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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
三章 サイゾーと七の国
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2.幼馴染

「あなたがサイゾーさんですか」

「お嫁さんを貰ったんだから、マンゴスチーン。お前もしっかりしないといけないぞ」

 二人の兄がサイゾーとマンゴスチーンを取り囲んだ。王様はそれを静かに見ていた。

 チサにお妃様が微笑みかけた。

 すっと腰を下ろし、未だ跪いているチサに手を差し伸べ、立たせると、

「チサさん、お幸せにね。チサさんにこれを。この国ではお嫁さんになる人にお婿さんの母親から何か装飾品を渡すことになっているの。これは、魔よけのお守りですよ。魔女の魔法にかからないようにって、私のお姑さん‥王様のお母様が下さったの。王様は若い頃からずっとドラゴンに乗っておられたから。お母様は、それをずっと心配なさっていて‥だって、ドラゴンは魔女のものと言われているでしょう? 王様は魔女に愛された王だって言われていましたから、魔女に嫉妬されてお嫁さんが魔女の魔法にかからないようにって」

 お妃様が自分の首からネックレスを外して、絹のハンカチの上にのせてチサに渡した。

「ありがとうございます‥」

 チサは、恐縮してそのハンカチを押し戴いた。

 そんな様子をお妃様はふわりと優し気に目を細めて眺められた。

「思えば、王様の影響なのかもしれませんね。マンゴスチーンがドラゴンに興味を持ったのも」

 お妃様に促されてハンカチの中を見たチサは、その美しさに思わず息を呑んだ。

 青い大きな宝石が光る古いネックレスだった。

 作りの繊細さもさることながら、その石の大きさと透明度に、目を見張った。

「綺麗ですね‥」

 としか、言えない。

 今までこんなに美しい石を見たことがない。

 一の国の海をそのまま閉じ込めた様な、色。

 そして、それは、また違う何かを思わせた。

「それを貰った時、王様の瞳の色みたい、って思ったの」 

 ふふ、と微笑んだお妃様に、チサは「ああ」と思った。

 ‥この色は、マンゴスチーンの瞳の色だ。

「マンゴスチーン様の瞳の色も同じですね」

 チサが青い宝石を見つめながら言うと

「ふふ、そうかしら。あの子の瞳の色はもっと淡いわ」

 お妃様が微笑んだ。

 お妃様にとってはこの色は、王様の色なんだ。だけど、チサにとってその色は、一の国の海の色を映したマンゴスチーンの瞳の色だった。

 チサは胸元にギュッとネックレスを抱きしめ

「大切にします。きっと‥」

 と目を瞑った。



「チサさん。行きますよ」

「ええ。お妃様。本当にありがとうございます」

 マンゴスチーンに返事をして、チサがもう一度お妃様にお礼を言う。お妃様は微笑んで見送った。

「達者でな」

「王子、お体にはくれぐれも‥」

「一年に一度は顔を見せに来るんだぞ」

「ええ! 」

 城の人たちに見送られ、マンゴスチーンたちは城を後にした。

「すみません。どうしても行きたいところがあるんです」

 ドラゴンでサイゾーのドラゴンの後ろを飛びながら、マンゴスチーンが言った。ココは、今はサイゾーの後ろに乗っている。さっきの「寄りたいところがある」のが原因だろう。

「家職人のところだろ? 」

「いえ。それよりも‥」

「ふうん? 」

 サイゾーがドラゴンを空中に止めると、マンゴスチーンは、そのままなだらかにドラゴンを降下させ、街の広場に降り、一人街に駆けて行った。

「ココ! 」

 さっき上空から見つけた若者に真っ直ぐ走り寄ると、その腕を掴む。

「マンゴスチーン様。王様の説教は終わりましたか? 」

 その勢いに、少し驚いた顔をしたが、直ぐに眉を寄せ困った様な顔になったココが苦笑いする。マンゴスチーンも苦笑いすると、ココのもう一方の手をを取ると、真剣な顔でココの瞳を覗き込む。

 ココは茶色の瞳を見開きポカンとした顔をする。

「ココ、一緒に一の国に来ないか? 私は一の国に住むことになったんだ」

 真剣な顔をする幼馴染に、ココは相手が王子だという事を一瞬忘れて

「一の国? 」

 素で返してしまった。

 子供の頃から、一緒に遊んできた幼馴染だ。

 流石に物心ついて、相手が王子で身分が違うと理解できたころには、敬語で話すようになったが、マンゴスチーンが言わなかったこともあり、‥敬語で話し始めた時期は随分遅かった。

 だから、時々、二人っきりの時だとか、気を抜いた時には、敬語が抜けてしまう。

「どうしてマンゴスチーン様が一の国に? 」

 といっても、マンゴスチーンは気にしないし、ココも直ぐに戻すのではあるが。

「サイゾーさんの弟子になれることになったんだ。父さんにも今話して来た」

 弾んだ声でマンゴスチーンが言う。

「サイゾーさん? 」

 ココは、ますます訳が分からない。

「ドラゴンマスターになれるんだ! 」

 手を握ったまま、マンゴスチーンが力説する。

「だから‥」

 マンゴスチーンがココを真っ直ぐにみる。

「だから? 」

 ココが一歩下がって目を逸らす。マンゴスチーンのこの目に弱い。というより、やたらにキラキラした美形の誘惑である。ココじゃなくても、つい言うことを聞いてしまいそうになるだろう。

「いつか私が一人前のドラゴンマスターになったら、ココに空を見せたいっていつも思ってた。今はまだドラゴンマスターじゃないけど、これからなるってことで‥」

 ‥まるでプロポーズだ。そんなキラキラした表情で言わないで欲しい。

 しかも、これは‥冗談ではなく、本気で『たらし込みに』来ている。‥負けるか‥。

 ココはそっと目を逸らした。

「俺が、一の国にいくのですか? それは大旅行ですね」

 目を逸らしたままココが言った。マンゴスチーンにも、ココが自分の言ったことを本気にしていないことは分かった。マンゴスチーンは頭を振って

「冗談で言ったんじゃない、本気なんだ。それに、旅行じゃない」

「え? 」

 ココがマンゴスチーンに瞳を合わせる。

 しまった‥と思ったが、時すでに遅しだった。

 マンゴスチーンの瞳から、‥もう目が離せなくなっている。

 怖~、美形の色気、怖~! 

 ココはバクバク言う心臓を何とか誤魔化そう誤魔化そうと、よくある「無駄なことを考えて気持ちを紛らわそう」と必死になった。

 もう、顔は多分真っ赤だ。

 いくら美形とはいえ、男に見つめられて赤面とか、‥ない。

「‥できれば、一の国に住んでほしい。ココとは生まれてからずっと一緒だったから、なにか‥いないと物足りない‥」

 冷や汗が出るが、目の前の美形は逃してはくれないようだ。

 ‥多分、「分かったよ! いう事聞くよ! 」って言うまであきらめないんだろう。‥今回のこの目はそういう目だ。

 だか、負けるか! 俺は男だ、俺は男だ‥。

 ん?

「一の国で住む? 」

 ココが眉根を寄せる。

 なんで、住む? 来てくれ、ってレベルじゃなくて、住む? 俺が?

 マンゴスチーンは、ドラゴンマスターの弟子になったか住む。それは分かる。‥分かるで済むような問題ではないが。‥だけど、何で自分まで??

「一の国は、ココにとって住みやすい国だと思う。暖かいし。ほら、ココはいつも冬になったら風邪を引きやすいじゃないか」

 マンゴスチーンの両手に力が入る。

 あ、これ、絶対離さないぞって奴だ。腕痛い。しかも、さっきから、マンゴスチーン、近い。両腕掴まれてるからしょうがないんだけど、近い。

「暖かい? ‥」

「うん、暖かい」

 二コリ、とその近い距離で美形が微笑む。

 ‥そっか、暖かいのか。それはいいな‥。

 って気持ちになってしまう。

「動物も沢山いる。‥ココはドラゴンも含めて動物が大っ好きじゃないか」

「動物‥」

 ココの表情がちょっと動いた。ちょっと興味があったようだ。

 その顔を見て、マンゴスチーンは、心の中でガッツポーズをする。よし! 動物好きのココだから、これでいけると思ったんだ!



 チサたちはその様子を上空で眺めていた。何やらマンゴスチーンが必死に頼んでいるのが見える。マンゴスチーンに両腕を拘束された、マッシュルームカットの町人は真っ赤な顔をして何やら困っている。

「あの人は誰なのかしら? 」

「彼女かもねえ」

 二人は好き放題言って、待っていた。

 一方のマンゴスチーンは必死に説得を続けていた。

「一の国で、動物を飼って暮らしていかないか? ジョセフ老人の仕事を手伝ってやってほしいんだ。沢山の動物を老人一人が見ているんだ。人手がいるんだ。ココは動物に囲まれて暮らせる、老人は助かる。素晴らしいと思わないか」

 と、これは今急に思いついた。

 口にしたら、どんどんその気になって来た。

「ジョセフ? だれ」

 ココが首を傾げる。

「牧場マスターだ」

「牧場マスター‥」

 ココの心がぐらっと動いた。どんな凄い人なんだ。見てみたい‥。とも思った。

「動物をたくさん飼っている」

 マンゴスチーンがもう一度繰り返す。

「沢山‥」

 ココの心はもう陥落寸前だ。

「とにかく、一度来てほしい。どうしてもいやだったら、帰ってもいい。その時は私が責任をもって送り届ける」

 この一言で、ココは一の国行きを決意した。

「わかりました」

 重々しくココが言った。

「ココ! 」

 マンゴスチーンの顔がぱっと明るくなり、ココをがばっと抱きしめた。


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