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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
五章 サイゾーの使命
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8.親友が今日もネコになってないかって確かめるのが習慣になりつつあります。

 ‥サイゾーめ。このままで済むと思うな‥。

 船の中で大将は歯ぎしりした。そんな大将を部下は冷ややかに見るだけだった。

 やがて、五の国に帰った大将は、部下からの不信任と、この度の失敗の責で、大将の位から落とされるのだった。

 その後も五の国の軍隊は相変わらず、野望を捨てる様子は無かったが、国民はそんな事には無関心で、日々商業に力を入れ、五の国の商人からは世界を股に掛ける大商人も沢山出て来た。

 商人の方が世界に近かったっていう、よくある話。


「ココ、よくやった。すまんかった。剣をお遊びだなんて言って‥」

「マンゴスチーンも」

 ジョセフがマンゴスチーンたちに深々と頭をさげた。

 マンゴスチーンが首を振る。

「剣なんて、使わなければいい世界が一番ですから」

 柔らかに微笑むマンゴスチーンは、やっぱり品があって、美しくって、ジョセフは『ここに居ていい人じゃやっぱりないなあ』と思った。

 そう思ったのは、ジョセフだけでは勿論なかったらしく、ハッチたちにとっては、マンゴスチーンは祖国の王子だったわけで、『‥今までの御無礼お許しください』と、今更ながら頭が上がらない気になった。

 優しく、強く、美しい王子様。

 そして、誰よりも頼りになるサイゾーの意志を継ぐ者。

 そして、その人に友人であると言われ、一緒に過ごしている自分たちも誇らしいように思えた。

 ふふ、とマンゴスチーンの隣に立っていたココが微笑んだ。

 マンゴスチーンは、ココに視線を送ると、ココと一緒にサイゾーの前に立った。

「ただ、心身の鍛錬の為、剣の修行はこれからも続けていきたいです」

「サイゾーさん。よろしくお願いします」

 二人は今まで以上に尊敬のまなざしでサイゾーを見た。

「お願いします、じゃないだろ。自分たちでしろ。一緒にしたいというなら、させてやらんことは無いが、人任せはやめろ。剣なら、道場とやらに通っていたお前たちの方が知っておるじゃろ。わしは、所詮実践慣れしておるだけじゃ」

 サイゾーがちょっとすねたような顔をした。弟子たちが思ったよりも動けていたのを実際に見て、さっきまでちょっと師匠面していた自分が恥ずかしくなったのだ。

 自分と比べて無駄のない動きに嫉妬したりもした。でも、

 ‥まだまだ負けてられんぞ。

 とも思った。


 そのあとチサに、ネコにした敵兵を元に戻さなかった理由についてサイゾーが聞くと、

「だって、条件付きでネコにしたわけじゃないから、戻せないんですもの」

 と、顔を赤くしながら言った。表情は可愛いが、言っていることはえげつない。

 苦笑いで固まり、そっとネックレスのかけらを返す三人。大魔女は豪快に笑うと

「チサは、強い魔力を持っているけれど、まだまだ若いし慎重さに欠ける。大魔女を襲名するのは、まだまだ先だね。大魔女の役目は二の国の長老魔女に譲ろうと思う。あの子は、責任感の強い正しい子だから、チサが魔女としてあの子に納得されるようになれば、大魔女を襲名してくれる時も来るだろう」

 チサに向かって、諭すように言った。

「‥‥」

 ‥私、そんなのに成りたくないですが‥

 チサは思ったが、口には出さなかった。大魔女は、

「長老っていってもまだまだ若造だがね」

 ひゃっひゃと笑って言った。どうやら、さっきの話の「オチ」らしい。

 ‥一体、大魔女って、何歳なんだ?

 ココはぼんやりとそんなことを考えていた。

「襲名って。まだまだお元気なのに‥」

 マンゴスチーンが眉根を寄せる。

「元気さが問題なのではない。魔女としての力じゃ。私は今回の戦いで力を使いすぎた」

 大魔女が肩をすくめて言い、ゆっくり長く息を吐いた。

 

「あなた。ケガをなさっているわ」

 チサがマンゴスチーンの腕の傷に気付いて、かいがいしく包帯をまき始め、マンゴスチーンがちょっと赤くなる。

 そんな様子を見ながらココは七の国に残して来た恋人のことを思い出し、たまらなく会いたくなった。

「次は、ココだな」

 そんなダダ漏れのココの表情を、サイゾーがからかう。

「家は、マンゴスチーンが作ってくれるぞ」

「だからそれは‥」

 ココが困った顔で笑う。

「いつまでも下手だと思わないでほしい」

 マンゴスチーンがにやりと笑って反撃した。

「先生が三人もいるからな」

 ハッチたちがマンゴスチーンの後ろに立つ。

 ‥何の保証もない。全然、納得できない‥。

 ココは思ったが、あえて言うのはよした。そして

 ‥家は、ジョセフさんの家を改築しよう。

 と誓った。


 ジョセフじいさんの引退と引っ越しは、それからしばらく経ってのことだった。この度の、一の国襲撃を伝え聞いた息子が、ジョセフを急かしたのだ。

「今までありがとうございました」

 深々と頭を下げるココ。その後ろには、ココの両親と恋人がいた。一の国から二の国に行くのには、船便が僅かながらだが出ている。

「二の国に行くなら、送っていく」

 と言ったサイゾーに、

「息子たちが、旅行がてらにこっちに来ると言っておるから、一緒に船で行こうと思っておる」

 今まで見たことがない程穏やかな顔で断られ、サイゾーも了承した。

 息子夫婦が迎えに来て、船が港に着く。

 四の国を経由するこの船は、ココの両親が乗ってくる予定で、ジョセフもそれに合わせて出発することに決めていた。

 因みに、ココの両親にはサイゾーによるドラゴンでのお迎えを、丁重にお断りされていた。

 若くもない一般人に、‥そんなことは無理。

 延々と、しかし失礼が無いように断って欲しいと書かれた手紙を伝書鳩で貰ったココは、

 らしいなあ。

 と笑い、今更ながら両親と無事に再会できることの喜びをかみしめた。

「ココ! 」

「父さん、母さん! こちらが、ジョセフさんです! 」

「これはこれは‥。息子がお世話になりました。ありがとうございます! 」

「ああ‥」

 出迎えに来たココではあったが、両親たちとの再会もとりあえずに、ジョセフを見送る為に、両親を船から降ろした。

 両親たちの再会は、後でも出来る。

 ジョセフさん、‥あんなにお世話になったジョセフさんと、今日でお別れなんだ。

「ジョセフさん。‥今まで本当にお世話になりました。‥ありがとうございました」

 厳しかった日々が思い出されたが、今となってはいい思い出でしかない。自然に瞼が熱くなった。

 それは、マンゴスチーンたちも同じだった。

 そんな気持ちは、彼らよりずっと付き合いが長いサイゾー親子にとっては、マンゴスチーンたちの比ではない。

 さっきから、サイゾーはずっとそっぽを向いて、硬い表情をしているし、チサたちは泣きはらして真っ赤な目をしている。

 ジョセフは、ココの方をポンと叩くと、

「素晴らしいご子息を持たれましたね」

 後ろに立っていたココの両親に握手を求め、ココの両親が両手でジョセフの手を握った。

 その三人の手に深く刻まれたしわを見ながらココは

 ‥働いて来た手だ。これから俺も、この手になっていくように頑張ろう‥

 と誓った。


「じゃあ、ココ。動物は任せたぞ」

 ジョセフは息子たちに僅かな荷物を持たせると、片手を高く上げた。

「はい! 」

 ココが深く頭を下げた。

「‥ココ。これからはお前が牧場のオーナーだな」

「ええ。‥ジョセフさんに教わってきたことをきちんと守りながら頑張ります」

 ぼそり、とでも強い口調でココが呟いた。

 

 ジョセフたちを乗せた船が小さく小さくなると、

「マカデミア、久し振り! 」

 今までのしんみりした空気を振り払うように、無理に微笑んだココが恋人の手を取り、両親の荷物を受け取った。

 マンゴスチーンも、ココの両親とココの恋人マカデミアとの再会を喜んだ。

 マカデミアとはマンゴスチーンにしても幼馴染だから、やっぱり久し振りに会うとうれしい。

「マンゴスチーン様。お久しぶりです」

 静かにマカデミアがマンゴスチーンに頭を下げる。

 それは、久し振りに出会った幼馴染に対しては、少々他人行儀にも見える態度だった。

「ココと幸せにね」

 マンゴスチーンも、ただ静かに微笑んで言った。

「ええ」

 マカデミアも微かに微笑み返す。

 怒っているわけでも、マンゴスチーンが王子様だからよそよそしいわけでも、ない。マカデミアは誰に対してもこんな感じなのだ。それは、恋人のココに対しても変わらなかった。

「あ。マンゴスチーン様が昔振られた人」

 ハッチがにやにや笑いながらバラした。

「え! 」

 驚いたのは、チサ。

 ココは、ひやりとして、ぎぎぎ、と音が出る程緩慢な動作で後ろに立つチサを振り返った。もう、ハッチのことを今すぐ殴り倒したい思いだった。

 ‥この人、案外やきもちやきだから怒ってマンゴスチーン様ネコにされちゃうんじゃない?

 って思ったのだ。でもそんな事何も考えないマンゴスチーンは、ひらひらと手を振って

「相手にもされなかったよ。私が好きなのはココなのって」

 面白そうにハッチに言った。

「そうなの? 」

 さっきまでの『危機』をつい忘れて、ココがマカデミアに聞く。

 ちょっと嬉しそうだ。

「まあね」

 表情も変えず、マカデミアが言った。

「そうなんですね」

 ニコニコと微笑むチサに、ひやりとしたのは、トールとオウル。


 なんだかんだ言って、恋人にメロメロなココと、空気があんまり読めない典型的ガキ大将ハッチ、無自覚鈍感なイケメン王子は、‥自分たちの危機にちょっと鈍感になっているのだった。


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