前史-母と子
さくさくぱんだくらいさくさく進めたいので基本的に800字以内で場面が変わります。
『マトイコマ』
見渡す限りの白煙。
地上から生まれる雲。
天からの恵みが青空の手招きを断った。
今日の視察地で献上された何重にも梱包されて閉じ込められた箱が取り出された後、分厚いコートの塊の上に乗った小さな顔が値踏みするような目でしげしげとそれを見ていた。わざわざオルタのものを菓子折りとして寄越させた甲斐があった。これなら不満もないだろう。あんまり待たせるのもいけない。早くあの子に届けてあげなければ。馬車が止まったのを確認するとすぐに戸を開けさせ、早歩きで指定した部屋に向かう。
「いよいよね。量産体制の工程の確立も時間の問題。マトイコマ周辺プラントのシフト変更案ももう作って置いた。一部実行に移しても構わないでしょう。」
「し、しかしながら、言わせていただきますが、アレには―――――」
目を合わせてみる。青いドレスに身を包んだ令嬢は面白いくらいにびくりと跳ね上がってから、まるで親に隠し事を問い詰められたみたいにしゅんとした。縮こまっても隣の頭の寒そうなのより大きいのが笑える。
「あら?これの元々の設計図案を持ってきたのは貴女のところじゃない。今更、何か、あるの?」
「い、いえ、何も。」
「ならいいじゃない。アレは安いし強いし使いやすい。きっと貴女は歴史に名を残せるわ。自信を持ちなさい。」
「……返事は?」
「はい。」
「ふふ。じゃあ今回はこのくらいで切り上げましょうか。異論は?」
「よろしい。では、解散。」
結局屋敷に着いたのは宵の頃だった。包みを手に駆け寄る。息子の今日は何をしてきたの?とか仕事は楽しい?とか、そういう相変わらずな問いに毎日嬉々として答えられるのも彼女くらいだろう。実のところ、言った当の本人は話なんてまるで聞いていないのだが。包みに目を通す。チーズケーキだ。余り好きなものではないけれど、それでも砂糖の砂糖漬けみたいな菓子よりはいい。母さんは、僕が未だに甘いものが大好きな子供だと思ってる。チーズケーキはあんまり甘くないから、好きだった。ふと母さんが話を止めて、にっこり笑った。それは僕の視線の先にある物が何か気づいたからってことを意味していたから、僕は明日の午後にする予定だったそれの処理と感想を言わないと今日は眠ることができなかった。
金の卵
オウル・アラフク
ニューハーバーの出現後、ヒュイヤーの養子として担がれた総領主兼代表取締役という名のオラクルのお飾り。シャーマン・ベイ出身とされている。
彼が気づいた時には既に、周りは弱肉強食の競争社会の台風の目であった。身の回りに起こることは常に自分が中心で決定権があると思っていたし、絶対であったはずだ。
少し大人になって、経済とか道徳とか自分の置かれている状況とかを考えられるようになって、気づく。今までのそれが只の子供の高慢さだと、自分は台風の目ではなくただ取り残されただけなのだと。
頭を抱えてうんうん唸るも何をすべきかも、何ができることかもわからない。悩んでいても仕方がないので、できないことでもやりたいことをすることにした。誰がどうなろうと知ったことか。彼は子供そのものであり、他の何にもなれなかった。
梟婦人
オウル・ヒュイヤー
オウル・オラクルグループ総会計顧問。
アフラクが就任してから僅か10年足らずでマトイコマ周辺のないに等しい経済体系を三面六臂の働きで、蒸気機関兵器の開発による超競争社会に塗り替えた実質的なオラクルの支配者。
小領主とその雇われである技術者が開発した武器兵器を異例の高額で買い取り議会でも高い発言権を与えるなど有能な者に対する露骨な贔屓と、結果を出せない領主を見せしめに生きたまま海に放り込んみ、えびの餌にするなどの激しい気性で、息子他一部の者以外からは畏怖の念を抱かれている。
経済に明るい人物であったが自己資産に全くの興味を示さず、息子のために大量の嗜好品を買い漁る金銭感覚からそれを疑う者がほとんどであったが、そんなことを口にする馬鹿は面妖な技術者が開発した新兵器の試し打ちの砂袋にされた。
尚、湧いて出てきた息子や蒸気機関技術に金。尾ひれがついた噂話が常に彼女を中心に渦巻いているが、真相を知る者は本人以外もういない。