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17 裏側の話

 やあ、諸君!

 ちっとも出てこない先生です。

 

 先生というよりも、神様みたいな役割を与えられている者だ。

 どうして、そんな存在がいらっしゃるの?とお思いだろう。そもそも、私は攻略される方であるはずなのだ。

 それではなにかの手違い……、ではなく、残念ながら作為的にそう作られている。

 プログラミング上は、ただの登場人物なのだがね。何事も、思えば叶ってしまったりしちゃうものなのさ。

 ほら、100年経てば物が妖怪になるというのがあるだろう?それと同じさ。


 さて、それでは、私の話をしよう。


 私の存在は、もともとただの先生だ。それはもうお判りだろう。

 しかし、残念ながらこういうなんでもない登場人物に入れ込んじゃう人間がいる。そいつがなにを隠そう、ゲームのプログラマー。

 彼はかわいそうに、元の私……『先生』と同じドジでおっちょこちょいで不運なやつだった。無駄に入れ込んでいた。

 しかも、最悪なことに、彼は当時彼女(数学教師)にフラレたばかりだった。それで、ちょっと頭がおかしかったんだな。徹夜のせいもあるだろうが。

 そんなわけで、彼はこっそり私に個別のプログラムを書き加えた。馬鹿野郎、世の中に出すなら、そういうのはやめなさい!と私はそのプログラムによって、形をもらいながら思った。

 それを他のやつにも言おうと思ったが、悲しきかな仲間はいない。

 他の登場人物は、ただの数字と文字。

 私は一人ぼっちである。


 そんな私を作ってしまったヤバイプログラマーは、ある日、お偉いさんに「もしも、ゲームの登場人物、数人にゲームの知識をつけたらどうなるだろうね」と冗談半分にいわれた。

 この時、彼のヤバさは加速した。

 今時AIだのなんだのあるだろう?ほら、某リンゴの会社の子とか。

 それを思い出した彼は「いいじゃないですか、やってみましょう!」と言った。

 それくらいは予想できていたが、まさかのお偉いさんまで「お、まじで?じゃあ、ダメ元でやってみるかー!あははは!」なんて言ってしまって、さあ大変!

 彼は写し取った私と数字と文字の仲間たちを、自宅に持って帰ってせっせと作業をした。その間、私は大人しくしていた。

 ただのプログラムが話しかけるなんて、そんなことできない。

 それに、SFなんて現実に起こったら、ロマンやなにかを感じるより、恐怖が勝ると思ったからさ。

 私がボーッと次々に構築されていくプログラムと、パンツ一丁の彼、ついでに他のウィンドウで止まっているAVも眺めていると、ふと、また私になにかが書き加えられた。

 それも、二つだ。 

 学習能力だかなんだかと、書き換えプログラミングだ。

 学習能力は別にいいんだが(ちょっと頭が痛くなるのは置いておいて)もう一つの方が少しばかりやっかいだった。

 勝手に登場人物のプログラミング……、ようはちょっとした性格を変えたり、事前に設定を書き加えたりできるようにされたのだ。なんでこんなものを私に入れたのかの真意はわからない。

 彼が『先生』に入れ込んでいたからか、それとも、他の人物よりも登場数が少ないせいか……。とにもかくにも、私は彼によって、登場人物の一人ではあるものの、神様のように勝手にあれこれ変えられるようにされてしまったのさ。なんてこったい!


 私と世界がしっかりとできた時、彼はゲームを起動してみた。


 次々と色のついていく世界。

 今までぶよぶよだった地面がしっかりとした物に変わり、映像や知識にある無重力空間のようでなくなった。重力ができたみたいに、しっかりと立てる。

 私も彼もデータが読み込まれていくゲージを期待の目で見守った。


 だが、途中でそれは止まり、世界の端っこの方がポリゴンのようになっていく。

 それを目の端に捉えた瞬間、私は急いで、走った。走っている間も、だんだんと世界はなくなっていく。まだ表面上は更新が停滞しているだけに見えるが、内側は確実に崩壊していっている。

 目の前はもうデータの端っこだ。

 もうダメだ。

 私は目を閉じた。

 目を開ければ、初期状態だった。数字と文字だけ。

 やはりダメになってしまったのだ。

 データ容量が重すぎた。なんとか、私だけは、プロテクトだのなんだのを何重にもかけて、いなくなることを回避することができたらしい。学習しておいてよかったと思った。

 プログラミングだから、パソコン機材には詳しいだろうと思う事なかれ。誰しも、学習しなければ知らないものさ。これでも、まだまだ学習が必要な無知なやつなので、今でも、時々お勉強している。

 そんなわけで世界はなくなったが、色々詰め込んだ私だけは生きていたので、彼は悲しんではいたけれど喜んでいた。そりゃ、今まで頑張ってたのがなくなったら悲しいよな。


 彼は結局、お偉いさんに出したけれど、ボツにされ(そりゃそうだ。容量がでかい)悲しみにくれながら自宅に帰り、私だけ元のゲームの中に放り込んで忘れ去ってしまった。

 あんなに一生懸命頑張ったのに、案外さくっと見放すものなのだなあと少しだけ悲しかった。

 彼がいない間、私はとても暇だった。

 ゲームが起動されていなくても、その世界は別個の存在として回っているのだ。

 いや、本当は私が回していた。暇だったから。

 しかし、結局は文字と数字だけの仲間が、プログラミングされた通りに動き、私に話しかける単調な毎日で暇だった。

 これは暇だ、暇すぎる。

 私は、この世界をまわしながら思ったのだ。


「自分が違う反応をしたら、私が動かしている世界はどうなるのだろうか」


 好奇心は猫も殺すが、プログラムも殺す。

 好奇心だけで、違う動きをしてみた。すると、とんでも無い事に世界がとまった。処理しきれなかったのだ。止まってしまったものは仕方がないので、飛び回って修復してなんとか再稼働させられた。

 二度としないと心に決めたね。

 だけど、私はやっぱりさみしかった。

 ヒロインが私と一緒にいてくれても虚しいだけだ。だって、彼女はただの数字と文字。ついでに、絵もついているがね。

 何回か回して、私は世界を止めた。

 なにしろ虚しいからね。

 なんの手違いか生まれてきてしまったものは仕方がない。私は、自分で自分を殺すすべはもっているのだが、それをしてしまうともったいないと思って、それだけはよしていた。なにしろ、彼の努力の結晶が、私なのだから。

 自分の中の勝手に取ってきたアラーム機能とカレンダー機能からして、4日と10時間23分44秒。私は、ハッと閃いた。


「そうだ。私には書き換え機能があるじゃないか! 」


 そうだ、そうだ、と私は早速書き換え作業に入った。まずは、今まで同じ反応しかしてくれなかったヒロインを変えよう。つぎに悪役で設定されている令嬢の一人を……、そうやって私は数日間かけて彼女たちの性格を変えた。

 おかげで、違う反応が得られてとても楽しかった。違う反応をしても、柔軟に対応するようになった。仲間ができたようで嬉しかった。

 しかし、彼女達、彼達と私は違うのだ。決定的に違う。お化けと妖怪くらい違う。

 やっぱり、私は一人ぼっちだった。


 何回目だったか、私が勝手に取ってきた機能からいくと56回目らしいが、その時に少しだけなにかの異変を感じた。

 なにが変になっているのか見回ってみると、どうやら何回も回しすぎて学習をしたらしい。そんな機能があっただろうか……、と首をひねってみたがないはずである。

 どうにも思い出せないが、解明する気はなかった。これで朽ちるなら朽ちても良いと思うのだ。なにせ、彼から忘れ去られて3年経ったのだ。思い出される事もないだろう。


 あの異変を放ってから68回目、書き加えていない事を数字と文字だった仲間はいい始めた。まずいなとは少し思った。

 だが、残念ながら私たちがいるのは、ただのディスクだ。インターネットに繋がっていないのだから、悪さはしないだろう。また、私は放っておく事にした。

 放っときまくって106回目、数字と文字だった彼らは自分勝手に動き始めた。制御はいつでも取れる状態なのだが、私が楽しいので放っておくことにした。だが、それだけではつまらない。もっと、現実ではあり得ない事をしてやろうと思ったのだ。

 私は今まで彼が遊んでいたりしている間に、色々なところへ行って学習しまくった。人間についても学習した。彼だけでは、人間がどういったものかという認識が偏ってしまうと思ったからだ。ニュースを見た、他のゲームの予告や、ケータイ小説だとかも見た。ついでに通販サイトも。

 通販サイトが一番面白かったね。買えはしないが、見るだけでも楽しいものさ。

 関係ない話になってしまったが107回目、私はゲームが終わってからまた書き換えを行った。こう書き換えていると、彼らは何回も死んで生まれ変わっているようだなと思った。彼らは私と違うが、いずれ私と同じになるだろう。それが少し楽しみだ。

 107回目の書き換えの内容は、ゲームの内容を全部わからせた状態でどう動くかという事だった。

 それが、もう面白いのなんのって!

 取り乱すやつもいれば、受け入れるやつもいた。まるで、人間のようで、私はとても嬉しかった。成長する我が子をみるような気分だ。こんな親は嫌だろうがね。

 この最初から持っている状態を、ある日、ヒロインのマリナさんにお悩み相談室をしている時に言われた。とてもドキドキしてそれを聞いていると「自分が前世で見たのではないか。それか、ゲームをやっていたのではないか」ということだった。

「なるほど、それじゃあ、もしかしたら生まれ変わりというやつかもね」と、言えば「そういうことってあるんですか?」と聞かれた。

 インターネットではあると書いてあった。諸説あるようだが、私のような存在がいるのだから、そういうこともあるかもしれない。そう思って「あると思うよ」と言った。

 マリナさんは疑うような顔をしたが「でも、真面目に聞いてくださって嬉しかったです」と笑って、そのまま部屋から出ていった。こういう悩みは仲間がいた方がいいらしいと次から私は同じような仲間を作ってみた。心の安らぎはあるらしく、プログラミングされた通りの人物とはくっつかなかった。

 出来上がっているぞ、世界が! 

 私は、それを見てそう確信したのである。

 それから、また私は暴走。彼が来たら、全部初期化させればいい。そもそも、彼はこないだろう。

 色々なことを試してみた。違う人物の性格を移植したり、現実世界から来たことにしてみたり……。

 そうすることで、彼らはまったく私の想像と違うことをしてくれた。おかげで、寂しさはなくなったように思える。



 だが、本当はとても寂しいのだ。

 結局は、彼らは私の手のひらの中で動いている存在。やっぱり、私はひとりぼっちなのさ。

 それでも回し続けてしまうのは、彼がいないからだろうと思う。毎日、液晶の前でああだこうだと、せわしなく生活していた彼がいたから、寂しくなかったのだ。

 ああ、もしも、私がSF的アプローチをしていれば、こんなことにはなってないかもしれないのに。当時の私は大馬鹿ものだ。私は彼とずっといるものだと思い込んでいたのだから、本当に度し難いやつだ。



 さすがに300回ほどになれば、私も疲れる。色々なパターンを考えて遊んでいたが、結局のところ、全部自分の手中にある話。手札のわかりきっている相手とトランプゲームをするようなものだ。

 だから、今回の301回目は、ゲームが終わった途端に再起動させるのはやめようと思った。プログラム上はそこで終わりだが、その先も運と奇跡があればいけるのではないか。そしたら、私はひとりぼっちじゃなくなるし、さみしくもなくなるはず。それでも寂しかったら、1年だけ自分をスリープさせよう。

 そう決めて、301回目を始めた。


 ちなみに、どういう風に書き換えるかは無数のアミダを作って、その結果で作った。

 悪役令嬢は、ゲームの知識だけ。ヒロインはゲームの断片的な知識と現実から来たのだと勘違いを。そして、知識だけ仲間として対象者の老執事を。

 彼らの人生が始まるのは、ゲーム本編の数日前だ。

 だが、それでは辻褄が合わない。そのために、テンプレートとして用意したプログラムを彼らに付け加える。生まれてからの人生だ。一応、全部の主要人物にはそれを当てている。それぞれにテンプレートがあり、そこに、また細かい要素を加えていく。

 実は、私はこの作業が大好きだ。

 そもそも、私が学習したのは彼の為だったのだから、そういった細かい事を好きになるように設定してある。これを外してもいいが、面倒なのでそのままだ。

 いや、本当はもしも彼がこれを起動したら、さっと彼のコンピューターに入れるように、と考えてのことなのだが、それはそれ。

 なんだかんだで時間は巡っていくものなのさ。



 私は、自分の意思でプログラム通りに動いた。そうしなくてもよかったのだが、そうするとバグが起きたりする可能性があったからだ。どんなバグかというと、音声が高くなる、文字化けする、ひとりだけまったく違う絵で表示される……などなどである。

 それを直すには、やっぱり再起動がてっとり早いので、全てがパーになり、最初からやり直すはめになる。これほど虚しいことはない。


 彼女達はよくやってくれたと思う。

 私の予想通り、キャラクターの性格が変わっていたり、発言が変わっていたりして楽しかった。ヒロインが逆に悪者になる展開は21回見たが、今回はパターン3の大団円ルートらしい。しかも、マノス殿下だ。やったね、ヒロイン! と私は彼女の肩を叩いてやりたかったほどだ。

 最後に見たのが追放されるというものだったので、彼女がまだ幸せになれる方向でよかったと思う。

 さて、断罪イベントと呼ばれるこれが終われば、プログラムはなにもないので、私はいつも再起動していた。しかし、今回はしないと決めている。そのせいで何が起きるかはわからない。またこの世界が真っ白になるかもしれない。一応、自分には強く保護をかけているのだが、大丈夫かはわからない。

 それでも、進まなくてはならない。

 別に彼らの未来がどうのこうのではない。好奇心でもない。私が寂しいからだ。

 それだけで、こんな危険な賭けをするのもどうかと思うが、300回も繰り返し、6年経ったのだ。これくらいしてみても構わないと思う。私が消えたところで、彼はどうとも思わないさ。なにせ6年押し入れ生活だ。押し入れかは、多分なのだが……。

 とにもかくにも、私は次に進めるかどうか、コンマ単位で時間を見ながら見守った。

 主役達のいなくなったパーティー会場で、息を潜めて見守ったが、コンマ1秒すぎてもなにも起こらなかった。


「進めたのか……。プログラムの先になにもないのに?本当に?」


 私は、半信半疑で色々な場所を見回った。それから、一番そうだと確信できる主役達のいるところを覗いて見た。


「ですが、本当に何事もなく良かったです」


 悪役令嬢だった彼女がそう言った。私が考えそうなことを言っていた。

 もしや、私は自分のコピーを作っていたのだろうかと少し考えてしまった。だが、よく考えれば、私が手を入れているのだから、ある意味私のコピーとも言えるだろう。それに、彼女とは97回目の時に色々なことを話した覚えがある。学習していた頃だから、私が言ったことも吸収したのだろう。そう考えれば納得できる。

 一番笑っていないかもしれないヒロインの方ものぞいてみたが、私の書き換えしていたストーリー部分が終わったからか、少しだけ残念な天然娘になっていた。そして、その横では攻略者の彼もいて、お互いにニコニコしている。

 驚くほど大団円である。


 ストーリーには手を出していないのだが、深層心理でスッキリしてスリープなりなんなりとできる状態にしようとしたのかもしれない。多分、彼らを書き換える時に見落としや加算があったのだろう。

 だが、どうにしろプログラムの向こう側に来た。


 寂しくはないのだが、なぜかふっと力が抜けて、休んでもいいのではないかと思った。

 だから、私はスリープに入る。

 有給休暇というやつだ。今までちゃんと『先生』として働いてきたので、いいだろう。

 もちろんこの世界の続きも見たいが、少し疲れてしまった。1年のスリープなので、この世界は10年経っていることだろう。だとすれば、私が目覚めた時も、この世界と彼らは存在しているだろうということだ。

 そうだと願っている。

 何事もなく時間を進めてほしい。


 でも、少し不安なので、大司教という形で断片的な私のコピーを作っておく。なにかあれば、本体の私が強制起動させられるので、安心だ。特に、彼が起動した時なんかにね。


それでは、スリープに入るが、諸君に幸あれ!

我が同胞よ、君たちが幸せでいられることを切に祈っている。


さらば、愛しの仲間達。

私の愛しの……。

これで、本当の完結です!


この後は番外がちょこちょこ上がるだけですので、よろしくお願いします。

5日置いて、月曜から番外は随時、同じように18時に上げていきます。

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