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「ちなみに、この称号が書いてあるんだけど…」
俺は手元に配られた10人の生徒会候補者のリストを見ながら…
「氷魔使い…って書いてあったりすけど…これがそうなのか?」
「ええ。そうですよ。」
アリアが答える。
「これは、氷魔使いって言うんですよ!きっと、氷を自在に操れる能力を持っているんです!」
と、フェリスが教えてくれる。
「へぇ。マスターってことは、この能力を極めたってこと?」
「はい。そうですね!半年に一度開催される、この魔術学院の勝ち抜き戦で、5位までに入られた方の能力はそれぞれ『〇〇使い』の称号が手に入りますよ!まぁ、5位以下の人たちも一応能力は人それぞれ持っているんですけど、称号としての能力ではないんです!」
「なるほど…そう言うことだったのか…ちなみに、みんなどんな称号をお持ちで?」
「私は、動物使いです!動物たちを従えたり、召喚したりなんかもできるんですよ!」と、フェリス。
やばい。
かわいい。
きっと、この子が呼び出す動物たちは、愛嬌のある動物たちばかりなんだろうな…そんなかわいい動物とともに戦う姿のフェリスを想像するとかなりの眩しい光景になる。
「えっと…リイナは?」
終始無言のリイナの能力も、かなり気になる。俺との試合で見せたあの魔法…赤色のオーラを纏ったり、瞬間移動できる『ニャルミ』を召喚したり…すごく気になった。
「私は、妖精使いだ。五体の精霊を従えている。かわいいぞ。」
ちょ、真顔で「かわいいぞ」なんて言われてもあんまり可愛さが伝わってこないんだけど!?まぁ…ニャルミという猫っぽい女の子も精霊だったというわけだし、可愛かったし、それなりに皆可愛いのだろう…
「ん?僕の能力を知りたい?仕方ないな。僕の愛しの妹、フェリスに免じで教えてやろう。」
言ってない…と言いたいところだが、せっかくの能力紹介の場を逃すわけにはいかないので、苛立ちをグッとこらえて待つ。
「っふん。僕の魔法は魔魂使い(デビルマスター)だ。」
なんだ!そのカッコいい能力名は!!
今までで一番興味を持った自己紹介だぞ!
「どうだ?かっこいいだろ。よく言われる。何?僕の魔法の効果を教えて欲しいだって?」
聞きたい。
正直聞きたい。
自分で自分の能力名をカッコいいと言ってしまう時点でカッコ悪いが、ここもグッとこらえる。
「僕が倒した…あるいは契約した敵の魂をと契約することで、自分の能力に付加させることができる能力だよ。もちろん掛け合わせ可能♡」
くそ、ここでスゲー分かりにくい下ネタを出してきやがった。文末にハートマークをつけるだけで、こんなにも『掛け合わせ』が卑猥な言葉になるとは…
「何?まだ隠してることがあるんじゃないかって?」
あーもう、この無駄なイケメンの相手は疲れた。次だ次。
「ユアはどんな能力なんだ?」
「何!?俺っちの能力のことも忘れちまったのか!?俺たちは親友だったってのに!!」
くそ、間違えた。こいつもめんどくさかった…などと俺は頭を抱える。
「まぁいい。俺っちの能力はだな、傀儡使い(パペットマスター)だ!忘れるな!!」
見かけによらない、危ないやつだったらしい。傀儡か…色々な物体や、人間も操れるのかな…
「へぇ。いろんな能力があるんだな…」
「ちなみに!フリード様!自分の能力は思い出せますか?」
フェリスが元気よく聞く。
「えっ?」
一瞬思考が停止した。
自分にも能力なんてものがあるのか!?
むしろ、能力なんて俺のいた世界では、ただの斗出した得意技…ぐらいまでが限度だ。それが何だ?こいつらの能力は魔法だぞ!?いくら俺が剣道をやってきたからって、能力なんてものは皆無である。あるのは決め技くらいだ。なんて事はない。これまでそれで十分戦ってこれたからだ。
「まぁ分かりませんよね。記憶喪失ですし…
リイナさんとの戦いで一度見せたじゃないですか!覚えてないんですか!?」
フェリスが話す。
「えっと…よく分からないけど、知らない間に、剣を握っていて、その剣で戦ったな。ボッコボコにされたけど…」
と苦笑いする。もちろん、いくら剣道を、やっていたからといっても、所詮高校生だ。それに、人を切れる剣ときたら、そんなもの童貞中の童貞だ。振り回すどころか握ったことすらない。意外と相手の剣筋は見えたし、意外と体も動きが俊敏である事は実感できるのだが、しかしどうしても、あそこまで実践的…というか本番というか…初めての経験で、頭が真っ白だった事はよく覚えている。
「それですよ!!それ!」
そういってニコニコとフェリスが話す。
「どういう事だ?」
「フリード様の能力は、剣技使いの能力を称号として持っているんですよ。」
やばい。
めっちゃかっこ良さそうな能力名だ。
男として、結構憧れたものだ。
ゲームの中では特に、主人公キャラがこういう『剣』を使うのは定石だ。
「でも、剣振り回すだけなんだよな…」
確かに、俺は剣を出してリイナに対抗したわけだが、別に剣先からビーム放ったり、風を切ってソニックブームみたいな技もできない…ただの剣道の派生版だ。
「それだけじゃないわ。」
と、リイナが唐突に割り込む。
「以前のフリードは、それだけじゃない。色々な形をした剣を自由自在に出し入れしたり、それを変幻自在に操れる無限の剣技を持っていたわ。今は見る影もないけどね。むしろ私は認めてなんていない死ね。」
「…」
くそ…ディスられ度がハンパねぇ!
戦いでもボコボコにされ、言葉でもボコボコにされまくっている。
「以前のフリードは皆から親しみを込めてこう呼ばれていたわ。」
「何と?」
「『無際限の剣士』とね。今は『無際限の脆弱剣士』と呼ばれているわ。」
「おい!たった二文字の追加でそんなに落ちこぼれにされちまったのか俺は!!ってか誰がそんな言葉で呼んでんだ!!」
「私よ。」
「知っとるわ!!」
…何故だ…立ち直れない。
俺が以前のフリードという男に劣っている事は重々承知の上なのだが、リイナにディスられると、精神崩壊まっしぐらだ。
「まぁまぁ、落ちこぼれ剣士の事は置いといて…」
「え!?アリア様まで!?」
「あっ、ごめんなさい。ついついウッカリしていたわ。」
俺の味方はフェリスだけのようだ…
「これでフリードも大分知識はついたのでは?」
「はい。大方今聴いた中では、理解できましたよ。」
「それならよろしい。じゃあ、本題に戻るわよ。このピックアップした10人の中から5人選抜メンバーにしないといけないわ。だから、皆んなで5人を選んで生徒会に引き入れてきてほしいの。大丈夫かしら?」
笑顔でアリアが話す。
「アリア様、やはり生徒会に10人は多いんじゃないでしょうか。それよりも、部下の隊員数を増やしてより縦長の軍隊にした方が良いのでは?」
リイナが俺への当たりとは違って、真剣な面持ちで話す。
「そうね。それも考えたのだけれど、何せこの10人の中で6人が私の分家…つまり王候補なのよ。いづれ王戦もあるし、生徒会役員の中に私のフレデリカ家と、ジュエリア家以外の3家も含めて欲しいと言われているの。」
「そう…ですか。しかし、派閥争いになりませんか?」
「逆に、役員に選出しない方が抗争が起きるかもしれないわ。『なんでウチの家系は入れないのか』ってね。そうなると、王戦が崩れかねない。あるいは内部からの腐食もあり得るの。」
「なるほど。そういう事でしたら承知しました。そうなると、10人というよりも、6人の中から選ぶことになりますよね。」
「あら!そうだったわ。なんで10人もピックアップしてしまったのかしら…あはは!!」
笑い事じゃねえ!
なんて言えないけど、アリアのドジっ娘という性質がまたもや現れた。
こうして俺たちは、その6人の候補を当たり、俺たちの目で生徒会に相応しいかどうか見極めることになった。