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 今日はついに学園祭です!

 みなさんの頑張りがここで披露され、様々な来客の方々も楽しまれるのです。

 来るのは両親兄弟だけでなく、国の貴族たちもやってきます。

 なので、皆さん、学園祭になると家族に恥をかかせないため、あるいは自分の将来のため、いつも以上におしとやかに常識的に行動し、発言なされるのです。

 失敗すれば、学生だからと笑って許される部分もありますが、そうでない方が大概です。私たちは、子供ではなく、小さな大人として接しられているのです。

 私は未来の殿下の花嫁とあって、一時も殿下から離れる時間はありません。

 我々が主催ではないのですが、王子として、生徒会会長として来客の方々の接待があるのです。もちろん生徒会としての見回りもありますが、それ以外はほとんど接待です。

 私と殿下が、中庭の広場で様々な方々とおしゃべりしていると、不意に入り口の方からざわめきが起こりました。

 多分、陛下と王妃様がいらっしゃったのでしょう。

 そしてその予想通り、お二人がやってこられました。

 私と殿下は周りの方々に一旦、失礼を申し上げて、殿下と共にお側に伺いに行きました。

 いつもよりも軽装なお二人は、私たちを見て、ニコリと慈悲深く笑われました。


「陛下、並びに王妃様、ようこそお越しくださいました」

「うむ。今年も良い学園祭になっているようだな」

「はい、喜ばしいかぎりです。殿下が主導となってやられたのですよ。新しい催しもありますの、お時間さえあれば、どうぞ、見て行ってくださいませ」

「ええ、それは素敵ですね。ぜひ見に行きましょう、陛下」

「そうだな。どれ、案内してくれるか、ディミトリ」

「もちろんです、陛下。こちらです」

「して、どのような催しだね?」

「毎回、騎士を目指している若者が必ず数十名はいますので、模擬剣闘に剣舞を交えた英雄譚の演劇を」

「なるほど、それは面白いな。今年も夜は出てやれないが、しっかりやりなさい」

「はい、もちろんですとも、陛下。俺を誰だとお思いで?王になれば、天下に名を轟かせるであろうあなたの息子ですよ。それにブリジットもいます!」

「ひゃっ……!急に抱きしめないでください、殿下」

「ふはははは!愛奴よな!そんなわけで、陛下、心配ご無用!」

「そうだからむしろ心配なのですよ、ディミトリ!」

「あいて……!母上、なぜです!俺のどこが心配だというのです!完璧すぎて、不安になるのはわかりますよ!完璧すぎて、つい「あれ?うちの子完璧すぎない?やばくない?」ってなるのもよくわかります!しかし!ここは、俺を信じていただきたい!」


 その発言で、さらにナイーブになったらしい王妃様は私の肩をギュッと掴み「あなただけが頼りです!しっかりとこのバカ息子をよろしくお願いしますよ!」とおっしゃいました。

 わかっています。バカが暴走しないように手綱、しっかりと握ってますわ!

 私は、王妃様の手をしっかりと掴み「お任せください。馬の手綱を握るのは下手でも、殿下の手綱を握るのは得意ですので!」と宣言しました。

 それにホッとした王妃様は、さらにガッシと私の手を握り直して「なんと力強く、信頼でき、頼れる言葉でしょうか!だれかさんとは大違いね……」と陛下を一瞬睨んでから、そうおっしゃいました。

 お二人とも、ここは公共の場、学校の廊下です。夫婦喧嘩と陛下の威厳を失わせることはおよしになってください……。

 しかし、その思いはもろく崩れ去りました。


「いや、私も結構やってると思うんだが」

「どこがよ……。国民からは頼れる国王として写ってるみたいだけど、私からしたらあなたなんて情けないカエルの王様。うじうじうじうじ悩んでズバッと決められないんだから。ディミトリの名前の時だってそうだった」

「名前は重要だろう?!」

「はあ?それで二週間も三週間も悩んでりゃ、世話ないわよ。何言ってんの」

「君って奴は!君って奴は!!そういうところがいいと思うけど、もっと言葉を選びなさい!」

「選んで言ってますわよ、何言ってんの?」

「……はい、僕の負けです。君の勝ち、それでいいだろ?はあ……、ディミトリは確実に君に似たんだね、色々と」

「色々ってなによ、色々って」


 睨みつける王妃様は、確実に肝っ玉母ちゃんの顔をしています。ああ、王妃様、対外用のお上品な皮を今すぐおかぶりください!

 私が横で内心ハラハラしていると、両親の喧嘩には慣れっこな殿下が「気にしなくていいぞ!」と耳打ちしてくださいました。

 それから、喧嘩をしているお二人を放って、私にクレープを買ってくださいました。

 もぐもぐ食べながら、筋肉質な御貴族子息たちの演劇を見、ついでに陛下から面白かったという言葉をいただき、殿下は鼻を伸ばしました。あと1センチ伸びたらへし折らなければいけません。

 そうして、ほんの少しの間ですが、楽しんだお二人は私たちに激励の言葉を残して帰って行かれました。

 さすがは陛下と王妃様、嵐のようです。主に夫婦漫才のような掛け合いが……。いえ、なんでもありません。きっとお腹が減っているせいで口が滑ったのです。おっと……。

 私と殿下が同時にふうっと立ったままですが、一息そっとついた時、前方から役員の1人の方が「会長ー!奥方……じゃねえや!あの、ブリジット様ー!」とかけてきました。

 まだ結婚してませんよって、毎回言ってるのに不思議ですね。


「ああ、やっと見つけた!」

「なんだ、問題か!俺がみまわらぬと、気が緩むようではいかんぞ!」

「いえ、そんなわけあるわけないじゃないですか!」

「ふははははははは!そうだろうな!むしろ、俺がいないから、気を引き締めまくって失敗したか?」

「違いますよぅ!まず、話を聞いてくださいよ!」

「うむ、言ってみるがいい。俺が口を挟まない間にな!ふはははは!!!」

「……はい。ええと、休憩の時間です。別室を特別にとってあります。そこにご飯の用意もありますので、お二人で」

「そうか、ご苦労。それでは行こうか、ブリジット」

「はい、殿下」

「あ、案内しますね!そうそう、お部屋にクロードがいますよ」

「そうか、ならば今日のデザートは豪華になるな」

「そうですわね。あなたはお食べになられたの?」

「もちろんです!僕らの方が先に食べ終わってないと、殿下、多分、急いで食べまくるでしょうからね」

「ふはははははは!!!わかっているではないか!!だが、今日は、貴様らが早く食べようが食べまいが、俺はさっさと食べ終えるぞ!この日をお前らは失敗したいか?否!したくないだろう!」

「いやあ、でも、さすがに僕らも会長がいなくても、できるようにならなくちゃならないと思うので、今回は僕らのためにゆっくりしていただけませんかね?ほら、僕らがたとえ失敗しても、会長ならきっとなんとかしてくれるでしょう?」


 そう言って、ちらっと彼は私の方を見ました。こう言っておけば、殿下はゆっくり取ってくれるだろうという考えの元ででしょう。

 しかし、残念ながら殿下は怒気を発しながら高笑いをされました。

 多分、言っていることが噛み合い、一筋になっていない、道理の通っていないからでしょう。

 殿下は、筋が通ってないとなるとキレる面倒臭い方なのです。


「ふざけるなよ、貴様!言っていることが通っていないではないか!確かに今回は俺が上に立っている。責任も取ろう。だが、貴様は、自分たちのために、自分たちだけでできる時間をくれと言った。そうであれば、その失敗も己のものとして処理するのが通りであろうが!」

「は、はい!そうであります!はい!」

「それを、俺がどうにかしてくれるだとぉ?!甘い!気持ちが甘い!俺がいなくなってしまう事を想定したことを言っているのに、最後は甘えがある!そんなことで、この先があると思うのか!ないだろうが!俺は今年卒業するのだぞ!お前らのような貧弱な精神の者共でどうする!」

「はい!確かに会長は今年で卒業……。僕らも、会長のようにと頑張っているのです!ですが、ついつい甘えたくなってしまう……。反省であります!」

「当たり前だ、馬鹿者!!だが、今年いっぱいは、少しだけなら甘えも許す」

「会長!!」

「だが、自分の言ったことはやり通せ。俺は、これからの食事を2時間かけて終える。その間、無事にやってみせよ。期待しているぞ」

「はい、会長!!では、良いランチを!!」

「ふはははははは!!!言われずとも!では、行くといい!自分たちでやってみせろ!最後の責任は俺がとる。2時間いっぱい己らの力でやってみせよ!」

「はい!ありがとうございます!」


 ペコっと彼はお辞儀をして、駆け足で去っていきました。

 なんだかんだで、優しい殿下です。

 やれやれといった風に不敵に笑った後「では、食事をとって、ダンスパーティーまでゆっくりするか」とおっしゃいました。

 そういえば、今、16時でしたわね。そりゃ、お腹も空きますわ。

 ダンスパーティーは18時から、その後、20時まで続きます。一応、終了は20時ですが、それは来客も含めての時間。

 生徒だけのダンスパーティーは特別に22時まで続くのです。そこで、みんなしてこの祭りの成功を喜びあうのです。それから、飲んで騒いで若者らしく楽しむのです。

 そこでは、ロマンスが起きたり、映画のような物語が生まれ始めたり、終わったり、素晴らしいひとときなのです。それはもう素晴らしい……。

 そして、イベントの時間でもあります。

 そう、この学生だけになった時間に、悪役令嬢がヒロインのドレスにワインをひっかけ、こけさせるのです。ここで悪役令嬢は本当の悪役令嬢になり、万人に嫌われ始めて行く……。

 転落の始まりです。

 ここでどの人のルートになるかが、決まるわけです。まあ、どのルートになったところで、悪役令嬢は婚約破棄をされるのですが……。

 まあ、多分、私には関係ない話でしょう。

 だって、ワインをひっかける気も、こけさせる気もありませんし、もしも、ひっかけてしまったとしてもキチンと謝って、謝りの品を渡しますから。

 でも、イベントは今までことごとく起こっていますし、きっと、起こるのでしょう。なんとも面倒ですが、ここは腹をくくらなければなりません。きっと、他の方の尽力もあるでしょうし、大丈夫です。そう信じましょう。


はあ、憂鬱です……。

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