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 あれ以来、マリナさんは殿下に対して積極的です。食堂でいつも追い払うように睨まれています。困ったものです……。きっと、彼女的にはやっと私が嫌われて、殿下と仲良くできると思っているのでしょう。

 残念ですが、あなたがそうやって積極的に行けば行くほど、見てないところで私と殿下がイチャつくんですよ。主に殿下が疲れて甘えてるだけですけどね。

 それから、最近はやっと同じ知識だけある人物……、クロードと出会った為、今まで思っていたことや不安を吐き出せているので、精神的にも余裕があります。

 だから皆さん、そんなハラハラしないでくださいな。私、本当に怒ってなどいませんから……。


「本当の本当に!なんにも、怒ってないんですか、この状態に!」

「ええ、そうです」

「定位置取られて、離れさせられて、目の前であんな……イチャつくようなの見せられて!?」

「ええ、だって猫が獅子にじゃれつくようなものじゃないですか。虎でも獅子でもないのに、そんな目くじらたてませんわ、私」

「うぉ……、さ、さすが本妻!さすが奥方様です……!」

「あらあら、まだ結婚してませんよ?そうそう、なにかあっても、皆さんにご迷惑はおかけしないのでご安心なさってくださいね」


 そう言うと、生徒は「そういうことじゃないんだけどなぁ」と頭をかきました。

 どういうことなのでしょうか?私が首をひねっていると、彼の婚約者の方が身を乗り出しました。

 まあ、そんなに身を乗り出すと髪がスープに……。あら、婚約者の彼の方がそっと髪の毛を持たれました。仲良きことは美しきかな……。良いことです。


「ブリジット様、そういうことではありませんのよ。私たちは、もちろん、殿下とブリジット様が婚約関係にあって、結婚するものだと思っています。ですが、怒らないところを見ていると彼女をさらに助長させてしまって、他の方に……と不安に思うのです」

「まあ……、そうだったのですね。それは申し訳ないですわ……。でも、怒ると言っても、私も難しい立場でして、私が怒れば彼女は泣き、そして他国から留学してきているマノス殿下が来られるでしょう?かえって面倒になるのではと……」

「たしかにそうですね……。マノス殿下は他国の王子、ここで亀裂が生じれば将来が……。いや、そんな話じゃなくて!確かにそれもありますけど、怒って欲しいという訳ではなく、不安を取り除いて欲しいと言うことなのですよ!」

「そう!そうなんです、ブリジット様!去年は毎日、毎日、殿下の高笑いが轟いていたのに、今はぱったりとなくなり、こう寂しいといいますか……。それに、まあ、これは億分の一の可能性ですけど、もしも、あの彼女が国のトップの妻に……と考えると、もう国をさるしかない」

「要は私と殿下がイチャコラしていれば、その不安は除かれると……」


 そう言うと、二人は口を揃えて「そういうことです!」とおっしゃいました。

 確かに、時折、なぜか不安げに私と殿下を見る方が多いと思いましたが、そういうことでしたのね……。私はてっきり、私が怒ると怖いからかと思っていました。

 最近は、あまり学園で殿下とおしゃべりしていませんし、おしゃべりしていても殿下が高笑いすることが少ないですしね。

 まあ、高笑いしなくなったのは私の鼓膜に嬉しいことなのですが、寂しいと感じる気持ちもわかります。

 この頃の殿下は、寮の王族専用部屋で大いに甘え、大いに高笑いしているので学園では勝手に控えるようにしているのでしょう。

 私はお部屋で高笑いを聞いていますが、生徒は確かに聞いていないでしょうし、寂しく思うのも当たりまえ。

 そうであれば、このブリジット、今日は殿下に高笑いをあげさせて見せましょう!

 グッと握りこぶしを作った私に、お二人はとても不審そうなお顔をされていました。急にグッとしましたからね、確かに不審ですね。

 私は言い訳のように「いいでしょう……、きっと、今日中に殿下を高笑いさせてみせます!いえ、今すぐに!」と宣言しました。

 すると、お二人は「おぉー!!さすが、本妻!奥方様!ブリジット様!よっ!さすが国一番!」とやんややんやと騒ぎ立てました。

 照れますね、そんなこと言われると……。

 まあ、まんざらでもないのですがね!

 私は、給仕の方に手紙とペンを持ってくるようにいい、渡された手紙に殿下が思わず高笑いするような内容を書き連ねて封を閉じました。絶対に高笑い間違いなしです!

 私は、自信満々に手紙を持って、椅子から立ち上がりました。

 本当はお食事中に立ち上がってはいけないのですよ?ですが、今回は大目にみましょうじゃありませんか、これも生徒たちの不安を取り除くために必要なことなのですから!

 私は、かつかつと靴を鳴らして殿下のお側に行きました。殿下はすぐさまこちらに顔を向け「ブリジット!」と喜びました。

 ええ、ええ。最近は食事中に会話をしませんものね。


「どうした、ブリジット?食事はどうしたんだ?」

「いえ、その……」

「うん?とにかく座るといい。そこの者、椅子を持ってこい」

「いいんですのよ、持ってこなくて」

「そうか?だが、ううむ……。しかし、どうしたというのだ、ブリジット」


 私はオロオロする殿下に、手紙をさっと出して「どうしても読んで欲しいと……」といいました。

 殿下は、私からではないと思ったらしく、少し難しい顔をしたあとに「ありがとう、ブリジット」と受け取ってくださいました。

 私は、にっこりと殿下に微笑んで「それでは、お食事を続けてくださいませ」と自分の席に戻っていきました。

 戻ってきた私に、お二人はあれだけ?という顔をされました。

 ええ、これだけで十分。あの人は、無駄にグイグイ行くと、引いてしまう面倒臭い人なんです。まあ、ヘタレですからね、ぐいぐいこられるのが苦手なのは仕方がありません。情けないですが。

 私は、二人ににっこりと笑いかけ、ウィンクをしました。

 それに「一体これからなにが起こるんだ」とお二人とその周りの方々は、じっと興味深そうに殿下を見つめています。

 私はお食事を続けます。今日も美味しいですね。特に野菜が新鮮で……。

 殿下は手紙を開けて、内容を読んでいます。

 最初は訝しそうに見ていたのですが、だんだんと私が書いたのだとわかったようで、バッと手紙から顔をあげて、私を見ました。私は、肯定の意でにこりと微笑みました。

 すると殿下は、ふはっと息を吐いて、ニヤニヤし始めました。さあ、いつでも高笑いをするといいでしょう!

 私と殿下が見つめあっているので、マリナさんは不機嫌そうです。すみませんねえ、生徒が不安がっているものですから。

 最後まで読みきった殿下は、耐えきれなかったようで「ふは!ふはははははははは!!!ふははははははは!!!!」と高笑いをされました。あれで声も枯れず、咳き込みをしない殿下の喉はすごいです。そういうハイスペックさを他に回して欲しいですね。

 そして、そのまま、殿下はそのハイスペックな喉を使って、座ったまま私に向かって「さすがは俺の最愛よな!ふはははははははは!!!!!!」とよく通る大きな声でおっしゃいました。


「ブリジット!!お前は実に愛い!!さすがは俺の嫁!俺の太陽!俺の天使!!このいじらしさ!この謙虚さ!実に愛い!ふははははははははははは!!!!今度、食事に行くぞ!また二人きりでな!ふははははははは!!!ドレスを選んでおくといい!!ふはははははは!!!」

「殿下!私も、一緒にお食事が……」

「食堂で一緒にしているだろう。それよりも、ブリジット。なにが食べたい!」

「私は久しぶりにカフェでお茶をしたいですわ」

「それもいい!では、気軽な格好を……、いや、この間、送ったワンピースがあったであろう!それを着てくると良いぞ!なぜならば!それに合わせて俺もスーツを買ったからな!ふはははははは!!!!夢見ていた学生デートのようだな!ふははははははは!!!!カフェを抑えるのは任せておくがいい!」

「まあ、さすが殿下。頼もしいですわ」

「ふははははは!!!そうだろう!そうだろう!!この世界において、一番頼り甲斐があり、頼もしいのは、俺だからな!天上天下において当たり前の理よ!どーんと頼るといいぞ!どーんとな!!」


 そう言って、殿下はガタッと椅子に座ったかと思うと、話しかけるマリナさんを無視して、猛然とランチをかきこみ「では!俺はカフェを抑える準備をしてくる故な!このような健気な願い、この俺が叶えないわけにはいかないからなあ!」と高笑いと共に去っていかれました。

 私はそれを見届けた後、睨んでくるマリナさんに微笑んでから、周りの方にも微笑んで「ね?高笑いされたでしょう?」といいました。

 周りの皆さんとあのお二人は「これだから殿下とブリジット様は……」と、苦笑いを浮かべていました。

なぜです。ちゃんと、高笑いをあげさせてみせたのに……!


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