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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
一章 憧れは、憧れのままが一番幸せって話
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3.誘拐疑惑の解明

 ‥その事実はわかった。わからないのは、なぜ、サイゾーさんが私を誘拐したのかだ。その目的が気になる。帰り道が分かるという切り札は「いざ! 」というときまで取っておこう。しかも、今は帰ろうにもドラゴンがこれだ。今は、ドラゴンの回復を待つことが先決だ。

と、マンゴスチーンはわざと絶望したかのようにうなだれながら、そんなことを考えていた。

もう一度言うが、サイゾーにはマンゴスチーンを誘拐したつもりはない。しかしながら、折角連れて来た弟子(予定)をみすみす逃がすのは嫌だから、「道がわからないでしょ? 」といじわるを言ったのは事実なのだ。だから、マンゴスチーンが(実はそれは引っかかったふりをしているだけなのだが)帰る希望を無くしているのは、サイゾーにしてみたら「しめた! 」なのだ。結果、サイゾーは終始ご機嫌だ。

「こっちに。家に招待するよ。ここからすぐなんだ。なあに。広いから一人や二人増えたところで住むには大丈夫だ。‥ドラゴンは向こうの岩場に。飛んでいて見えただろう? 」

 「向こうの岩場」はこの海岸と反対側にある。通常より大きな賢そうなドラゴンがくくられていた。よく慣れているらしく、サイゾーが見えると嬉しそうに顔を上げた。

「凄い。あんな鎖だけでドラゴンが! 良く懐いているんですね」

興奮した声を上げるマンゴスチーン。ドラゴンは大きく力も強い。通常ドラゴンは塔の様なところで閉じ込めるように飼育されるのが普通だった。実際七の国でもそうだった。

「しかも、なんて大きさだ! 」

「それが、一の国のドラゴンだ! 」

 マンゴスチーンにサイゾーが、誇らしげに紹介した。

 と、それが今からわずか一時間ほど前。

「家は反対側なんだ」

 の「反対側」が、「農業大国」だったのだ。

「ドラゴンをそこで休ませてから、ここへはどうやって? ドラゴンでさえ一時間近く飛んだと思うんですが」

 誘拐疑惑はともかく、マンゴスチーンは相手の真意を測るため何か行動をするようなタイプではなかった。とにかく、サイゾーの出方を見ようと思った。

「馬で島を横切る。山が見えたじゃろう? あそこの中腹が牧場になっていて、そこにわしの馬を預けてある。ドラゴンで出かけるときはいつもそうするんじゃ。君のは‥。新しく用意してもらおう」

 マンゴスチーンは頷いた。確かに、飛んでいて山の中腹に乳牛と何頭かの馬が放し飼いされているのが見えた。

「羊もいる。あとは、鶏と豚」

 サイゾーはドラゴンに乗って前を飛びながら、この島のことを一つ一つ説明し始めた。

 サイゾーが指差した牧場を見ると、牧草地が見え、そこでは乳牛が三頭草を食んでいた。あっちには子牛もいるようだ。

「毎日鶏は卵を産むし、牛からは乳が採れる」

 牧場はジョセフという老人が一人で管理していて、バターなどの牧場の製品をサイゾーが他の国から仕入れてきた農作物や日用品と交換している。

「卵と牛乳は毎日家に運んでくれるように頼んであるんだ」

「留守の間以外? 」

「いや。家族がいる。妻と娘が三人」

「そうですか」

 マンゴスチーンが頷いた。

 ‥物々交換か。つまり、ここでは貨幣が使われていないということか? しかし、サイゾーさんは他の国から仕入れてきている。他の国から仕入れるには貨幣がいる。その資金源は何だろう? まさかあの畑で採れたあの農作物を売って資金を得ているのだろうか?

そういえば、六の国で出会った人が

「サイゾーさんはメロンつくりの達人。なにせ、この国の名人の下で厳しい修業をしたから。今ではここで商売できるまでになった。立派なものさ」

 と言っていた。

 確かに、農業大国である六の国で農作物を売るのは並大抵のことではない。しかし‥

 ‥なぜメロン。しかも農業王国の六の国に習いに行ってまで。何かメロンにこだわりがあるのだろうか? 凄いメロン好きだとか。

 ‥しかし、伝説のドラゴンマスターがメロンつくりの達人って。本当に本当の「伝説のドラゴンマスター サイゾー」なのか? だが、一の国から一日で六の国にまでドラゴンでメロンを売りに来ることができるメロン農家のおじさんなんているわけがない。今回は、不慣れな私が一緒だったから、何度も休んだが(しかも遠回りもしたし)サイゾーさん一人だったら一日でいけただろう。しかも、ドラゴンは元々重い荷物を運ぶのに慣れていない。そのドラゴンに重い荷物を長距離運ばせるなんて並みのドラゴンマスターじゃない証拠ではないか。

「何をぼーとしている。着いたぞ。ドラゴンはそこに。水と餌を」

「あ、はい」

 マンゴスチーンは、慌てて指示に従った。

 岩場に着いてマンゴスチーンはモルジィアの背中から降りた。足元がまだ飛んでいる様にふわふわする。それに、ひどく疲れた。

モルジィアは他のドラゴンに少し戸惑った様子だったが、マンゴスチーンから水をもらうと疲れて眠ってしまった。

 ‥疲れさせてしまったな。

 マンゴスチーンは、モルジィアの頭を優しく撫ぜた。

「牧場までは少し歩くぞ」

 牧場に着くと、ジョセフ老人がにこやかにサイゾーを迎え、マンゴスチーンに馬を用意してくれた。世話の行き届いた茶色の馬で、マンゴスチーンは一目で気に入った。

 ぽっぽかぽっぽか馬を歩かせながら、サイゾーはまた島の説明を始めた。思っていたより、サイゾーは口数が多い。

牧場から、さっき通った道を下りながら、

「この山の頂上には、洞窟があって魔女が住んでいる。近づかない方がいい。ジョセフだって頂上には近づかない。まあ、用事もないのにそんな所に行く必要はない」

 と、サイゾーには珍しく歯切れの悪い話し方をしたのが気になった。

 怖いのかな? 意外だな。

 なんて思って、ちょっとおかしかった。

 ‥魔女ねえ。魔女がこんなあったかくて明るくて住みやすい所に住んでいるかなあ。

 見れば、山頂だけ霧に覆われているようで、何も見えない。

 ‥そんなに高い山には見えないけれど、あそこだけ別世界みたいだ。なるほど、魔女が住んでいるというのあながち嘘ではないのかもしれないな。

 ぽっぽかぽっぽか馬は進む。日差しは明るく、気候は暖かい。道も平坦で、馬の歩みも安定している。マンゴスチーンは馬に揺られながら、景色をぼんやりと見て回った。

 ‥緑の匂いのする風が気持ちいい。

 山を過ぎると、一面の平野が広がっていた。流れの穏やかな川が平野を横切るように流れている。川は浅く透明で、川底の小石や細かい砂まで見えた。

さっき見た砂浜や岩場、山、平地そしてこの川。大きくは無いが、過不足なく満遍なく何でもある島。そんな印象を持った。気候は温暖で、多種類の草木が豊かに育っている。

それは、マンゴスチーンの故郷の七の国にはない景色だった。七の国は一年中寒冷で、冬が長かった。高い山々が連なり、山には針葉樹の森があるばかりで、昼なお暗く人を寄せ付けない雰囲気があった。

冬には雪も降った。その雪解け水が山頂から流れるときは、音をたてて岩ばかりの山肌を削るように流れた。

短い夏にも、気温はあまり上がらない。そんな寒冷な気候のせいでわずかな農作物しか育たなかった。もっとも七の国には農業ができる場所が無かった。第一に平野がない。山ばかりなのだ。その山を開墾しようにも、固い岩だらけで土もあまりなく、山頂は強い風が吹いた。

人々は、山裾にあるわずかな盆地に住んでおり、王の家族が住む城は人々の居住地から離れた高台に建っていた。城は優雅さとは無縁な強固なつくりだった。元々、居住というより要塞としての役割が強かったのだ。

山では鉄鉱石などの資源が豊富で、人々はそれを採掘してそれを使って道具を作り生活に使用し、またそれを他の国に輸出してその金で他の国から生活物資や食料を輸入して生活をしていた。

その鉱山資源を狙い、他国から何度となく戦を挑まれて来た。城を人々の居住地から離したのは、戦に民家が巻き込まれないようにするためだった。それに、高いところにあるのは見張りの意味もある。

城の見張り台からは街の総てや、天気がいい日は肉眼でも隣の国がぼんやりと見えた。

目を瞑ると、そんな厳しくも懐かしい故郷の風景が瞼に浮かんだ。

「まあ、魔女のことはどうでもいい。どうした? 目なんて瞑って。眠くなったのか? 」

「いえ」

 マンゴスチーンは慌てて目を開ける。実際、ちょっと眠くなっていた。

 ‥危ない、危ない。今は集中、集中。

 マンゴスチーンは大きく一回深呼吸した。

「そうか。まあ、もう少しで着くから。馬から落とされないようにだけしろよ」

 と、これは皮肉じゃなくって、気遣い。

 そっけない口調も、慣れると「これはサイゾーの普通」だってことがわかる。わかりにくいけど優しい人だ。

‥こんな人が誘拐なんかするかな?

 って思った。マンゴスチーンからサイゾーに誘拐されたという疑惑は消えつつあった。それどころか、付いてきちゃったのは自分なんだからしょうがないとすら思い始めていた。明るく住みやすい一の国の気候がそうさせたのだろう。何とも、のんびりした気持ちになっていた。

「はい」

 マンゴスチーンはほほ笑んだ。平野の先に畑が見え始めていた。

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