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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
一章 憧れは、憧れのままが一番幸せって話
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9.チサの正体とマンゴスチーンの今後の予定

「どうして言ってくださらなかったの? どうして今まで黙ってらしたの? 私が魔女の血を引いていて、私が魔法を掛けたって」

 チサがサイゾーに詰め寄って、責めるように言った。

「そんなこと、母さんもばあさんも言いたくなかったのさ。お前が傷つくようなこと」

 サイゾーは目をそらして、絞り出すように言った。サイゾーの苦しい胸の内が分かって、マンゴスチーンは胸がきゅうっと痛くなった。

 自分には子供なんてもちろんいないんだけど、その気持ちは、よくわかる。

 そう思って、苦しくなった。

「‥」

「元々は、ばあさんがお前に魔女の血を引いていると気づかせたくなかったんだろうよ。母さんに孫に自分が魔女であることを内緒にして欲しいと頼んで山に隠れたんじゃ。家族にも金輪際会わないと。だけど、母さんはばあさんのことを気にかけてよく山の洞窟に様子を一人で見に行ったりしていた。お前が、魔女と友達だと思ったのはそのせいだろ? 」

 チサが黙って頷いた。

「お母様も言ったの「お母様の友達だから」って「子供が苦手な人だから」だから、連れて行けないのよって」

「だけど、言っておけばよかったんだ。ばあさんたちが余計なことを考えたのが悪かったんだ。結果、気付かずにチサは魔法を使ってしまった」

 サイゾーが俯いて「ばかなことを、ばかなことを‥」と繰り返し呟いた。マンゴスチーンは何も言えずに、ただそれを見守るしかなかった。ただだまって、サイゾーの肩を支えた。



「どうすればいいの? 私‥」

 涙で潤んだ目で、チサがサイゾーを見る。しかし、その眼の奥には強さがあった。

「チサは悪くない」

 と、しかしサイゾーの態度は一言でいうと煮え切らない。

 チサの目を見ようともしない。

 チサの目が険しくなったことで、マンゴスチーンはそれに気づいた。

 ‥ん? なんだ?

 マンゴスチーンは視線を落として、サイゾーを見た。

 やっぱりサイゾーの表情がどことなくおかしい。

「チサは、悪くない。わしが何とかする。わしには‥わしとマンゴスチーンがいれば出来る」

 もう一度繰り返した。

 ‥なにが?

 何をしようというんだ?

「あの悲願は可能だ」

 ‥いや、あれは関係ないって話じゃなかったか?

 見ると、チサが怒りでプルプル震えている。

 そこで、マンゴスチーンは今の状況を整理してみた。

 チサは悪くない。それは、チサは自分が軽々しく何かを言ってはいけない立場にあることを知らなかったから。だから、子供らしいことを言った。

 そして、結果、魔法はかかり、チサの母親はネコになった。

 解呪方法は「サイゾーが魔女に謝る」か、「一日で七つの国全部にメロンを売りにいく」

 そして、今回の「魔女」は「チサ」だ。

 そして、サイゾーは「チサは悪くない」と言っている。つまり、自分が悪かったことを認めている。

 認めているならば、彼がすべきことは

 ‥謝罪だろう。

 それで解呪出来るかどうかは分からないが、するべきであろう。

 だのに‥

「お父様‥」

 チサの目が厳しいを通り過ぎて、やや呆れた様な目になっている。

「いや‥。うん‥」

 そして、それに対面しているサイゾーをマンゴスチーンは、視線を落としてもう一度見た。

 ‥目が泳いでいる。

「お父様‥」

 そして、チサのさっきまでの呆れた様な目が、だんだん潤み‥大粒の涙が溜まってき始めたのを見て、サイゾーは初めて、

「悪かった! 悪かった! 」

 焦った。

 伝説のドラゴンマスターも娘の涙には勝てなかったらしい。

 

 そして、大きく息を一つ吐くと

「‥悪かった。チサ。今まで放っておいて」

 サイゾーがそっとマンゴスチーンから離れると、チサの前に立ち、改まって深々と頭を下げた。

 マンゴスチーンは、感動して涙を流している自分に気付いた。

 サイゾーの優しいウソに涙が出た。

 チサが魔法を使ったことを、チサに知られたくなかったから、チサの嘘に気が付かないふりをしたこと。

 そして、もう一つの条件をクリアーするほか無かったこと。

 なんて家族愛だろう。

 ‥ただ、さっきまでの茶番は何だったんだろう? 

 とは、思った。


「あ、お母様! 」

「ネコちゃんがお母様に戻った! 」

 洞窟の方で歓声が上がり、その後にモモ達の明るい声が聞こえた。チサは頷くと

「これからは家にいてくださいますね? 」

 涙を拭いながら微笑んでサイゾーに言った。サイゾーがにやっと笑う。

「いや。折角弟子も出来たし。あの悲願はわしに第二の生きがいを与えてくれた。これからも、あれを目標に頑張るつもりだ」

「え! 」

 驚いてサイゾーを見るマンゴスチーン。サイゾーは呆然とするチサの両手を取り

「チサ。ありがとう。生きがいを与えてくれて! 」

 晴れ晴れと笑った。

「まだやるのですか! 」

 驚いてチサが叫ぶ。

「これからはマンゴスチーンも一緒にな! 」

「ええ!? 」

 ごめんこうむります!

「折角連れてきたんだ。それをみすみす返すのは、わしの流儀に反する」

「‥‥‥」

 ‥そんなこと言われても‥。

「そうだ。お前、チサと結婚すればいい! 」

 がっはっはと、豪快に笑ってサイゾーが言った。胸のつっかえが取れたからか、本当に心から嬉しそうだ。

「え! 」

 予想外の話の展開に驚いたのがマンゴスチーンだった。真っ赤になってサイゾーを見た。

「嫌じゃないだろ? 」

 にやにやとマンゴスチーンを見る。「お前の態度はバレバレだ」というような表情だった。

「嫌じゃないですけど‥」

 さらに真っ赤になってマンゴスチーンは困った様に俯く。

「え! 」

 今度はチサが真っ赤になる番だった。

「お父様! マンゴスチーンさんは王子様なんですよ! 」

 真っ赤な顔のままチサが叫ぶ。

「王子と言っても、どうせ三人目で気楽な身分なんだろ? マンゴスチーンも自分で言っていたじゃないか。私には兄が二人いて、二人がいれば大丈夫って」

 サイゾーはすっかりその気だ。マンゴスチーン達の意見を聞くまでもなく、もうすっかり自分の中で決めている。

「それはそれでしょう!? 」

 チサはさらに真っ赤になってもう倒れそうだ。

「チサは嫌なのか? マンゴスチーンは背も高いしハンサムだし、ちょっと単純だけどいい奴だぞ」

「嫌なんていってませんけれど」

 ぼそり、と言う。

「え! 」

 驚いたのはマンゴスチーンだ。チサを振り返る。

「では、いいじゃない」

 急に知らない声がして、全員が振り返ると亜麻色の髪の女性が立っていた。サイゾーと同年代の女性だった。

 まさか

「お母様! 」

 チサがその女性に駆け寄る。チサとよく似た顔の女性だった。緑色の瞳の色も同じだ。そして、それは確かにあのネコの瞳の色とも同じだった。

「ごめんなさい! お母様。私のせいで、全部私のせいで! 」

 わっと泣き出して、チサが母親に抱き着いた。母親がチサの背中を優しく撫ぜる。

「いいのよ。楽しかったし。ちょっとできない経験よ? ネコになるなんて。それに、ミラクルメロンも出来たし。世の中どう転ぶか分からないからおもしろいわよね」

 ハナがからからと笑う。

「ごめんなさい。ごめんなさい! 全部私のせいなのに、私何も知らなくて! 」

 なおもチサは泣きじゃくる。妹たちは何の事だか分からなくぽかんとしていたが、モモが

「なんだかよくわからないけど、お姉様は悪いことはなんでも自分の責任だって考えるんだから。そういうところ、駄目よね」

 と、チサを慰めた。チサが泣きながらモモを見る。モモがチサに微笑みかける。昨日マンゴスチーンと話した時は、内気に見えたけれど、今姉妹と話すモモの表情は明るかった。

 ‥ただ、恥ずかしかっただけなんだな。

 マンゴスチーンは思った。そして、モモが

「これからは、お姉様も幸せになって。ね。ミチの面倒は私がみるから」

 と言った時には、少し感動した。

「ミチ、自分で何でもできるよ! 」

 ミチがむきになって叫ぶ。

「ふうん」

 モモがミチをちらっと見る、ミチがそれを見てまた怒る。そんないつもの光景を見て母親が笑う。モモはいつも特に妹のミチに何も言わないのに、ミチにはかそれがかえってモモに馬鹿にされている様に思ってしまうのだ。歳の近い姉妹にありがちな光景。そういうのが、チサにはなかった。

「そうよ。チサ。私、本当に嬉しかったのよ。あなたが、子供らしい悪戯を考えついたことが。何となく、いつも我慢して子供らしくないところがあったから。だのに私、いつも、悪いなと思いつつ、つい甘えちゃってた‥」

「そんな‥」

 眉を寄せるチサに、「ふふ」っと笑いかけてハナが、チサの頭に手を置く。チサの方が少し背が高い。

「いつの間にか、身長も抜かれちゃったわね。五年か‥」

「ごめん‥」

 また謝ろうとするチサを皆が止める。

「見てなかったわけじゃないから」

 ハナが満面の笑顔で言う。そして

「おめでとう、チサ」

 と言い、マンゴスチーンを見る。マンゴスチーンが慌ててハナに頷く。常に穏やかな表情をしているマンゴスチーンだが、慌てることもあるのだと、ミチたちは何だか嬉しくなって、また親しみが増した。

「おめでとう! お姉様! 」

「マンゴスチーンと仲良くね! 」

 モモとミチもマンゴスチーンを見る。

「でも、夫婦喧嘩には気を付けて。魔法を掛けられないようにね」

 ハナが、いたずらっぽくマンゴスチーンに笑いかけた。

「え! 」

 と、絶句するマンゴスチーンだった。

 っていうか、何だこれはーー!?

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