反省しても馬鹿は馬鹿
とんでもない惨劇が、この家では繰り広げられたようだった。
死体が2つ、どちらも馬鹿なので、殺し合いでもしたのだろう。
ただ、殺し合いをしたのだとしたら、一方はどのタイミングで首無し死体になり、もう一方はどのタイミングで頭部を吹っ飛ばされたのか、検証する必要がある。
まあ、検証するのは、同じ馬鹿の中から選抜された馬鹿であるべきだ。
しかし、馬鹿が検証して馬鹿げた結論を見るのは、滑稽なだけで笑えない。
僕はもう、この場を退出するべきだろう。
血で足を滑らせながら、開けっ放しの扉を抜けて外に出る。
すると、馬鹿そうな頭が転がっていた。
「今日は妙な日だな」
道が左右に広がっている場合、僕は左に進む事を選びがちだ。
特にこれといった理由はない、左が好きなのかもしれない、無自覚だけど。
「おいおい、ラザファムさんよぉ、ウチとコトを構えるに当たって、まずは『狂剣士』マルグリットから始末したってわけかよ?」
左しか見ていなかったので気付かなかったのだが、右に丸々と太った豚みたいな馬鹿が立っていた。
当然、名前は知らない。
だから、馬鹿だと思ったのだが、もしかしたら予想外に馬鹿みたいな豚が二足歩行を覚えたのかもしれない。
「何だか、君は豚みたいな豚だな」
その豚みたいな豚は、ピクッと痙攣したように見えたから、ブヒッと鳴かなかったのが惜しいくらいだ。
「ラザファムさんはさぁ、1人じゃ何も出来ない弱虫チャンなんだからよぉ、あんま調子に乗らないでくれよ」
ブヒブヒと騒がしい馬鹿だった。
さあ、そろそろ、左に進むとしようか。
「おい、マルグリット、早く出てこいよ、一緒にラザファムさんをイジメてやろうぜ!」
沈黙が流れる。
どうしたものだろうか、豚は困っているようだったから、豚の仕草にも理解が及ぶようになった僕は、それを誇るべきだろうか。
「マルグリットよぉ、何してやがんだ!」
豚が僕を押しのけるようにして、扉が開けっ放しの家に入っていく。
やがて、家の中から悲嘆に暮れる声が漏れ聞こえ始める。
豚のような泣き声に、馬鹿のような鳴き声。
困った事になった、中に何がいるのか分からないが、どうやら、豚か馬鹿らしいと僕は直感していた。
どこかの家畜が逃げて来たのだとしたら、この家に住んでいる人はさぞかし驚いてしまっているだろう。
助ける気まではないが、確認くらいはしておこう。
左、左と身体の向きを変えていき、開けっ放しの扉を潜る。
馬鹿な首無し死体が転がっている、頭を吹っ飛ばされた馬鹿もいる。
そして、その頭を吹っ飛ばされた馬鹿の大きな胸に顔を突っ込んでいる豚もいる。
「何と言うか、醜いな」
僕は僕にしては珍しく、素早い動きで転がっていた剣を拾い上げる。
その時、どうしたわけか、床が血で滑りやすくなっているはずだと確信し、それに注意しながら行動できたのは成長の証なのだろう。
柄に付着していた異物を軽く払い、僕は両手で剣を握る。
そうして、音もなく豚と大きな胸に近づき、彼らを永遠に繋げてやろうと、串刺しにしてやった。
やり終えて、天井を見上げて、息を吐き、視線を下に向けると、剣によって結ばれた不思議なオブジェを見つけた。
「芸術を履き違えてるな」
まあ、馬鹿の仕業だろうから反省の必要はない、馬鹿は反省しても馬鹿のままだ。
だが、馬鹿だから反省してしまうかもしれない、僕の手には負えない…。




