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 今日は久しぶりに殿下とお出かけです。デートです。

 まあ、歩いて出かけらないので、結局、馬車で移動するだけですが、それでも滅多にないお出かけデートです。殿下は、卒業間近とあって大変忙しい時期です。東西南北に駆け回って、陛下のお仕事や公務等に付き添って、いつでも引き継げるようにとご準備をなさっています。

 なので、できる限りわがままは言わないようにしているのですが、この間のマリナさんのおかげで殿下のストレスが、それなりにあるとわかったので、無理やりわがままを押し通させてもらいました。

 本来なら、あの場だけでの話、机上の空論、実際に行くとしても来月の暇な時……、となるところを今週のお休みに!とお願いしたのです。

 そんな私のわがままに対して、殿下は高笑いして、喜んで頷き、お店を手配し、馬車の用意にデートプランなるものまで用意してくださいました。

「ふはははははははははは!!!!!!学生婚も良いぞ!!!大変良い!!!!ふははははははははは!!!!!!!!!完璧なプランで完璧に仕立て上げてみせよう!俺にできないことはない!!!なぜならば、俺だからだ!!俺イズパーフェクト!!!!ふは、ふはははははははは!!!!!!」となんだか少しだけ勘違いをしてらっしゃる気がしないこともないですが、まあ、そこはいいでしょう。無視しておきましょう。それが一番です。

とにかく、デートに変わりはありません。

 私は、殿下が贈ってくださった藤色のドレスを選びました。今年の冬に「春に着るといい」といただいたものです。これをいつ着るのです、今しかありません。

 爽やかな藤色のドレスに身を包み、出会う寮の皆さんに茶化されたりしながらも、幸せに頬をぽっぽっとほてらせて、寮の入り口で待ってるであろう殿下の元へ足を運びました。

 なんとなく付き添ってくださっているアンナ様、カトリーヌ様、カミーユ様が入り口のドアを開けた瞬間、ゲッというお顔をして、一旦、その開けたドアを閉めました。

 どうしたのでしょうか?まさか、マリナさんでも?

 まっさかあ!ねえ!そうです、よね??

 私が笑顔で固まっていると、カトリーヌ様が私の肩をむんずと掴み、真剣な顔で「ブリジット様、心して聞いてちょうだい」とおっしゃいました。


「な、なんでしょう」

「バラの花束持った殿下が……」

「あ、ええ。バラくらいなら、別によくあることですし」

「いえ、それは知ってるわ。そうじゃなくて、そのね」

「ええ、まさかマリナさん?」

「……、そうね、ええ。そうですわね」

「まあ。殿下はお困りになってらっしゃった?」

「そりゃ、もう笑顔がブリザードでした、ねえ」

「ええ、怖かった」

「あれはもう氷点下よ」

「そう……。それじゃあ、私、マリナさんに困らせないようにいわなくちゃ」


 そうです。さすがに主人公でヒロインといえども、人を困らせるようなことをしてはいけません。しっかりと言わねばなりません。私が言えば、なんだか面倒事になりそうな気がしますが、それはそれ、これはこれ。殿下を困らせるのであれば、ビシッと言わねばなりません。

 破棄をされるされないに関わらず、私は今現在の婚約者。殿下を支え、手助けする者。であればこそ、嫉妬だのそういうのではなく、注意をしなくては。

 私がドアノブに手をかけた瞬間、三人に慌てて止められました。

 何故、お止めに?という顔をしていたのでしょう。三人は「あなたを煩わせることじゃないですからね!私たちが、まず言って聞かせますから!」と少しばかり激しい口調でおっしゃいました。

 おかげで、少しつばが……。ハンカチで顔を拭きながら「じゃあ、お願いします」とドアの前からのきました。

 三人は、厳格な母親のような顔で頷いて、表に出て行かれました。

 たしかに、私のようなものが表立って注意したら相手に悪いですし、周囲にも悪影響ですものね。でも、3人も似たようなものな気が……。

 よいのだろうか、任せてしまっていてと考え込んでいると、ドアが勢いよく開いてマリナさんが怖い顔で入ってこられました。

 私を、ギッと鋭いつり上がった目で睨み「3人に言いに行かせるなんて、卑怯よ!自分じゃいえないくせに……。そうやって、大人しくしてればいいと思ってるんでしょうけど、そんな事ないんだから」とおっしゃって、逃げるように自室へ向かってしまわれました。

 困りました。完全にあれは敵を見る目です。困った。絶対、今後面倒な事になる。困った。

 ですが、なってしまったものは仕方がありません。

 戻ってきた3人は、一様に眉にシワを寄せて「なんなの、あれ!」と怒っていました。


「みなさん、ありがとう。嫌な思いをさせてしまったみたいで、ごめんなさい……」

「え?いやいや、いいんですのよ!」

「そうそう、普通に考えてブリジット様が悪いわけないじゃない」

「ええ、カミーユの言う通り。まあ、今はあの子のことなんていいのよ!それよりも、ブリジット様は殿下との久しぶりのデートでしょう?」

「まあ、そうですわよ!こんなところにいるより、早く殿下のところにお行きになって!」

「楽しんでってねー。お土産、楽しみにしてますわ」

「カミーユ!お土産なんてよろしいんですのよ。さあ、お早く」

「ふふ、皆さんありがとう。私は、本当にいいお友達を持ちました……。それでは、行って参ります。お土産はお菓子にしておきますね」


 お菓子という言葉に、ご令嬢の皆さんはワッと湧き上がり、口々にお礼をおっしゃります。

 ええ、ええ。女の子にとって、お菓子というものは心を慰め、明るくしてくれるものですものね。きっと、かわいくて美味しいマカロンと小さなシュークリームを買って来ましょう。

 私はみなさんに手を振って、表へ出ました。


 シワひとつないスーツに身を包んだ殿下は、白いバラの花束を持って立っています。金髪碧眼の美男子がスーツをビシッと粋に着こなして、白バラの花束を持っているところを想像してみてください。

 すごくいいです。非の打ち所がないくらいに、大変良いのです。完璧に少女が夢見る白馬の王子様です。

 まあ、本物の王子様なのですが。


「ブリジット!!今日のドレスは、俺が2月18日に贈ったドレスだろう!やはり綺麗だ、バッチリ!素晴らしいぞ!さっきの疲れもなにもかも吹っ飛ぶくらいに魅力的で愛らしい!!ブリジットの良さがこれでもかというくらいに、引き出されている!さすが俺!素晴らしいものを贈ったぞ、俺!!さすが!センスの塊!!」

「まあ、殿下ったら褒めすぎですわ。確かに、ドレスは素晴らしいですが、私はそんなに褒められるほどでは……」

「なにをいうか、ブリジット!!!お前は誰よりも美しく、愛らしく、魅力的で可愛いのだぞ!この俺が言うのだ、間違いない!たとえ、誰か審美眼のない者がブリジットは美しくないなどと、ふざけた極刑に値することを言ったとしても、この俺が世界一というのだ。それが正解であり、正論で、ただしきことなのだ。何故ならば、俺がそう言うからだ!この世は俺を中心に周り、俺の隣には常にブリジットがいる!要は、世界は俺とお前のためだけに回っているのだ!」

「殿下、よくわかりましたわ。それよりも、殿下もとても素敵ですわ。かっこいい。世の少女達が憧れ、恋をする白馬の王子様を詰め込んだみたいに、素敵です」

「ふ、ふはははははははははははは!!!!!!!!!!!そうだろう!!!!!!!まあ、当然だがな!!!ふははははははははは!!!!!!!!」


 殿下は高笑いしながら、バラの花束を握りしめていらっしゃいます。

 タイミングを見計らっているのでしょう。なんだかんだで殿下はヘタレ、ビシッと決めるところでは決めてくれるのですが、なかなか、そうは毎回いきません。というか、大抵はこんな感じで、もじもじしているヘタレ小僧なのです。俺様バカなのに、ヘタレなのです。

 根が暗いからでしょうか?

 とにかく、こういう時は私から行きます。殿下の渡せるタイミングを待っていたら、夕方になってしまいます。ええ、本当に。

 昔、殿下が初めて私にバラの花束をくださった時は、なかなか渡してくださらず、結局、帰り際の夕方でした。しかも、ずっと握っていたからシワシワとしおれていて、若干、暖かかったのです。

 甘酸っぱいというより、ほろ苦い思い出です。


「殿下、綺麗なバラですわね」

「おお!そうなんだ!綺麗だろう?お前に、と、思って!嬉しいだろう!そうだろう!!ふはははは!当たり前よな!この俺が厳選したのだから!ちなみに、40本あるぞ!ふはははは!」

「まあ、嬉しい。あら、一本枯れてるわ」

「ああ、気づいてしまったか!知っているか、白薔薇の花言葉を!!!」

「ええ、40本は死ぬまで変わらぬ愛。枯れた白薔薇は、生涯を誓うでしょう?ふふふ、ロマンチックですね」

「ふは、ふははははははは!!!!!知っていたか!!さすが俺の嫁!ふははははは!!!!そう!俺の愛は死ぬまで……、否!死しても変わらぬ愛!そして、枯れた白薔薇一本、すなわち!俺はお前にだけ生涯を誓うということだ!ふはははははははははははははは!!!!!!!!!!」

「まあ、嬉しい……。私、きっと、いい奥様になりますわね、殿下」

「ふは!!ふははははははははははは!!!!!!ふははははははははははははは!!!!!!」


 照れてます。

 高笑いして、照れをごまかしています。可愛いですが、若干、情けないです。

 耳が赤いので、完全に照れていますね。そんなに照れるくらいなら、やらなきゃいいのに……、とは思うものの、この殿下は、ロマンチストなので無理でしょう。

 ヘタレで俺様バカでロマンチスト……。なんというか、男らしくないような気がします。きっと、これが教育を間違えなかった本来の殿下であれば、自然とやってのけたのでしょうが……。いえ、今更の話です。

 私は、殿下の持っている花束を、高笑いで照れをごまかし、その場で固まっている殿下から勝手にいただいて、未だに高笑いを続けている殿下の腕を引っ張り、驚いた顔をしている若手の御者に「気にしないで。照れていらっしゃるだけですので」と説明し、なんとか殿下を馬車に乗せました。

 少しだけ体力を使い疲れました。

 ですが、ここからこの高笑いを続ける機械と化した殿下を、元のハイスペックポジティブ系俺様バカに戻さなければなりません。

 正直、こんな密室の狭い場所で、高笑いをずっと聞いていられる精神性は持ち合わせていないのです。いつかは、その程度は涼しい顔で受け流せる人間になろうと思っています。

 ですが、今は無理です。だって、少し耳がキーンとなってきました。精神は鍛えられても、耳は鍛えられません。

 それにしても、殿下の高笑いには、なにか特殊な周波でもあるのでしょうか?


「殿下、殿下。バラをありがとうございます。とっても嬉しいですわ。だから、とりあえず高笑いをおやめになって」

「ふはははは!わかった!!!!!そのバラは、記念にとっておくといい。俺の気持ちだからな!特に大事に飾ってくれ!寝室とかに!寝室とかに!!!!」

「まあ、殿下ったら。わかりましたわ。お部屋の玄関に飾りますね」

「そうか!!!」

「ところで、どういったプランですの?」

「うむ。今日は、ゆっくりとしたいから馴染みの店の個室を用意してもらった。そこでランチをとって、楽団が来てくれるから、それを聞いた後は二人だけだが、なにか、その、ダンスなどでもしよう。そして、ディナーを食べて終わりだ。行きたいところがあれば行くぞ?どうする?」

「殿下のプランで結構ですわ。私も殿下とゆっくりしたかったですもの。あ、でも、寮の皆さんにマカロンと小さいシュークリームをお土産にすると約束したので、それだけ…」

「うむ、わかった。届けさせよう。ところで、ブリジット。困っていることなどないか?なにか、俺に不満などあれば言うといい。まあ、俺は完璧だからないだろうがな!ふははははは!!!」

「ええ、じゃあ、いい機会ですから……」

「え、あるの?い、いや、言うがいい!ふはははは!!!」

「マリナさんと、どういう会話をしてらっしゃるんですの?」


 そう聞いた途端、ビシッと固まったかと思うと、ちょっぴり赤い顔で殿下は迫力のある高笑いをし始めました。正直、とってもうるさいです。

 ありがたいことに、黙らせるために口を開く前にピタッと高笑いをやめてくださいました。

 そして、そのままヘタレのくせに大胆になった殿下は、私の両の二の腕をがっしと掴み、顔をずいっと近づけて「まさか、お前が嫉妬してくれるとは……」と急に泣き出しました。情緒不安定になるくらいに疲れていたんでしょうか。なんというか、哀れです。別に嫉妬じゃないのですが、ここは勘違いさせておいてあげましょう。


「殿下……」

「いつもいつも、俺は思っていたのだ。お前はいつも俺の横で微笑み、支え、時に叱り、甘やかしてくれる得がたき存在だが、なんとなく嫉妬などそういった感情は持ち合わせていないのだと……。いつも、俺だけが一方的に愛を囁き、嫉妬して、恋をしているのだと思っていた。

だが!ここに、今!証明されたぞ!!やはり俺はブリジットに愛されていると!!!!めちゃくちゃ好かれていると!!ふはははははははは!!!俺は!!ブリジットに!!嫉妬された!!!!やったー!!!!ふははははははは!!!!!やはりブリジットは、俺が大好きなのだな!うんうん!わかるとも!俺は、才色兼備の王子!非の打ち所なんてない、パーフェクトプリンス!!!当然っちゃ、当然だがな!!

ああ、お前も嫉妬するのか!俺に嫉妬するんだな!ふはははははは!!!!愛いぞ!もっとしてくれ!燃やし尽くさんかぎりに!!俺もする!!」

「しなくていいです。それよりも殿下は一体、私をなんだと思ってたんですか?私は、うまいこと笑顔の下に隠してるだけで、嫉妬くらいしてましたよ、今まで」

「なんとぉお!!!!!そうだったのか!!!!!ふはははははははは!!!俺が好きか、ブリジット!!そうか!そんなに好きか!俺もだ!ふは!ふははははははは!!!!!」

「ええ、ええ。殿下の言う通り」

「ふは!ふはははははは!!!!!結婚しよう!!!このまま、教会に行こう!!そうしよう!!ふはははははは!!!!行くのだ、御者よ!!教会へ!風よりも早く!!」

「その前に、もう目的地に着きましたよ、殿下」

「……なんと間の悪い。だが、許す。今日の俺はとってもご機嫌だからな!さあ、久しぶりに語らい、絆を深めよう。そして、甘やかしてくれ。正直な話。最近、疲れているんだ。あの娘もそうだが、公務も父上……いや、陛下の仕事だのなんだのの手伝いのおかげでな」

「まあ……。では、たっぷりとどうぞ。膝枕でもなんでもしますわ」

「ひ、膝枕だと……。は、破廉恥な……!だが、してくれるというならしてもらうぞ、俺は!いいな!いいよな!いいんだよな!!」

「どうぞ?私にどんとお甘えになって、殿下」

「ふは、ふはははは!!!では、大いに甘えさせていただこう!さあ、ブリジット。俺の手を取るといい」

「ふふ、ありがとうございます、殿下」

「うむ!ああ、ここからはディミトリでいいぞ。プライベートだからな」


 私は、嬉しくて、思わず殿下の腕にぎゅっとしがみつきました。

 昔、幼い頃に「立派な為政者、支配者、王と妃になろう」と互いに約束した時に、なんとも子供らしい、そんなに重要ではないのですが、私はプライベート以外では殿下と呼ぶと約束をしたことがあるのです。

そして、それを未だになんとなく初志貫徹でずっと人がいるところでは、殿下と呼び続けているのです。婚約者なんだから、名前でもいいのでは?とは言われるのですが、幼い頃の私がした約束、自分自身に課した制約を守りたいのです。それが、私自身が思い上がったりしないための、線引きになっているような気がするのです。

それを殿下は私の思いを汲んで、名前で呼べとはおっしゃいませんし、未だに初めて交わした互いの約束を覚えていて、プライベートだから呼んでもいいと言ってくださるのです。

 嬉しく、ありがたいことです。私は大切にされているのだな、ちゃんと尊重されているのだなと感じられるのです。


「はい、ディミトリ」

「ふは!ふはははははははは!!!!俺、幸せ!!!!!!」


 ふはははは!と高笑いする殿下の腕をとって、私と殿下は馴染みのレストランに入りました。

 レストランに入っても、高笑いを続けそうな殿下を黙らせ、待っていたコックたちに案内されながら、柔らかい白で統一された小さな個室に通されました。

 完全にリラックスしたい時に使う個室です。二人だけですとちょうどいい広さで、隣でも向かい合わせでも、座れるように配置されています。よりリラックスできるように椅子ではなく、ソファーが使われています。

 ちなみに、ここはゲーム内での殿下とのデートイベントで使われる場所になっています。

 殿下が、最初から二人きりになりたかったのでしょう、すでに暖かい料理たちが並んでいます。

 私と殿下はそろってお礼をいい、お互いに並んで座りました。

 誰もいませんが、体の髄まで染み込まされたテーブルマナーのおかげで、逸脱し、マナー違反な行為はできないのです。二人きりだからやってみよう、マナー違反。となった時もありましたが、その時もなんだかんだで抵抗があってできなかったのです。

 ですから、私たちは誰もいないのに、完璧なテーブルマナーで楽しくお食事をとりました。

 お食事が取り終われば、殿下と一緒にコックへのお礼を言い、ついでにお土産のマカロンとミニシュークリームの用意も頼みました。

 お土産のマカロンもミニシュークリームも本来は作っていないものですが、王族だからではなく、お得意様の馴染み客ということで作ってもらっています。これも、幼い頃からコツコツと通ってきた賜物です。

 個室にはどれだけいてもいいので、殿下は全員を下がらせ、お土産は出る時にもらうことにし、早速、靴を脱いで、どさっと私に膝に頭を乗っけてきました。

 ヘタレのくせに大胆ですね、殿下。

 乗っけられている金色の頭を撫でてあげると、もっとしろと言うように、グリグリ手に押し付けてきます。しょうのない人ですね、まったく。


「ブリジット。俺は幸せ者だなあ」

「あら、昔は不幸ぶってたくせによく言いますわね」

「それ、いつの話だ……。俺はブリジットと出会ってから、ずっと幸せだぞ。本当に」

「ふふ、本当?」

「本当だ。俺は嘘はつかないぞ、ブリジット!」

「よぉく知ってますよ、ディミトリ。それよりも、あのマリナさんとはどういう会話をしてらっしゃるの?まさかとは思いますけど、なにか勘違いされるようなことは……」

「一切ないぞ。普通の会話しかしていない。もしも、あれで勘違いをしたとしたら……、想像力豊かで素晴らしいと言っておこう。なあ、それよりもそれは嫉妬なのか?なあ、なあ!」

「はいはい、そうですわね。そうですわよ、ええ。ディミトリが勘違いされるようなことを言ってないなら、いいんです。それよりも、なんだかお痩せになった?ちゃんと夜も食べてますか?」

「最近は食べられてないなあ。夜が一番時間があるから、そこで詰め込んでいるのだ。学校の授業もテストも、一番じゃないとダメだろう?それが、俺が俺たるための義務だからな。まあ、そう心配しなくてもいい。なにせ、この俺だからな!ふははははははは!!!!!倒れはせんし、倒れてもお前が看てくれるんだろう?」

「ええ、もちろんです」

「ならば、俺は倒れても大丈夫だということだ!むしろ、看病してもらえるなら倒れても……。失言だったな、許せ!」

「じゃあ、私も失言ですが、ディミトリがゆっくり休養できるなら倒れてもらって、私、ずっと一緒にいますわ」

「ふは!ふはははははははははははは!!!!!!愛い!!ちょっと倒れたいと思ったが、俺は倒れぬぞ!!!そんな姿、晒せないからな!!さすが俺!なんか責任感ある!意識高いぞ!!ふははは!!!」


 そう言って、いつも通り高笑いする殿下は急にバッと飛び起きて、私の肩を抱き寄せ、手を包み込んできました。

 私の手が殿下の片手にすっぽりです。

 まあ、こんなに大きくなって……。私、感動しちゃいます。いえ、感動ではなく、ときめくべきなのでしょうが。

 私がときめいていないことがわかったらしい殿下は、むすっとした表情で私を見てきます。

 でもね、殿下。今まで一緒にいた仲ですもの。こうやって、大きくなったんだなあと実感できる時って少ないんですのよ?特に殿下はヘタレで、二人っきりになると肩も腰も頑張らなきゃ抱けないし、引き寄せられないし、手を握るか腕を組むしかできないんですもの。しょうがないってものではない?


「ブリジット。俺の成長に感動してくれていること、嬉しく思うぞ……」

「ええ、大きくなられてなによりです。その内、お山みたいに大きくなってね、ディミトリ」

「うむ!なってみせよう!物理ではなく、存在感的な意味でな!そ、それよりも、ブリジット……」

「なあに、ディミトリ。そんなに真っ赤になって固まって」

「初々しい俺がそんなに愛らしいか……。わかるぞ。俺も自分で自分が可愛いと思う時がある。あの、それで、だな……」

「まあ、なんだか、キスのひとつでもさせろっていいそうな雰囲気」

「な!違うぞ、ブリジット!!!俺はそんな不埒で破廉恥な男ではない!キスなど、あ、あれだぞ!婚前なのだ、あれだ、ダメだ……!取っておこう!そう!初めては結婚後の甘いひとときにとっておくのだ!めくるめくラブロマンス……、月夜に照らされた俺たちは……。いや、何を言っているんだ、俺は!そうじゃないんだ、ブリジット!」

「じゃあ、なんなのでしょうか」

「あの……、ぎゅっと、その、抱きしめても、いいか?」

「……、どうぞ」

「あ、じゃ、あの、失礼します」

「はい、どうぞ」


 殿下、本当に真正のヘタレですね!まさかのここでハグ!キスでもなく、ハグ!いえ、そういう人だってわかってました。古すぎる考えも持っているわけではなく、ただのヘタレからくる発言。

 男らしくないとか、そこはしてくれてもよかったとか、いろいろありますけれど、まあ、殿下のヘタレ具合を考えれば頑張った方。ここは、なにも言わずに抱きしめられといてあげましょう。

 案外、しっかりと鍛えられていて固いですし、すっぽりと体を包まれています。身長はそんなに8センチ程度しか変わらないのに、なぜでしょう……。これが男女差というものでしょうか。


「ブリジットは、やはり、細いな」

「まあ、どうもありがとうございます」

「いや、褒めているわけではないのだが。だが、こう俺の腕の中にすっぽりと埋まってくれるこの感じ、最高だな。きっと、あれだぞ。俺とお前がぴったりと言うことなのだ!運命だな!ふははははは!!!!」

「耳元で高笑いしないで」

「あ、はい」

「ふふ、大好き……」

「!お、俺も、好き!」

「両思いね。嬉しい」

「俺も、嬉しい!」

「幸せ」

「俺も!」


 キャパオーバーしたらしい殿下は、ふははははは!!!とユデダコのように真っ赤な顔で高笑いし続けています。

 少しうるさいですが、甘んじて受けましょう。面白がった私のせいでもあります。

 高笑いのおかげで全身からブルブル振動がきますが、まあ、仕方がありません。ヘタレにしては、よく頑張りました。私は、高笑いで振動しているのか、心臓でドッキンドッキンとしているからなのか、うるさく動き回る胸にそっと頭を落ち着けて、少しだけ目を瞑りました。

 少しだけ、さっきよりも高笑いがひどくなった気がしますが、きっと気のせいです。

 今はうるさいですが、きっとその内、酸欠でおとなしくなるでしょう。それまでは、こうやって寄り添っていましょう。

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― 新着の感想 ―
時々読み返すとやっぱり、じゃれあう子犬子猫たちを見守るような暖かい感じになってしまいますわー! 大変みたいだけど幸せで良かったねえ仲良しだねえって思います。
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