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俺が生徒会副会長ってことは、先ほどのフェリスの話から十分に充分に驚かされた。それが、近衛隊第1班大隊長だと!?なんだそれ!?おいしいの!?
「第1班ってことは、ヴェローナ最強ってことなんですよ!フリード様!!」
元気良くフェリスが教えてくれる。どうしてだ!?こんなにもフェリスの輝く目を見ているというのに、気持ちが晴れないのは…
「そ、そうなのか…へぇ…」
頭が真っ白で、うわの空…フリードという男はどこまで偉大だったんだ!!
「そ、そういえば…」と、俺は話題を変える。これ以上こんな事考えたくなかったからだ。
「どうしたのよ、急に知らされた重役の重みに耐えきれず、話を変えるわけね。」
エスパーか!?エスパーなのか!?リイナの冷ややかな目が続く。俺とリイナが初めて会った時、そこまで冷血で冷徹な女性とは思っていなかった。しかし、今のリイナは、隙がない…というか完全に壁を作っている…というか…そんな感じがする。
「も、もちろんそんな気持ちじゃないんだけどな…えっと、失った5人の補填ってのは、どう言う意味だ?」
「あぁ、それ!自己紹介を楽しみすぎて、すっかり忘れていたわ。」と、アリアが返す。
アリアは結構なドジっ子らしい。
「えっと、フリードのためにも1話から話します。」
アリアが自信ありげに切り出す。
「い、1話って…」
謎の表現だ。本か?本なのか?
「先ほど、フェリスから聞いたと思うけれど、この生徒会は、10人のエリートで構成されているのです。私は生徒会長だけれど、女王としての立場もあるから頭数には入らない…それに班は第10班から順番に階級が上がって、第1班が1番階級が高いの。」
…と言うことは、以前のフリードは1番階級が高かったという訳か…
「3日前、私たちはヴェローナ王国の東の森にある、強欲の魔女を倒すべく、東の森攻略戦に出たのです。メンバーは、近衛隊10人と、それぞれの班に従える10人のメンバー…合計100人で攻略戦に挑みました。」
「それで…魔女とやらは倒せたのか?」
「いいえ、結果は惨敗。それにフリードを含め6人が死亡した…それで今の階級まで皆が昇格したと言う訳です。」
なるほど…リイナやフェリスたちは元々第何班の大隊長で、その上の枠が空いて、自動的に階級が上がったと言う訳か…
「ヴェローナ王国最強の軍隊を率いても、魔女は倒せなかった…そんなに強いのかよ。」
「ええ。魔女はこの世界に7人居るわ。それぞれが、何百年も生きる者。それぞれは、1つの体では何百年も保たない為、人間の死体に乗り移って生き延びて居るの。永遠の命を求めて…ね。」
まるで童話に出てくるような話だ。
「魔女は永遠の命を求めるために、人間を殺し、人間に乗り移るという訳。しかし、その乗り移る人間には個体差がある。どれだけ生きれるか、免疫性や、体力、それぞれを総合的に見て、お気に入りの死体を見つけ、その死体の背中に大きく刻印を付けるの。それがフリード、貴方なのよ。」
「俺…」
だからか…だからそこまで疑われていたのか…
魔女の刻印を押された死体は、その後魔女が乗り移る証拠。だから、刻印を押された者が生き返ればそれは魔女ということになる。
俺の場合はどうだった?葬式場。棺の中。背中の刻印。生き返る。
全てが合致していた。魔女への伏線が、繋がっていた。
「どういう訳か、どういう原理かは分からないけれど、フリードは記憶を失いながらも生き返った。刻印を押されたはずのフリードがこうして生きている。それが説明つかない。からリイナも混乱していたのね。」
「こ、混乱など…別に…」
リイナが俯いて答える。
「フリード、脱ぎなさい。」
突然のアリアの申し出。
「えっ?一体ナニを?」
「早く上の服を脱ぎなさい。」
いきなり強引に俺の上の服を脱がそうとするアリア。
「ちょ、俺をどうする気だ!!」
などと言いながら渋々言う事を聞く。
上半身裸。
女の子に服を脱がされるのなんて人生初めてだった。
生徒会メンバー全員が見つめる中の裸は視線が痛い。
「黒蝶の刻印…ですね、アリア様。」
「ええ。ということは、強欲の魔女の刻印の印は黒蝶と言うことでいいのよね?」
「そう、なります。」
2人でこそこそと話している。
「っふん、男の身体になど興味など毛頭無いが、僕も見てあげよう。何?この僕に見られるのが恥ずかしいって?」
言ってない。
「大丈夫。このぼ…」
「うるせぇ!」(全員)
このくだりは十八番なのか?
それにフェリオス…とか言ったっけ。大丈夫なのか、この男は。
「痛えか?痛えのか!?」
忘れていた。この男を。自称フリードの親友ユアが、俺の背中に回って、刻印とやらに向かってバンバンと平手打ちしながら話す。
「ちょ、痛いに決まってんだろ!!」
背中にはきっとモミジの形をした手形がくっきりと残っているんだろう…プールの時に良くやったよ…
「フェリス、これは魔女の刻印として登録されている紋章なの?」
「えっと…今確認されている刻印の模様は…黒蛇と、黒猫のみです。たぶん黒蝶は初めてかと。」
「そう…じゃあ黒蝶の刻印は強欲の魔女のものってことね…」
「えっと…その強欲の魔女ってのが、この生徒会の役員過半数をやったってこと?」
俺が割って入る
「それは半分正解で半分間違っているわね。」
「どういうこと?」
「魔女は、それぞれ独自の魔術をいくつも持っているらしいの。そして、この強欲の魔女の今現時点で分かっている能力は、相手に変身したり、変身させたりする能力と、魔獣の統率。これだけよ。しかし、全く見分けもつかない隊員に変身したり、隊員が魔女の姿に変身したりするとどうなる?」
大混乱だ。
誰が誰だか分からない。
隣の奴が、魔女が変身した隊員かもしれない。あるいは、魔女の姿だと思って攻撃すれば、中身は隊員…そんなの大混乱以外の何物でもない。
「それに、魔獣はそこいらの猟犬とは比べ物にならないわ。一体一体が班全体で戦って勝てるかどうか…そのくらいのレベルよ。」
なんだよそれ。
勝てるわけないじゃん。
そんな死にに行くようなところに、なぜ踏み入ったんだ!?なぜ攻略しようと思ったんだ?
その疑問だけが強く残る。
「それで、今回の2つ目の議題なのだけれど、残り5名の選抜メンバーは、このリストの中の人たちです。」
「前置き長っ!!」
「仕方ないじゃない。貴方が記憶喪失だからって言うからアリア様が分かりやすく説明してくれていると言うのに、本当に恥知らずなのね。」
「うぅ…そうだった。色々頭をめぐらせすぎて忘れてしまっていた。」
そして、フェリスが配ってくれたのは、名前と、能力、称号が書かれたリストが配られた。
「ここに載っている10人が、今回の生徒会メンバー選抜候補です。」
「これって、もし5人が入ったら、皆どんな生徒会の役職につくんだ?もうそんなに役職無いと思うんだけど…」
「書記よ。」
リイナが即答する。
「初期よ。」
「どこから数えて初期なんだ!?」
「暑気よ。」
「いや、ちょっと暑いけどさ。」
「所期よ。」
「あーも、やめだ!やめだ!ごめんなさい。俺が悪かった。」
なんだか弄ばれている気分で仕方がない。何たるドSキャラなんだ!?俺と戦った時、もっと感情的だっただろ!それなのに何だ!感情がこもってないような言い方は!!…なんて言えないが。
「みんな全員書記になるのよね。」
アリアが、困り果てた俺に同情するように教える。
「ぜ、全員!?」
一体この生徒会はどーなっているんだ!?
俺の異世界転生の先の雲行きがあやしいぞ?






