3.愛されているマンゴスチーン
「おお、抱き着いたね」
「抱きしめましたね」
「そのまま、キスでもしそうな勢いだね」
「キ‥」
「痛い、痛いですって。マンゴスチーン様」
ココがもっと赤面してマンゴスチーンに抗議して、マンゴスチーンが慌てて手を放す。
マンゴスチーンの身長の方が頭一つ分くらい大きいし、‥筋肉もついている。
抱き着かれると、‥びっくりするし、ちょっと怖い。力が強いから‥痛いし。
「悪い」
慌てるマンゴスチーンに、ココは困ったように微笑む。
‥まったく、結局『お願いごと』を聞くことになってしまった。
人生まで、‥俺は結局マンゴスチーンに振り回されっぱなしだな。
‥でも、置いていかれたら、俺はきっと‥
「両親に伝えてきます」
マンゴスチーンが頷き、数分後ココがココの家から出てきた。両親も一緒だった。マンゴスチーンがココの両親にお辞儀して、ココの両親が恭しくマンゴスチーンに頭を下げる。
「その子は? マンゴスチーン」
ドラゴンに乗るために街の広場の方に回ると、サイゾーがドラゴンから降りてきた。
「サイゾーさん。私の幼馴染のココです」
「あなたがサイゾーさん! 」
マンゴスチーンがココを紹介すると、ココの瞳が輝いた。憧れのドラゴンマスターに会えた感激ははかりようがない。
もう、目をキラキラさせて、サイゾーしか見ていない。
だから、
「どうぞ、こちらに。ココ」
チサの後ろに鞍を付けて、マンゴスチーンが優雅にココにドラゴンを勧めても、
「あ、俺、サイゾーさんの後ろに乗りたいです」
ココはあっさりとそれを断る。
「ココ? 私のドラゴンが不安か? そっちには、これから何人か乗るし‥」
マンゴスチーンがショックを隠せない顔でココを見た。
「マンゴスチーン様。邪魔しないでください。憧れのドラゴンマスターのドラゴンに乗る機会なんてそうないんです! 」
ココはきっぱりとマンゴスチーンに言い、サイゾーのドラゴンに近づいていく。
「そういえば、私は乗せてもらったことは無い。何故ですか、サイゾーさん。弟子だと言ってくれたのに」
初めて気付いた衝撃の事実に、マンゴスチーンはショックを隠し切れなかった。
そんな可哀そう顔をする弟子に
「弟子なら尚更、後ろに乗るものではないだろう」
師匠であるサイゾーは呆れたような顔をする。
「そういうものでしょうか‥」
「そうそう。そういうものでしょう」
すっかりサイゾーの味方をして、ココが言う。
「ココ‥」
悲しそうなマンゴスチーン。チサがそんな様子を微笑んで見ていた。
「ええと、この方は? 」
ココがマンゴスチーンの後ろにいるチサに今更ながら気が付いた。サイゾーに夢中すぎて今まで気が付かなかったのだ。
「こちらはチサさん。私のお嫁さんです」
「え! マンゴスチーン様ご結婚なされたんですか? 」
「そう」
「チサと申します」
「はじめまして‥」
ココが驚いた顔のまま、チサが差し出した手を握り返した。
‥南の島の美少女って感じだ‥。ここにはいない感じ‥。マンゴスチーン様って面食いなんだ。‥でも、色白の華奢な子が好きなのかなって勝手に思ってたから‥。なんか、意外。
それがココのチサに対する第一印象だった。
チサは、背も小さい方ではないし、島国育ちだから、日に焼けているし、そう華奢でもない。
好みっていう程、マンゴスチーンのことは知らないが、少なくとも、過去に振られた女の子はそんなタイプだった。
背が小さくて、華奢で色白。頭がよくって、明るくって、しっかりしてる。
マンゴスチーンと俺の三人、一番の幼馴染で(結構沢山幼馴染はいるんだ)いつも一緒に遊んでた。王子だからって‥寧ろ、あの子の方が遠慮しなかった。それが、マンゴスチーンには良かったのかもしれないね。
名前はマカデミア。
俺の、‥婚約者だ。
「そうそう。他に乗る人って? 七の国の人ですか? 」
ココがマンゴスチーンに聞く。
「そう。家職人に七の国風の家を作ってもらおうと思って。やっぱり暮らし慣れた家がいいというか‥」
「ああ、じゃあ職人町にいきますか? 」
マンゴスチーンが頷く。
「ここで待っててくださいね」
ココとマンゴスチーンは、サイゾーたちを再び広場に残して駆けて行った。
「本当に仲がいいのですね」
チサがその後姿を見ながら微笑んだ。
数分後、そう待つことなくマンゴスチーンたちは三人の職人を連れて戻って来た。マンゴスチーンたちとそう歳の離れていない若い職人ばかりで、ココがいうには、みんな小さい頃から一緒に遊んだ幼馴染で、マンゴスチーンの頼みとあらば、と同行したという。(が、冷やかし半分、そんなに誰からも期待されていないからすぐ決断が出せるような半端者たちだったというのも、ある)皆、サイゾーの大きなドラゴンに乗れて大満足だ。
「マンゴスチーン様の家を立派に作るぞ」
「おお」
大盛り上がりの道中だった。
「‥今回の旅で思ったんじゃけど」
サイゾーがドラゴンで前を飛びながら、マンゴスチーンに話しかけた。
「何ですか? 」
風が邪魔で声が通りにくい。その中で、サイゾーの声は驚くほどよく通り、聞こえやすかった。それが、マンゴスチーンには不思議だったが、それもまた「伝説のドラゴンマスター」と呼ばれる所以とも、思えた。
「マンゴスチーンって、本当に王子様じゃったんだな」
サイゾーが感心したように呟き
「ねえ」
チサが頷いた。
「‥」
絶句するマンゴスチーン。周囲から笑いが起こる。
一同穏やかな雰囲気で飛び続けていると、マンゴスチーンが、チサの首に掛けられたネックレスに気が付いた。夕日に、ネックレスの石が反射して眩しい程に光ったのだ。
「それ‥」
「なんですか? 」
チサが、声が聞こえやすいようにマンゴスチーンに近づく。
「それ、母さんからもらったんだ? 」
振り向いてネックレスを見ながら、マンゴスチーンが言った。手綱を持っているので、手が離せないのだ。チサもマンゴスチーンの背中から手を離さずに言った。
「ええ。魔女の魔法に掛からない魔よけのお守りなのですって。綺麗ですよね」
と嬉しそうに微笑む。
‥母さん。それを持つべくは、私です‥。
つられて微笑みながらも、マンゴスチーンは密かに思った。
一の国に着いたのは、翌朝早朝だった。一同は、サイゾー一家の大歓迎を受けた。ココが、ここの暑さを体験するのは、そのあと二時間後の事だった。それまで、マンゴスチーンは上機嫌に、ココたちに島のあちこちを案内して回った。勿論牧場に挨拶もしに行って、ジョセフ老人にココのことをお願いするのも忘れなかった。
その後は、歓迎会兼マンゴスチーン結婚披露宴と称された大宴会が開かれて、皆は大いに盛り上がった。話の中心は勿論、マンゴスチーンの昔話の暴露だった。
「マンゴスチーン様はあの容姿だから勿論モテたんだけど、何しろドラゴン・ドラゴンで殆ど女の子と話すことなんてなかった」
という職人の一人の暴露に「マンゴスチーンらしいや」と言って周りから笑いが起こり、チサを安心させた。




