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番外 カトリーヌとミシェル2

 結婚式は、和気藹々と終わった。

 ミシェルがマリナさんたちを呼びたいと言った時は、少しびっくりした。だけど、あのパーティの後にちらっと見た彼女は、なぜか、本来はこうだったのではないかと感違いしてしまうほどのほほんとしていたので、特に危険に思う必要も邪険にする必要もないと思われたので了承した。

 結局、話してみると、すこし残念な感じにはなっているが、落ち着いた印象がした。

「私はまだ準備が色々あってダメなんだ。でも、料理の内容とか考えてるよ」と言い、その後は怒涛の美味しい料理の話をされた。

「この子、こんな子だったのね……」と若干驚きながら、あれさえなければ友達になれてたのでは、と思った。それを、ブリジット様はズバッと「まあ、私、あなたがいろんな方に積極的すぎるほど積極的に話されてなかったら、お友達になれていた気がしますわ」と言ったので、少し肝を冷やした。

 ブリジット様は、雰囲気が柔らかいから、そういうことを言っても反感されたり怖がられたりしないのだが、これがツンとすました方だったら嫌な取り方をされたと思う。

 マリナさんはそれに「えー、今からでも大丈夫だと思うんですけどぉ」と甘えた声で言った。多分、この甘えた声が反感を買ったんだと思う。


「それじゃ、お友達ということにしておきましょう」

「まじか!じゃあ、皆、そうってことにしておこうよ」


 それには、私たち3人は乾いた笑いしか出せなかった。それは早いと思うわよ、マリナさん。



「カトリーヌ!」と扉の向こうから声が届く。

 出かけたばかりで、すぐに戻ってきてなんなんだと思っていると、すぐに扉が開いて「犬を拾いました」と子犬を脇に抱えたミシェルが登場した。


「犬」

「騎士団に行く途中で」

「飼うの?」

「かわいそうです、飼いましょう」

「別にいいけど、躾は誰がするの?」

「全員です」

「面倒な!」

「いいじゃないですか、とりあえず預けますね。遅刻しちゃいます。遅刻したら、ランニング30分なんですよ」

「平気で2時間走る人にそれってペナルティーになるの?」

「ダッシュだからなりますよ。では、頼みました」


 そうして、ミシェルはさっさと出て行ってしまった。手元に残された子犬はウルウルした目で私に「くぅぅん」と言ってくる。

 どうすればいいのか、さっぱりわからない。

 子犬をミシェルのように小脇には抱えず、しっかり抱いて使用人を探す。静かなのが好きなミシェルのおかげで使用人の数が少なく、屋敷も小さいので、一々探さなければならない。


「あ、マリーン!」

「あら、奥様!どうしました?」

「ミシェルが子犬を拾ってきて、任されたんだけど、どうしたらいいのかわからなくて」

「おやまあ!そりゃあ、困ったでしょうに」

「躾とかやったことないの」

「ええ、大丈夫ですよ、奥様。最初はなんでもそうです。でも、お任せを!あたしゃ、これでも犬ってのは、たくさん飼ってきましたからね!」

「まあ、頼りになるわ」

「ええ、ええ……。お任せあれ!それにしても、こりゃ雑種ですね。多分、大きく育ちますよ」

「あら、本当?ミシェルね、大きいのが飼いたいって言ってたの」

「おや、それじゃあ、ちょうどよかったですねえ!そんじゃあ、まずは洗いましょうか。汚いですからね」

「ええ。何ヶ月くらいかしら」

「こりゃ5、6ヶ月くらいでしょう」

「丁度よく聞くくらいだわ」

「ええ、あんまりにも小さいと面倒なこともありますから、運がよかったですね」


 そういいながら、彼女は外の洗濯桶を持ってきて「ちゃあんと後で桶もあらいますからね」と言って、水をはり始めた。

 それから、犬の洗い方を教えてもらう。マリーンが全部してくれることにはなったが、多分、気まぐれで私たちが洗ってみたくなるかもしれないということで教えてくれているのだろう。

 洗い終わった犬を、ぎゅっと押さえつけ「さ、奥様、離れてくださいな」というので、そこ!と言われるまで離れる。すると、犬がブルブルッと体を振り回すようにして水を切り、ピャッとあちこちに水が跳ねて行く。


「これはすごいわね」

「はははは!そんなもんですわ。そんじゃあ、奥様、ちゃんと乾かしたらそっちに持っていきますから、お部屋でのんびりしててください」

「わかったわ、よろしく頼むわね」


 彼女は「はい!任せてください」と歯を見せてニカッと笑った。

 部屋に戻って数分経つと、綺麗になった子犬が、マリーンに抱かれてやってきた。


「まあ、綺麗になって!かわいいわあ」

「思った以上に美人さんですね。こりゃ、男の子でしたよ」

「男の子なのね」

「そうです、男の子だねえ、ジョン」

「ジョン?」

「あ、すみません、奥様。勝手にその……」

「あら、いいのよ!ジョンにしときましょ。犬らしいわ、なんか」


 ジョンと呼んでみれば、最初はワンとも言わなかったのだが、二人して、ジョンジョン言いまくったら、ワン!と答えるようになった。かんわいい〜!

 ジョン〜!ジョン〜!と、二人して転げ回って遊んでいたら、ドアがバン!と開いて、ミシェルが入ってきた。しかも無表情でだ。

 私とマリーンはハッ!として居住まいを正し「だれだ、こいつ!俺を拾ったやろうだな、こいつ!遊べ!」というように向かって行くジョンを必死で止め「こ、これには、あの別に…」ともごもご言い訳をした。


「私も遊びたいです」

「ん?」

「名前はもう決めてしまいましたか?」

「え、ああ。ジョンと」

「ジョン」

「ワン!」

「ふふふ、これからは騎士団の先輩から教えてもらった『実践!確実に番犬にする方法』を使って、ビシバシ鍛えていきますからね」


 ふふふ……と笑いながら、ミシェルはジョンを撫でまくる。

 マリーンがそっと私に「ああいうタイプがしつけられないんですよ」と囁き「そんな感じがするわ」と囁き返した。それにミシェルは「なにをこそこそと喋ってるんです」と不機嫌そうな顔をした。

 静かなことが好きなのに、案外寂しがりやな奴なのだ、ミシェルは。

 散々遊んだ後「ノミがいるかもしれませんからね、あたしらのところで1日2日面倒見て、綺麗にしますから、その後に一緒に寝てください」と一緒がいいとだだをこねるミシェルに、そうピシャっと言い、彼女はジョンを連れてさっさと使用人の部屋へと戻っていった。ミシェルは傷ついた顔をしていた。そこまでなのね、かわいそうに……。


「とにかく、もう遅いわ。寝ましょう」

「はい。騎士団ってどうしてこう早いんでしょうね」

「新人だからじゃない?」

「もっと偉くなってお昼に出て行くくらいになってやりますよ」

「あら、期待してますわね」


 ミシェルは寝巻きにさっさと着替えて、さっさとベッドに入り込んだ。ベッドの中が冷たくて文句を言っている。


「じっとしとけばその内あったかくなるわよ」

「そうですが、寒いものは寒いんです。早く」

「はいはい。あなたって結構甘えたよね」

「お坊ちゃんですからね」

「それって関係あるの?」

「知りませんよ、そんなもの。それじゃあ、おやすみ」

「おやすみ」


 なんとなくいつも気恥ずかしくって、お互いに背をそむけて寝ている。この状態のまま、あれこれ喋ったりするが、今日も疲れているらしく、すぐにぐっすりと眠り始めてしまった。

 しょうがない、寝よう。


 次の日の朝、なにかに舐められているような感覚がして起きると、ジョンを顔に持ってきてじっと見下ろすミシェルがいた。


「なにしてんの……」

「これが子犬がいる朝ですよ」

「え、あ、うん」

「楽しいですね?」

「ん?まあ、そうね?」


 彼はうんうん、と頷いた後「これから先もこんな朝が来ますから楽しみにしててください」と言うだけ言って出ていってしまった。普通に意味がわからないが、今後も一緒にいるということだ。

 なんとなく恥ずかしくなってジョンを抱き潰すかのようにして、ベッドを転げ回った。

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