砂漠の無駄な3時間
―実は嘘、そして本当の初戦は誤情報―
「何て事があったら....」
と私は銃を片手に無駄に長い嘘話を頭の中で考えていた。
そう、全て妄想なのだ。
仕方ない。
こんなくだらない妄想をしてしまうのは今、私が置かれている状況が全て悪い。
とてもじゃないが妄想でもしてないとやっていられないのだ。
何処にいるかというと、現在私は砂漠のど真ん中で身を伏せ、ここ3時間程砂に紛れながら敵を観察しているところだった。
時刻は深夜の2時。
私は両親の出す過酷な訓練を終えてついに初任務の命令を請けたのである。
両親出すの訓練は正直酷かったがそれはまた今度話すとして今は任務に集中する。
任務の内容は敵の殲滅。
事の発端はある国が難民を受け入れ始めた事に始まる。
10年程前に難民を受け入れ始めたある国が難民の住居の確保、それまで見て見ぬふりをしていた食料問題、国の治安など様々な問題に改善策を練り始めた。
その国は今まで弱小国で軍事的にも国際的にも全くと言っていいほど影響力が無かった、がしかし難民を受け入れ始めた事により国全体の意識が高まり国民がまともな職につくようにになった。
おそらく難民に職を取られたくないと思ったのだろう。
使えない社員など不必要だからな。
まあ色々あったみたいだが調べていないので詳しくは語れないがここ10年で瞬く間に軍事力を上げ力を持つ様になったのだ。
ここまではまだ問題が無い。
むしろ経済が良くなるのは国にとって良いことだろう。
だがその国にとっては良いことかも知れないが他の国はどうだろうか?。
そうだ、この瞬く間に発展した国を良く思わない連中もいたのだ。
その中に今回の主犯が存在する。
主犯は難民を出していた国だ、この国は元々はとても良い国だったが現在はあらゆる宗教や思想が渦巻き取り返しがつかなくなっていた。
勿論、多宗教が悪い訳ではない分かりあえればどうと言う事はない。
がこの国の国民は自分の信じる神を疑わなかった。度が過ぎた信仰心が原因で他信教を罵倒し
、呪い、恨み始めた。
結果的に宗教対立が生まれ、小規模な争いに発展しいつしか内乱に発展した。
内乱が生まれた事により国民は政府への不信感をつのらせた、何故放っておいたのかと。
やがて国の各地でデモが起きるようになり、内乱にの原因の宗教が名前を変え、デモの中心的組織となった。
国民は政府を批難し、今の政治を変えるため大頭領を暗殺する計画を立てた。
そしてすぐ大頭領は暗殺されデモの中心的組織となった宗教団体が国の長となったのだった。
面白い事にこの宗教団体は経済が良くなり国の治安が良くなった国を妬み始めた。
そして経済が良くなった国に戦争をしかけたのでした。
めでたし、めでたし。
と言いたい所だが私はめでたくない。
まあ2つの国が戦争を始め、現在進行形で人が死にまくっていてこちらとしては好都合なのだが、その被害が砂漠の民にも及び砂漠の民から救援要請と戦争の速やかな終息を依頼されたのだ。
そして今、私は砂漠のど真ん中で砂に紛れながら敵を観察しているのだ。
もう3時間もこうして砂に伏せているので身体が痛い。
おまけに髪の中や服の中に砂が入り込み気持ちが悪い。
汗もかいてベタベタするしお腹も空いてきた。
イヤホンをしている耳の穴が蒸れて痒くなってきた。
「さすがにキツい.....」
つい独り言が口に出る。
何もしていないとこんなにも暇だったなんて初めて知った。
どうしようもない妄想が頭の中をぐるぐると飛び交う。
今度は鳥になった話でも考えようか?
などと考えている時、
観察している建物に人影の様なものが見えた。
スコープを拡大し見やすくする。
男だ髪が長くパーマーがかかった陰毛のような髪質に見える、暗くて上着の色は良くわからないがおそらく黒だろう。
ズボンは多分茶色で鞄の様なものは持っていない。
男はゆっくりと近くに停めてある黒い車に近寄っていく。
人と会うのだろうか?
私は男が近寄っていく車の中に人がいるか確認をする。
女性?が一人運転席に乗っていた。
夜だというのにサングラスをかけ長い髪をナルシストに左手でかきあげている。
女性が男に気づくと、笑顔で手を振り男を車内に入れる。
男女はなにか話しているのだろうか、嬉しそうに会話をしている。
二人は数分間そうして会話を楽しんでいた。
「さすがに見飽きた」
あれから特に変わった様子もなく相も変わらず
楽しげに会話をしている、二人は恋人なのだろうか、そんな事を考えていると。
男がいきなり女性を押し倒す。
まさかと思い私は銃の引き金に指をかける。
女性はびっくりした様子でじたばたした後、抑えつけている男の顔を見つめる。
男は女性の顎に手をやり.....。
後の事は言わなくて良いだろう。
車が上下に揺れている。
何を真剣に見ていたんだと自分の頭を叩く。
気分が悪くなりぼーっと夜空を見つめる。
「あーベリメリアさん、聞こえますか?」
唐突にイヤホンからナレーターばりの良い声の女性が話かけてくる。
「聞こえます」
私はイヤホンをつけていない耳を抑えてイヤホンから聞こえる良い声に耳を傾ける。
「申し上げにくいのですが、今回の観察対象、宗教団体と何ら関わりが無いようです」
とにわかに信じられない事が告げられる。
私は無言で夜空を見上げる。
遥か彼方に聞こえるようなショック度、話が頭に入らない。
私は全力で銃を砂の上に叩きつけ行き場のない怒りをぶつける。
結局私の初戦になるはずだった任務は、誤情報で宗教団体の長は別荘で優雅にくつろいでいたらしい。
私の無駄な3時間、返せこのやろう。