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NEW STAGE!〜死んで飛び入る異世界転生〜  作者: まゆみ
第1章 転生の一週間
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 俺は学生生活、よく保健室の先生に世話になったものだ。部活や体育で怪我をしたりした時だけではなく、俺たちの班が保健室の掃除担当だったからってのもある。毎日のように保健室で掃除したり、あるいは怪我の治療をしてもらったり…なにかとその場を訪れていた。だからよく分かる。病院ではない…はずだ。なんとなく、そんな感じ。


「あのさ…フェリス。」

俺が未だに俺の隣を離れないツインテールの少女…フェリスに話しかける。


「なんですか?フリード様。」


少し自分の名前に違和感がありながらも、この世界での俺は記憶喪失という設定にしてあるから、なんとも古井戸皐月なんて名乗れないし、呼ばせられない。奇しくも俺は渋々中学校の頃の恥ずかしい名前を受け入れた。


「ここは…一体どこ?」

周りをキョロキョロと見渡す。背後の窓は、学校のような窓で、外からの光を大いに受け入れている。


「ここ…ですか?ここは、ヴェローナ魔術学習院ですよ!フリード様は、ここの生徒であり、生徒会副会長なんです!」


え。頭がポカンとする。

開いた口が塞がらないとはこの事だろうか。

何も知らない世界とは言え、この世界の俺は生徒会副会長だったというわけなのか…統率力も、カリスマ性もない俺にとってはかなりの重役である。


「ふ!副生徒会長!?」


「はい!そして、我が校の生徒会長であり、現ヴェローナ王国王妃であるのがアリア様なんです!」


 あの可愛らしくて、少しドジな銀髪の女の子が、生徒会長&女王!?なんたるふざけた設定なんだ…こんな肩書きの持ち主が、どこにいようか…


「ちなみになんだけど、あのリイナの能力とか…俺の能力とか…記憶のない俺にとっては、全く理解できないんだけど、どういう原理なわけ?」

 もちろん現代っ子な俺にとっては、こんな『魔法』とよばれる超能力…或は科学の領域を遥かに超えた超常現象は、どういう原理なのか皆目見当もつかない。


「なるほど…そこまで記憶が無いとは…それはですね、私たちの大地には『龍脈』と呼ばれる魔力が川のように流れているんですよ。それが、魔法を扱える適性の持った人が体に取り込んでそれを動力源にしているんです!」


「ほうほう…なんかすんなり入ってくるけど、それは現代のアニメ文化が影響しているのか…」


「あにめ…?」


「い、いやいや何でもないよ。」


「あ!それとですね、『龍脈』は、このヴェローナ王国に5つのポイントがありましてね、それをなぞると、五芒星の形になるんです!同時にそのポイントを撃破しちゃうと、その地域一帯魔法が使えなくなる現象に陥っちゃったりするんです!」


「それはとんでもない危機だな…」


「ですね…さすがにそんな事は無いと思うので、みんな忘れてるくらいどうでもいいんですけどね!」


そうフェリスは教えてくれた。

何でも教えてくれるフェリスは俺にとって恩人のようにも感じた。


「ごめん、俺…記憶がないから周りのことが分からないんだ…フェリス、すまないが色々と教えてくれないか?」


「もちろんですよ、フリード様!フリード様のお願いだったらなんでもしますっ!」


純真無垢。

清廉潔白。

眩しい笑顔だった。

可愛すぎる。




「おい!フリードは居るか!?」

突然、ノックもなしに部屋のドアが開く。扉ではなく、引戸のため、ガランッと勢いのいい音が響いた。結構力強く開けたようで、その音で俺もフェリスも結構驚く。


「お、おう…俺ならここにいるぞ。」

恐る恐るドアを開けた張本人に答える。その張本人とは、リイナだった。真紅のショートボブの女の子。気高き騎士のような白と赤のキリッとした服装。


「フリード…貴様…フェリスに何をしていたっ!?」

驚いたような顔で俺に怒鳴る。


リイナの言葉を把握した後、状況を確認する。俺の隣には、華奢な体が纏わり付いている。というより、俺が積極的に纏わり付いている。そう、フェリスの体に抱きついていた。


「あっ!あの…えっと…これはだな…」


「貴様、記憶喪失をいいことに、忠実で誠実なフェリスにナニをさせようとしたんだ!言ってみろ!」


「ナニもしてねぇし、ナニもさせてねぇ!!ってかナニって言うな!」


「フェリス、フリードにナニかされなかったか?」



「えっと…寝てる時に、胸を…ナニられました…」


「ナニられるってなんだ!!そんな言葉は無いぞ!しかしどうしてだ?『何』という言葉が『ナニ』に変わるだけでこんなにも卑猥な発音になってしまうとはっ!!あと…不可抗力です…」


「フリード。私はまだ貴方が本当にフリードだってこと認めてないんだからね。記憶喪失をいいことに幼気な少女の胸を触るなんて…前のフリードならそんなこと、絶対にしなかったんだから…それに、ツッコミが喧しいわ。」


冷血で、冷徹な声音。

ドン引きどころの騒ぎじゃない…

それに、ツッコミが喧しいわって言われてもな…


「今はアリア様の命により、貴方は見逃しているわ。でも、フェリスに手は出さないで。」


「は…はい…」

手なんて出した覚えないんだけどなー…でもあんな人を刺すような目で見られちゃあ萎縮もするよな…とかなんとか言って俺はしょんぼりと俯いた。


「まぁまぁ!フリード様!元気出してください!」


くそ…何も言えねぇ。


「ほら、さっさと来なさい。私がここに来たのは、わざわざ貴方見たいなクズを罵倒しに来たからじゃないわ。付いて来なさい。」


「結構それヘコむんだが…」


などと言って俺はヘコヘコとリイナの後をフェリスと一緒についていった。




「えっと…今からどこへ行くんだ?」

 俺は長い廊下を歩きながら前を歩くリイナに話しかける。廊下は、木製のようで…しかし、趣があるというより、少しオシャレな感じの廊下のような感じがする。俺の通っていた学校のコンクリート固めの壁とは違って、ここの学習院とやらは、金の鉄板で木版が止められていたり、花瓶や、オシャレなカーテンが並んでいて、まるでお嬢様学校!見たいな感じがした。もちろんお嬢様の学校なんて知らない。俺の単なる妄想だ。


「今から生徒会室へ行くわ。」


「なぜ!?」


「もちろん、貴方が生き返ったからよ。これから会議が始まるの。貴方にも出席してもらわないといけない死ね。」


「なるほど、生徒会か。しかも何だか急展開だな。それに、なんだか語尾が強調されているんですが…」


「あぁ、気にしなくていいわ。どうせ文字変換しないと分からない死ね。」


「おい!分かるぞ!今絶対死ねっていっただろ!ちょっと傷つくぞ!地味に効いてるぞ!」


「喧しいわね。人は記憶を失うとこうも喚きたがるのかしら。」

スタスタと歩く。

感情があまり表には出ない話し方ではあるが、言葉にはその感情が色濃く出ている。とんでもない女だ。


「もう俺の味方をしてくれる人はフェリスしかいないぞぉ…」

と、俺の右隣を歩くフェリスに泣きつく。抱きついたりはしない。殺されそうだし…


「はい。私はいつでもフリード様の三高?三鷹?ですよ!」


「(みかた)だ!どっちも(みたか)になってるぞ!」


「失敬失敬大失敬!」


「なんの呪文だ?」


「やだな~呪文じゃないですよ。もちろんわざとですが。」


なんだこのやり取り。俺の煌びやかな異世界妄想奇譚が崩れ去って行くぞ。


ニコニコとスキップしながら歩くフェリスを横目に、リイナの後を付いて行った。




コンコン

リイナがある教室の前で立ち止まり、そのドアをノックする。何故俺の時はあんなにも勢いよくドアを開いたにもかかわらず、ここではこんなに常識的なんだ…と疑問を抱きつつ…


「どうぞ。」

中から誰か女性の声がした。


「失礼します。フリードとフェリスを連れて来ました。」


俺たちが連れられて来たのは、生徒会室のようだった。気づくのは遅かったが、ドアの上には生徒会室と、しっかり書いてあった。


「あら、フリードが気がついたのね。リイナ、ありがとう。」


「いえ、滅相もありません。」


そう言ってリイナが目の前の並べられた机に座る。


そして、俺がその生徒会室へと入室した。

机が凹の字で並べられ、その中心には、王妃アリアの姿があった。


アリア、フェリス、リイナ、そして俺の知らない奴が2人いた。見たことはない。1人は、ツンツンの髪型で、額には黒のハチマキ?薄い青色のような髪色の男の人と、なんだあの美青年は!?と目を疑うほどの男が1人。黄緑色っぽい髪型に、緑の瞳、それにキリッとした目つきが特徴的で、クール感漂う美青年。一体どんな染め方をしたあんなにも綺麗な髪色になるのだろうか…


などと俺は全員の顔を見たあと、緊張したように教室の中へと歩いて行く。


「ほら、フリードここに座ってください。」

アリアが席を指定してくれる。俺は言われるがままに、アリアの隣の席に着いた。


「これで、揃ったわね。では、これより生徒会議会を、始めます。」

と、アリアが切り出した。


「今回の議会は貴方。フリードのことよ。」

アリアが横目で俺を見る。

ゴールドの透き通るような瞳がえらく綺麗だ。


「え、俺?」


「ええ、もちろんよ。だって棺の中から出てくるような事をしたのよ。」


「ようなって…もろそれなんですが…」


「と!とにかくよ。記憶喪失のフリード。そして、失った残り5人の補填とともに、自己紹介を兼ねて進行して行くわ。」


俺のツッコミに、少し恥ずかしがりながら、この議会の議題を提示する。俺には少し理解しづらい部分があるが、おいおいこの事については皆んなが教えてくれるだろう。


「記憶喪失のフリードには、まずは自己紹介からね。じゃあ私から。ヴェローナ魔術学習院現生徒会長、ヴェローナ王国現女王のアリア・フレデリカです。よしなに。」


「よ、よしなにって…」


「次、リイナよ。」


「わ、私ですか!?えっと…リイナ・センチュリオンだ。生徒会書記で、ヴェローナ国近衛隊第二班大隊長だ。貴様のことはまだ認めていないんだからな。」


「?」近衛隊?なんだそれは。もちろん言葉は知っている。強い軍隊だろ?大隊長!?この可愛い女の子が?確かに一戦交えた時は何度死んだかは分からないくらい殺されたのだが…


「近衛隊は、学習院全体500人の中から選ばれた10人のエリートで形成されたヴェローナ国最強最大の軍隊ですよ!10人に選ばれるためには色々な称号や、名声を手にしないと選抜できないんです!」


フェリスが教えてくれた。何というとんでもない人なんだ。


「そして私はフェリス・ジュエリアです!生徒会庶務担当で、近衛隊第五班大隊長やってます!」


お前もか。お前もだったのか。なんだこの変人の巣窟は。ツワモノしか居ねぇ!!



そして、次の自己紹介なのだが…

バンッ!!と勢いよく机を叩き、目を閉じて立ち上がる1人の男。

「もしかして!!フリード!!大親友の俺っちを忘れたっていうのかぁ!?」

突然目を見開いたと思えば、思いっきり声を張り上げる。


何なんだこいつは。

水色の髪の毛に、黒のハチマキが特徴的なこの男。めちゃくちゃ元気らしい。そして、大親友だと述べている。


「ご、ごめん…思い出せない。」

苦笑いで答える。


「なんだと!!この俺っちを忘れるなんて…あんなに一緒に戦ってきた戦友であり、裸の付き合いまでした仲だっていうのに…この俺っちを忘れるなんて酷いぞ!!」


「なんだか、卑猥な表現が含まれているのだが…」


「くそぅ…くそぅ…俺っちの名前は、ユアス・グエラだ。生徒会広報担当…近衛隊第三班大隊長だ…」

急に元気を落として名乗るのはユアスという名前だった。この後、「俺っちのことはユアと呼んでくれ!!」と開き直ってそう伝えてくれた。

 そんでもってコイツが広報担当でいいのか?という疑問は置いておこう。



そして、その隣にいた緑色の髪の美青年が席を立つ。

「次は僕の番か。僕の名前はフェリオス・ジュエリアだ。何?この可愛すぎる天使のような女性フェリスと名前が似ているだって?」


言ってない。


「それも仕方のない事。僕とこの天使のような女性フェリスは兄妹だ。そして、どっちが兄でどっちが妹だって?」


言ってない。


「っふん。そんなことも分からないのかい?見ればわかるだろう。この絶対的美少女であり、絶対的僕の妹が妹だよ。ん?この僕とこの絶対的美少女のフェリスがお似合いだって?」


言ってない。


「っふん。当たり前だろう。僕とフェリスは運命共同体なんだからな。それにこの僕は何たって自己紹介をするのが最も得意なんだ。まず、僕の好…」



「うるせぇ!!」(全員)

全員のうるせぇ!がハモった。なんだかいい気分だった。何やら言いかけのようだったか、もういいや。聞いててイライラしてくる。


「……まぁ…そうだ、生徒会会計担当、近衛隊第四班大隊長だ。よ、よろしく…」

泣いていた。よっぽど悲しかったのだろうか。涙もろいらしい。


「…よろしく。」

なんとも答えづらい。


「これで自己紹介は済んだようね。皆んな、私の認める優秀な人たちよ。そして、記憶喪失の君の自己紹介を貴方本人にしてあげるわ。」とアリア。


なんだか、自分の自己紹介を他人から教えられるなんて変な感じではあるが、俺本人…古井戸皐月の自己紹介ではなく、フリードの自己紹介をするので、そこまで違和感はなかった。当の本人たちは違和感満載だったろうが…


「貴方は、フリード・ヴァルキュリオン。生徒会副会長。近衛隊第1班大隊長よ。」



「うそーん!!!」


突然の知らせが俺の予想の遥か上をいっていた。










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