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ノーマン  作者: シャーパー
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本当に大事だったらすぐに憶えられる

「おい、こっちだ、早く来いや、わざわざ案内してやってるんだから!」


見知らぬ馬鹿が声を掛けてくる。


こいつは誰なのだろうか、少なくとも僕は知らない。


そして、この馬鹿が進もうとしている先が、僕には不満だった。


何と、右に曲がるというのだ。


「僕が右に曲がると思っているのか?」


「モニカの居場所を知ってるかもしれない奴の元に案内してやってるんだ、右とか左とかどうでもいいだろうが!」


モニカは僕の友達だ、左に進むのが僕の主義だ。


主義を曲げてまで友達を探す必要があるのだろうか、そこまで考えてふと立ち止まる。


そうだ、モニカは僕の友達であるロルフも探していて、その2人の共通点は賢いところだ。


つまり、ここは主義を曲げるのが賢い選択という事になる。


ただ、賢い選択なのだとしても、主義主張というのは簡単に曲げられない。


だから、僕は左を見て、身体もそっちに向けた。


そう、馬鹿に背を向けたわけだ。


更に、左を見て、もう一度、身体をそっちに向けた。


そうやって、ようやく、馬鹿の向かおうとしている方が、僕にとって左になった。


「うん、妥当な行動だ」


「立ち止まって何をグルグル回ってやがる、さっさと付いて来い、この馬鹿が!」


馬鹿は馬鹿だから、この僕が馬鹿に見えるらしい。


困ったものだなと肩を竦め、左に曲がる。


「何を立ち止まっているんだ。僕を案内したいんだろ、早くしてもらいたいな」


「お前って本当に気違いだよな!」


気違い、気が違っている、気という概念が上手く把握できない。


「気、か…」


「おい、早く来いや、何ボーっとしてしてやがんだ、この馬鹿が!」


気違いだったり、馬鹿だったり、随分と忙しい馬鹿だ。


そんな先行する馬鹿の背中から視線を外し、周囲を見渡す。


路地裏、薄暗い、汚い。


誰か、掃除する者はいないのだろうか。


世界は馬鹿で溢れているのだから、馬鹿が馬鹿みたいに掃除をすると、世界は綺麗になるのかもしれない。


今度、ロルフやモニカに言ってみよう、建設的な意見だから賢い彼らは同意してくれるはずだ。


「おい、ラザファム、馬鹿、ここだ、ここ!歩き過ぎようとすんな、馬鹿が!」


馬鹿のくせに僕の主義が理解できたのか、向かって左にある扉を指差している。


「左だと理解できたんだな。意外に、馬鹿じゃなかったんだな。友達になろう、名前を教えてくれ」


「ば、馬鹿じゃねぇのか、誰がお前なんかと友達になるかよ!」


「いや、僕とは友達になっておくべきだ、君が賢くなったばかりなら尚更だ」


「お前と友達になったら、ロルフを敵に回さなくても良くなるって事か…。確かに賢い選択だぜ、そいつはよ!…俺はタンクレートだ」


タンクレート、タンクレート、タンクレート。


頭の中で、名前を繰り返す。


友達の名前を間違えるわけにはいかない、ちゃんと憶えるまで頭の中で唱え続けなければならない。


「ラザファム、お前はここで待ってろ。俺が中に入って交渉して来てやる、…友達としてな」


ちょっと照れ臭そうに言った顔は、本当に賢いのか疑わしかった。


だが、友達を疑うわけにはいかない、彼は間違いなく賢いのだ。


タンクレート、タンクレート、タンクレート。


彼が入った後で開けられたままの扉の前で、名前を唱え続ける。


扉の向こうでは何やら叫び声が響いている。


盛り上がっているのだろうか、揉めているようにも聞こえるが、賢いのに誰かと揉めるわけがない。


やがて、ちょっと憶えるのが難しいなと感じ始め出した頃、扉の向こうからこちらに向かって何かが飛んで来た。


受け止めるのもどうかと思ったので避けたのだが、それは見知っている気がする男だった。


ただ、首から下が無くなっているのが気掛かりだった。


「タンク…?この馬鹿の死体は何だ、僕に向かって馬鹿な死体を投げるなんて失礼だな」


そういえば、何かを憶えようとしていた気がする。


何だったのだろうか、まあ、あまり重要な事ではないのだろう、思い出せないくらいなのだから。


「何となく、この扉の向こうが怪しいな」


直感だ。


僕の直感は割と当たったりする…。

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