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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
四章 サイゾー島の新しい住人
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5.魔女の悲願

「ドラゴンマスターの役目は、一に、ドラゴンの適切な利用をすること。能力の高いドラゴンを悪用すると、大変なことが起こるからね。そして、ドラゴンを悪用する者の討伐もドラゴンマスターの仕事だ。悪い教育を受けたドラゴンも可哀想だが、討伐の対象になる。戦闘用のドラゴンはこの時に使われる。戦争中でも戦闘用のドラゴンが出動するのは、この目的があるときのみさ」

 マンゴスチーンが息を飲む。

「なあに、ドラゴンが悪いわけではない。だから、まっさらな種に戻すだけさ」

 そんなマンゴスチーンを見て、大魔女が少し笑いながら付け加えて、マンゴスチーンがほっと胸をなで下ろす。

「二に、世界を公平にすること。これが、一番の目的なんだよ。作物の取れない国にも魚が取れない国にも、公平に品物を届ける。本当は、これこそがドラゴンマスターがいる目的なのさ。だけど、人の欲から戦争が起き、その戦争を終結させるため、ドラゴンの秩序を守るため、ドラゴンマスターが出動する。それがいつの間にか、ドラゴンマスターの能力の評価は、早く飛べるだとか、戦いが強いとかが主になっちゃってさ。こうなったら、もう私たち魔女もどうすることも出来ない‥」

 老女が大きくため息をつく。

「恥ずかしいことに、自分の息子が先頭きって、その流れを作って行ったわけだろ。本当に、親として情けないよ」

 と、ため息交じりに力なく言い、肩を落として俯く。

「でも、事態はサイゾーさんがドラゴンマスターを辞めるだけじゃすまなくなっている‥」

 老女が俯いたまま頷く。その肩がやけに小さく弱く見えた。

「お願いだ。マンゴスチーン。チサたちを守ってやってほしい。この先、大きな力を求めて、世界に争いが起こった時、あの子たちが巻き込まれたりしないように、守って欲しい」

 そして、頭を上げるとマンゴスチーンの両手を握って老女が頼んだ。言葉には力がこもり、握られた手も力強かった。マンゴスチーンも握られた手に力を入れて、強く頷いた。

「ええ。ええ、きっと」

 そして、老女を見つめて言った。その言葉を聞いて安心したように、老女の手から力が抜ける。

「そういえば、下の方が騒がしかったが、どうしたんだい? 」

 と、マンゴスチーンの手を放し、話題を変え無理に明るい声で言った。マンゴスチーンも

「いま、私の友人たちがこの下の川原で住ませてもらっているのですが、友人たちにここには来ないように、念を押しておきますね」

 微笑んで言った。老女が声をあげて笑う。そして

「言われたら、余計に来たくなるじゃないか。でも、来ようと思っても来れないけどね」

 と、にやり。マンゴスチーンも微笑んで、老女と別れた。

 その時、その話を密かに聞いていた者も一緒にその場を離れた。

 サイゾーだった。

「‥」

 サイゾーは思い詰めたように、何も言わなかった。


 そして、夏は何事もなく平和に過ぎて行き、夏が終わるころには、マンゴスチーンの仲間たちはすっかり一の国に馴染んでいたのだった。ハッチは毎日大好きな釣りをして、すっかり日焼けした。勉強家で丁寧なオウルは草木に詳しくなった。果物を取りに行くのはトールで、まだ上手に登ったりは出来ないものの、棒を改良したり工夫して色々な便利な道具を作った。

「見たことのない植物や、魚、果物も美味しいです」

 パンを毎日届けるマンゴスチーンに話しかける顔は、三人ともキラキラしている。

「よかった」

 マンゴスチーンは微笑み返した。

 自分が無理を言って連れて来たんだ。彼らには幸せになって欲しい。

「この頃、マンゴスチーン様日焼けされました? ‥スミマセン。毎日ここに来ていただいているから‥」

 マンゴスチーンはゆるりと首を振った。

「山道を走るのは、丁度いい訓練になる」

「訓練ですか」

「剣も、普段から振っておかないと、腕がなまるしね。‥有事に動けないじゃ、剣士失格だよ」

「マンゴスチーンは王子様なのに凄いですね」

 ほ~と感心するトールに、

「もう、王子じゃない」

 ふふ、とマンゴスチーンは微笑んだ。

 マンゴスチーンもサイゾーも何ら話をすることは無かったが、「来るべき事態」に備え、体が訛らない様にすることを怠らなかった。

 山道を走り込んで体力をつけ、素振りをする。じっとなんてしていられなかった。

 サイゾーは、生命にかかわる日中の時間帯を避け、今まで以上に畑仕事に力を入れ、剣の代わりに鍬を振るった。海で泳ぐこともあった。その時は、モモとミチもついて行って、遠泳をした。

 マンゴスチーンは今まで湖で泳ぐことはあったが、そんなに長い距離を泳いだことはない。まして、海で泳ぐという事を今までしてきたことがない。最初に海に入った時には、その塩辛さと、波に驚いた。

 ‥日焼けにも困った。まさかサイゾーの様に上半身裸と短いズボンで泳いだわけではないが、布に覆われていない部分は真っ赤に火傷したように日焼けして、一晩眠れない程だった。それ以来、日中に海に入ることはしていない。

 泳ぐのは川にすることに決めたマンゴスチーンは、サイゾーに教わり素潜りを始めた。今では、少しだが潜って貝やエビ、魚を取れるまでになった。それらは、早朝のうちにする。

 朝と日暮れはハンマーで岩をくだきレンガを作った。

 今、何が自分に出来るか分からない。でもじっとしていられない。

「マンゴスチーン様は、無理をなさっているんではないですか」

 チサが心配そうな眼差しで聞いてくるが、微笑んで首を振った。

「‥今私にできることが、余りにも少なくて‥それがただもどかしいのです」

 真っ直ぐとチサを見つめて否定した。

 ‥もどかしい。

 まったく、ぴったりな言葉だと思う。

 もどかしくって、自分が不甲斐ない。焦っても仕方が無いって言うのに、じっとしていると落ち着かない。

 マンゴスチーンは、黙々と目の前にあり、自分に今できることに必死に取り組んだ。

 それが、今自分に出来る総てで、‥唯一のことだった。

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