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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
三章 サイゾーと七の国
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1.マンゴスチーンのお嫁さん

 七の国へは翌朝、まだ夜が明ける前に出発した。幸い空は快晴だった。

 ‥雨など降らなければいいんだけど。

マンゴスチーンは思った。

 何せ、七の国は遠い。ここが晴れだといって、行く先々の天気は分からない。

 サイゾーのドラゴン「イカズチ」の後ろには七の国へのお土産が、マンゴスチーンのドラゴン「モルジィア」の後ろにはチサが乗った。他の人を乗せるのは初めてなので、マンゴスチーンは少し緊張したが、空の旅は幸い雨も降らず好調だった。

 五の国の上空を通った時は、まだ薄暗く、やっと空が明るくなった時には、もう六の国の上空を過ぎていた。『農業の国』の畑が微か地上に青々と見える。

「わあ、本当に六の国は畑が多いのですね。それに‥少し寒くなってきましたね」

 暑いところに住んでいるからだなあ、と、マンゴスチーンは思った。マンゴスチーンからしてみると、六の国は過ごしやすい温度だ。七の国にいつも住んでいるとはいえ、七の国はやっぱり寒い。サイゾーを見ると、表情一つ変わっていない。

「チサは、七の国は初めてだな」

 と、前を向いたまま言った。その口調が、少し緊張しているように聞こえて、マンゴスチーンも自然と身が引き締まった。

 ‥大人として、自分の将来を両親に認めてもらうのだ。

 と、決意を新たにした。

 六の国を過ぎると空気が急に涼しくなる。湿気のないカラッとした風が吹く。

 七の国が近づいているのだ。

「わあ、寒いですね」

 ドラゴンの背にしがみつきながら、チサが驚いた声を出した。

「上着を着てください。毛布にもくるまって。空の上だからこんなに寒いですが、地上に降りればもう少しはましですよ。今は夏ですから」

 マンゴスチーンが自分の分の毛布も渡しながら言った。

「それでも、夜は外に置いておいたバナナが凍るんでしょう? 」

 チサがくすくすと笑う。

「夏は、それ程ではありませんよ」

 マンゴスチーンが苦笑いする。

「さて、そろそろ降りるぞ。街の広場に降りようか。いつもは城の人に降りる場所を手配してもらうんだ。‥急に来たのは初めてだから、勝手が違うな」

 サイゾーのドラゴンは大きいから降りる場所を選ぶのだ。

「私が行って聞いてきます」

「頼む」

 しかし、マンゴスチーンがドラゴと共に飛び立とうとしたとき、サイゾーが腕を伸ばして、チサを止めた。

「チサはここにいた方がいいな」

「ええ」

 チサが頷き、マンゴスチーンも頷く。チサをドラゴン越しにサイゾーに渡す。

 ‥急に連れて行ったら王や王妃も驚くだろう。その後の話は、先にサイゾーのドラゴンを止める場所を聞いてからだ。

 マンゴスチーンはごくり、と唾を飲み込んだ。また緊張してきた。

「ではすぐに行ってまいります」

 マンゴスチーンを乗せたドラゴンは再び飛び立った。しばらく飛んでいると

「ココ! 」

 上空から、マンゴスチーンは懐かしい人を(という程、実際の時は経っていないのだが)見つけて、感極まって声を掛けた。ココが上空を仰ぐ。

「マンゴスチーン様! 今まで何処にいらっしゃったのですか! 王様もお妃様もご心配なさっておられますよ! 」

 それは、「今までにもあった、ちょっとした遠出」を諫める口調だった。

「マンゴスチーン様~。今回はどこまで行かれていたのですか~?」

 にこにこと、手を振る知人。

 会う人会う人が、そんな口調だ。そういえば、今回の旅はマンゴスチーンにとっては内容が濃すぎたのだが、日数としては実はそんなに経っていない。帰ったら「浦島太郎もさもありなん」の状態だろうと思っていたマンゴスチーンは、ちょっと拍子抜けした。

 城の様子も‥案外そんな感じかもしれないな。

 ちょっと、緊張が緩まった気がした。



「マンゴスチーン! 」

 城について、モルジュアの手綱を飼育係に預けると、知らせを聞いた父親が走り寄ってくる。

 大きな城ではない。王子が王に会うのに、何分も待たされる‥という程の格式もない。

「父さん‥」

 ‥怒られる。と、思って覚悟したが、吊り上がった父親の目は、しかし、そのまま見開かれ、驚愕の表情に変わった。

「貴殿は、サイゾー! 」

 マンゴスチーンもどきっとして振り返る。その後ろには、サイゾーのドラゴン。

 ‥ついて来ていたのか! 

 マンゴスチーンはひやり、とした。ついて来ていたことに驚き、そして気付かない程静かに飛んでいたことにまた驚いた。

 音どころか、気配すらなかった。

 ‥これが噂の‥伝説のドラゴンマスター‥

 サイゾーはドラゴンの手綱を握り、ドラゴンを着陸させた。そして、チサの手を取ってドラゴンから降ろすと、またドラゴンを上空に飛ばす。

 ドラゴンは、

「そこで待機」

 というサイゾーの命令に頷くとピタリ、と止まった。

「お久しぶりです」

 サイゾーは、恭しくマンゴスチーンの父親である王様の足元に跪いた。その後ろには、チサも跪いている。

 姿勢の伸びた、無駄のない動き。その威厳のある佇まいに思わず息を呑んだ。マンゴスチーンは自分の師匠にそんな姿勢をさせたことに若干焦ったが、自分の父親の立場を考え、直ぐに「仕方が無いか」と納得した。今まで、父親が雇用主となったことも、多かった。サイゾーにとって、王は単なる弟子の父親ではない。

「どうしてここに‥? いや、それより無事だったのだな。ここのところサイゾーに仕事が頼めなくなったと、皆が言っていたので気になっていたのだ」

 王様は笑顔になって、サイゾーに握手を求める。

「ええ、御無沙汰しておりました。隠居しておりまして」

 サイゾーがその手を握り返しながらにこやかに言った。その姿は長年の盟友の様だった。

「貴殿がマンゴスチーンを連れて帰ってくれたのか? いや、すまなかった。いい年をしてふらふらしている。恥ずかしい話だ」

「そのことですが」

「ん? 」

「王様。ご子息と私の娘の結婚をお許しください」

 深々と頭を下げてサイゾーが言った。サイゾーの後ろでチサも緊張して更に深く頭を下げた。緊張したチサは、初めから頭を下げっぱなしだったのだ。

「え? 」

 王様が目を見開いてサイゾーを見る。

「それに、私の弟子とすることも併せて。ご子息は、ドラゴンマスターとしての才能があられる。私のもとで修業をすれば、必ず世界一のドラゴンマスターになれる。私が言うのだから間違いはないでしょう」

 頭を下げたままサイゾーが言った。その声が緊張している。こんなサイゾーを見るのは、マンゴスチーンは、初めてだった。

「ドラゴンマスター‥」

 と、尚も驚きが隠せない王様の声。父親のこんな動揺した声を聴いたのもまた、マンゴスチーンには初めてだった。

「お願いします」

 サイゾーが、頭を更に下げた。後ろに立ちマンゴスチーンも同じように頭を下げる。

「マンゴスチーン‥」

 驚いてマンゴスチーンを見た王様は、何かを言おうとして、しかしそのまま口を噤んで、一歩前に進み出るとマンゴスチーンの肩に静かに手を置いた。懐かしい、暖かい大きな手だった。マンゴスチーンは、はっとなって王様を見た。

「父さん‥」

 王様の青い瞳がまっすぐにマンゴスチーンの瞳を見る。

「サイゾー程の男にこんなに頭を下げられたら、な‥。マンゴスチーン。一年に一度くらいはこちらに顔を見せるんだぞ」

 いつの間に来ていたのか、王様の後ろにはお妃様と、マンゴスチーンの二人の兄たちが立っていた。マンゴスチーンにそっくりの美しいお妃様は、そっと泣いているようだった。そのお妃様にも、サイゾーはお辞儀をした。

「あなたが、サイゾーさんですね。お会いするのは、初めてですね。マンゴスチーンがあなたに憧れていつもあなたの話をしていたのですよ」

 涙を拭い、お妃様が言うと、サイゾーは恐縮して頭をさらに深く下げた。

「そして、あなたがマンゴスチーンのお嫁さんね」

「チサと申します」

 チサもカチカチに緊張しているのが声と震える肩で分かった。

「お顔を見せてくださいな。‥ふふ。可愛らしいお方ね。マンゴスチーンをよろしく頼みます。頑固な子です。言い出したら聞かない、ね。チサさんにも迷惑をかけると思います」

 それは、マンゴスチーンは頑固な子だから、反対しても無駄なのだ、と自分に言い聞かせている様にも見えて、サイゾーとマンゴスチーンの胸は苦しくなった。だが、話しかけられているチサはそれどころではなく、もう緊張マックスという顔をしている。今にも、顔から火が出そうなほどだ。

「そんな‥あの‥」

 そんなチサの様子を、お妃様は微笑んで見つめた。

 自分の感情をこんなに真っ直ぐに出す人は、気付けば自分の周りにはいない。そんなことも考えた。それは、いかにも違和感を感じさせるのだけれど、嫌ではなかった。

 ‥マンゴスチーンは、これからこの素直な人と、新しい生活を始める。それは私の全く想像のつかない生活だ。憧れのドラゴンマスターとの修行の日々、そしてチサとの生活‥。それは、きっと楽しいだけではない。厳しことだって多いだろう。

 ‥何不自由なく暮らして来たこの子にそれが出来るのだろうか。しかも召使もいない不便な生活で‥。

 心配は尽きない。ただ、それも幸せの形のひとつだろう、とも思えた。

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