失敗に終わりましたが、この後も郷田くんはめげずに主人公の事を想い続けました。
中野さんは何とか遅刻せずに学校にたどり着く事ができました。
一方その頃、教頭の松木さんはまだ自宅で爆睡してました。
恋愛ものでよくある告白が聞こえてなかったという現象をなるべく自然にしようとした結果こうなりました。