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ノーマン  作者: シャーパー
9/11

考えて呼吸してるのか?

「また、やってしまったんだな…」


ロルフの声に、僕はいつの間にか眼前に立つ彼の姿に初めて気付いた。


何故、僕は彼が帰ってきた事にすら気付けなかったのだろうか、不思議な事もあるものだ。


まあ、その疑問は置いておいて、とにかくだ、僕は彼に向かって言うべき事があった。


「お帰り、遅かったじゃないか」


そう言った後で、彼の隣に歩み出てきたモニカの姿に気付いたのだ。


今日は本当にどうかしているようだ。


ロルフがいて、モニカがいて、それに気付くのが遅すぎる。


「モニカも来たのか。ちょっと久し振りな気がするよ、元気だったかい?」


モニカは少し首を傾げるようにしてから、隣に立つロルフの顔を見上げた。


まるで、巨人と小人だ。


同年代の男よりも遥かに長駆で筋骨隆々としたロルフの横に立てば、誰だって小さく見えてしまうだろう。


僕も勿論、例外ではない。


それでも、同年代の少女よりも小柄なモニカは、それが際立っている。


「ラザファム、俺を無視するな」


失礼な話だ、僕がロルフを無視するわけがない。


だが、賢い彼がそう言ったのだから、何か理由があるはずだ。


僕の友達は賢い、ロルフやモニカは賢いのだ。


だからこそ、僕の友達でいられるのだから。


そんな事を考えている時だった、ロルフの左後方に馬鹿を見付けた。


右隣にはモニカがいて、左右非対称な立体ではありながら、どちらも賢いという見事な美しさが、馬鹿のせいで損なわれている。


やれやれ、今日は本当に馬鹿の死体に縁のある日だ。


ロルフを見て困ったように頷き、モニカを見て優しく笑いかけ、僕は馬鹿を殺そうとした。


しかし、その行動は立ち塞がったロルフによって阻まれた。


「何をやろうとしてるんだ、お前は」


呆れたようなロルフの物言いに、僕は困ってしまう。


別に何かをやろうとしていたわけではなかったから、答えが無かったのだ。


ただ、僕は馬鹿を殺そうとしただけだ。


それは息をするのと同じように、自然な動作だった。


いつも意識して呼吸をしているわけではない、無意識に息を吸って吐いて、そんな風に生きているのだ。


同様に、無意識に馬鹿を殺す。


そこに何かをしているという概念は存在しない。


「今、こいつを殺そうとしたよな?」


「ひっ!?」


僕が答える前に馬鹿が反応した、僕とロルフの会話に割って入ろうとするなんて、馬鹿は馬鹿でもただの馬鹿じゃない、常軌を逸した馬鹿だ。


慌てて逃げ出す馬鹿を僕は追い掛けて殺そうなんてしなかった、馬鹿がいなくなって賢い2人が並び立つ完璧さに目を奪われてしまったのだ。


「もう、この街にはいられないぞ。お前は殺しすぎたんだ、ラザファム」


なるほど、家も燃えてしまったので別の街に行こう、そういうわけか。


「どの街に行くかな。次は馬鹿の少ない街がいいな」


「俺は一緒に行かないからな、ラザファム」


耳を疑った、ロルフの神経を疑ったりはしない、賢い彼の神経と僕の耳ならば、疑うべきは僕の耳だ、決まってる。


言葉足らずだった僕の反省を促しているのだ、僕は猛省すべきだった。


「当然、2人じゃないよ、モニカも一緒だ」


モニカを置いていくわけがない。


ただ、それを言葉にしなかったら、彼女を蔑ろにしたみたいだ、ロルフはそれを言いたかったのだ。


「モニカはまだ旅立てる年齢ではないし、彼女の両親もそれを認めないだろう」


意味が分からなかった。


僕やロルフの両親もそうだったが、モニカの両親も馬鹿だった、あれが賢いモニカを育んでこられた奇跡には驚くが、馬鹿は馬鹿だ。


僕とロルフは今のモニカよりも幼い時に馬鹿な両親を捨てて旅立ったのだ、馬鹿な両親達は必死で止めようとしたが、結局、彼らはどうなったのだろうか。


馬鹿みたいに馬鹿さ加減を披露しながら、今も故郷で馬鹿をやってるのかもしれない。


「お前、俺達の両親と同じように、モニカの両親を殺すつもりだろう?」


そうか、記憶にはまるで無いが、両親はすでに死んでいたのか、得心がいった。


それにしても、流石にロルフは賢い、モニカの旅立ちを邪魔するなら、彼女の両親も殺してしまえば良いのだ。


「あの、ラザファムさん、私のお父さんやお母さんを殺さないで下さいね!」


僕は困惑した。


ロルフの提案と、モニカの懇願。


意見が分かれてしまっていた。


「ラザファム、お前1人でこの街を出ていくんだ。残されたモニカや彼女の両親は、俺達と親しかったという理由で、俺達がいなくなった後で絶対に迫害を受ける。だから、お前が出ていった後も俺は残り、守ってやらなければならない」


ロルフが何の話をしているのか、まるで分からなかった。


「ラザファムさん、私、貴方と一緒に行きますから、お父さんとお母さんにはどうか手出ししないで下さい、お願いします!」


頭を下げたモニカの言葉は理解できる、馬鹿でも育ててくれた両親を殺されるのは嫌だというわけだ。


気持ちは分かる、殺されるくらいなら自分で殺したいという事だろう。


「モニカ、大丈夫だ。お前の両親は殺させないし、お前もこの街に残れるんだ。出ていくのはラザファムだけだ、これからは俺がお前を守っていってやる」


変だな、完璧じゃなくなった。


賢いモニカの隣に立つ不細工な馬鹿は何なのだろう、僕は呼吸するような気分になった…。

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