誰でも良いなら僕でも良いのだろう
僕は死体の山に突っ立っていた。
全身が血に染まっていた。
動けなくて、動かなくても良いと思っていて、そして、自然とロルフの姿を探す。
僕が殺したくせに、それでも、彼をこのまま捨て置けないと思ってしまう。
せめて、埋めてやらなければ。
腰をかがめて邪魔な死体を次々と掴んでは放り投げていく。
誰が誰なのかは分からないが、全てが馬鹿だという事が分かるくらいには、頭が冴えてきた、良い傾向だ。
ふと、視線が足を捉えた。
立っている。
まだ生きている馬鹿がいたのかと視線を上げ、そこに泣き顔のモニカを見つけた時、僕は何とも言えない気分になってしまう。
立ち上がって、正面からモニカと向き合う。
僕の方が背が高く、彼女を見下ろす形になってしまう。
肩に届くくらいしかない黒髪でも、この位置関係なら視線を合わせずに済む。
そう考えた僕は卑怯だろうか。
モニカが顔を上げ、視線を合わせてくる、避けられない。
「モニカ…」
次の言葉を考えている内に、右手で左頬を叩かれた。
モニカがどれくらいの力を込めたつもりなのかは分からなかったが、それはとても弱々しく思えた。
小さく大人でもない彼女の全力だったのかもしれないし、本気で叩くつもりなんて無かったのかもしれない。
弱々しかったのに、でも、痛かったのだ。
泣きそうになってしまう自分が情けなかった、本当に僕は馬鹿だ。
泣いても良いのは、僕の賢い友達であるモニカだけなのに。
「どうして、ラザファムさんは誰でも殺しちゃうんですか…」
馬鹿を殺して何が悪いのか。
相手がロルフだったなら、僕は間違いなくそう言っただろう。
彼ならきっと、苦笑いをして肩を竦める、それだけだったから。
でも、モニカには通じない。
「何で殺してしまうのか、僕にも分からないんだ。気が付いたら、僕は誰かを殺している。そんな僕はもう、死んだ方がマシなのかもしれないな」
そうだ、僕が死んでしまえば、不幸を起こす存在が1つ消える。
「そんな事、言わないで下さい。お父さんもお母さんも、ロルフさんも死んじゃって、ラザファムさんまで死んじゃったら、私は一人ぼっちになっちゃいます…」
もう、モニカは一人ぼっちなのだ。
その原因は僕にあるのだろう。
ロルフはともかく、彼女の両親をも殺してしまったのだ。
「ラザファムさん、死んじゃ嫌です。ずっと、私と一緒にいて下さい…」
別に、モニカにとっては一人ぼっちにならなければ、相手が僕でなくても良いのだろう。
それならば、彼女が本当に好きな誰かを見つけるまでの間、僕が一緒にいれば良い。
「分かったよ、モニカ。僕がずっと一緒にいるから、もう泣かないで」
僕の言葉にモニカが泣き止む、これで良いのだ。
僕は彼女が幸せを見つけるその日まで、彼女の『イエスマン』になるのだ…。