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NEW STAGE!〜死んで飛び入る異世界転生〜  作者: まゆみ
第1章 転生の一週間
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 何処からか、啜り泣く声がする。しかも、1人じゃ無い。大勢の人々が一斉に泣いているような感じだ。


 俺の葬式だろうか。はたまた夢か。いや、しかし俺の葬式にここまで泣いてくれる人が居るだろうか。それに人なんて身内以外来てくれるだろうか。不確かな意識の中で、俺はそんな思いを抱いていた。


 すると、ふと目が醒めるように不確かな夢のような意識の中から、目覚める。周りは真っ暗だ。暗くて何も見えない。しかし、奥の方から人々の泣く声がしている。一体なんだろう。幽霊にでもなったのだろうか。それに俺は仰向けで寝ている状態のようだ。背中で自身の体重の重さを感じる。それに四方八方から囲まれているような圧迫感…なんだろう…ここは…まるで箱の中に入っているようにも感じた。


 そして俺は、仰向けになった体を起こす。

「痛っ!!」何かが俺の額にぶつかった。その衝撃で木製の音がする。「何だ?」そう呟いて俺は右手を、額を当てた場所へ添えてみる。すると、何処かで触ったことのある感触が手から伝わってきた。机?板?触ると木のようなザラザラとした手触り。音からも推測するとこれは明らかに木だ。木の板が俺の寝そべる真上にある。「何でだよ。」そんな独り言を話しつつ体を起こすのを止める。左右にも、同じように俺を囲む木のような材質のものがあった。それに、なにやら花のようないい匂いもする。


 何だろうか…何やら奥の方から聞こえていた啜り泣く大勢の人々の声が、ザワザワとしている。本当に葬式なのかな。そんな思いがしてたまらない。しかも…音を出したり、触れたりできるから…死んでないの!?そんか心がよぎる。自殺…できていない!?自分にとっては、あの世界など不必要な存在。俺はあの世界にワスレモノを敢えて置いてきた。天国に行こうが、異世界へ行こうが、俺は2度と彼処に戻るつもりはない。なのに…自殺…失敗?また戻らないと行けなくなってしまったのかと思うと、堪らなく嫌悪感が出てくる。そして俺は、頭上にあるであろう木のような材質の板を思いっきり殴るのであった。




その時だった。目がくらむほどの太陽の光が差し込んでくる。どうやら外のようだ。真っ暗だった世界から一転、目の明順応でようやくはっきりと青い空を捉える。

「え、もしかして、俺の葬式って外で行われてんの?」俺にとって、日本での葬式は、何処かの斎場等で行われるものだと思っていた。それに、俺が意識があるということは、自殺失敗…葬式中に目覚めたのか?いや、さすがに日本の今の医療で死人と生人の区別が付かないわけがない。色々と駆け巡る。様々な事象を考えたが、確定したものは得られない。


…と、唐突に、俺を照らしていた太陽が、遮られる。人影だ。逆光で表情まではみることはできないが、恐る恐る俺の方を見るようだった。


ゆっくりと起き上がる。

ミシミシと、久しぶりに鈍った体を動かすような感覚だ。

「あぁ…また戻ってきちまったって事かよ…」

そう言って俺は、空を仰ぐ。

すると、先ほどまでザワザワとしていた人々の気配に、ようやく気づく。戻ってきてしまったという嫌悪感と、何故ここで目覚めてしまったのかを考えることに夢中になりすぎて、外野など全く耳からは聞こえなくなっていた。


はっ!と左側を見やる。と、そこには、数え切れないほどの人々が、俺の方を見ていることに気がついた。何人なのかわからない。何千人?いや、何万人?とにかくすごい数の人々が俺へ目線を送っていた。俺は、その人々を上の方から見ている立ち位置だった。俺と人々の間には、長くて広い階段が長く轢かれている。それにしても、何だこの広すぎる広場は。俺は呆気にとられていた。何万人?程の人々が一斉に収容できるほどの大きな敷地。それに地平線には綺麗な山々が連なっている。広場の奥は茶褐色の屋根に、外壁は白の…日本にはすこし見られない家々が密集している。そして俺は、固まった思考回路のまま、自分の体を確認する。


ほうほう、パンツ一丁だ。俺はこの歳になって、ブリーフなんて持ってないはずなのに、ブリーフを履いていた。「え?」言葉を失う。それだけではない。自分で刺したはずの心臓部にある傷跡は、絶対にあるはずだ。それなのに、俺の体には、全くもって傷1つ付いていない、美胸だった。「あれ、こんなに俺の体白くて綺麗だったっけ…」


もう、何が何だか分からない。全くだ。

自分の置かれている状況が理解不明だった。






「フリード…?」

小鳥が囀るような綺麗な声。

しかも、俺の名前じゃない。なのにすごい俺の方を見て話す女の子が言った。太陽に照らされて、銀色に輝く髪。俺を覗く瞳はゴールドでとても綺麗だ。それに、この銀髪の女性の着る服は、純白のドレスのようなもの…綺麗でとてもにあってはいるが、人の葬式にドレスを着てくる人がどこにいるのだろうか。


全くもって俺の知り合いではない。

それにしてもめちゃくちゃ可愛い。


ところで、俺の名前をいきなり中学校時代の恥ずかしいあだ名で呼ばないでほしい。俺の苗字はたしかに古井戸で、フリードに似ている。中学校時代は、よくフリードフリードと弄ばれたものだ。しかし、フリードというあだ名を知っているということは、中学の知り合いか?いや、さすがにここまで可愛い女の子を俺が見落とすはずがない。


そう俺が深く考えていると、その綺麗な女性が「貴方…生き返ったの!?嘘でしょ…夢見たい。」と、その場で泣き崩れてしまった。

 生来男とは、女性の涙には弱いと聞いている。俺も然り、全くもって何もできなかった。相手が男なら、色々と手立てはあるのだが、女性には何もできなかった。

「えっと、あの…」挙動不審である。如何にもこうにも何もできない。何かしようと、俺の右手がその銀髪の女性に差し伸べるが、届かないし、届いたとしても何もできない。


仕方がなく俺は立ち上がる。

しかし、立ち上がった時に気づいた。気づいたというより思い出した。自分が白ブリーフのパンツ一丁だということに。


ザワザワとした外野からの目線がすごく気になる。気になりすぎて憤死しそうだ。できるだけ俺は前かがみになりながらその銀髪の女性の元へと駆け寄った。

「ど、どうしたんだ?大丈夫か?」

しゃがんで、顔を両手で抑えて泣いている女性声をかける。


「フリードのバカ!!」

そう言って俺の体に抱きついてきた。両手を俺の首の後ろに回し、体が密着した。見た目ではあまり気づけなかったが、俺の胸に、2つの大きな柔らかみを感じる。もう集中できない。恥ずかしさと、ドキドキが混ざって、目がグルグルだ。完全にその柔らかさに負け、ブリーフもテントを張りそうだ。


「えっと、お嬢さん、そろそろ離してください。」苦し紛れに口に出す俺。


「あぁっ!ごめんなさい。」

そう言って俺から離れる。すこし惜しいが仕方のないことだ。


それにしても、何が何だかわからない。全くもってわからない。見知らぬ女性を助けながらアホヅラになっている俺。それを見るように、その銀髪の女性が…


「フリード…本当に生きてるんですね。本当に…本当に…。良かった。良かったです。」

俺の降ろした手を握って涙ながらに答えていた。


果たして、俺が死ぬ前にこの人に会ったことがあるだろうか。それとも俺のことを誰かと勘違いしているのか?


そう思った矢先のことだった。

俺と人々との間に掛かっている広くて長い階段を上がってきた1人の女性がいた。その女性もまた美しく、そしてまたしても俺の知り合いではなかった。真紅に染まった赤い綺麗なショートボブの髪。右の襟足は右耳に掛けてキラキラのピンで留めている可愛らしい女性。そして、まるで騎士のような格好をした白を基調とした赤のラインの入った上の服。そして、上の服に合わせた白と赤のスカート。


「フリード…」

その赤髪の女性もまた、涙を堪えるように俺のあだ名を呼んだ。



もちろん俺の知り合いではない。

全く状況が理解できなかった。


そして、1つ頭にピンとくる。

そう…『死んで飛び入る異世界転生』死んで新たに異世界に行ってみませんか?そんな胡散臭い謳い文句のサイトを見た後に俺は自殺を試みたんだ。


それに、こんなに綺麗な2人の女性。

もし、俺の知る女性ならば、知らないはずがない。




つまりこれって、本当に異世界転生しちまったのかぁ!?



そんな言葉にならない叫び声が、俺の脳内にだけ駆け巡った。




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