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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
五章 サイゾーの使命
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5.いちばんつよいひと

「マンゴスチーン! 」

「ココ! 」

「「やるか! 」」

 翌日。早朝に、三人の顔が並ぶ。


 二人の若者の顔からは、迷いがすっかり消えていた。サイゾーは頼もしい想いで、二人の打ち合いの稽古を眺め、素振りを始めた。

 サイゾーの一振りに、空気がびりびりと震える。二人は打ち合いの手を止めてサイゾーを見た。

 打ち合いをしている二人は、摸倣刀を使っていたが、素振りしかしないサイゾーは真剣を使っていた。

 ‥太刀筋が真っ直ぐだ。あんなに重い剣を。

 両刀の刃を持つ大きな剣。

 それは、見るからに重そうなのだが、‥見た目以上に重いことを、この前持たせてもらって知っている二人は、信じられないものを見る様な目で、それを見た。

 あの剣で、ああいう風に振りかざせば、相手は‥どう当たっても頭が割れる。


 これが実戦。


 二人はごくり、と唾をのんだ。


「相変わらず、お前の剣は力任せだねえ」

 ぶわっと風が舞い起こり、黒ずくめの魔女が突然姿を現した。

「お祖母様! 」

 マンゴスチーンが叫ぶ。

 音もなく、ふわりとマンゴスチーンの前に着地した魔女は、にやりともにこりともつかないような笑いを浮かべてココを見た。

「え? 」

 ココが魔女を見る。

「大魔女じゃ。そして、わしの母親じゃ」

 サイゾーは素振りの手を止めることもなく、短く説明した。

 マンゴスチーンが頷く。

「大魔女? サイゾーさんのお母さん? それに、マンゴスチーン様、お会いになったことがあるのですか?」

 ココがマンゴスチーンとサイゾーを交互に見ながら言った。

 だけど、‥サイゾーの母親だという事については疑いようはなかった。

 ‥よく似てるから、それは‥そうなんだろうな。

 とすんなり納得した。

「サイゾー、あんたが感じている通り、悪い行いがなされようとしているね。相手は五の国さ。五の国の目的は、世界征服‥。だけど、どうして知ったのだろうね、真っ直ぐ一の国を、大魔女である私を狙っているようだ。誰かが、ばらしたんだね」

 ひたり、とその冷たい視線がサイゾーに向けられる。

「いったい誰が! 」

 サイゾーが叫んだ。


 犯人は、五の国のスパイのスコッチなんだけど、もともと大魔女の話を七の国の王様にして、スコッチに盗み聞きされちゃったのは、サイゾーだということをサイゾーは気付いていない。

 普段なら細心の注意を払うのだが、あの時は緊張していて払うべき注意が払われていなかったのだ。娘の結婚で嬉しかったのもある。


 そして、今も「そう言えば」とすら思い当たらない。

 ‥色々どうかと思う。

 その堂々とした態度に、事実を知っている人間云々の問題で、サイゾーを疑っていた大魔女も「ん? 違ったか? 」とちょっと肩透かしを食らったほどだ。

 つまり、カマかけてみたけど、相手が乗ってこなかったってこと。


 その一瞬にして、ひたりと冷えた雰囲気の中

「それならば。両親にはもう少し七の国にいてもらいます」

 最初に口を開いたのはココだった。

「敵の狙いがどこか分からないのであったら、‥せめて近くで守りたいから、こっちに両親を呼ぼうかと考えていましたが、敵の狙いがここだと分かったならば、‥両親にはまだ暫く七の国に居てもらいます。敵に、次なんて選択肢を与えません。ここで、敵を全滅させます」

 無茶だ、とは分かる。

 だけど、‥だとしたら尚更、両親を自分の目の前で失いたくはない。

 両親の前で自分が死ぬのも嫌だ。


「ココも帰れ」


 マンゴスチーンに言われて、ココは、は、と気付いた。

 自分の選択肢に「それ」がなかったことに。

 両親の元で、自分も難を逃れる‥?

 ココがマンゴスチーンを真っ直ぐにらむ。

「俺には、俺の意志があります。俺は、ここの動物を守るんだ。そして、平和になったこの国に両親を呼ぶんだ! 」


「いい目だね」

 大魔女が笑う。

 マンゴスチーンもココを睨み返す。

「ココ! 私はココを死なせたくない! 」

「マンゴスチーン様! 言っておきますが、俺を守ろうなんて思わないで下さいね! 責任なんて感じないで下さいね! 」

 マンゴスチーンは、ココから目線を逸らすことはしなかった。睨むように只、ココを見ていた。ココの目に、恐れや、後悔がちらりとでも見えたら、さっさと七の国に帰そう、そんな目でココの瞳を見ていた。

 ココにもそれが分かった。視線を逸らしたら、負けだって分かった。

 暫く睨みあっていたのだが、ふ、とココが微笑んでその空気を緩めた。

「俺は、ここに来てよかったんです。毎日、楽しい。暖かいし。‥七の国にいた時は、冬には冬が終わるのを指折り数えて、夏は一日一日夏が終わるのが怖かった」

 そして、穏やかにマンゴスチーンに語り掛けた。

 それは、穏やかな説得のようで、また、ココの覚悟の証明の様にも聞こえた。

 マンゴスチーンは、それを聞きながらココが七の国にいた時、しょっちゅう霜焼けとあかぎれで指を真っ赤にしていたのを思い出していた。傷口からは血が滲み、剣を持つのも痛そうだった。風邪をひいては、声をからし、時々高熱を出して寝込んだ。ココは本当に寒さに弱かったのだ。

「ここは違う。そんな無駄なことを考えないで済む。‥毎日が忙しいからそんなこと考える暇もないということもあるだろうけど。それ以上に、動物は可愛いし。ここの人たちもみんな大好きだ。勿論マンゴスチーン様も。マンゴスチーン様にとって俺は守るべきものなんですか? 一緒に戦う仲間にはなれないんですか? 」

「勿論、仲間だ! 」

 マンゴスチーンが大きく首を振って叫んだ。

「俺は、師匠だ。仲間じゃないぞ」

 サイゾーがにやっと笑う。

「勿論ですとも」

 二人が言って、そして笑った。

「島を」「仲間を家族を」「大魔女を守る」

 三人が確認するように言って、剣を掲げた。

「馬鹿におしでないよ」

 三人の何かのクエストのような盛り上がりに、大魔女が水を差した。

「私を見くびらないで欲しいね」

 ふん、と顎をしゃくる。


「私もいるわ」


「チサ! 」

 三人と大魔女が振り返り、チサを見る。

「おばあさま。初めまして。チサです」

「ああ、知ってるよ」

 大魔女が微笑む。孫が可愛くて仕方ないという顔だった。

「これを」

 チサは、首に掛けていた魔よけのネックレスの石をサイゾーに見せた。七の国でお妃様に貰ったものだ。そして、左手の手のひらに乗せると右手で石に触れた。硬い石がチサが触れただけで、キッチリと三つに分かれた。そして一つをサイゾーに、残りをココとマンゴスチーンにそれぞれ渡した。

「これを持っていると、落ち着くの。何か見えない力が‥暴走しそうになるのを止めてくれているのを感じる。これには、確かに魔力を封じる力があるのね。だけど、今はこれは持たないでいいわ」

 マンゴスチーンは、チサの言う「見えない力」にぞくっと背中が寒くなった。

 それは、サイゾーも同じだった。


 ‥そうか、サイゾーが恐れていたのは、チサのこの「形の分からない迫力」だったのか。そして、きっとハナに対しても、そう。


 マンゴスチーンは納得した。

 三人が石のかけらを受け取り、袖を破って布切れにしてそれを包むと、胸にしまった。

「ちゃんと持っていて下さいね。この戦いは相手が思っている以上にえげつないものになると思うわ」

 ふっと笑うチサの眼光の鋭さ。マンゴスチーンはまたぞくっとした。もちろん、サイゾーも。

 ココはそんな二人をただ気の毒そうに眺めていた。

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