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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
五章 サイゾーの使命
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9.隠したいのは、「誰か分からなかった」ということ以前に「いることに気付かなかった」ことです。

チサは改めて、マカデミアを見た。

 ‥なんて可愛い‥。

 背が小さくて、華奢で色白。大きな若草色の瞳、背中を超す刈り入れ前の麦の穂の様な、真っ直ぐで艶がある金色の髪。

 黙ってたら、まるで人形の様な彼女だが、

「見かけ通りじゃない」

 彼女を知る人は、みんな口を揃える。

 恋愛感情に淡泊で、強気、頭がよくって、明るくって、しっかりしてる。

 人に頼るってことなんてしない。人に甘えることも勿論しない。

 口数も少なく、必要最小限のことしか話さない。愛想もいい方でもない。

 だけど、礼儀正しくって、お年寄りや子供にさりげなく優しい。ホントに、さりげない。

 お礼を言われてにっこり、なんてタイプでもない。

 不愛想な顔をちょっと赤らめて

「別に」

 とか。

「そうか」

 とか。

「いや、いい」

 とか。

 マカデミアはそんな感じで、表情も分かりにくいし、口数が少なくないし、理屈っぽくて、お世辞にも「癒し系」とはいえない。今まで恋人にしようとアプローチしていた村の若者も、成長と共に「結婚相手という対象には見れない‥」と一人減り二人減りしていった。

 そんなこと、だけどマカデミアには関係のないことだった。


 ‥やっぱり、マンゴスチーン様も、‥ああは言ってもやっぱり気になったりするんだろうなあ‥。だって、こんなに可愛いんだもの‥。


 胸がチクリとするチサの横で、

「わー! キレイ! お姫様みたい♡お姉様よりずっとキレイ♡」

 姉のこころを測ろうともしない、モモとミチがうっとりと叫んだ。

 ‥お姫様‥。

 王子様なマンゴスチーンと、お姫様みたいなマカデミアさん‥。

 ちくちくするこころを見られたくなくて、マカデミアの方を見られないでいる。

 マカデミアは、チサの前に立っている。

 褒められて、マカデミアはちょっと首を傾げた。後姿のその様子は小動物みたいで可愛かったんだけど、彼女がどんな顔をしているかなんて、チサには見えなかった。だけど、

「そういうこと、言うもんじゃないわ。そもそも、外見がキレイなんていうのは、私が好きな評価ではないわ。見た目なんていうのは、ただの見せかけでしょう? 」

 彼女の声は、少し不機嫌にも聞こえる位平坦で、‥感情がこもっていなかった。

 少し低めの落ち着いた、でも、はっきりとよく通る声。

 彼女のしっかりした人柄がそのままにじみ出た様な声。

「見せかけ?? 」

「どういう意味かかわからない‥」

 マカデミア独特の価値観論や読めない表情は、素直で単純明快で、表情豊かなミチを大いに困惑させた。

 モモは、「見せかけって‥魔法でも使ってるのか‥?? 」とぶつぶつと口の中で反芻している。

 そういった魔法があるのかどうかは知らないが、‥この世界には、魔女がいて、自分の祖母が魔女らしいという事は聞いている。だからそういうことも‥あるのかもしらない。何も、「猫になる」だけが魔法では無いだろう。

 では、この子も‥魔女??

 絶賛混乱中だ。

 二人を見て、ふふ、と笑うと

「悪気はないんだ。マカデミアは『そういう人』なんだよ。無表情なのも怒ってるわけではない。ただこういう人なんだから仕方がないんだ」

 マンゴスチーンがミチに説明した。

「ふうん? 」

 ミチは納得しかねたようだったが、取りあえず頷いた。

「マンゴスチーン、マカデミアのことまだ好きなの? 」

 絶賛混乱中のモモが、首を捻りながら何の気もなく聞いた。

 ‥マカデミアの事理解できてるんだね⇀やっぱりまだ好きだから?

 という安易な質問だ。

 ‥チサがいるのにその質問はまずいだろう。

 ひやりとしたのはココと家職人たちだけで、マンゴスチーンは何にも気にしていない。

 ‥もともと、とにかく鈍いんだ。

「そうだねえ。マカデミアのことは今でも好きだよ。だって、幼馴染だしね。でもね。昔の好き、と今の好きの基準が変わったんだ。昔は、それこそ外見だったり、話が合うとかいうことが「好き」だったんだけど、今の好きはもっと、空気みたいなものなんだ。一緒にいて当り前‥というか、ずっと一緒にいたいって思う、そういう好きなんだ」

 言葉を自分の中で整理するように、丁寧に言った。

「ふうん。私のドラゴンみたいなもんだね」

 ミチが真面目な顔で頷く。

 話が悪い方向に行かなくてよかったと、ココたちは、胸をなで下ろした。

 特に、常に一番近くに居たココは、心配性というか、マンゴスチーンが何にも考えないのをフォローするように、昔からやたら色々なことに気をまわして来たのだ。

「そう言う好きが、人間じゃないんだったら、ま、無理に結婚をしなくたっていいってことだね」

 ミチが朗らかに笑うと、マカデミアがちょっとほんのちょっと笑ったような気がした。

 ミチもマカデミアに笑い返す。

「私も結婚とかいい‥。お父様たちみてたら、結婚ってどうなんだろって思っちゃって‥」

 そんな二人に頷いて、モモもげんなりした顔をした。

「お父様たち見てたら、ってどういうこと? 」

 チサが「え? 」って顔でモモを見た。「モモには、お父様たちがどんな風に見えてるんだろう? 」気になって仕方がない。

「だって、お父様は凄いけど、なんかお母様と一緒に居たら影が薄いじゃない」

 「ああ」「そういえば」って空気が周りに広がる。マンゴスチーンは、なんとなく気まずくってサイゾーからあからさまに目を逸らす。これがマンゴスチーンなりの気遣いらしいんだけど、わざとらしくてかえって気になる。

「‥」

 やっぱり気になったサイゾーも微妙な空気になってしまった。


「この家は代々男の影が薄いんだよ。だけど、それでうまいこといってるからいいんだよ」


 見知らぬ老人がにこやかな顔で話を締めくくった。

「何のフォローにもなっとらんよ」

 サイゾーが肩をすくめる。

 周囲に「え? 知り合い?」「ってか、いつからいたの? 」という、聞くに聞けない空気が漂う。

「チサのじいさんじゃ。さっきからいたぞ」

 サイゾーが説明した。

「え!? お祖父様?! 」

 チサにしたら、会ったことのない祖父だ。分からないのも無理はない。

 ‥しかし、いたことに気付かなかったかのは、まずい。

 せめてこちらを隠したいと思った。

 チサの祖父は、気付かれないことに慣れているからそんな事気にしない。にこやかに

「ええと‥この中だったら、そこの君なんかが将来僕のようになるよ」

 視線の先には、トール‥ではなく何とトールの兄貴分のオウル。

「ええ!? 」

 オウルが叫び、一同から爆笑が起こる。


 オウルは、その後モモと結婚して、本当に『予言通り』影の薄い父親になるのだが、それはまた後の話。

 マンゴスチーンの家は、その後出来上がったのだけど、サイゾーの家の居心地がよくって、結局今でもそこに住んでいる。洞窟の奥の隠し部屋も居住スペースにして、ベッドは今では全員分揃っている。

 ベッドは

「この方が、だいぶ涼しい♡ 」

「起きるのが、楽だ」

 と好評だ。

 家具職人を帰すまいとする引き延ばし作戦が、意外な結果につながったという話。

 そして、今でも家具職人は島にいる。オシャレが好きなサティは、サイゾーの買い出しに同行させてもらって、たまに新しい服を買って来たりしている様だ。

 トールは家づくりの仕事がないときは、パン屋のおばさんのパン作りを手伝い始めた。山で採って来た木の実を入れた新作パンが好評だ。ハッチは相変わらず釣り三昧だ。この頃では友人となったサドさんと一緒に小舟で釣りに出ることもあるらしい。 

 マンゴスチーン手作りの新居は、モモの研究所として使われている。魔女を引退した大魔女と魔法の秘薬作りに夢中なのだ。オウルの植物の知識も材料探しに一役買っている。

 ミチはサイゾーたちとドラゴンに夢中で、毎日真っ黒になって空を飛び回っている。マンゴスチーンは、本格的にドラゴンマスターになることを決めて、日々サイゾーに鍛えられこの度、初仕事に出るらしい。

 依頼主はサイゾー。七の国の王様にサイゾーのミラクルメロンを届ける仕事だ。

 チサはメロンつくりを本格的に手伝いはじめた。今では、マンゴスチーンの参加によって輸送量が増え、ますます忙しくなったメロン栽培の重要な人手となっている。

 ココは、両親とマカデミアと毎日牧場仕事に精を出して、来年の春にはお父さんになるらしい。料理上手なマカデミアがチーズやバターで作った料理を出す食堂は、五の国から毎年来る観光客(?)にも人気だ。

 その際のお代は、勿論生活用品。物々交換制度は健在だ。

 今後は家職人たちが、レストランや宿も作っていく予定だ。(やっぱり仕事をしないと腕も訛るし、腕が上がらないからね)賄い付きの新しい仕事場に、職人たちは大満足だ。

 今では、ミチ用に一頭増えたドラゴン四頭が仲良く暮らす、皆憧れのサイゾーの住む国、一の国。


 通称「サイゾー島」は、今日も平和で楽しい島なのだった。


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