賢い友達
「なあ、ロルフ」
僕はいつもと同じように、彼の名前を呼ぶ。
こちらを向いたロルフは少し機嫌が悪そうだ。
阿呆と交渉するなんて馬鹿げた事、本当に僕がやるなんて彼は期待していたのだろうか。
彼とは長い付き合いになるが、たまにその賢さを疑いたくなる。
まあ、でも、馬鹿ではない僕と親しくしているのだから、彼はきっと賢いのだろう、間違いない。
「戦いになった事、反省しているのか?」
「僕は馬鹿じゃないから、馬鹿にならなかっただけだ、反省なんてするものか」
「そうだよな、お前はそういう奴だよ。あーあ、俺は何でお前なんかと友達になっちまったんだろうな」
「それは、ロルフが賢いからだよ。僕は阿呆とは友達になれない」
素直に誠実に、自分の正直な気持ちを言葉にする。
「やれやれ、本当に賢かったら、もうちょっとお前との上手い付き合い方を探せそうだけどな」
信じてもらえなかったようだ、人を疑うくらいが賢さの証なのかもしれない。
そのまま、沈黙が流れる。
僕はこの沈黙が好きだった。
お互いを理解できている同士なら、言葉なんて野暮だ。
沈黙を楽しめてこそ、大人の男なのだ。
僕とロルフももう27歳なのだ、そろそろ大人になっても良い頃だと思う。
そんな風に沈黙を楽しんでいた僕を馬鹿にするように、扉がけたたましい音と共に開け放たれる。
「ロルフの兄貴、大変だ!」
僕の家にあんなに騒がしく入ってきた割に、この馬鹿が話しかけるのはいつも決まってロルフの方なのだ。
この馬鹿は、ここが僕の家だと分かっているのだろうか。
「どうした、何があった?」
ロルフは賢いから、馬鹿を相手にしても冷静そのものだった。
「大変なんだよ、ロルフの兄貴!」
ズカズカと僕の家に入り込んでくる。
僕は決して許可していないのに、我が物顔だ。
それに、大変なのはさっきも聞いたし、何が大変かをさっさと言って欲しいところだ。
「慌てるな、落ち着け。ゆっくり順を追って説明してくれ」
「奴ら、警戒してる俺達じゃなくて、モニカをさらいやがったんだよ、ロルフの兄貴、どうする!」
おお、それは確かに大変だ。
心得たとばかりに頷いた僕を尻目に、血相を変えたロルフが立ち上がって馬鹿の元に駆け寄った。
「モニカがさらわれただと!本当か?本当なのか?」
嘘を言っても仕方ないから、本当なのだろう。
ただ、ロルフは賢いはずだから、この質問にも深い意味があるはずだ。
「とにかく、ロルフの兄貴、俺に付いて来てくれ!」
そう言って馬鹿は家を飛び出した、追いかけてロルフも家を飛び出した。
そうなってしまうと、僕も家を飛び出すというわけにはいかず、ゆっくりと立ち上がり、出掛ける準備を手早く済ませる。
家を出て、扉の鍵を閉めて、ふと思う。
さて、彼らはどこに行ったのだろうか…。




