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イケメン王子とメロンな親父  作者: 大野 大樹
二章 マンゴスチーン青年
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7.笑顔の王子様(マンゴスチーン)は、良心の呵責を覚えている。

 次の朝。天気は快晴で、隣の二の国までが遠くに見える様な晴れ渡った空だった。

「私も行きたかったなあ」

 と、未だ不満そうなミチを

「また今度は一緒に行こうね」

 となだめながらも、マンゴスチーンは上機嫌だった。起きてきて顔を洗うサイゾーを見かけると駆け寄って

「おはようございます! いい天気ですね! サイゾーさん。私の方の用意は出来てますよ! 」

 明るい声で挨拶した。

「‥早いな。分かった。畑でメロンをもいできて、弁当に持っていこう。それから、パンと水。四の国まで海の上しか飛ばないから、食料を調達する術はないからな。あっという間につくだろうけれど、弁当は持って行った方がいい。‥道中何があるかわからないし。あっちについて慌てるのもなんだし」

 眠そうにサイゾーが言った。

「メロン。私がもいできましょうか? 」

 とんでもない。というようにサイゾーが腕を振った。驚いて目がぱっちり覚めたようにも見える。

「まだまだ。もうちょっとメロンの事覚えてからな」

「そうですか。では、パンと水を貰ってきます」

 マンゴスチーンが肩をすくめる。

「そうしてくれ」

 サイゾーは畑の方に歩いて行った。

「では、留守の間、メロンの水やりを頼んだぞ」

 出発の前に、馬にメロンとパンと水を載せながら、サイゾーがチサに頼んだ。

「ええ」

 いつものことで、チサも心得たものだった。

「父様、お土産買ってきてね」

「私は、スコップが欲しい。小さいの。あと、トマトの種」

 妹たちがサイゾーに飛びついて来る。マンゴスチーンはにこにことその様子を眺めていた。

「今日行くのは四の国だよ。六の国にはいかない。種やらスコップはまた、六の国に行ったときにな」

 サイゾーが苦笑いで答える。

 種やら苗を買えるのは、農業大国である六の国だ。他の国では、農産物は売っているが、種やら苗は売っていない。種を発芽から育てるのは、難しく時間もかかるから、六の国以外では、農業をしている国というのは、実はあまりない。七の国の様に気候的に無理な国もあるし、二の国の様に土が乏しい国もある。技術もそう普及しておらず、種から植物を育てようというものが少ないのも確かだった。比較的育てやすい苗は、ドラゴン輸送に不向きだから、流通していない。

「スコップだったら、私の国に行った時に」

 マンゴスチーンが微笑んだ。

「ああ、そうだったな。鉄の道具は七の国の特産品だったな」

 サイゾーが頷く。

 六の国の農具も、鉄で作られたものについては、七の国が輸出している。

「では、行ってくる。なあに。すぐに帰ってくるさ」

 その言葉通り、凄い速さで四の国に飛び、職人に会い、また凄い速さで一の国に帰って来た。マンゴスチーンはやっぱりついていくので精一杯で、更に帰りには荷物も乗って重さのせいでなれていないマンゴスチーンのドラゴンは少し辛そうだった。

 これから、訓練していかなければならないな。

 真面目なマンゴスチーンは、旅の反省点を即座に手帳に書き出した。



 サイゾーが連れてきたのは、職人二人と、その妻たちの合計四人。子持ちではない若い夫婦を選び、「少し時間が掛かるから、奥様も来られた方が」とサイゾーがそそのかしたのだ。

「職人も、なんて珍しい注文ですね」

 と不思議がる職人たちに

「マンゴスチーンが細かくてね。いちいち細かい注文をしようと思っても、一の国から四の国までは遠いからね」

 サイゾーは「全く困ったものだよ」という様な顔で言った。

 引き合いに出されたマンゴスチーンは、しかし何も言わない。微かに穏やかな微笑みを浮かべて隣に立っているだけだ。

「そうですか? 」

 まだ納得していない顔の職人たちにサイゾーは愛想のいい顔で笑い

「まあ、そんな深く考えずに。旅行みたいに気軽に考えてくだされば。勿論給金はだしますし、一の国にいる間は宿や食事なども気にせずに暮らして頂けますし。いい国ですよ、一の国」

 と、付け加えた。その結果、時間に余裕がない人と、その給金が気に入らない人がふるいに掛けられ、残ったのがこの二組だったわけだ。(正確にはもう少しいたが、サイゾーの方で気に入らなくて、何かしら理由をつけて断った)

 さて、何やかんやで一の国に来ることになった職人とその妻たちの一の国上陸初感想は

「うわ、暑いんですね。なんか温室でしか見たことないような植物が普通に生えてる」

「本当だ。あれ、ヤシの木だ。見慣れた木が生えて無くて、見慣れない木が生えてるとなんだか違和感があるね」

 だった。それを、すこし興奮気味に話している。その様子を、「流石に職人ともなれば、物の見方も違うんだなあ」とマンゴスチーンは感心して見つめた。

「材料の木はどこでしょう? ここにはありますか? 」

 職人たちは、来た日から早速仕事の段取りをつけるべく、サイゾーに尋ねた。

「少しなら。‥この木じゃダメか? 」

 サイゾーが干してある何本かの丸太を指さした。畑を拡張するために、数か月前に切り倒した木を置いておいたのだ。職人が木を見に走る。

「何ていう木ですか? ラワン材に近いな。熱帯の木ですね。ベッドは強度が欲しいですから、もう少し固い木を使われた方がいいですかね」

 若い方の職人が年上の職人に支持を仰ぐ。

「いや、ベッドは早く欲しいとおっしゃってるし。どうしたものかいな‥」

 と、年上の職人。若い職人も首をひねる。

 この職人たち。若い方がサティ、年上をダウルと言った。どちらとも、気のいい人たちだ。ただ、職人として引手あまた‥という程ではない。サティは、単純にまだ修行不足。ダウルは接客が苦手で客が付かない。頑固おやじというわけでもないのだが、口が上手くないので誤解をされてしまうというタイプだ。

 だから、客や店からの依頼で商品を作るのではなく、持ち込みで大きな店に商品を置かせてもらって生計を立てていた。逆に、それだからサイゾーたちの誘いに乗ったのだろう。

「木が駄目なんですか? 」

 マンゴスチーンが首を傾げる。

「暑いところでは木もやっぱり早く成長しやす。そうしたら、年輪が詰まらない‥といいやすか、ぎゅっと年輪が詰まった強度のある木材にならないんです」

 ダウルが丸太を持ち上げてみながら言った。普段はあまり話さない彼も、木や仕事のことに対しては良く話す。

「なるほど? 」

 ‥「軽い」ということだろうか?

 マンゴスチーンは、年輪の幅を見ようと丸太の切り口を見た。しかし、サイゾーが適当にのこぎりで切った切り口(小口という)はギザギザで年輪がよくわからなかった。

「じゃあこの木も寒いところで育てば、ぎゅっと年輪が詰まった木になったわけですか? 」

 と、マンゴスチーン。

「いえいえ、この木は寒いところでは育たない種類の木でやすよ。木には寒いところで育つ木やら暑いところで育つ木がありやすから」

 ダウルが親切に易しい言葉で説明を始めた。

「じゃあ、もともとこの木は暑いところで育つ木で、もともとそんなに固い木じゃ無かったって訳ですか」

 そう言われて見てみると、ここに生えている木と七の国で見て来た木は確かに違う。今までにマンゴスチーンが見たことがない木ばかり生えている。

「そうです。ですが、南洋材‥暑いところで育つ木が総てが柔らかい木ってわけではないんですよ。固い木も種類によってはありやす。相対的に早く成長する木は柔らかくって、固い木は成長にも時間が掛かります。成長に時間が掛かれば、同じ太さでも木目が詰まっている方が強いのは当たり前。寒いところで育つ木が強いのはそのせいです」

「難しいですね」

 そんなマンゴスチーンたちの様子を眺めていたサイゾーだったが、話ばかりで飽きたのか

「木がいるんだったら、指定してくれた木を四の国から運ばせる」

 ノートを開けて言った。

「お願いします」

 サティが頷き、ダウルがサイゾーに支持を出し始める。

「その間は、この洞窟を使ってください」

 チサがサティの奥さんのマールに、空いている洞窟を指さして案内した。

「ありがとうございます。‥ベッドは無いんですね」

 四人が洞窟を覗いた瞬間言った。

「マンゴスチーンみたいなことを言うんだな」

 サイゾーは不満そうだ。

「言いますよ。普通」

 と、マンゴスチーンが言うと一同に笑いが起こった。サイゾーだけが「そういうもんかねえ」と終始不満そうだったわけだが。

「他に無くて困るものがあったら言ってくれ。何とかするから。夕飯は、パンと魚じゃ。メロンもあるぞ」

「噂の『サイゾーのミラクルメロン』ですね! 」

「あの! 」

 四人から「おお」という声が上がった。

「人気でなかなか買えないという‥」

「ねえ! 」

 二人の奥さんがちょっと興奮した声を出した。サイゾーの表情が明るくなる。褒められて機嫌がよくなったのだろう。上機嫌ついでに

「ここに住めば、メロン食べ放題。どうじゃ。ここに住まないか」

 にやっと笑ってサイゾーが言った。

「いいなあ。心が揺れるなあ。でも、‥この暑さ。何とかなりませんかね」

 サティが汗を拭きながら言った。日向にいると、じっとしているだけでも汗が出てくる。この暑さの中を働くとなると‥、と、考えただけで怖くなる。

「洞窟の中は案外涼しいよ」

 仮の住まいとなる洞窟を指さしてマンゴスチーンが言った。

「本当かなあ。この暑さに慣れてるだけじゃないのかなあ」

 サティがいぶかしそうに言う。マンゴスチーンは、そりゃあさわやかに微笑むと

「私はここの出身じゃないし、ここに来て間もないけど、何となく住んでいるうちに慣れて来ましたよ」

 言った。四人はその笑顔に暫し見とれて、「そんなもんなんだな」なんてもう信じそうになっている。

 と、これはもちろん嘘。マンゴスチーンは毎日暑くて寝苦しくって夜じゅう少しでも冷たい床を求めてゴロゴロ洞窟中を転げまわっている。そしてその度、背中が痛い、体が痛いと寝言でうめいている。周りのサイゾーの家族はたまったもんじゃなくて、それがこの職人誘致の早期実現の理由だったことはマンゴスチーンには言っていない。

「どちらから来られたんですか? 」

 サティが聞いた。若い方といっても、マンゴスチーンより十は年上に見える。

「七の国です」

「‥行ったことないから、暑い国なんだか寒い国なんだかが分かりません」

 サティが首を傾げ、他の三人も同じ反応をした。

「寒い国なんですの? 」

 マールが首を傾げる。サティより若そうに見える、ほっそりとしたおしゃれな婦人だった。サティも作業着をおしゃれに着こなしているから、そういうことに関心がある夫婦なんだろう。その点では、小太りで見るからに健康そうなダウル夫婦とは違っていた。

「すごっくな。冬の夜、バナナを外に出しておいて寝たら、朝、凍り付いたバナナで釘が打てるぞ」

 答えたのはサイゾーだった。サイゾーは仕事で何回も七の国に来ているのだ。

「そりゃすごい」

 四人が驚いた。

 ‥そんなことしたことないから、本当かどうかわからないぞ。サイゾーさんはしたことがあるのか!?

 マンゴスチーンは一人で首を傾げた。しかし

 ‥バナナって! サイゾーさんもそんな愉快なこと考えるんだな。意外だ。

 ちょっとうれしく、おかしくなったり。そして

 ‥確かに、それくらいは寒いかもしれない、か? 何となく試してみたくなってきた‥。

 ちょっとホームシックになるマンゴスチーンだった。

 そんな事を考えている間、マンゴスチーンの表情は変わっていない。常に微笑みを湛えたままだ。だから、誰もマンゴスチーンがそんなにいろんなことを考えているなんて考えもしなかった。

「それに、外で鼻なんて出そうものなら瞬時でつららだ」

 更にサイゾーが付け加える。完全に面白がっている。

「そんな寒い国から来た人がねえ」

「慣れるんですねぇ」

 と、でもまだ少しいぶかしそうなサティ夫妻。

「住めば都ってわけでやすね」

「ねえ」

 と愛想のいいダウル夫妻。

「‥‥」

 微笑みを湛えたまま、しかし、良心の呵責を覚えるマンゴスチーン。

「まあ、そんなわけじゃから、考えておいてください」

 愛想よく笑って、サイゾーが言った。

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