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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
五章 サイゾーの使命
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2.それぞれの使命と、後継者。

 マンゴスチーンは普段の穏やかな様子からは考えられない位、興奮していた。

 なんといっても、憧れのあの‥伝説のドラゴンマスターによる剣の稽古だ。

 今まで憧れて来たんだ。

 そりゃ、テンションもあがるだろう。

「剣の修行かなんかは知らんが、ココは今忙しいんじゃ。帰ってくれ」

 ココを誘いに来たマンゴスチーンをジョセフが門前払いした。

「まったく、サイゾーさんはいつも急な思い付きで変なことを考えるから。付き合わされる者はたまったもんじゃない。あんたも大変じゃろう。だが、わしらまで巻き込むことは許さん。帰ってくれ。今、ココは覚えなければならないことが山ほどあるんじゃ」

 怒ったような口調で言うと、さっさと牧場に戻って行こうとした。牛小屋でその話を聞いていたココが、ジョセフの前に立つ。

「ジョセフさん。行かせてください。帰ってきたら、必ず仕事をしますから。これからは、稽古の時間と牧場の時間が重ならないようにお願いしてきます。とにかく今日だけは行かせてください」

 真剣な顔で、ジョセフにお願いした。

そんなココの様子を見て、マンゴスチーンは仕事の厳しさというものと、自分の認識の低さに気付き、心が痛くなった。

 ‥私は、ジョセフさんとココの仕事を、‥軽く見ていたのかもしれないな。自分ではそんなつもりはなかったのだけど‥。国同士の約束と個人同士の約束は当たり前だけど、その重さが違う。そういう目で、‥勝手に重さを決めつけていたのかもしれない。

 ジョセフさんに本当に失礼なことをした‥。

 ‥私はもっと、何事にも真剣にならなければならない。

ぎゅっと拳を握りしめ

「申し訳ありませんでしたジョセフさん。ココも‥すまなかった」

 深く頭を下げると、マンゴスチーンは肩を落として踵を返した。

「ふん。分かったら帰ってくれ」

 ジョセフは仕事に戻りながらマンゴスチーンの後姿に言った。

 ‥ジョセフさんはマンゴスチーンを軽蔑した。そして、マンゴスチーンは無意識にそうされても仕方が無い態度をジョセフに取ってしまった。

 ココは、きゅっと唇を噛んで、二人のそんな様子を見つめた。

「ジョセフさん‥」

 元とはいえ、自国の王子にそんな態度を取られたココは、自分の上司とはいえ怒りを覚えた。

 ‥友達だから、というのも大きかっただろう。

 マンゴスチーンは確かに世間知らずなところもあるが、「だって、王子だから仕方が無いか」と思って今まで教えてこなかった自分にも、‥友として責任がある。

「すみませんジョセフさん。マンゴスチーンのタイミングが悪かったことは‥謝ります。だけど、‥決して彼のも悪気があったわけではないのです。昔から、ちょっとそういうところがあって‥。私からも‥改めてお願いします。どうか、‥剣の稽古に行くことを許してください。絶対に牧場の仕事と時間が重ならないようにしますから。早朝か‥夕方はダメでしょうか?  」

 ココは、ジョセフの背中に嘆願した。

「睡眠時間を削ると、体を壊すぞ」

 ジョセフが足を止め、ココに振り返る。尚も不機嫌そうな顔をしている。

ジョセフにとって剣の修行なんて、生活していく上でなんの意味もないことに過ぎないのだ。その為に体を壊すなんてとんでもない。

「それに、牧場は朝が早い」

 ジョセフは更に続けた。

「では、夕方。牧場の仕事が終わってから。お願いします。体力には自信があるんです」

 ココがジョセフに大きく頭を下げて言った。

「私も手伝います」

 隣でマンゴスチーンも頭を下げる。

「手伝います、じゃない。マンゴスチーンは家つくりの仕事があるだろう? 自分の仕事をおろそかにするんじゃない」

 ジョセフが忌々しそうに言った。

「‥‥」

 何も言えなくなって、マンゴスチーンが黙る。

 ‥もっともだ。さっき、なおざりにしないと決めたのに、こうだ。

「お願いします。お願いします」

 ココは、もうそれだけをジョセフに頼み続けた。

「‥わしが少しでも、牧場の仕事をおろそかにしていると感じたら、止めさせるぞ。それでもいいか」

 ジョセフが厳しい表情のまま言った。

「はい! 決して仕事をおろそかにしません! 」

 マンゴスチーンはそのまま帰って、さっき決まったことをサイゾーに伝えた。サイゾーは頷いて、暗い表情のマンゴスチーンに

「ジョセフじいさんに剣の修行は無駄だとか言われたんだろう? わしも昔さんざん言われた」

 マンゴスチーンは頷きはしなかったが、顔を上げてサイゾーを見る気にはなれなかった。

 ‥それだけではない。

 だけど、そのことは言わなかった。サイゾーが言葉を続ける。

「真剣にひとところだけ見ている者の言葉は凄いな。わしもわしなりにその時その時で頑張って生きているつもりだが、わしのような暮らしは、ジョセフじいさんには『根無し草』に見えているんだろうな。だけどそれは、言わせておけ。わしはわしがしていることが生活と関係ない無駄なことで、自分勝手に暮らしているとは思っていない。じいさんの考え方でいったら、王様はただ威張っているだけで何の役にも立たないし、道化師や吟遊詩人はただの遊び人だ」

 マンゴスチーンが顔を上げてぼんやりとサイゾーを見る。

 ‥サイゾーさんなら、この心のざわめきの答えをくれるのだろうか? と思った。そして、すぐにその考えを自分の頭から振り払った。

 違う。それは、違う。

 誰かに助けてもらうんじゃない。‥自分の憂いをはらせる者のは、自分しかいない。

「わしにも、わしで、しなければならないことがある。今までそのことを忘れつつあったのは、それは事実だ。わしには、使命があったことを‥」

 マンゴスチーンは、あの時洞窟で大魔女が言ったことを思い出していた。

 それは、自分のこれからの使命でもある。

「それに‥」

「今回じいさんが、後継者の話をしたとき、わしもそんなことぼちぼち考えなきゃな、って思った。後継者としてマンゴスチーンを鍛えることを急に思いついた訳だから、じいさんに思い付きで行動しているように思われても仕方がないがな」

 サイゾーは、少し肩をすくめて言ったが、その口調に笑いはなかった。マンゴスチーンの胸がドクン、と低く強く打った。

 これから、自分に掛かってくるであろう責任や、サイゾーにいずれ来るであろう老いを思うと、心がざわついた。

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