馬鹿と人
さて、家を出たが、どうしたものだろうか。
ロルフはどっちに行ったのだろうか。
ちゃんと見ておくんだったな、と今さらながらに思う。
モニカの家に行ってみるというのがこの場合、正しい気がする。
ただ、残念ながら、僕はモニカの家を知らないのだ。
いつもはロルフが一緒に行ってくれるので、彼に頼ってしまっていた。
「反省すべきだな」
呟く。
本当に、ロルフは反省すべきだと思う。
僕を置いて飛び出して行ってしまうなんて、とんでもない事をするものだ。
賢い彼がこんな事をした理由を考えれば、これはある意味で何らかの意図があるのだと分かる。
流石、ロルフだ。
とりあえず、振り出しに戻ったわけだが、そのついでに家に戻ってしまう気にはなれなかった。
とにかく、モニカがさらわれたんだったら、悠長に家で待っているのも違う気がする。
実際のところ、僕は家で待っていて、ロルフが解決してしまうというのがいつもの話なのだが、今回はそうじゃないと見せつけてやりたい。
「それに、まあ、モニカも友達だからな。賢い人間が僕の近くから居なくなるなんて事は、僕の損失だ」
確認するように、自分に言い聞かせてみた。
間違いない、今日は冴えている。
そうと決まったならば、最初にやる事を考えよう。
まず、ロルフを探すのは無駄だ、何故なら、ロルフが飛び出して行ったのはモニカを探す為だからだ。
つまり、モニカの家に行っても仕方がない、すでにさらわれてしまっているのだから、家を見つけてもどうしようもない。
そうなると、モニカを見つけてしまえば良いのかもしれない。
道は左右に広がっている。
そんな時、他の馬鹿がどうするかは知らないが、僕は左に進む事を選ぶ。
理由はあるが、賢かったら分かるから、馬鹿には理解できない。
そんなわけで、左に向かって歩く。
道行く馬鹿から情報を集めようかと思ってみるが、僕には馬鹿の言葉が理解できない。
ロルフやモニカは賢いから、馬鹿の言葉も理解できる。
どうしたら、僕も理解できるようになるだろうか。
ロルフやモニカは僕が人の話を聞かないと、よく言っている。
そういえば、人と馬鹿は同じなのだろうか、違うのだろうか、聞いておけば良かったな。
1人は飛び出して行って、もう1人はさらわれてしまって、本当に反省して欲しいものだ。
「なあ、ちょっと聞いていいか?」
どの馬鹿がどんな馬鹿なのか、僕には見分けがつかない。
だから、適当な馬鹿に声を掛けてみる。
「げっ、ラザファムかよ、俺に何の用だよ!」
僕を知っているのに、僕は知らない。
つまり、こいつが馬鹿である証明だ。
「君が馬鹿なのは分かっているから、期待はしていない」
「誰が馬鹿だ、お前以上の馬鹿なんているか!」
気遣って前置きしてやったのに、僕を馬鹿呼ばわりするなんてとんでもない馬鹿だ。
「モニカがどこにさらわれたか、知っているか?」
「いや、知らないな…」
「やはり、馬鹿には期待できないか」
「待て待て待て、俺は知らないが、知っているかもしれない奴なら分かるぜ。誰だか知りたいか?」
「知りたい」
当たり前の話だし、わざわざ質問せずに、さっさと言えば良いのだ、これだから馬鹿は質が悪い。
「教えてやってもいいが、タダってわけにはいかないぜ」
「お断りだ。馬鹿と交渉するなんて、論外だ。馬鹿は馬鹿らしく、馬鹿正直に答えだけを垂れ流してくれ」
その時、ハッとした。
もしかして、この馬鹿は人なのではないだろうか。
「一応、聞いてみたいんだが、君は人か?」
「はあ?俺が人以外の何に見えるって言うんだ、お前は本当にどうしようもない奴だな!」
また、ロルフやモニカに人の話を聞かないと言われるところだった。
「それなら、人として誰かに何かを教えるという時に、交換条件を出すなんて馬鹿げた事はやめてくれ」
「ひ、人としてって、お前がそんな常識っぽい事を言えるようになったのか…」
「まあ、ロルフやモニカに言われているからな」
「おい、俺とのやり取りをロルフに伝えようとしてるんじゃないだろうな?」
「当然、話すつもりだ」
友達に日々の事を語る時もある。
「また、ロルフが出張ってくるのかよ…。ああ、もう、分かったよ、教えてやるからロルフには内緒にしとけ!」
「お断りだ。阿呆と交渉するなんて馬鹿げた事、僕がやるわけないだろ」
もう、こんな馬鹿に付き合っていられない。
「おい、待てって!案内してやるから付いて来い、それで今回の件はチャラだ!」
そう言って、馬鹿は勝手に歩き出した。
たまたま、僕と同じ方向に歩き出したので、特に意味もなく歩行を再開する。
それにしても、ロルフやモニカは何をしているんだろうか、反省して欲しいものだ…。




