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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
五章 サイゾーの使命
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4.実戦練習

 そして、ココのたっての願いで、早朝(殆ど真夜中)稽古は始まった。

 実践を重視するため、そしてせっかく二人いるのだから、とサイゾーは試合稽古を中心にさせた。

「そもそも、ココは剣を極めてどうするつもりだったんだ? ドラゴンマスターを目指していて、まあ、それでなくとも、将来は王子として戦わなければならないこともあるマンゴスチーンはわかるとしても‥」

 稽古が終わって、水を飲んでいるココに、サイゾーが聞いた。

 マンゴスチーンも「そう言えば聞いたことがなかったな」と思った。

 ココの家は、裕福な商家だった。そして、ココは次男。店は長男が継ぐはずで、次男のココは将来は家を出るといっていた。でも、「何になりたいのか? 」と聞いても、ただ困ったように笑ってはぐらかされた。

 マンゴスチーンがそんなことを思い出していると、ココは小さく‥あの時のように困ったように微笑んで、

「俺、騎馬隊の騎士になりたかったんです。馬が好きだったってのもあるんですが、騎士は給料がいいですから。特に手に職を持ってたわけでもなかったし。他の事より向いてるかな‥って思って。マンゴスチーン様と遠出に出掛けたりしてたから、乗馬は得意だったっていうのもあるんですが」

 サイゾーが「ふうん」と頷いた。

「確かに、ココは乗馬が得意だ」

 マンゴスチーンも頷く。

 ‥騎馬隊‥初めて聞いた。あんなに毎日一緒にいたのに。

 ‥何故話してくれなかったのだろうか。

 胸が、ちくりと痛くなった。

 サイゾーは暫く考えていたが、

「ちょうどいい。ココにいい馬を用意しよう。ココは騎馬上で、マンゴスチーンはドラゴンの上でそれぞれ戦えるようになってもらう」

 ココがびっくりしてサイゾーを見た。

 マンゴスチーンもサイゾーを見た。

 驚いた気持ちと、そしてやっぱり、と思う気持ち‥。

「戦いがあるのですか? 」

 ココが不安そうな顔をする。

 その横顔を見て、マンゴスチーンは唇を噛んだ。

「ちょっとな、ここのところ、何だか様子が変なんだ」

 ココからマンゴスチーンにゆっくりと視線を映しながらサイゾーが言った。

 サイゾーの視線がマンゴスチーンで止まる。

 ゆっくりと頷き、マンゴスチーンをもう一度見る。

「‥」

 二人は何も言えずに、サイゾーを見た。

 ココが息を呑んだのが、横にいるマンゴスチーンには分かった。

 無理もない、マンゴスチーンはこの前そんな話をしたばかりだった。だけど、ココは‥

 ‥だけど、何となく覚悟をしていたマンゴスチーンも、そんなに切迫しているとは考えていなかった。

「勿論、気のせいかもしれない。じゃが、この気掛かりを放っておく気にもなれない。気にしすぎじゃった、で済むのが一番なんじゃけどな」

 サイゾーが明るい口調で言った。

 だけど、「なんだ、冗談か」と思えるわけはなかった。

 マンゴスチーンは横目でココを見た。

 ココは、青い顔をしていた。

 無理もない、急にこんな話をされたのだから。と、思った。

 ‥魔女と話をして以来、自分はここのところ、そんなことを考えもしてきた。それに、まともに関わってきたわけではないとはいえ、王子だ。国同士の戦いは、常に身近にある問題だった。

 だけど、ココは今初めて、急にそんな話をされたんだ。

 ‥こんなことになるかもしれないと分かっていれば、ココをここに連れて来なかった。ココに何かあったらどうしよう。

 胸が張り裂けそうだった。

 マンゴスチーンもココも、一言も言葉を発することができなくなっていた。

 だけど、じっとしていられなくって、三人で、ただ黙って素振りを続けた。



「俺、牧場の仕事に戻ります」

 白々と明けていく空を見て、ようやくココが口を開いた。

「こんな顔してたら、ジョセフさんに怒られますね」

 と、両手で自分の顔を叩く。

 マンゴスチーンはやっぱり何も言えなった。何が言えるのかも分からなかった。

 ‥自分の我が儘でココを危ない目に遭わせてしまうかもしれない‥

「ココ、言い忘れたが、それはここ一の国だけの危機ではない。この世界全体の危機なんだ。誰かが、この世界の秩序を乱そうとしていることによる危機なんだ。今、ココは両親と離れている。両親をすぐここに呼んで、そばで守りながら危機と戦うか、一の国より軍事力に勝っている七の国に彼らの命を委ねるか‥。決断すべきはそこなんだ。‥勿論、危機から両親と一緒に逃げ続けるという選択肢もあるが。‥大部分の人たちのように」

 サイゾーがココを振り向いた。

 サイゾーの瞳を見つめていたココが、ふ、とその視線を落とす。

「‥考えさせてください」

 単調な口調でただ短く答えると、ココは、マンゴスチーンとサイゾーに一礼をして牧場に向かって走り出した。

 サイゾーはその様子を暫く眺めてから、同じくココの後姿を見続けていたマンゴスチーンに振り向り、その背中を叩く。

「さ、わしらも働くか」

 ‥しっかりしろ。?

 それとも、‥辛いところだな。?

 自分たちとは違う、‥戦いとは別のところにいるはずの青年を巻き込む自分に対する嫌悪感や後悔。

 ただ、友人を危険な目にあわせたくないって気持ち。

 マンゴスチーンも頷く。

 ‥戦うしかない。落ち込んでいても仕方がない。ココに悪いことが起こらない様に、側で私が守る。遠くで心配しているよりずっといい。

 


 ちょうど同じころ、ココも同じ決意をしていた。

 ‥両親を呼ぼう。なるべく早く。何もなかったら、それに越したことはないし。もし、何かあった時に遠くで何も出来なかったというのが、一番最悪だ。

 自分に何が出来るかなんて分からない。今稽古をしていたって、実践では足がすくんで何も出来ないかもしれない。でもそれは、今考えても仕方ないことだ。

 足が勝手に動くくらい。心がもっと強くなるように。俺はもっと修行をしよう。

 そして、牧場の仕事だってそうだ。

 今ここにいる動物たちの日々の命を守っていくのは、俺だけなんだ。戦いなんて起こらなくたって、例えば世話一つ怠るだけで、危機に陥る命なのだ。

 もう、怖いとは思わなかった。



 マンゴスチーンもレンガを積みながら誓っていた。

 ‥考えることなんてない。皆で幸せが一番だ。幸せを邪魔するものは叩き潰すのみだ。それは、誰の責任とかいう話じゃない。誰がどうしたいかの話なんだ。


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