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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
四章 サイゾー島の新しい住人
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3.新住人の受難と別荘暮らし

 夏真っ盛りになってくると、マンゴスチーンを含む七の国出身者は軒並みバテ始めた。暑さもさることながら、身体にまとわりつく湿気にやられた。

 うだる様な暑さと瘴気の様にまとわりつく湿気。

 体験したことがない不快感は、容赦なく若者たちのやる気と体力をこそぎ取る。それに負けて、「ここに移り住みたい」「職人最高」と思った若者までもが、

「無理だ、帰る‥」

 と言い出したのだ。サイゾーは密かに焦って

「夏の間は、山の別荘で住んだらいい」

 と、提案した。

「別荘があるんですか? 」

 マンゴスチーンが自分の家の窯の為の石のレンガを積みながら聞いた。サイゾーや若者たちが上半身裸同然に肌を露出させているのに、マンゴスチーンは、薄手の長袖を着ている。

 七の国から連れて来た仲間たちにもそれを勧めて

「肌が、この日光の強さに慣れていないから、当たり過ぎると疲れるんです。日中は日陰で作業する方がいいと思いますよ」

 と言っているわけだが‥

 そもそも、そんな体力はない。

 ドラゴンに乗るために鍛錬し、また道場で鍛えているマンゴスチーンは、実は他の皆より体力があった。サイゾーの肌は、ここの日光に慣れているので大丈夫だ。

「マンゴスチーン。そこにいたのか」

「ええ」

 うっすらと汗をかいて頬にまとわりつく金の絹糸の様な髪を手で払う姿は優美で、(自分で連れてきたのだが)本当にこんなところに居るのが不釣り合いな感じがする。

 だけど、六の国であったときに、『静かな湖面の様だな』と思った淡いブルーの瞳は、今は、海の色の様に活き活きとした輝きを讃えている。その瞳に、迷いや憂いは無く、自分がここにマンゴスチーンを連れてきたのは間違いではないという気になる。

 ほっと小さく息をついて、マンゴスチーンを改めて見ると、何か違和感を感じた。

「‥髪、切ったのか? 」

 少し前までは、後ろで一つに括っていた髪が、今では短くなって、涼しそうだ。

 マンゴスチーンは頷くと

「ええ。ココが切ってくれました。ココは器用なんです」

 少し微笑んだ。

「‥それはそうと、別荘があるんですか? 」

 サイゾーが頷く。そして、ハッチに

「パンはマンゴスチーンに届けさせる。牛乳と卵はちょっと山を下れば、牧場がある。ジョセフじいさんも小屋の修理を望んでおったから、要望を聞いて牛乳やらと換えればいい」

 ‥別荘? あったかしら。

 お茶を持ってきたチサが手を止めて首を傾げた。

 サイゾーはチサにジェスチャーで「黙ってろ」の合図をさりげなくすると、

「別荘への引っ越しは、明朝早くじゃ。暑くならないうちに、山に登ってしまおう」

 とハッチに続けて説明した。

「山‥? 」

 チサはまだ首を傾げていた。



 ‥山に‥。別荘??



 果たして翌日の早朝。

 予定通り、引っ越しが行われた。職人三人は、わずかな荷物を持ってサイゾーの後に続き、その後をマンゴスチーンがついて行った。

 ジョセフの牧場を過ぎる。ココはもう起きて、牛に草を食べさせており、マンゴスチーンたちに気付くと手を振った。マンゴスチーンたちも手を振り返す。

 手先が器用というのは本当なのだろう。ココはここに来てもずっと、そのマッシュルームカットを変わらずキープし続けている。そもそも、ココの髪型が変わったという記憶がない。ずっと変わらないという印象しかない。

 アッシュブラウンの髪と、茶色の瞳の素朴な容姿の青年である。

 七の国は、ココの様な色味の人が多い国だった。トールもオウルもハッチも髪はアッシュブラウンで、トールだけが若干明るめだった。マンゴスチーンの様な金の髪は、言うならば王族特有であった。だけど、瞳はというと、マンゴスチーンが特別変わっているわけでもなく、マンゴスチーンの様な碧眼も国には多くいた。色も割と多様で、これは国民性はない様だ。

 トールは、青。オウルは、緑、ハッチは黄色い目をしていた。

 紫やら、赤というのは六の国に多い色で、七の国にはあまりいない。

 七の国では珍しい赤紫の瞳をしたココとマンゴスチーンの幼馴染のマカデミアは、祖母が六の国の出身であるらしい。

 年は、19とココとマンゴスチーンと同じ年。それよりも少し幼く見える柔らかな丸みを帯びたフェイスライン。きめ細かく真っ白な肌に、二重の大きな若草色の瞳、背中を超す刈り入れ前の麦の穂の様な、真っ直ぐで艶がある金色の髪た人形の様な美少女であるマカデミアは、近所の少年たちの憧れの的だったのだが、その小さくて華奢な見た目に反して、気が強く頭が切れる少女だった。

 自分の事、家族の事‥その全部を当たり前の様にスマートにこなし、誰かが手を差し伸べる隙も無い。仕事を手伝おうと手を出そうものなら、赤紫の目できっと睨まれた。でも、重い荷物を運ぶ時なんかは、ホントに悔しそうな顔を一瞬して「ありがとう‥」ってお礼を言った。

 人に甘えることをしない、だけど、手を差し伸べずにいられない、可愛くって、愛おしい存在。

 だから、ずっと一緒にいた純朴な少年だったマンゴスチーンも彼女に当たり前の様に恋をした。彼にとって、彼女はかけがえのない一人だったから。だけど、マカデミアにとってマンゴスチーンはその他大勢の友達の一人でしかなかったというだけ。

 彼女の、「一人」はココだった。

 手先が器用で、動物好きで、そんなに話し上手でなくって愛想もいい方じゃない。素朴そのものって感じで、これといって特徴のない顔。茶色の髪は、ちょっとねこっ毛で毛、雨が降ったらまとまりが途端に悪くなる。どんくさいように見えるんだけど、頭がよくって決断力だってあるし、運動だって出来る。マンゴスチーンの一番の友達で、マンゴスチーンも当たり前の様に彼をその様に扱ったから、学校でも平民だのに‥と彼を馬鹿にしたりするものはいなかった。

 マンゴスチーンと一緒に通う道場では、動きの俊敏さと、技の多様さでは道場一と言われていた。一たび剣を持つと、普段の不器用な表情から打って変わったように、まるで水を得た魚の様に、いきいきとした顔つきになる。ココは、間違いなく剣の申し子だった。

 マンゴスチーンは、ココとはタイプが違う剣士だった。マンゴスチーンはスピード型ではなく、所謂一撃必勝タイプの剣士だった。太刀筋が乱れず、一太刀に力がある。そして、相手との間合いの取り方のうまさ、精神力。ココが動の剣士と言われ、マンゴスチーンが静の剣士と呼ばれた所以である。

 そんなことを、(剣を構える二人を知らない)幼馴染の職人三人は知らない。彼らが知っているココは、ただ、マンゴスチーンに遠慮なくダメ出しをするマンゴスチーンの一番の親友で、‥マンゴスチーンの初恋の人であの村一番のアイドルの婚約者(羨ましい!! )である。‥マンゴスチーンが結婚出来てよかった‥。と三人が胸をなでおろしたのは言うまでもない。(※マンゴスチーンの失恋は彼らを含めた幼馴染全員が知っている)

「ココ、心なしか嬉しそうな顔をしてたな」

 ハッチがぼそり、と呟くと、マンゴスチーンも含めた三人が頷いた。

「動物好きだもんな。もっとも、七の国には動物なんてあんまりいなかったけどな」

「まあな‥。寒いしな」

 暫く牧場の動物なんかを眺めながら歩いた。

 牧場の脇には小川が流れている。その川に沿って山頂に向かって歩いていくと、ちょろちょろという音が聞こえ始めた。

「滝‥」

 高い岩場から水が流れ落ちている。大きくはないが、滝だ。水しぶきが心地いい。

「この川原に掘っ立て小屋を建てればいい。なあに、大丈夫。この川は氾濫なんかせんよ」

 言ったその場には、勿論何も立っていない。別荘があるって言ったのに、だ。

 だけど、その景色の美しさと、滝からかかる天然のミスト効果で何となく涼しくなった彼らは、そんなことで怒りはしなかった。

 ぼーと幸せそうな顔で、滝を眺めている。

「掘っ立て小屋って、何で作りましょうか? 」

 そんな中で一人冷静なマンゴスチーンが辺りを見回しながら言った。周りに木材なんてない。

「大丈夫ですよ。竹やなんかを切ってきて、適当につくりますよ。凍える心配も、動物に襲われる心配もないから、何とでもなりますよ。ぶっちゃけ、川原に転がって寝てもいいくらいです」

 ニコニコと微笑みながら、オウルが言った。

 愛想のいい男だ。面倒見もよくて、マンゴスチーンたちがまだ幼かったころ、一番面倒を見てくれたのが、オウルだった。ハッチはガキ大将で、いつも遊びの中心だったっけ。トールはどんくさいところがあって、かけっこをすれば転び、木に登れば降りられなくなっていた。

 それも昔の話。今では三人とも、立派な職人になっていた。トールのどんくさいのはあいかわらずだけど。

「この川には、魚もいるから釣って食べればいい。ほら、これ糸。あと、釣り針」

 オウルに頷くと、サイゾーは釣り針と釣り糸を彼に渡した。

 竿は、その辺の竹を切れという事だった。

「じゃ、その係りは俺が」

 ハッチは、七の国にいるとき、休日になる度に釣りに行く程に釣りが好きだった。冬も氷を割って釣りをしていたくらいだ。

「じゃ、俺はたきぎ用の小枝を拾ってこよう」

 と、オウル。

「俺は、じゃあ木の実を集めてくるよ。さっきここに来るまでに何か実がなっているのが見えた。あれ、食べられるんですよね」

「お前、木に登れるのか? 」

 トールの提案に、全員が思わず反対した。その声が揃ったのが面白くって、全員で笑った。頭上で風が木の葉をざわざわと揺らした。

「おー涼しい」

 ハッチたちが歓声をあげる。マンゴスチーンが空を仰ぐ。

 視線の先は、山頂の洞窟。

 ‥魔女がいる洞窟‥。そういえば、チサさんたちのお祖母さんって言っていた。今から挨拶に行こう。だけど、それをみんなの前で言う気も勿論なかったし、皆にそれを見られてもいけないとも思った。

 ‥身内とはいえ、魔女だ。全く危険がないとは言えない‥からね。

「じゃあ、私はこれで。明日から毎日、パンは届けますね」

 マンゴスチーンは笑顔で皆と別れた。

 サイゾーはトールと果物を取りに行っている様だった。

 周りを見回して、誰も見ていないことを確認すると、マンゴスチーンは一人山頂を目指した。

 ざわざわ、ざわざわ

 頂上に近づくごとに、木のざわめきは大きくなった。心なしか、周りが暗くなった様な気もする。まるで、マンゴスチーンの侵入を拒んでいるかのようだった。

 黒ネコが一匹、マンゴスチーンの足にまとわりつく。マンゴスチーンは足を止めて、猫と視線を合わせた。

 と、



「誰だね? 」



 どこからか声が聞こえた。

 ‥誰だ? どこから声が? 

 マンゴスチーンが辺りを見回す。ざわざわと枝がなる。しかし、さっき聞こえたのは、確かに声だった。聞いたことのない老女の声だ。背筋がぞくっとなる。思わず青くなったマンゴスチーンのことをどこかで見ている様に

「山頂の洞窟までいらっしゃい。そのネコについて」

 声が笑いを含んだように少し柔らかくなった。

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