4.サイゾーの大失態
結局、家具職人家族も巻き込んだ大宴会はその日の夜まで続き、皆はそのままそこで眠ってしまった程だった。
なので、夜中の内に、サイゾーのドラゴンが密かに一の国を飛び立ったのを、誰も気付きはしなかった。
行先は、再び七の国。
「一国の王子様を、あんなご挨拶だけで、頂けるとは思っておりません。なので、改めてお願いに上がりました」
サイゾーは、七の国の王様、マンゴスチーンの父親の前に跪いた。早朝のことで、王様以外誰も起きていなかった。
「サイゾー」
王様は驚いてサイゾーを見た。サイゾーは跪いたまま顔もあげない。王様は、微笑して
「お前は律儀な男だな。そうだな。では聞きたいことが二・三有るので教えてほしい」
と、聞いた。
「何なりと」
跪いたままサイゾーが答える。
「一の国とはどういった国なのだ? 大きな国なのか? 」
「小さな国です。これといった産業もない。でも、独立した国です」
王様が頷く。
「他国との関係は? そんなに小さな国ならば、攻め込まれたらひとたまりもないのではないか? 今まで、戦が起こったことは? 」
「ありません」
きっぱりとサイゾーが断言する。
「なんと。軍事が充実しておるのじゃな」
王様が感心した声で言った。
「いいえ。軍もなければ、王もいません」
サイゾーが小さく首を振る。
「なんと! 」
「ただ、守る者がいます。国を守る者が。そのおかげで、他の国は一の国を攻められないのです」
サイゾーが頭を上げて王様を真っ直ぐ見つめる。
「守る者とな。それはサイゾーか? 」
サイゾーの瞳を真っ直ぐ見つめ返して王様が聞いた。
「いいえ」
サイゾーはまた、今度はもっと強く断言した。
「では、誰が? 」
「大魔女です。総てのドラゴンを統べる大魔女です」
「大魔女‥」
王様がごくり、と唾をのんだ。
「‥私の母です」
「そして、いずれはチサが後を継ぎます。私たちドラゴンマスターはその力に守られその力を守っていくのです。私も、いずれはマンゴスチーン様も、そして私の末の娘も」
王様にもう一度深く礼をすると、人が起きてきた気配を感じたサイゾーはまた音もなく城を後にした。
「大魔女‥」
王様は口に出してもう一度呟いた。
‥大魔女‥
柱の陰に密かに潜む青年。王が信用して側近くで使っている青年スコッチだった。そして彼は実は、五の国が放った密偵だったのだ。
‥五の国の王様にお知らせしなければ。これは、凄い情報だ。七の国どころか、七つの国全部を手に入れられるかもしれないぞ。
スコッチは、ペットとして飼っている鳩をそっと空に飛ばした。この鳩は、スコッチと五の国の通信手段として使われていたのだ。
サイゾーだって、王様だって、普段だったら人が潜んでいることに、気付かないわけがない。だのに、その時、二人とも気付かなかった。
そこまで、気が回らなかった。二人とも、やっぱり少しうっかりして‥浮かれていたのだろう。
そして、マンゴスチーンだって、普段ならサイゾーが出掛けたことに気付かないはずはなかった。
あの時の、大失態はサイゾーだけでなく、皆の大失態だったのだ‥。




