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 今日は待ちに待った卒業式です。

 この卒業式を終えれば、私と殿下はスーッと結婚して、スーッと夫婦になるのです。そして、私のお友達である三人も結婚されます。

 結婚ラッシュです。

 さて、学園中の全員にマリナさんは本当は良い子なのだ、という勘違いをさせることに成功した私達は、待合室で、ふふふふふと含み笑いをしていました。王族のみ別室で待機させられるので、ここには、私と殿下しかいません。

 さすがのマリナさんもここには来れないのです。

 ストーリー上もそうですからね。


 それにしても、勘違いを皆さんにさせるのはとても骨の折る作業でした。色々なことをやって、なんとか卒業式までにさせられましたけれど……。

 卒業式が終わったら、あの6人にはなにか特別なお礼をしなければなりませんね。なにがいいかしら?

 ま、それは後で考えましょう。

 生徒代表として色々なことを喋らなければならない殿下は、最後に一応、紙に目を通しておられます。私は特になにを言うわけでもないので、おとなしく待機です。

 まあ、卒業式が滞りなく終わった後が大変なのですが……。

 今日は、陛下と王妃様がいらっしゃります。そこで、きっと、マリナさんはストーリー通り、私のことを貶め、陛下たちにあれこれと言い募り、殿下にも何事かをいうのでしょう。

 普通に不敬すぎてびっくりです。絶対に「不敬!!」と言われ、近衛に連れて行かれるでしょう……。

 しかし!そんなことはさせません!だって、マノス殿下のところへ行かせるようにするのですから!マノス殿下も手を揉みながら笑顔で待っているでしょうし。

 ですので、私、考えましたの。殿下も使って考えました。陛下達対策を。

 陛下達を騙すのは本気で骨の折れることですが、なさねばならぬのです。全ては私たちのため。

 これを無事にやりおおせられるかは、全ては殿下にかかっています。

 私は、殿下にここまで押し付けるのが嫌でした。ですが、殿下は言いました。

「なにを言う。俺とお前は結婚するのだ。ようは、運命共同体だ。俺が地獄に行く時も、お前が地獄に行く時も、必ずお前が俺の横にいて、俺の横にはお前がいる。これくらいどうってことない。俺に任せよ」と快活にニッと笑っておっしゃられました。

 なので、私は殿下に全て任せることにしました。

 ポジティブ系俺様バカといえど、ハイスペックですからね!しかも、演説だの口上だのは、無駄にお得意ですから、大丈夫でしょう。

 ポーンと時計の音がなりました。


「時間だ」

「はい」

「……行くか。ほら、手」

「まあ、殿下。ふふ、ありがとうございます」

「まあ、なんだ。お前が不安そうな顔をしていたからな」

「あら、そんな顔してました?」

「少しばかりな。俺しか気づかんだろう程度だ。まあ、なんにせよ、俺に任せておけばいい。この俺だぞ?なんの不安に思う必要など皆無だろうが!ふはははははは!!」

「ふふ、そうですわね」

「だろう!ふははははは!行くぞ!」

「はい!」


 殿下と私は、学園側から派遣された騎士達に連れられながら、式場へと行きます。

 上には豪華なシャンデリア、白亜の広場です。ここは式典だのそういったこと以外では、決して使われない神聖な場所です。自ずと緊張感と圧迫感が我々に押しかかって来ます。

 この目には見えないなにかが、これからも続いて行くのです。

 貴き人間が負うべきなにかが、ここに含まれているのです。

 ここを出てしまえば、我々は大人として扱われます。恐ろしいと思うとともに、私は横の殿下のこれからを見れることがとても楽しみでもあります。

 殿下は私を見ず、前だけを見てらっしゃいます。

 それでいいのです。横に立てているだけで十分。

 式は粛々と進んで行きます。殿下は卒業生代表として、朗々と卒業の言葉を読み上げています。さすがの美声です。時折、女性のため息が聞こえてきます。わかりますよ、その気持ち。

 これだけだったら、誰もがため息を漏らすほどの美青年。

 ですが、実態は残念王子……。ええ、思わずため息をついて、残念に思ってしまうのもしょうがない話。存分にかっこいいだけの殿下を堪能してください。


 さて、式は何事もなく終わり、少しの休憩を挟んでからパーティーになります。

 陛下達も式典が終わって、すぐには帰らずに少しだけ出席なさります。ここからが、そう、勝負時。マリナさん!好きなだけかますがいいですよ!全部まるっと治めてみせますともええ!

 ドレスの袖口に仕込みナイフもバッチリですし、父親も買収……いえ、納得させ済み!もう今日でマリナさんは、我が国の令嬢ではなくなるのです。他国で頑張っていただきたい。あなたなら絶対に大丈夫!私は遠くから応援してますよ。

 グッと握りこぶしを作っていると、マノス殿下がやってこられました。

 知らない間に男の友情ができていたらしく、二人はがっしり握手を交わされました。殿下にお友達がまたできたようで、ブリジットは嬉しいです。


「式での口上、実に見事だった!」

「ふははははは!!当然よな!俺の美声をもってして、素晴らしいものにならぬ口上などない!」

「ところで、マリナの件はどうだい」

「それならば、ご安心ください。袖口にナイフも隠してありますし、マリナさんのお父様からの許可もぶんどってあります。さらに、陛下対策はばっちりです!」

「うむ、安心せよ。自分でいうのもあれだが、俺の父上である陛下は無駄に涙もろく感動屋だ。確実にこう言うであろう。「なんといい話だ!こちらで式の費用も持つ!幸せになってくれ!!」とな!」

「女王陛下も、これくらいは「まあ、いいでしょう」という風に反対はなされないはずです。私たちに任せて、最後をかっ攫っていってください!」


 私と殿下に親指をグッとあげられたマノス殿下は、少しだけ足を後ろにずらし「ああ、ありがとう……。ははは」と笑われました。なんで若干引いてるんですか!!

 まあ、いいでしょう。


「それにしても、休憩に1時間って結構あるな」

「そりゃ、女性陣には着替えるっていうものがあるからな。これでも短い方だぞ?なあ」

「ええ、そうですとも!たったの1時間しかないんですよ?わかりますか、男性方!……おほん!とにかく、この1時間のうちに作戦会議です。最終決戦前の事前確認は大事なことです」

「そうだな。とは、いったものの、特になにも確認することなどないのだが……。これも全ては俺が俺たるゆえ、仕方ないことであるがな!ふはははははは!まあ、わかっていないお前のために教えてやろう!」

「いや、結構だ。ちゃんとわかっている。ブリジット嬢が彼女を大人しくさせた後が、私の出番だろう?マリナを攫う。簡単だ」

「簡単でしょうか……」

「ああ、大丈夫だ。これでも、一応は彼女との親交はここで一番あるだろうからな。彼女ははっきり言って、権力と金とイケメンが好きだ。そして、私はイケメン王子だ。もう確実だ」

「そうなのでしょうか……」


 不安しかないのですが、なぜこの王子は自信満々なのでしょうか……。確かに殿下が塩対応だから躍起になってる感はありますが、そんなにあっさりいくものなのでしょうか。不安です、断然、不安になってきました……。

 私が訝しんでいると、殿下がマノス殿下に「俺は散々、周りをうろちょろされたのだが、確実と言われても少し不安だぞ。さすがの俺も人の心は操れん。いや、扇動くらいはできるがな!」とおっしゃりました。

 よくぞ言ってくださいました、殿下!


「もちろん、そちらは不安に思われるだろう。だが、一つ、これを聞けば納得するはずだ」

「ほほう、言うてみよ」

「お姫様になって一生楽しく暮らしたい」

「……」

「まあ……」

「おい、マノス殿、それは……」

「ああ、確実にダメウーマンだ。だが、私は知ってしまったのだ、己の気持ちを!そう!私は、ダメ人間が好みだということに!!この発言を聞いた瞬間、不覚にも、ものすごくキュンとした。ちなみに、今まできちんと甘やかしまくってきた上、彼女は少しバカだ。布石は充分整っている。うまいこと誘導すれば輿入れするだろう」


 私と殿下は、マノス殿下のびっくり発言に若干、いえ結構引きました。

 そうだったのですね、あなた、ダメンズならぬ、ダメウーマンがお好きなのですね……、変わってますね。正直、同盟相手として、ものすごく不安なのですが。


「な、なるほど……」

「マノス殿下……、あの、頑張ってください」


 どう言えばいいのかわからず、とりあえずそう言えば、マノス殿下はにっこりと笑って「ああ、ありがとう!」とおっしゃり、そのまま「では、私も用事があるゆえ。なにせ、父上がやってきているのだ」と出て行かれました。

 そちらの国王もいるとか聞いていませんよ!待ってください!!と伸ばした手も虚しく空を切りました。

 なんというものすごい舞台なのでしょうか……。私は一瞬、気が遠くなりました。


「ブリジット、思った以上に、ものすごいことになりそうだな……」

「そうですね……」

「いや、これくらいは別段大丈夫なのだが、予想に反していたわ。まさかマノス殿がダメ人間が好きとは……、度し難い王子とまでは言わぬが、大分変わっているのは確かだな。俺は、あれが同盟関係者でいいのかと思うぞ」

「ええ……。ですが、マノス殿下は優秀なお方です。そちらは大丈夫でしょう。実生活は別として……」

「実生活……。さぞ、大変だろう。愚王とは言われんだろうが。いや、俺には関係のない話であったな」

「そうですねと言いたいところですが、これから国をお互いに訪問する機会も増えるでしょうから、関係ない話ではないと思います」

「ふはははは……!!まあ、この程度、あれよな、王たるもの人間たるもの、避けては通れぬ道!仕方がない!俺は、その道、まっすぐ進んでやろうではないか!」

「さすが殿下、まさに王道!」

「ふはははははは!!!!王道とは俺のためにある言葉よ!!そろそろ時間だ、マントを持て、俺に羽織らせる栄誉を与えよう!ふはははははは!!!まあ、これからもどんどん着させてもらうのだがな!ふは!ふはははははははは!!!!!!!!そう!!嫁になるのだからな!ふははははははは!!!!!」


 少しだけ赤くなりながら高笑いを続ける殿下に、クロードがそっと近づいて「お時間です」と言い、殿下はご機嫌にうむ!と言いました。

 そして、我々は大舞台に向かっていくのです。

 うまくいくといいのですが……。

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