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番外 エミールとカミーユ

 今日のカミーユはとても綺麗だった。

 なんたって花嫁さんだからな。友人諸氏にはめでたくやんややんやと騒がれ、王子が二人も出席した。まだ、あちらさんは結婚していない。一番遅いと思われていたアンナ嬢とジャンは俺たちの次に結婚式をあげる。


「カミーユ、エミール!おめでとう!」

「おう!あんがと!俺ってば、今とっても幸せ」

「気色悪い言い方するなよ」

「ミシェルたちも遠いところからありがとうな」

「なに言ってるんですか、当たり前でしょう。それにしても、ちゃんとトントン拍子でいきましたか?」

「ははは!そんなわけないだろ。今日の前日にだって、やめるとかなんとか言ってたしな。さすがに焦ったぜ」

「なんと苦労するな。俺は政治的なんやらがなければ、サクッと……。そう!サクッと!!」

「はいはい、殿下も大変だなー。ところでマリナ嬢はどんな感じだ?」

「マリナか?彼女なら、最近すごく落ち着いている。まあ、相変わらず押しは強いけどな」

「そっか!元気ならそれでいいんだ」


 ニカッと笑えば、マノス殿下もニカッと返す。そうそう、どんなのでも笑いかければ、案外返すものさ。

 マリナ嬢は学園じゃ、あれこれとにぎやかしてくれていたが、確かにマノス殿下の言う通り落ち着いているようだ。変に騒ぐこともない。

 そもそもを考えてみれば、彼女だって色々あって寂しかっただけかもしれない。もっと度量を広くしなければならないな、と反省する。ウエディングドレスのカミーユは色々な人と話している。あの3人は違うところでそれぞれおしゃべりをしている。俺も彼女について行って挨拶まわりをした方がいいかな。

 そう考えていると、殿下が「お前も挨拶まわりをするのであろう?さっさと行ったらどうだ。それで、さっさと花嫁の隣に立て」と言った。

 俺はすぐさま「そんじゃそうするぜ!」と駆け足で招待した人たちに挨拶をする。

 特に疲れることはない。おしゃべりは好きだ。ミシェルはどちらかというとおしゃべりは静かであれば好きな方で、案外ジャンの方が苦手だったりする。

 わかりにくいが、あれは口下手で照れ屋だ。それに気難しい性格をしている。所詮、天邪鬼というものだ。

 殿下の方も、あれでおしゃべりは苦手な方だろう。本来は、おしゃべりよりも人の話に耳を傾ける方が得意だろうと接しているとわかる。人の話を聞いていないようで聞いていて、自己中ではなくただのお人好しだ。

 ブリジット様の方は、おしゃべりが得意な方だが、言葉が足りない。それで時々勘違いされ、人に怖がられる。本人に自覚はないだろうが、ほんの少しだけ人間嫌いの人間不信だ。

 まあ、俺には関係ない話なのだが、この二人はお互いちょっぴり足りないところを補ったり、過剰なところを抑制したり、なんだかんだでお似合いだ。

 俺の勘では、本来は性格が合わない二人だったのではないかと思う。対人や政治的なあれそれじゃ丁度いいんだろうが。


 あれこれ友人たちのことを考えながら挨拶まわりをしていると、マリナ嬢がやってきた。

 俺はほんの少しだけ警戒したが、すぐになにかの憑き物がとれているような表情だったので、それをといた。


「こんにちは。今日は来てくれてありがとう」

「いいえ、こちらこそお招き頂いて嬉しいです」


 彼女はにっこり笑った後「本当は誰にも結婚式なんて呼ばれないと思ってたの」とうつむいた。


「まあ、確かにミシェルとカトリーヌ嬢の席で見なかったら、呼ばなかったと思う」

「ふふ、やっぱり?」

「やっぱりって」

「だって、あんなに必死になってひっつき回ったんだよ?普通呼ばれないよ。ま、性格が悪くなかったらの話だけど」

「はっはっは!たしかに性格悪けりゃ、わざわざ呼ぶよなあ!そういやさ、もういいのか?追っかけ回したりするの」

「あの時がちょっと変だったの」

「寂しかったんだろ」

「そうだね……。たぶん、そうかな。自分でもなんであんなだったのかわかんないんだ」

「そういう時もあるさ。無性に追いかけ回したい時とかな。俺とか、たまに無性にカミーユをいじめたくなる時がある」

「え、ミレーユくんっていじめたりするの?」

「カミーユ限定で。たまに泣かせたくなるんだよなあ、不思議だよなあ」

「きっとエミールくんはSなんだよ」

「そうかな?よくわかんねえや。マノス殿下はどうだい?」

「あの人、SっていうよりもM。ワガママ言われるのが好きみたい」

「へえ……」

「たまに引く」

「がんばれ」

「ありがと」


 俺たちは笑いあって別れて、お互いのパートナーの元へと行った。

 カミーユは俺に「なに話してたの?」と穏やかに聞いた。こいつはわかりやすくって素直すぎるからいけない。なんでも思ったことを口にするから人に疎まれたりするのだ。

 俺も穏やかに「マノス殿下との生活はどうか聞いてたんだ」と言った。ついでに耳元で「マノス殿下はちょっとMらしいぞ」と言えば、彼女はウゲエという顔をした。

 こいつは俺を頭が足りないと言っているが、そうじゃない。確かにまだまだ無知でバカだが、頭は大丈夫だ。彼女はわかりやすいから、少しだけ俺がバカになった方がうまくいくのだ。

 御そうと思っちゃいけない。そんなことしたら、彼女は意固地になる。バカになって、彼女の言動を楽しむのが一番いい方法なのだ。


 俺たちは、また一同に「結婚おめでとう!!!」と言われ、俺は彼女のほっぺにキスをして、ひっぱたかれた。

 皆が驚いていると彼女は俺のタイをひっつかんで「口でしょ、バカね」と俺の口にふにっとしたものを押し付けた。

 そして、会場は拍手と茶化す口笛が舞った。


 いや、待ってくれ。お前、そんな口に自分からする子だったか?

 彼女は口を拭った後、恥ずかしそうにうつむいてケーキを一切れ食べた。あんまり食べない方がいいらしいが、多分照れ隠しだろう。俺は彼女の頭に手を置いたが、すぐにそれは叩き落とされた。猫かお前は。

 はたき落とされた手はドレスの後ろでぎゅっと握られた。


「照れてるのか?」

「うるさいわね」

「ふうん、そう」


 俺がニヤニヤしていると、友人の一人がやってきて「女同士がしてるみたいだった」と興奮ぎみに言って来た。とりあえず、つぶしてやろうか、とだけ言っておいた。

 彼のナニは無事だ。

 さて、そんなこんなで結婚式は無事に終わり、招待客もいなくなり、夜には自分たちの部屋に帰った。

 特に緊張することもなく、お互いさっさと寝転がった。


「もう疲れちゃった」

「俺も」

「寝ちゃいましょうよ」


「うーん」と髪の毛を撫でてみれば「なあに気色悪いわね」と言われた。


「ひどい言い様だなあ。それより、式はどうだった?」

「まあまあね」

「そうか、最高だったんだな」

「ふん」

「これから、俺たちただの婚約者じゃなくなるんだな」

「そうね」

「不思議だな」

「そうね」

「お前、眠いんだろ」

「当たり前でしょ」

「そっか」

「それじゃ、また明日でいいわよね」


 そう言って、彼女は背中を向けた。

 これでいいのか、俺。据え膳食わぬはなんとやらだぞ、俺。

 うーん、と唸っている間に、彼女は本当に寝てしまったらしい。なんとなく虚しいが、俺とカミーユだとこんなものなのだろう。むしろ、同じベッドに寝てるあたりで上出来だ。

 悩むのが苦手な俺は彼女の体に腕を回して眠ることにした。人ってあったかいもんだ。


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